ある日突然中世フランスっぽい世界に   作:満足な愚者

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書いている本人がびっくりまさかの連続投稿です。そして下手するとこれが今年最後の更新になるかもです。


第十話

部下たちが文字通り身を挺して切り開いた竜の群れの間の道を走り抜け、フランス軍が開拓したタコともヒトデとも取れない化け物の群れの間に開いた道を走り抜けると、竜の魔女が陣取るオルレアンは目の前だった。

 

はぐれた竜やはぐれた化け物を殴り倒し、体力温存のためにフランス軍の最後尾を走っていた立香達カルデア組と合流する。

 

どうやら立香達は戦闘も殆どやっていないようで体力は十分なようだった。

 

――ここまでは予定通り、いや寧ろ予定よりも遥かにいい。

 

この戦いの命運を握るのは間違いなく立香引きいるカルデア組のサーヴァント達だ。文字通り一騎当千の実力を持つ彼らがこの戦いの全てを決める。これまでの乱戦で彼らの体力を温存できたのは大きい。

 

――そう、それが例え、どんな犠牲の上であったとしても。

 

あの竜の群れに立ち向かった奴らがいた。あの、大量の化け物相手に道を切り開いた奴らがいた。

 

彼らだってそれがどういうことを意味するか分かっているはずだ。それでも、彼らは立った。

 

そう、全ては愛するべきフランスの為に。

 

その思いを背負い俺たちは足を進める。決して後ろは振り返らない。前だけを見つめ、足を進める。

 

「ん? あれは……」

 

そんな時だった。オルレアンの前に人影が見えた。人数は三人。距離があるため詳細は分からないがここに来て人影と来れば、奴らしかいないはずだ。

 

「マシュ!」

 

少し後ろを走るマシュに声を掛ける。

 

「えぇ! 分かってます! 先輩は守ります!」

 

どうやら、俺の言いたかったことは分かっているようだった。

 

そんな時だった。

 

背中にゾクリと寒気が走った。

 

忘れる筈もない。この感覚は、殺気であり、死の気配だった。

 

本能のままその場から飛びのく――

 

――シュン。

 

刹那だった。俺の立っていた場所には一本の矢が刺さっていた。

 

「――ッチ。普通のサーヴァントなら、あの一撃で脱落したと言うのに……聞いてはいたがここまでとはな。これは狙う相手を間違えたか」

 

舌打ちとともに茂みの中から姿を現したのは翠色の髪と頭に生える獣の耳が特徴的な女性だった。

 

その手には弓を持っていた。

 

――危なかった。後、一歩踏み出していたら……。

 

思わず背中を流れる冷や汗に苦笑いもでない。

 

「目の前にいる敵に集中させておいて、出来た隙をついて矢による強襲……。本当に狂気化されているの……?」

 

突然足を止めた俺に追いついたジャンヌは小さくそんな言葉を漏らした。

 

「狂気化……? 何時の話をしているのだ?」

 

何が可笑しいのか、弓を持つ狩人は笑う。その目には狂気の色は見えない。

 

「そんな……狂気化されていない? なら、どうして、竜の魔女なんかに手を……」

 

「何てことはない。彼女が私のマスターであり、そしてそんな彼女に手を貸そうと思ったからに過ぎない」

 

立香の問いかけに獣の耳を持つ狩人は応えると、矢を手に持った。どうやら、これ以上無駄な話し合いをするつもりはなさそうだ。

 

「さて、無駄話をするのは性に合わん。悪いが、そろそろ始めさせてもらう。これでも生前は狩人だったんだ、二三人の心臓は射させてもらうぞ」

 

その言葉を受け、右手に持つ西洋剣を握る。場が緊迫した空気に包まれた時だった。

 

「なるほど、ここでお主が来ると言うことは……。それは即ち、わたくしの出番ということですね」

 

そんな穏やかな声とともに一人の女性が俺たちの前に立つ。フランスではお目にかかる事のできない着物に身を包み、緑色の特徴的な長髪を風に預けながら彼女は堂々とした足取りで狩人の前に立った。

 

その頭には特徴的な竜の角が生え、そして、その手には赤い扇子が握られていた。

 

「マスター! この場は私に任せて先にお進みください」

 

彼女――清姫は優雅な動きで扇子で口元を隠すともう一つの手でオルレアンを指し示す。

 

