ある日突然中世フランスっぽい世界に   作:満足な愚者

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明けましておめでとうございます。今年も皆さまよろしくお願いします。

更新遅れて申し訳ないです。言い訳はしません。

忙しい時期を過ぎたのでこれからはボチボチ更新していきたいです。

あ、そう言えばデオンの番外編なのですが、間違えて消してしまいました。

本編が終わればまた公開するかもです。その折には読み飛ばして下さい。




第十一話

その剣技は一片の優雅さも華麗さもない無骨な剣技だった。ただ一つの目的だけを追求した剣は、それ以外の全てを投げ捨ててただその為だけに存在した。

 

――見事だ。

 

シュヴァリエ・デオンは幾度となく繰り返される打ち合いの中で何度もその言葉を心の中で吐露した。

 

――これだけ打ち合っていると言うのに未だに傷一つつけることが出来ないなんて……。

 

シュヴァリエ・デオンはセイバーで召喚されたサーヴァントだ。勿論その剣技は並みの者では破ることが出来ない達人の域に達している。アーサー王のように聖剣を持っていないデオンはその剣技だけでセイバーというクラスを与えられるほどの腕前を持っていた。

 

しかし、そのシュヴァリエ・デオンをもってしても彼の剣技を打ち破ることは出来ていなかった。どれだけ激しく攻めても全て受け流される。まるで、水や空気を切っているかのように手ごたえがなかった。

 

剣技に精通しているシュヴァリエ・デオンですら彼の剣技は見たこともなかった。それはそうであろう。彼の剣技に名前なんて物はない、流派もない。長い時間戦争に身を置いた彼が自然と身に着けたその剣は才能に頼ることをせず、ただ血を吐く様な努力と何度も死の淵に立つことで完成した戦場によって叩き上げられた他の誰もが真似を出来ない彼だけの剣技なのだから。

 

飾りつけなどどこにもなく、華美や雅さをなくしたその剣は故に強力であり無比だった。

 

――誰かを殺すための攻める剣でもなく、誰かを守るための守る剣でもない。

 

彼の剣技はそう――。

 

――ただ自分が死なないことだけを追求した剣技。

 

才能でもなく努力と計算によって培われ、完成された剣技を崩すのは厳しい。

 

――でも、残念だ。キミには時間と言うものが足りない。

 

この部屋を通し先へと進ませた人類最後のマスターはとっくの昔に竜の魔女との戦闘を開始しているだろう。先に進んだのは四人。そのうちサーヴァントが二人。人数的にはカルデア組の方に利がある。

 

しかし、相手が悪かった。竜の魔女は強力無比だ。憎悪によって染められ、復讐と滅びの化身となった彼女を相手するには数が足りない。

 

そして、そのことに一番気付いているのは打ち合っている彼だろう。現に時間が経つにつれてその顔に些細な変化だが少し余裕がなくなっているのがデオンには分かった。

 

――確かにキミの剣は見事であり、強力だ。自らが傷を負わないということだけに関していうのならキミ以上の剣技を持つ奴はサーヴァントですらいないだろう。でも、それだけじゃあボクには勝てないよ。

 

デオンは激しく打ち合っていた手を一度止めると、大きくバックステップをして彼との距離をとる。

 

――本当は何時までキミと打ち合っていたいけど、キミには本格的に時間はなさそうだ。

 

デオンは剣を構えながら彼の様子を確認する。よく観察しなければ分からないが彼の息は少しだけ荒かった。これまで、幾度なく打ち合いそして息切れの一つもしなかった彼が、だ。

 

「いつまでそんなことをしているんだい? 守っているだけじゃボクは倒せないよ」

 

「そういうお前の方こそ、攻めている割には俺に傷一つ付けること出来ないじゃないか」

 

デオンの軽口に対して青年も笑って皮肉を返す。

 

「まぁ、キミの守りを突破出来ないのは騎士として非常に悔しくはあるけど、そこはキミの守りの方が一歩上を行っていたと割り切るさ……それに、だ。キミの方もボクに傷一つつけることが出来ていないじゃないか。それでいいのかい? 竜の魔女の実力はキミも知っているだろう? 彼女達じゃ逆立ちしたって竜の魔女には勝てはしないよ。まぁ、それはキミが行ったところで同じだろうけど……」

 

