ある日突然中世フランスっぽい世界に   作:満足な愚者

5 / 14
ジルさんの口調がサッパリだぜ! これ書いている時に第一特異点の記録を見返しているんですが、彼の口調がサッパリすぎてもう、気が狂いそう。

閑話休題。

この話の告知の件ですが、何故かこの話の方がお気に入り数が多いので現状維持のまま行きたいと思います。

前作から引き続き読んでいる方にはもうお分かりかもしれませんが、この作品はひたすらに人物の名前が出てきません。私の記憶が正しければデオンくんちゃんで四人目となるはずです。そう考えるとデオンくんちゃんって凄い奴に思えますね。


第四話

「隊長、この村ももうダメです。まだ襲われてそこまでの日は経っていませんが、生存者は見つかりません」

 

副隊長の報告を聞き、頷く。

 

竜の魔女となったジャンヌと別れて一週間、俺たちはオルレアン周辺の町や村を回っていた。竜の魔女となった彼女と対峙したからこそ分かる。彼女には勝てない。“負ける”ことはないにしても、攻め手のない俺たちからすれば、絶対に“勝てない”相手だ。

 

それにあのデオンと呼ばれる騎士も付けば一層勝率は低くなり、それにこの一週間の間で出会ったほかの化け物級の実力を持つ奴ら、ランサーやら、アサシンやらがいることを考えるとその勝率はゼロを通り越してマイナスになってしまう。アイツらが一人一人の個々だったからこそ、どうにか退けることが出来たが、あんな化け物級の奴らが二人やら三人がかりで来られたら、それこそ逃げの一手を討つしかない。

 

だからこそ、俺たちは機が熟すのを待つのと同時に協力者を探すためにこうして、オルレアン周辺の町や村を回っていた。

 

「分かった。報告有難う。とりあえず、死体は発見次第供養してくれ。ゾンビ化する前に頼むぞ。そして、今日と明日はこの街で拠点を張ろう。焦ってもいい案もいい出会いも廻ってこない」

 

勿論、未だに生存者がいる街もあったのだが、その数は少ない。この様に破壊された村や、街の方が多く感じた位だ。竜の襲撃も日に日にその数を増しており、このままではフランスという国の滅亡は免れないだろう。

 

――どうして、こんなことを……?

 

俺の質問に答える人間はいなかった。

 

そして次の日。俺は、竜によって滅ぼされた街の中でもまだ原型を留めていた建物にいた。一応形だけの本拠地だ。街の殆どの建物にどこかしら破壊の色が残っていたというのに奇跡的に無傷に近いこの建物は、小さいながらも人の暖かみを感じられた。

 

小さく一つ息を吐くと、兵士時代からの相棒であった西洋剣を鞘に納めたまま右手に持ち、水平に掲げる。何の特徴も無いただの西洋剣。軍に入った時に支給されたそれは高価でもなく、名匠が打ったわけでもない。これと同じ形の剣なら、フランス軍に所属していた奴らなら殆どが持っているだろう。俺の部下だって同じ形状のものを持っている。

 

しかし、これだけは違った。不思議と手に馴染むのだ。

 

まぁ、軍に所属してから死ぬまでずっと使い続けていたのだから、手に馴染むのは当たり前と言えばそうなのだが、何と言うか違うんだ。

 

心の底、頭の奥、そんな魂やら本能やら、そんな物が俺に訴えるのだ。

 

――これが俺の武器だと……。

 

言っている意味が分からないって?

 

すまない、俺だってイマイチよく分かっていないんだ。

 

だから、そう言う他にどうしようもない。

 

試しに部下が持っていた同じ形状の剣を持ってみたが、どこか違和感を感じた。まるで、魚の骨がのどにつっかえたようなそんな何とも言えないモヤモヤしたものを感じた。勿論その剣でも戦えるのだが、俺の本領は発揮できないとそう感じた。

 

だからという訳ではないが、俺のその本能やら魂やらの訴えと言うのはあながち間違えではないと思っている。

 

それと、気になることはもう一つある。

 

この一週間、色々な町や村を回った。その間に数えきれないほどの戦闘をこなした。その時に感じたのだが、この一週間で俺の力は、誤差の範囲内ではあるが上下しているように感じた。いや、これも上手くは言えない。さっきの剣の下り並み……いやそれ以上に確信の持てない話なのだが、俺自身の力の上限と言うものが日に日に変わって言っているように感じられた。そして、その力の上限はここ一週間で……。

