ある日突然中世フランスっぽい世界に   作:満足な愚者

8 / 14
十話では終わらすことは無理だったのでもう少しだけ続きます。

残りあと、本編は2から4話くらいで終るかな……多分。

そして、前回では皆さんありがとうございました。とりあえず、問い合わせてみようと思います。

最近文字数が増えてきて申し訳ありません。


第七話

それは決戦を明日に控えたある日の夜の事だった。日はもうすっかりと落ち切り、空には満天の星空と上限の月が浮かんでいた。日本にいた時はまず見ることのなかった頭上一杯に広がる星の海。

 

俺が住んでいた日本では例え日が落ちたとしてもネオン街の煌びやかな光や、ビル群の発する光で、星の瞬きなんて物はかき消され見ることは叶わない。特に俺が住んでいたのは首都東京ではなかったものの、地方でも大きな都市のひとつだった。そんな地方都市では、星を見る機会なんて限られていた。

 

月明かりと星明りが辺りを優しく包み照らす中、ぼんやりと空を見ながら考える。

 

――これまでのこと、そしてこれからのこと。

 

今まで得た情報とそして体験を加味して考える。

 

――俺のやるべきことは何か?

 

竜殺しの傷は既に癒えた。明日には存分に力を発揮できるだろう。そう明日には全てが決まる。

 

賽は既に投げられた。俺がとるべき行動も、そして、俺がしなければならないことも分かっている。

 

世界は間違っている。正しい選択肢なんてないことも多く、時には選択肢がないこともある。そして、多くの選択肢があると思えば、間違え方しか選べないことだって多い。

 

――しかし、今回ばかりは俺が取れる選択肢の中に正解は存在する。

 

誰がどう見たって間違いのない、正しい選択肢が存在する。その、選択肢をとることに不満はない。元よりそれ以外の選択肢がないにも等しいのだ。

 

でも……。

 

――その正しさと言うのは世界にとっての正しさではないのか……?

 

何度も心の中で考えた疑問の答えは結局疑問のまま……。それに答えが出たところで俺が

取れる選択肢は決まっている。

 

「こんばんは、隣良いですか?」

 

声が掛けられた。聞き慣れない声に振り向けば、橙の髪に茶色の瞳。月明かりに照らされた肌は白過ぎず、そして黒過ぎず、典型的な黄色人種のその色だった。その姿は俺に故郷を思い出させた。

 

「こんばんは、こんな夜に女性が一人でこんな所に来るなんていただけないな」

 

もしも襲われたらどうするつもりだ? と少女に問いかける。

 

この滅んだ街に今いるのは、立香やマシュを始めとするカルデアの人間と後は彼女たちの仲間のサーヴァントとそれに俺たちの軍しかない。女性を襲う奴なんて俺の軍にはいないのだが、まだ知り合って数日の彼女たちにとってはそれを知る術はない。

 

「大丈夫ですよ。あの人たち、見た目は怖いですが、良い人ばかりでした。とても、信用してます」

 

彼女はそう言って笑う。年相応の無邪気な笑顔だった。

 

「見た目の事を言ってくれるな。元々、お尋ね者やらろくでなしの集まりなんだ。そのくせ、精神的に弱いからな。君のような女の子に嫌われたとなれば、ショックで泣きかねん」

 

そう言って俺も笑っておく。

 

「大丈夫ですよ。最初は怖かったですけど、この数日間で彼らが優しい人だと言うことが分りました。毎日、お祭りのようで楽しかったです」

 

立香はそう言うと、俺の横に腰を下ろした。俺との距離は1mほど。

 

「それは良かった。まぁ、お祭りと言ってもアイツらが酒を飲みたいだけの口実で宴会を開いていただけの話だけどな」

 

ここ数日毎日のように宴を開いた。襲って来る竜の肉を焼き、そして破壊された町の中で無事だった酒瓶を集めての宴会。毎晩毎晩、みんなで馬鹿の様に騒いだ。

 

特に今日は地方に散らばった部下たちがこの街に集結したため、何時もよりも派手に盛り上がった。まるで、心に刻みつけるように……。そう、誰もが分かっていたんだ。

 

明日には戦いが始まる。そうなってしまえば、

 

――もうこのメンバーで集まることは二度とないと。

 

昔からそうだった。戦いが終わった後に誰も欠けていないなんてことは一度たりともなかった。

 

特に俺たちの隊は、明日無き隊やら、致死率150パーセントの部隊なんて呼ばれてきた隊だ。一度の戦いで半数以上の人間がいなくなるなんてことが普通だったし、酷い時では四分の三に近い人間が命を落とすこともあった。

 

俺たちの隣には何時だって死があった。明日は我が身だった。

 

だからこそ、俺たちは束の間の時間で酒を片手に騒ぐ。大声で歌い、大酒を飲み、大飯を食らう。

 

