今作も本編は十話で終えたいんのですがこの調子だと……。
もしかしたら、次の話と統合するかもしれません。話数的に……。
もしそうなったら、すみません。
分割したので明日も投稿できるよ! やったね、たえちゃん!
「お前らよく聞け! 何とあの“不死”の隊長が地獄の淵より戻られた! やはり、隊長は“不死”に違いねぇえ! 最近は竜やら、骸骨の兵隊やら、ゾンビやらが我が物顔で歩いているが、隊長が戻って来たからにはもう心配要らねぇえ! 現に見て見ろ! あの竜を隊長は一撃! しかも、ただ殴っただけで地に沈めた! まるで、鬼神! まるで、悪魔! これより俺たちの勝利は既に決まったも同然だ! まぁ、そんなことは置いておいて、とりあえず飲むぞ! 野郎ども! ジョッキの準備は良いか? 憎っくき竜の肉で作ったつまみの用意は万端か? ――行くぞ! お前ら! 酒の貯蔵は十分か?」
「それでは、隊長の帰還を祝い! 乾杯!」
「「「乾杯!!!」」」
青空の下、その掛け声とともに各々が手に持つ、ジョッキを天に掲げる。
何時にもなく突然始まった飲み会は、街の殆どが破壊されているため、こうして青空の下外で行われてることになった。俺としては急に始まった飲み会に未だに少しだけ戸惑っている。
何と言っても元副隊長から、現状況について少しだけ話を聞いた後、俺がその情報を整理する前に、
『じゃあ、隊長が帰って来た祝いに飲みましょうか? あぁ、既に準備はさせておりますので、すぐにでも始められますよ。いや、むしろ皆早く飲みたいと待ちきれません! 隊長がいなくなってとりあえず、禁酒令を出しておりましたので、皆アルコールが抜けて最近では手が震えるんですよ、ガハハハハハ』
と大声で笑いながら連れてこれたのがここだったのだ。
何が“じゃあ”かよく分からないし、今までの彼らの言動をまとめると、アル中だから早く酒が飲みたいだけのように取れなくもない。いや、間違いなく、その線が強そうだ。
とりあえず、今の内に元副隊長だった彼から聞いた情報をまとめおきたい。
俺とジャンヌが処刑されて、数日後、オルレアンに“竜の魔女”を名乗る者が現れた。
その竜の魔女は名の通り竜を操り、オルレアンを破壊し始めた。
オルレアンにいたシャルル7世は竜の魔女に殺された。シャルル7世が竜の魔女に殺されたところを見ている部下がいるのでその情報は間違いない。
竜の魔女によって操られた竜たちによってフランス各地が襲われている。
竜の魔女は竜だけでなく、骸骨で出来た兵隊、骸骨兵も操る。
このように竜に襲われて滅んだ村も多く、襲われて死んでしまった人の中には死人になったとしてもゾンビになって甦り、さらに人々を襲う人達もいる。
イングランド軍は当の昔に撤退している。
竜の魔女に対抗している勢力は今のところ二つ。一つは副隊長が率いる、通称悪魔の軍(この悪魔の軍というネーミングは全員があつまり満場一致で決まったそうだ。お前ら、もう少しマシな名前はなかったのかと小一時間は問い詰めたいところだが、そんな時間もなかったため、諦めた)と、フランス正規軍。フランス正規軍の方はあのジル・ド・レェ卿が率いているそうだ。
とりあえず、まとめてはみたが見れば見るだけ、よく分からん。
先ず何だ、この竜とか骸骨兵やらいうファンタジー小説そのままの奴らは……これだけでも、頭が痛いと言うのに死人が生き返ってゾンビになって人々を襲うと来た。もう、こうなれば頭痛を通り越して笑うしかない……。
ん? そもそも、俺もそう言えば甦った人間となるのか……。いかん、これ以上考えると頭がパンクしそうだ。
とにもかくにも、だ。現に竜がいることは俺も知っている。と言うことは、彼の言う通り、ゾンビも、骸骨兵もいるのだろう。元より可笑しな世界ということは分かっていた。実際にいるのなら、それがドラゴンだろうと、骸骨兵だろうが、ゾンビだろうが受け入れるよりしょうがない。