「……大丈夫さ。彼女達なら持ちこたえてくれるさ」

 

「よっぽど彼女達の事を信用しているんだね。キミに信用されるなんて少しばかり彼女たちに嫉妬しちゃうな――まぁ、無駄話はここまでにして置こうか。ボクにとっては良いことか悪いことか分からないけど、キミの仲間がどうやら頑張っているみたいだしね。何人かは既に座に帰ったみたいだね……」

 

そう言ってデオンは青年の様子を観察するように見る。

 

「――うん、こちらは三人は座に帰ったようだね」

 

「何の話をしているんだ?」

 

「あぁ、こちら側の陣営のサーヴァントが何人倒されたのかって話だよ。ボクは忠告しているんだよ。

キミには時間がないだろう?」

 

「……」

 

「このままズルズルと打ち合っているだけじゃキミに勝利はないよ。キミは先へと進まないといけない。そして、そのためにはボクを倒さないといけない。自分の事はキミが一番よく分かっていると思うけど、キミには時間がないよ。このままこの戦闘が長引けば長引くほどキミの勝利は遠くなる」

 

「薄々は分かっていたが、お前は全てを知っているのか」

 

「あぁ、竜の魔女本人の口から色々と聞かせて貰ったよ」

 

「そっか――なら、もう言葉は要らないな。お前の言う通り俺には時間がない。だから、俺も全力で攻めさせて貰う」

 

「あぁ、望むところだ。こちらも全力をもってキミの剣技に応えよう!」

 

戦闘が始まってこれまで続いていた拮抗状態は彼が攻め手に転じることにより崩れることになる。勢いよく地面を蹴り、初めて右手に持つ西洋剣を自らに振りかざすその姿を見て、シュヴァリエ・デオンは嬉しそうに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁはぁ……」

 

荒い息をしながら、後ろに一つ大きくステップをしてデオンと距離をとる。

 

「どうしたんだい? 先ほどと違い随分余裕が無いようだけど、お疲れかい?」

 

そんな俺の様子を見てデオンは涼し気に笑う。その体には傷一つなく、息切れの一つもしていなかった。

 

そんなデオンに対し俺はと言うと、致命傷こそ受けていないものの、体のあちらこちらから赤い鮮血を流し、息は絶え絶え。せっかく用意した新品の衣装は自らの血を吸い込み赤く染まっていた。

 

――やはり俺の剣ではシュヴァリエ・デオンに傷一つ負わせることは出来ないか。

 

攻めに転じてからというもの幾度なくその剣を振るってみたがデオンの身に届くことはなく、それどころか隙を見て反撃され体中に切り傷を負う始末だった。

 

――そりゃそうか、俺の剣は受け身の剣。自ら攻めることなんてしたことないもんな。

 

そんな俺の剣なんてデオンにとっては赤子同然だろう。寧ろ逆に防御が落ちて攻めやすくなったに違いない。今までと違うことをするとどうしても隙が出来てしまう。デオンはそんな隙を逃すような剣士ではなかった。

 

――こりゃ本格的に時間がないな。

 

息が切れる感覚も早くなってきた。右腕に入る力も徐々に減って来た。デオンの言う通り表の奴らが頑張っているのだろう。仲間の活躍は嬉しいが、こうまで状況が悪くなるとは思わなかった。

 

時間が過ぎれば過ぎるほど勝率は低くなる。そして、これ以上の時間はかけられない。竜の魔女の力を考えればいつ立香達がやられてもおかしくないのだ。そして、立香がやられれば人類はそのまま終焉を迎える。

 

――これ以上時間はかけられない。しかし、普通に攻めたところで攻めきれない。

 

では、どうするか……。

 

簡単な話だ。埒が明かないなら埒を明けるまでだ。

 

額から流れる血を袖で拭うと、デオンを見る。

 

「どうしたんだい? 攻めないのかい?」

 

その顔にはまだ余裕の二文字が見て取れた。

 

それとも諦めたのかい? そう笑うデオンに、

 

「馬鹿言え、少しばかり休憩をしていただけだ」

 

そう軽口を叩き、西洋剣を構え直す。

 

――次の攻防だ。その攻防で全てを終わらせる。

 

「――いくぞシュヴァリエ・デオン!」

 

「さぁ来な! 悪魔の隊、隊長!」

 

思いっきり地面を蹴りデオンへと走り出す。最初のころよりも大分そのスピードは落ちたがそれでも生身の人間よりは遥かに早い。お互いの剣の間合いに入るのには時間は殆ど要らなかった。

 

――まずは右からっ!