まるで――“俺はここにいた”、と誰かの記憶に残すように……。

 

「隊長さんは、部下の皆さんにとても慕われているんですね。皆さん口を開くたびに隊長は、隊長は、って言ってましたよ」

 

「昔はそうでもなかったんだけどな」

 

「そうなんですか?」

 

「寧ろ隊長になったばかりの時なんて、酷かったよ。後ろから剣でバッサリいかれたこともあったしね。戦争で死にかけたことは多くあったし、傷も数えきれないほど負ったけど、あの時の傷が一番深くて重傷だったかな」

 

そう今は昔の話。それでも尚色あせない戦いの中の記憶。

 

「そんなことがあったんですか」

 

立香は意外な物を見たかのように目を丸める。

 

「まぁ、昔の話だけどね。見て分かると思うけど俺たちの隊はろくでなしの集まりだからね。基本的に集団で動く様な奴らじゃなかったし」

 

今でこそまとまりはあるが、それでもフランス政府軍とは折り合いが付かないし、俺の命令でもないと共闘なんぞするものか、といった奴も多い。

 

「それで、君は何をしに来たんだい? こんな夜に一人でここまで来たんだ。何か俺に話でもあるんだろ?」

 

このまま雑談をするのも悪くはないが、明日は決戦だ。特に色々なサーヴァントのマスターである立香は早めに休んだ方がいいだろう。

 

俺が一人でいる時を狙って彼女は来た、ならそれなりの話があるのだろう。

 

「まずは、お礼を……。あの時は本当にありがとうございました。貴方が駆けつけてくれなかったら私は死んでました」

 

立香はそう言うと立ち上がり、頭を下げる。

 

「気にしないでいいよ。お礼なら十分言って貰ったし、それにあれはたまたま俺が間に合っただけに過ぎない。だから気にしないでいいよ。俺はただ当たり前のことを当たり前にしたまでだ」

 

当たり前のことをしただけなのだから、そこまでかしこまって礼を言われるとかえってむず痒い。

 

そう言って笑うと、

 

「やっぱり、貴方はジャンヌの言った通りの人ですね」

 

そう言って彼女もつられて笑った。

 

ジャンヌがなんて言ったのか気になるところだけど、それはひとまず置いておこう。

 

竹藪を突いて蛇が出るのも嫌だし、何かむず痒くなるようなことを聞かされたら反応に困る。

 

「それで、君はただ礼を言いに来ただけじゃないだろ?」

 

「はい、実は貴方に聞きたいことがあって来ました」

 

「聞きたいこと?」

 

「ええ、一目見た時から思っていました。このフランスの地で、明らかに浮いている黒髪黒目にその肌の色。それに、ジャンヌから貴方が彼女に勉学を教えていた時の話も聞きました。今のジャンヌの思想はとても今の時代の物とは思えない。言うなればもっと先、未来の思想に近いものをもっています。そして、貴方の特徴的なその容姿……。実はその容姿には心当たりがあります。つい先日まで貴方のような人が多く住む国に住んでいましたので――」

 

そこまで言い終えると、立香は大きく息を一つ吸い込んだ。

 

彼女の口から漏れたのは聞き慣れたフランス語ではない。

 

どこか懐かしく、そして忘れることのできない言葉。俺の根源とも言えるその言語は、

 

『――貴方はもしかして、未来の日本から来たのではないですか?』

 

――日本語と呼ばれる言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤丸立香と青年の間でそんな会話があった最中、場所は変わり街の外壁にある見張り台に一人の大男がやってきた。

 

筋骨隆々の体に、スキンヘッド、そしてその顔には額から鼻の右横を沿うように一本の刀傷の跡があった。どこからどう見ても堅気には見えないその男は見張り番の兵士に声を掛ける。

 

「おう、ご苦労。異常はないか?」

 

「副隊長、お疲れ様です! えぇ、大丈夫です。竜の一匹も見当たりません」

 

見張り番はそう報告する。夜の帳が昇り、辺りは闇に包まれているが、人よりも目がいい彼らにとってしてみれば、何の問題も無い。星の光だけで十分辺りを見通すことが彼らにはできた。

 

「そうか。それはご苦労。お前も明日は決戦だ。交代がくればしっかり休むように」

 

「Oui, mon.sieur(了解しました)!」

 

見張り番の返事を聞き、彼は見張り台を後にする。ここ数日夜に奇襲があることはなかった。在ったとしてもはぐれた竜が二三匹迷い込んだようにやってくるだけ、今日も恐らく何事もないとは思うが、警戒するにこしたことはない。

 

副隊長は見張り台を後にし、最後にもう一度外壁の周りの見回りをして寝ることにしようと決めた。

 

そして、その見回りの途中。

 

――ん?