 

――いや、ここまで話しておいて悪いのだが、確証を持てなさすぎる話なので、この話はここで止めておこうと思う。

 

別に、引っ張っている訳ではない。俺自身ですら確証のない話をベラベラと話して、他の人を混乱させたくないからということだ。

 

ちなみに俺自身もイマイチよく分かっていない為、自分自身の混乱を避けるためでもある。この話は追々、確証が持てるようになったら話したいと思う。

 

まとまらない考えを頭から追い出すように、手にもつ剣を横に一振り。

 

うん、悪くない。生前はあれほど重さを感じていた剣が今では、羽の様とまではいかなくても、木の棒程度の重さに感じるようになった。

 

――あれもこれも、あのサーヴァントがどうこうと言うのが関係するのだろうか。

 

デオンも黒いジャンヌもそして、この間戦った、ランサーと名乗る男性や、アサシンと名乗る女性がまるで口癖のように話していた、サーヴァントと言う言葉。これだけ回数を聞けば、サーヴァントが召使い(サーヴァント)を意味することではないことくらい俺でも分かる。

 

サーヴァントという言葉を口に出していた人間は皆、化け物並みの実力者だった。デオンや竜の魔女は言うまでも無く、ランサーやアサシンも間違いなく強敵だった。普通の人間では例え千人いても勝機はないだろう。

 

と、いう事はそいつらと渡り合える実力を何故か手に入れた俺は……。

 

それに気になることは他にもある。デオンは黒ジャンヌにセイバーと呼ばれていた。セイバー(剣士)にランサー(槍兵)にアサシン(暗殺者)ね……。これが意味することは一体何なのか。

 

頭を捻った所で答えが出ることはなかった。

 

――誰か、俺に説明してくれないかな。

 

黒いジャンヌは俺に説明するのを拒否したし、その後に出会ったランサーやらアサシンやらは真面に会話が出来るような奴ではなかった。少なくともランサーやアサシンよりも遥かに会話が出来そうなデオンとはあの後から会ってはいない。

 

そんな俺の思いが天に通じたのか、それとも俺のそのため息にも似た心の声が所謂、フラグと呼ばれるものだったのか、それは分からないが俺のその願いは、すぐに叶うことになる。

 

コンコンと木製の扉が二回ノックされた。

 

剣を腰に戻しながら、

 

「どうぞ、空いてるぞ」

 

と、声を扉の向こうに投げかける。

 

「隊長、西の方角からこちらに歩いてくる人影が見えるということです。数は六」

 

入って来たのはスキンヘッドの筋骨隆々の大男。我が隊の副隊長だ。

 

「歩いてくる? そうなれば奴らの可能性は低いな、一般人か?」

 

今までの経験上、黒いジャンヌの手下は竜に乗ってやって来ていた。歩きと言うのは今まで一度もない。その経験則から言えば、彼らは竜の魔女の手下ではないようだ。

 

「そうとも思ったのですが、はぐれの竜がその人影に襲い掛かったようなのですが、それを一瞬で撃破したそうです。間違いなく、奴らと同等の力をもっています」

 

「そうか、目標はあとどのくらいでここまで着く?」

 

「このペースでいけばあと、半刻にはこの街の外壁にはたどり着くかと」

 

「全隊員に命令だ。その人影が敵か味方か判断する。総員各自、目標の前には姿を見せず待機、味方ならばそれでよし、敵ならば一斉に離脱。俺も、敵ならば撤退に徹する」

 

俺がここまで言い終えた時だった。

 

――バタンっ!

 

そんな豪快な音を立てて扉が開けられた。

 

「何事か?」

 

副隊長の言葉に駆けこむように入って来た部下は、直立すると、

 

「隊長及び副隊長に至急お伝えしなければいけないことがございます。こちらに向かっている人影六に大量の竜が襲い掛かっています。その数五十以上、そして、その竜の内三頭の背には人影がありとのことです」

 

竜の背に乗る人影とはほぼ間違いなく竜の魔女関係のやつらだろう。そんな奴らに襲われているとなると、その人影たちは竜の魔女とは敵対関係にあると見ていい。

 

敵の敵は味方、などという単純な理論で世界が回っていないことは重々分かっている。

 

しかし、この機を逃せば味方かも知れない人物を失うことになりかねない。

 

方針は決まった。

 