――先に進め。

 

その背中はそう語っていた。その背中を見て立香は小さく無言でうなずいた。それを見て俺はオルレアンへと走り出す。

 

「清姫、ここは任せました!」

 

立香もそう清姫に声を掛けるとオルレアンへ足を進める。

 

「そう簡単にオルレアンに向かわせると思っているのか?」

 

「あら、それならそう簡単に矢を射させると思って?」

 

清姫はオルレアンに向かっていった仲間の後ろ姿を満足そうに見送ると、狩人と向き合う。

 

「うふふふふふ。愛を知らない可愛そうな貴方にわたくしが愛を教えましょう」

 

「――狂気に染まったお前が愛を語るとは面白い冗談だな」

 

オルレアン最終決戦第四戦 清姫VSアーチャー アタランテ 開戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルレアンの前には三人のサーヴァントがいた。その内の一人は先ほどの狩人と同じく、その目に狂気の色は見えなかった。

 

「やはり来たか」

 

その内の一人、槍を持つ男が俺を見るなりに口を開いた。前に戦闘をしたことのある彼の名はランサー。真名はヴラド三世。ルーマニア王であり吸血鬼ドラキュラのモチーフになった人物だそうだ。ヴラド三世がどんな人物なのか世界史嫌いな俺は知らなかったが、その辺りはマシュと立香に色々と教えて貰えたので、多分間違っていない筈だ。

 

「あのアーチャー、あれだけ仕留めると息を巻いていたと言うのに……誰一人として脱落していないじゃない」

 

そして、もう一人は白い髪に特徴的な衣装を身に纏う女性。先ほどのランサーと同じく、一度手を合わせたことのある彼女はアサシン。真名をカーミラ。「血に狂った悪女」として、拷問に埋没したハンガリーの伯爵夫人だ。

 

「フゥウウウウウゥウ……アアァァアアアア……アアァアアアアア……!」

 

そして最後の一人は上の二人とは違い、知らない顔だった。生気の抜けた亡霊の様な顔をした青年だった。黒く染まった青年は言葉にならないうめき声のような声を上げる。

 

そんな三人の前に、こちら側からも三人の人物が立った。

 

ヴラド三世の前には渋柿色の鎧を着こんだ聖人が、そして、カーミラの前には桃色の髪をした女性が立つ。

 

「なるほど、各人が我々は抑えてその間にオルレアンへと突入するか……いい考えだ」

 

そう笑うヴラド三世に、

 

「そうね、まぁ妥当な作戦じゃない? どうやら因縁がある相手が多いみたいだしね」

 

意味ありげな視線を目の前の少女に飛ばすカーミラ。二人の瞳からはあの時に感じた狂気の色は見えなくなっていた。

 

「マスターここは私たちに任せて先にお進みください」

 

「そうね、私はここでアイツを倒さないといけないからここでお別れよ。何心配しないで、アイツを倒したらすぐに応援に向かうから……!」

 

「うん、僕もあいつには用があるからね、ということでここは僕たちに任せて先に行ってくれ」

 

三人の言葉を受けた残る俺たち――俺、副隊長、立香、マシュ、ジャンヌ――五人はオルレアンへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

槍を持つヴラド三世の前には一人の男が立った。

 

「追わなくていいのですか?」

 

渋柿色の鎧に身を包んだ聖人の問いかけにヴラド三世は笑いながら応える。

 

「追ってもいいと言うなら追わせて貰うが……そうはいかないだろ?」

 

「確かにその通りです。悪いですが、ここで沈んで貰います」

 

「そうか、我が護国の槍を貫けるか試してみればいい」

 

そして、聖人とドラキュラが激突する。

 

オルレアン最終決戦 第五戦 ゲオルギウスVSランサー ヴラド三世 開戦。

 

 

 

 

 

カーミラの前に立つのは一人の少女。桃色の髪に

 

「カーミラ。ここでアンタには死んでもらうわよ!」

 

「うふふふふ、貴方にそんなことが出るかしら?」

 

「私は認めない。貴方が私だなんて! どうして貴方がサーヴァントなんかに!」

 

そう言ってエリザベートは槍を振るう。そう、全ては目の前の女を倒すために、認められない未来の自分を否定するために!  エリザベートは分かっている。ここでカーミラを倒したとしても、彼女が自らの成長した姿には変わりなく、カーミラとは自分自身の未来の姿であることに変わりはない、と。それでも、彼女はそれでも叫ぶ。

 

――アンタみたいになりたくない!