――それよりも、だ。俺が重要視するべきことは……。
「なぁ、隊長飲んでいるか?」
「まぁな、そして何度も言うようにもう俺は隊長じゃない。あの隊は戦争が終わった後に解体された筈だ」
「何言っているんですか! 俺たちの隊は不滅ですよ! そして、この隊の隊長は貴方しかいない! 俺には副隊長が似合っています! まぁ、そんなことより、まずは飲みましょう! さぁ、グイッと!」
「分かった分かった。飲むからもう一度だけ、聞いてもいいか」
「ええ、なんです?」
――竜の魔女の正体。それが、
「竜の魔女がその――聖女だっていうことは本当か?」
「ええ、その通りです。俺の部下も、そして俺自身もオルレアンで、真っ黒に染まった聖女、ジャンヌダルクが竜の魔女と自ら宣言し、人々に襲い掛かる姿を……」
俺の問いかけに彼は、アルコールにより、少し朱に染まった笑顔を、真面目に正すと、頷く。
その表情はとても真剣で、とても冗談を言っている色ではなかった。
「…………」
「隊長、信じられないかもしれませんが、これは本当の話です。聖女、いやあれはもう魔女か。魔女は俺たちと隊長が文字通りこの身を賭して守ったフランスと言う国を滅ぼすつもりです……」
俺に出来るのは、どの時でも、どの世界でも同じ、“あるべきことをあるべきままに受け入れる”ことと、“その受け入れたことの中で、自らが何をどうしたいのか、選び取る事”。
選択肢は何時だって少ない。
彼の話が本当なら、今回に限ってはどの道を選んだ方がいいのか、なんて分り切ったことだ。正解の道は分かっている。でも、俺がその道を選びとるのには、少しの時間がいるようだった。
「……そして、その竜の魔女はオルレアンにいると……」
「ええ、その通りです。彼女は今オルレアンに本拠地を構えています」
「そうか……」
ジャンヌ……君は本当に自らの意思でこの選択を選び取ったのか……?
俺の疑問に答える人は、誰もいなかった。
「ところで、人数が少ないように思えるが、どうかしたのか?」
見てみると、大空の下で酒を笑顔で煽っている男たちは十人にも満たない。先ほどの青年以外は見知った顔だ。元の俺の隊の隊員で間違いない。しかし、どう見てもその数が少ない。
「あぁ、それですか」
元副隊長――いや、もう面倒なので、副隊長にする。――は、先ほど仕留めたドラゴンの肉を豪快に齧りながら、
「隊長がいない間、あの馬鹿どもの指揮は不肖ながら俺がとっておりまして、それで、他の奴らには情報収集と、出来れば敵の排斥や撲滅を命令して皆各地に潜んでます。情報は命なので」
「なるほど……。でも、排斥や撲滅って言っても大丈夫なのか、竜とかが相手だろ?」
「あぁ、そういう事ですか。確かに竜は多少厄介ではありますが、多数で囲めばそこまでの苦労はしません。骸骨兵やゾンビは見た目がグロいですが、俺たちにして見れば苦労する相手ではありません」
そう言って豪快に笑う彼は、ジョッキの中身を一気に煽る。何とも豪快で何とも男らしいやつだ。そう言われてみればコイツに限って言えばさっきもドラゴン相手に剣を投擲して倒していたな。
この副隊長並みに強い奴はいないにしても、やはり軍隊でしかも、あの地獄を生き残った奴らだけあって一癖も二癖もある人間だ。竜やら骸骨兵やらゾンビやら、そんな空想上の敵が相手とはいえそうそう遅れをとる様には思えん。
――しかし、だ。
そう考えると気になることがある。
「しかし、竜の相手も骸骨兵の相手も出来るならなんでフランスはここまで滅びる一歩手前の段階になっているんだ? ジル・ド・レェ卿が率いるフランス正規軍と手を組めばオルレアンまで攻め込むことは無理でもここまで街がボロボロになることも……」
「何言っているんですか、隊長! 隊長の命令なら兎も角、何で俺たちがあのいい子ちゃん達と手を組まないといけないんですか、あんな甘ちゃん連中と手なんて組んだら、虫唾と鳥肌が両方走って偉いことになりますぜ!」