 

西洋剣を右から薙ぎ払うように切り掛かる。

 

「甘いッ!」

 

しかし、それは簡単に防がれてしまう。

 

――あぁ、分かってる。

 

「じゃあ次は左だ」

 

弾かれた勢いをそのままに空中で回転すると今度は勢いに身を任せ左から切り掛かる。

 

「それも予想済みだよッ!」

 

――カン。

 

そんな甲高い金属音を立ててまたもやデオンの剣に阻まれる。華奢な見た目と違い力強いデオンの剣に押され俺は一瞬体勢を崩した。

 

――あぁ、これも予想通り。

 

これまで幾度なく打ち合った結果デオンの攻撃のリズムが分かる様になって来た。ここまでは予定通りだ。

 

そして、体勢を崩した俺に対し、デオンが次にとる行動は――

 

――鋭い突きッ!

 

「はぁぁぁぁああああ!」

 

そんな叫び声とともに放たれた突き。

 

その目標は俺の左胸――心臓ッ!

 

――来た。この時を待っていた。

 

予想通りの展開に思わず口端が上がるのを止められない。

 

この鋭い突きに対して普段なら右手に持つ西洋剣で防ぐと言う選択肢をとるのだが、今回は違う。

体を半身にして急所を避ける。そして後退するのでなく、一歩足を前に進める。

 

「――なっ!」

 

予想外の動きにデオンの顔が驚愕に染まった。

 

――心臓はやれないが、俺の左腕貰っていけ。

 

デオンの細い刀が左の二の腕を貫通する。よほど鋭い切れ味なのか骨をも貫通しているようだった。

 

デオンの右手をそのまま左手で掴む。デオンの腕力を持ってすればすぐに弾かれるだろうが、弾かれるまでの刹那の間でも持てばいい。

 

「――しまったっ!」

 

デオンが失態に気付き、俺の腕を振り払いレイピアを抜こうとするが既にもう既に遅い。俺の右腕は既に天高く振り上げられている。後はこの腕を振り下ろすだけだ。それでチェックだ。

 

――これで終わりだ。

 

力いっぱい右腕を振り下ろす。長かった戦闘が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら、ボクの負けのようだね」

 

美少女とも美青年ともとれる中性的な魅力のある顔をしたデオンは、納得したようであり、どこか達観したような笑みを浮かべるとその右手に持つ得物を床へと投げ出した。

 

甲高い音を立てて二三度バウンドしたそのレイピアは刀身が半分ほどなかった。

 

「随分と潔がいいな――いつつつつ……」

 

レイピアの片割れ、その刀身の半分を左腕から抜きながら言う。抜いた瞬間に血が滝のように出た。

 

「いくらボクでも剣を折られたら降参するしかないよ。それにあそこでキミが剣を狙わずにボクを狙っていたらそれで勝負は終わっていた。どちらにしてもボクの負けだ」

 

「そうか、お前が物分かりがいい奴で助かったよ」

 

左袖を千切り、その布で傷口をきつく縛る。数時間前ならこんな傷でもすぐに治ったのだろうが、今では時間がかかりそうだ。どうやら、今日は左手を使うことは諦めた方がいいみたいだ。

 

「それにしても、いいのかい? 止めは刺さなくて……。いや、そうか、キミの二つ名は……」

 

デオンは何かに気付いたのか納得の表情を浮かべると、

 

「本当はキミとまだまだ色々と話をしたかったんだけど、生憎キミとボクは今回は敵同士。そして、ボクは敗者でキミは勝者。それにキミには時間がない。と、くればボクが取れる方法はこれだね」

 

デオンはそう言うとホールの奥に続く通路に視線を向けた。そこには闇が広がるばかりで何も見えなかった。

 

「戦闘が終わったら敗者はすぐに消えるべきだ。敗者には敗者の矜持がある。キミの逸話は知っている。だから、キミに介錯を頼むつもりはない。ボクは負けた。座に帰るくらいのことは自分でやるさ」

 

――まぁでも、この折れた剣じゃ綺麗には行けそうにもないな。

 