「先ほどの命令を取り消す。全隊員に伝令を回せ! 総員、その人影の援護に当たれ。各自武器を持ち、竜の撲滅に当たれ、その際必ず一匹の竜に対して複数人で当たる様にしろ! 誰一人死ぬことは許さん! 竜の魔女の手下との戦闘は禁ずる! 俺は先にその人影の救援に向かう。お前らは後から合流し、竜の撲滅に徹せよ」

 

「「Oui, mon.sieur(了解しました)!」」

 

寸分の違いもなく二人は声を揃えた後、迅速に部屋から出ていった。

 

あの日目覚めた時から異常な身体能力を見せているこの体なら、きっと、そいつ等が潰れてしまう前に駆け付けることが出来る筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜の間を縫うように足を進める。その先には九人の人影。ドラゴンに囲まれながらどうにか猛攻をいなしている六人と、そのドラゴンの猛攻に便乗する形でその六人に攻撃を加えている三人。どちらが優勢か何て言うまでも無く分かるだろう。この六人は圧倒的に不利だった。

 

四方をドラゴンに囲まれ、そのドラゴンの相手をするのに手いっぱいと言った形なのに、それに加えて、三人の攻撃も加わるのだ。不利って言うレベルではない。それに、攻め手の三人の内の二人は俺の知っている奴らときた。その実力は痛いほど知っている。

 

――ん、あの陣形はどういうことだ。二人ほど非戦闘員か?

 

加えてその六人のうち二人は戦闘が出来ないのか、他の四人が前後左右に立ちドラゴン倒しつつ、竜の魔女の手下の三人の攻撃を防いでいる状況だった。

 

――そんなのじゃ、すぐに綻びが出る。

 

そう思った時だった。その陣形のスキを突き、魔女の手下の一人が中央に突入した。明らかにその二人を守っていますといった陣形がそこを狙わない隙は無い。

 

「――先輩っ!」

 

大きな盾を持った少女が、中央に立つ人影を守ろうと動く、しかし、それでは遅い、間に合わない。

 

「よっと、どうにか間に合ったな! いきなり乱入して悪いがお前らの敵じゃない! 助太刀に入った!」

 

金属と金属がぶつかり合う甲高い音がする。

 

間一髪でどうにか間に合った俺が、ソイツの剣をいなした音だった。

 

「貴方は一体?」

 

背中に声が掛かった。綺麗なソプラノの声だ。どうやら、俺が助けたのは女性のようだ。

 

チラリと後に視線をやる。

 

年のころは若い、まだ少女と言える歳だろう。オレンジのショートヘアに同じくオレンジの瞳。肌の色は白くもなく黒くもなく、俺と同じく黄色人種だった。まさか、東洋人? もしかすると、日本人か? 有事ではなければゆっくりと語りあいたいのだが、あいにく思いっきり有事だ。

 

とりあえず、彼女の問いかけには通りすがりの悪魔の軍隊長と名乗っておく。

 

「――まさか、こんなところでまた会えるなんてね。これも運命ってやつなのかな?」

 

彼とも彼女とも、美少女にも美男子にもとれるソイツ――シュヴァリエ・デオンはその整った顔に笑みを浮かべた。

 

「お前のような美人との縁なら喜んで受け入れたいところだな」

 

まぁ、ただしここが戦場ではなかったらという注釈が付くけどな。

 

俺のそんな軽口にデオンは、

 

「ボクも君のような素敵な人との運命は心がときめくんだけど、君とマスターとの会話を聞くに、君に手を出すと嫉妬の炎で灰すら残らないまで焼き尽くされそうだ」

 

と笑いながら返し、大きく後ろにバックステップした。

 

「アサシン! キャスター! 撤退だ! 引くよ!」

 

デオンはそのまま大きな声で、仲間に撤退を指示する。

 

その間も竜の猛攻は続く。

 

――っち、後ろの二人を庇いながらとなると、中々攻めに転じることが出来ない。

 

「なるほど、彼が来たのね。これは誤算だったわ」

 

その声にまずは、アサシンが応える。白い髪特徴的な武器をもつ彼女はどうやらデオンの提案に賛成らしく、すぐに打ち合っていた手を止め大きく後退した。

 

「カーミラあんた逃げる気!?」

 

アサシンと打ち合っていた桃色の髪の女性は不満らしく、抗議の声を上げるが、

 