あぁ、そうだった。こいつ等と正規軍が馬の合うはずがなかったな。
まぁ、もとより俺たちは正規軍の壁となる隊だし、その正規軍は半ば俺たちの事をゴミを見る目で見ていたもんな。素行も悪いし、口も悪いし、すぐ手を出すこいつ等も悪いと言えば悪いのだが、お互いつもりに積もったものがあるだろう。
そうでなくても、あの清廉潔白なジル・ド・レェ卿の軍隊となれば、ウチの素行最悪、品位の欠片も何もない隊とは折り合いが付かないのは手に取る様に分かる。
「そうだったな……それで、何でここまで攻め込まれた。やはり数か?」
「それについてなんですが、無尽蔵に襲ってくる数も確かにやっかいなんですが……それ以上に」
彼には珍しく言い澱む。
「それ以上に……?」
「尋常じゃないくらい強い奴らが向こうにいまして……。それで面目ない話ですが、何度か命からがら逃げだすのが精一杯な時も……」
「竜をも恐れないお前らが太刀打ちできないとなるとどんな化け物だ……?」
本物の悪魔や神やらが出てきてももう何も可笑しくないような気がする。
「いえ……それが、人間なんですよ。少なくとも見た目は」
「……人間?」
「えぇ、人間です」
「まさか、竜の魔女か?」
「確かに竜の魔女も化けもんです。オレ達じゃ五万といたところでやられるでしょう。でも、竜の魔女以外にいるんです。とんでもない化けもんが……。俺は今まで一対一で負けるような相手はいないとばかり思っていました。戦場で矢や砲弾にやられようとも、数の暴力に膝を着こうとも、不意打ちで額に傷を負おうとも、一対一ではどこの誰にも負けない自信があったんですが……あいつらは別です。別格です。勝ち筋どころか引き分けに至る道すら見えなかった。隊長から隊を引き継いだと言うのにふがいねぇ……」
下手な慰めも下手な擁護もしない。時にそれは命よりも大切なプライドを傷つけることになるから……。
「……。そうか、そんな奴らがいたのか……それで、そいつ――――」
そいつらってどんな奴らなんだ、と聞こうとしたのだが、俺の口からそのセリフが出ることはなかった。
何てことはない俺の言葉を遮る様に、自称見張り番の男が大声を上げたからだ。
思えば、これは所謂フラグと呼ばれるものだったのだろうか? 俺のさきほどの疑問はすぐに解決することになる。
「――敵襲だぁ! ドラゴンが4!」
一応形だけ残った見張り台で、酒のジョッキをグビグビと煽っていた彼の顔は真っ赤だ。明らかに酔っている。ドラゴンの数は少しばかり信用できないが、敵襲なのは、本当だろう。
しかし、だ。
「何だ、ドラゴンか……。それも4匹じゃなぁ……半分も対処に当たれば十分だな」
「よし、じゃんけんでもするか……。負けた奴がドラゴン刈りな」
「それいいな。最悪一匹は仕留めてくるようにな、ツマミが少なくなって来たし、それに隊長の分が少ない」
「じゃあ、一番肉付きが良い奴を逃がせねぇな……」
「別に全部狩ってしまっても構わんのだろ?」
下の野郎たちはこのようにぐだっていた。竜の襲撃が毎度のことで飽きたのか、それともただの竜であれば対処するに事足りないのか。いやきっと両方だろうな。
とりあえず、緊張感の欠片も無く、各自が渋々といった感じで弓や剣など自分の得物の準備をしている。
俺の横で真っ赤な顔をしている副隊長もそうだ。
「隊長、ゆっくり座っておいてください。ドラゴンの4匹くらい下の者でも数で囲めばやられる心配はありません。それにしてもアイツはなんで、そんなに慌ててるんだ? ドラゴンの4体くらいなら何時ものことじゃねぇか……」
そんな余裕を見せていた隊員たちだが、見張りの彼の次の一言で、
「――違うそうじゃない! ドラゴンの上に人影が見える。数は一。でも間違いねぇ! あいつらだ!」
――刹那、場の雰囲気が変わった。