デオンはそう言うと、

 

「だから、剣を借りてもいいかな。直ぐに返すから」

 

そう暗闇に向かって声を掛ける。

 

そして、その刹那――シュンという風切り音を立てながら一本の剣が暗闇から飛んできた。

 

その剣は狙ったようにデオンの足元に刺さる。

 

――その剣は……。

 

見慣れた剣だった。自分自身の剣を除くと恐らく最も見慣れている剣だった。生前から今ままで数多くの戦場で、戦いで見た剣だった。よく見慣れた双剣の片割れを俺が見間違える筈はなかった。

 

「ありがとう、助かったよ」

 

デオンは暗闇に礼を言うと、俺の方を向き直る。

 

「さて、敗者であるボクは座に帰るとするよ。何となく、キミとはまた会える気がする。また、会えたのなら今度は……今度は一緒にのんびりと過ごしてみたいな――それじゃあ、またね」

 

そう言ってデオンは笑った。その笑みは今まで見たどんな笑顔よりも魅力的な笑みだった。

 

オルレアン最終決戦第八戦 悪魔の軍 隊長VSセイバー シュヴァリエ・デオン。

 

――勝者 悪魔の軍 隊長。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、これはどういうことなんだ?」

 

光の粒となって消えていったデオンを見送った後、剣が飛んできた闇に向かって声を投げる。

 

「隊長、先ほどの戦いお見事でした」

 

闇からできたのは見慣れた顔。いかついスキンヘッドに、まるで睨み付けるような目つき。そして額からは一本の切り傷が鼻の横を通り頬まで伸びていた。

 

先ほど立香達と一緒に竜の魔女の下に向かった副隊長が何故かいた。

 

「何だ見ていたのか?」

 

「はい」

 

そして彼の手には投げられた双剣の片割れが握られていた。

 

「お前には立香達の護衛を頼んだはずなんだが、それはどうした?」

 

「どうしても確かめたいことがあったので、竜の魔女に続く扉の前で別れてきました」

 

「確かめたいこと……?」

 

「えぇ……もちろん、命令違反だということは承知しています。でも、俺にはどうしても確かめたいことが在ったんです。隊長はいつもおっしゃっていました。自らの信念を貫き通せ、と。俺は自分の信念でここにいます」

 

副隊長は真っ直ぐに俺の瞳を見返す。その目には動揺も無ければ、後ろめたさも浮かんでいない。

 

「そうか、お前が何を確かめたかったのかは知らんが、目標は達成できたか?」

 

「えぇ、出来ました」

 

副隊長はそう言うとデオンがいた場所に落ちていた剣を拾い上げる。

 

「――それなら、先に」

 

進むぞ、と言おうした口が止まった。

 

「何のつもりだ?」

 

目の前には双剣を構える副隊長の姿。その剣先にいるのは俺。

 

「実は、昨日の夜、街の見回りの最中に竜の魔女の手下と会いまして……。そこで隊長の話を聞かされました。初めは与太話と思い切り捨てようと思いましたが、先ほどの隊長の戦闘を見て確信しました。あの情報は真だったと。ならば、俺は隊長をこれから先へと進ませるわけにはいけません」

 

副隊長は剣を持つ両手の力を強める。その瞳には決意の色が見えた。

 

 

「正気か?」

 

「ええ、正気です。ここを通りたければ俺を倒してからにしてもらいます」

 

「最近の俺の力を知っているだろう。あのサーヴァントともやりあえるだけの力があるんだぞ。いくら手負いでもお前に足止めが出来るわけが――」

 

「――いいえ、それは違います。ほんの数十分前なら兎も角今の貴方にはそんな力はない。寧ろ安定している俺の方が強いかもしれない」

 

「…………」

 

「隊長には時間がないようなので一撃で決めましょう。俺が勝ったのなら隊長にはここで、大人しくしてもらいます。――なに、あの時と違って今度は背中から切り掛かるような真似はしません。正面から真っ直ぐ行かせてもらいます」

 

そう言うと副隊長は双剣を構えるのだった。

 

オルレアン最終決戦特別決戦 悪魔の軍 隊長VS悪魔の軍 副隊長 開戦。

 

戦いは一太刀で終った。




最終話付近になるとジャンヌが出てこなくなる不思議……。

恐らく後、一話か二話で完結です。
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