「貴方の息の根を止めておきたいけど、撤退の命令が出たからには従うわ。彼が来たとなれば、この人数では生け捕りは厳しそうだしね」

 

どうやらアサシンの意思は固いようだ。

 

「しかし、セイバー。一人の男が加わったとしても圧倒的に我々が有利! このまま押し切れば、こいつらを一網打尽に出来るのでは!? 少なくともジャンヌは! 聖女は! それを望んでいた筈です!」

 

「その一人の男が問題なんだ! 彼は例の男だ。我々三人だけならまだしも、今の状況だと厳しい。ここは一度引くよ。こういう事になるなら、アーチャーも連れて来ておくべきだったね。そうすれば、彼が来るまでに、そこのマスターの首か、竜殺しの首が取れただろうに……。まぁ、悔やんでもしょうがない、そういうことだから引くよ、キャスター」

 

「……なるほど、彼が例の……。これは実に興味深い! 彼が聖女ジャンヌを! 聖女を! 聖女を! 聖女を! 許せない! 許せない! 許せない!」

 

「でも、その聖女の命令だ。引くよ」

 

「聖女の命令であれば、仕方がない、しかし、彼は私が……!」

 

「いいから、早くするよ! 君は聖女の命令を聞くことが出来ないのか!?」

 

「……くっ! 分かりました!」

 

竜のブレスをいなしながら、キャスターと呼ばれた男の方を見る。キャスターと呼ばれた男は既に竜に乗っていた。

 

ソイツは大柄の男だった。黒と言うよりには濁り過ぎた色の髪に、それと同じく飛び出さんばかりに出っ張った濁った黒く大きな瞳。その瞳には狂気の二文字がありありと浮かんでいた。デオンの目にも狂気のそれは見えるが、あくまでもデオンの場合は、後付けされた狂気の様に感じた。しかし、コイツの場合は……もうきっと、ずっと前からコイツはどうしようもないほど狂っている。俺にそう感じさせた。

 

ソイツの声は何処か呪われた憎悪と狂気に満ちた声だった。しかし、どこかで聞き覚えがあるような声だった。

 

ソイツは黒く染まったジャンヌよりも更に黒く染まっていた。

 

しかし、その狂気に染まった身のどこかに何処となく何処かで見た様な面影を感じた。

 

――まさか……。

 

「ジル・ド・レェ卿……?」

 

俺の口から出た声にソイツは竜の背に乗り空に浮かびながら

 

「ほう、私の真名を知っているのですか……」

 

否定はせず、ただ肯定した。

 

「どうして……?」

 

どうして、あの潔白の騎士が……。

 

生前にジャンヌの件でお世話になったため彼とは何度か顔を合わせる機会があった。彼はそんな狂気に染まるような人間では……。一体、俺が居ない間に何が……。

 

「どうして……? そんなことは言うまでも無いでしょう! 聖女が望むからですっ!」

 

彼はそう声高らかに叫ぶと竜の背に乗り、俺たちからグングンと遠ざかっていった。

 

「それじゃあ、悪魔の軍の隊長さん、僕たちは今回は撤収させて貰うよ! きっと悪魔の軍ももうすぐ来るだろうからワイバーン如きじゃ直ぐに全滅させられると思うけど、それでも足止めにはなるだろうしね。とりあえず、また会おう!」

 

デオンとアサシンもそれに続き空へと消えていく。それを追うことも出来ず、ただ竜の攻撃をいなしていく。

 

しかし、どれだけ竜が多くても所詮はあの三人には遠く及ばない。幾ら数で囲まれようと攻撃をいなす程度なら訳のない話だ。周りの奴らもそうなのか、徐々に攻撃に転じ、竜の数を減らしていっている。これなら、もうすぐ到着する副隊長たちが来ればすぐに片が付くな。

 

そんな時だった。

 

「もしかして、貴方はサーヴァントですか?」

 

またもや背中に声が掛けられた。先ほどのオレンジの髪の彼女だろう。

 

そして、聞き慣れてそれでいて、今一番知りたかった言葉だった。

 

「悪いが、俺にもよく分からない。それに俺も色々聞きたいことがある」

 

でも、まずはこの現状の打破だ。全てはその後だ。

 

その後副隊長達も加わると竜の殲滅はすぐに終わった。

 




いつも、誤字訂正、評価、感想ありがとうございます。

作者は皆さまのおかげで頑張れております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。