 

「何を言うかと思えば……。私からすれば私が私のままにサーヴァントになることの方が忌々しい! 私は誰もが恐れ、誰もが敬った血の侯爵夫人であり、その完成性! おまえのような未完成品とはわけが違う!」

 

対するカーミラも迎撃をするその手を緩めることはない。カーミラ自身も自分(エリザベート)を認められないのだ。無知を貪り青春を謳するエリザベートをカーミラは許せない。

 

だからこれは、未来を許さない少女と、過去を許せない女性との意地の張り合いに過ぎないのだ。

 

今ここに、過去と未来を否定する女の戦いが幕を開けた。

 

オルレアン最終決戦第六戦 エリザベートVSアサシン カーミラ 開戦。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狂い黒く染まった青年の前に一人の男が立った。

 

「なんて腐れ縁だ。適当にやっていたら一番どうでもいいヤツがきてしまった」

 

彼の名はアマデウス。本名をヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。かの世界的有名な音楽家は何時も通りの優しい笑みを浮かべて因縁の相手の前に立った。

 

「やぁ処刑人。その分だとマリアに絶縁状を叩きつけられたな?」

 

「アマ……デウス……? アーーーマーーデェウスゥゥゥウウウウ!」

 

黒く染まった青年は目の前に立つアマデウスを見ると怒りに満ちた叫び声を上げる。

 

「むむ。なんだいその盛り上がり様は。もしやマリアのヤツ、最後に余計な言葉も付け足したか? たとえば、そう――同じ屑でも、僕の方が百倍はマシだ、とか?」

 

「ハァ――ハァア――フザけるな。僕はおまえには負けない! お前だけには負けてなるものか……!」

 

きっと、アマデウスが彼の前立ったことが切っ掛けだったのだろう。青年――シャルル=アンリ・サンソンは正気を取り戻す。黒く染まった姿から本来の姿を取り戻す。

 

「うわあ!? もしかして、今ので正気を取り戻したのか!? あーもう。一言余計だったのは僕も同じか。けど――これでやりがいが出たよ」

 

アマデウスは笑う。

 

その顔はいつも通りの優しい笑みだった。

 

「さぁ、シャルル=アンリ・サンソン。僕の八つ当たりを受ける用意はいいかい? めずらしく元気で仕方がないんだ。なにしろ、ピアノを一曲弾くための体力が余っていてね」

 

「好きにしろ。その指から切り落とす。そもそも僕はね、アマデウス。ずっと前から、死を音楽などという娯楽に落とす、君の鎮魂歌が嫌いで嫌いで仕方なかった!」

 

一人の女性をめぐる二人の男の戦いが今、幕を開ける。

 

オルレアン最終決戦第七戦 アマデウスVS アサシン シャルル=アンリ・サンソン 開戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、待っていたよ」

 

竜の魔女がいるオルレアンの城の長い廊下を走り切ると開けたホールのような場所に出た。大きな窓から日光が差しこみまるでスポットライトのように中心部を照らす。

 

その光の中心に立つのは見慣れた顔。男とも女とも、美青年にも美少女にもとれるその人物はいつも通りの優雅で品のある動きでこちらに顔を向けると、柔らかい笑みを浮かべた。

 

「ここまで出てこなかったと思ったらこんな所にいたのか……」

 

「まぁね、本当は先陣を切りたかったんだけど、それだと邪魔されるかもしれないからね」

 

ソイツ――シュヴァリエ・デオンは妖艶な湿り気のある笑みを浮かべる。

 

――なるほど、そういう事か。

 

「ジャンヌ、立香ここは俺に任せて先に行ってほしい」

 

そして、副隊長に目で合図をする。

 

――二人を頼んだ。

 

「隊長ですが、ここは俺がアイツを……!」

 

「いや、そうもいかないようだ。奴さんは俺を指名だそうだ。なぁ、デオン?」

 

俺の問いかけにデオンは嬉しそうに頷く。

 

「あぁ、その通りだ。キミだけはこれから先に進ませるわけにはいかない。竜の魔女は誰にも負けないだろうけど、それでもキミだけは向かわせるわけにはいかない。遠くの未来から来たマスター、この先にもうサーヴァントはいない。竜の魔女まで一直線でいけるだろう。行くなら早く行きな! 彼がここに残るなら僕は君たちを見逃そう」

 

「で、でもお兄ちゃん……」

 

心配そうな声を出すジャンヌ。その瞳は揺らいでいた。

 

「ここは俺が引き受ける。なに、心配しなくてもすぐに終わらせて、応援に向かうから大丈夫だよ」

 

そうなるべく優しい声で語り掛ける。

 

こんな所で倒れる訳にはいかない。

 

「それに、竜の魔女を止めるのは聖女の役目だ。お前はイングランドからフランスを取り戻した救国の聖女だろ? なら、もう一度、今度は竜の魔女からフランスを取り戻すことも出来る筈だ」

 

――それに竜の魔女は全てを知っている。

 

彼女の行為がどのような影響を及ぼすのかも、そして何故聖女ジャンヌがフランスの地に召喚されたのかも……。

 

「……うん、分かった! 任せてお兄ちゃん! 必ず竜の魔女を止めてみせるから!」

 

その顔には決意の色が浮かんでいた。そして瞳に揺らぎは――。

 

「さぁ、早く行くんだ!」

 

その背中を軽く押してやる。

 

「行きましょう! マスター! 竜の魔女を止めるために!」

 

ジャンヌは駆けだす。その手にもつ純白の旗がたなびいた。

 

「必ず応援に来てくださいね、行くわよマシュ!」

 

「えぇ、先輩! 隊長さんも頑張ってください!」

 

「隊長ご武運を!」

 

そんなジャンヌを追うように立香とマシュそして副隊長が駆けだす。

 

――あぁこれでいい。きっと、これでいい。

 

竜の大群は部下たちが引き受けた。

 

化け物とキャスターは、フランス正規軍と純白の騎士ジル・ド・レェ卿が引きうけた。

 

巨竜ファヴニールはジークフリートが引き受けた。

 

狩人は清姫が引き受けた。

 

ランサーヴラド三世は聖人ゲオルギウスが引き受けた。

 

カーミラはエリザベートが引き受けた。

 

真っ黒なサーヴァントはアマデウスが引き受けた。

 

そして、シュヴァリエ・デオンは俺が引き受ける。

 

ただそれだけの話だ。

 

「待たせてすまないな」

 

最後尾を走る副隊長がホールを出たのを見送って、デオンに声を掛ける。

 

「いや、気にしないでくれ。待つのは嫌いじゃないんだ……いい女だろ、ボクは?」

 

「あぁ、そうだな。とても魅力的な女性だと思うよ」

 

「キミにそう言って貰えるとまだまだボクも捨てたもんじゃないって思えるよ」

 

デオンは微笑みながら腰に下げるレイピアを引き抜く。白銀の刀身が差し込む日光に反射してキラリと光る。

 

その動きを受け、西洋剣を握る右手に力を込める。

 

「それじゃあ始めようか――今回は初めから全力でいくよ」

 

「それは怖い。ぜひ、お手柔らかに頼むよ」

 

「キミとなら楽しいダンスが踊れそうだ!」

 

デオンは右足で地面を蹴る。そしてまるで弾丸のようなスピードでこちらへと突っ込んできた。

 

オルレアン最終決戦第八戦 悪魔の軍 隊長VSセイバー シュヴァリエ・デオン 開戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その開戦からしばらくして――

 

「やはりアナタは私の前に立つのね。無垢な聖女様は、何も知らないまま……。あぁ、やっぱり自分の事とは言え虫唾が走るわ!」

 

「貴方が何を知っているのか私は知りませんが、貴方は間違えている! ここで貴方を止めさせて貰います! 行きましょう、マスター! マシュ!」

 

オルレアン最終決戦第九戦 未来から来た人類最後のマスター藤丸立香&デミ。サーヴァント マシュ・キリエライト&救国の聖女 ジャンヌ・ダルクVS竜の魔女 ジャンヌ・ダルクオルタ 開戦

 

 




書いている途中にやはりデオンくんちゃんはヒロイン度高いと再認識。

もし、新年辺りに適当な匿名でデオンくんちゃんヒロインの小説があれば、それは私の可能性が……。いや、まずこの小説完結させるのが先なのですが……。

そして、思った。俺を残して先に行け! はどう考えても死亡フラグの何ものでもないような……。

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