 

視界の隅を何かが高速で横切った気がした。

 

しかしそれは一秒にも満たない刹那のこと、副隊長は頭を捻り気のせいかと足を踏み出そうとした時だった。

 

『スキンヘッドにその顔の傷、一応問うが、お前が悪魔の軍の副隊長か?』

 

闇夜に紛れ女性の声が聞こえて来た。聞いたことのない声だ。

 

――まさか、敵襲か!?

 

副隊長が緊急事態を知らせようと口を開いた時、

 

――ヒュン。

 

そんな風邪きり音を立てて彼の頬の横を何か高速で横切った。

 

『仲間を呼ぼうとしても無駄だ。お前が言葉を発するより、私の矢がお前の額を貫く方が早い』

 

辺りは闇に包まれ人影どころか生命がいる気配すらない。しかし、狩人は確実にそこに存在してる。

 

何処からか聞こえてくる声と、頬を伝う一滴の血がそのことを証明している。

 

『何、別にお前をここで葬ろうなんて思っていない。そうだったら話しかけるより前にお前の額を打ち抜いている。ただ、悪魔の軍の副隊長に話があるだけだ。もう一度問う、お前が悪魔の軍の副隊長か? 長居をすると、こちらのサーヴァントに感づかれるからな、三度目はないぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立香と別れてからも暫く俺は星と月を眺めていた。

 

満天の星空が見えるこの世界では流れ星を探すのにも苦労しない。こうやって、ぼんやりと眺めていれば嫌と言うほど見つけることが出来る。ほら、さっきもそこに。

 

小さく一つ息を漏らし、座禅を組む。

 

そして、腰にぶら下げている剣を鞘ごととり右手に持つ。そして、座ったまま軽く振るう。

 

ヒュンと風を切る音が辺りに響いた。うん、間違いない。

 

――俺の力はここ数日で上がっている。

 

自分自身のことだからこそ分かる。サーヴァントの割合が強くなっているのだ。

 

――なるほどね、これはそういうことか……。

 

俺のその呟きは夜風に乗り誰の耳にも入ることはなかった。

 

「お兄ちゃん、ここにいたんだ?」

 

「ん? 今日はやけに客が多いな。どうしたんだ?」

 

聞き慣れた声は最早顔を見なくても分かる。剣を腰に戻すと体ごと振り向く。

 

「少し眠れなくて」

 

穏やかな月明かりを受け、柔らかくほほ笑む彼女がいた。月光に包まれた純金の髪は光の加減によりどこか金にも銀にも見え、その神秘さを増し、星の瞬きにより彼女の全てがより神聖に見えた。

 

そう、まるで物語に出てくる聖女がそこにいた。

 

「明日は決戦だ。早く寝ろよ」

 

「うん、分かってる。少ししたら帰るよ」

 

「座るか?」

 

俺の問いかけに彼女は小さく頷くと俺の横に腰を下ろす。

 

その距離は近い。肩と肩が触れ合う距離だった。

 

「結局敵襲はなかったね」

 

「あぁ、そうだな。やっぱりなかったな」

 

俺と彼女の予想通りの結果だった。半ば竜の魔女本人でもある、ジャンヌダルクとジャンヌダルクをよく知る俺の意見は同じで、敵襲はしないと言うものだった。

 

俺たちの答えは同じ、竜の魔女はオルレアンにて俺たちを待ち構え、そこで全ての決着をつけるつもりだということ。

 

そして、俺たちの予想通り相手のサーヴァントがここを襲ってくることは今まで無く、小さな竜の群れがたまに襲ってくる程度のものだけだった。それもきっと、竜の魔女の命令ではないのだと俺は思っている。

 

「そう言えば聞いたよ、また何処かの村が滅ぼされたんだって?」

 

「あぁ、ここ以外の街や村は毎日のように襲われているらしい。フランスは既に崩壊間近だ」

 

部下の話によるとここに敵が襲ってこない代わりに別の場所での交戦が激しくなっているとのことだった。俺たちにとってして見れば訳のない竜の相手でも一般人にとっては村や町を滅ぼす脅威になる。特にフランス全土のサーヴァントがここに揃っている今、その被害の進行は速度を速めている。

 

「でも、それも明日には全てが終わるね」

 

彼女は言う。その目は空の星を見ていた。

 

「そうだな」

 

泣いても笑っても明日でこの世界の運命は決まる。そう、どんなに足掻いても結末を迎えることになる。

 

「ねぇ、お兄ちゃん、一つ聞きたいことがあるんだ」

 

少しだけ思いつめた様な彼女の声。

 

「……なんだ?」

 

「明日には全て終わってしまうから聞くなら今しかないと思ったんだ。前にも一度聞いたことが在るけど、もう一度聞くね」

 

そこまで言い終えると、彼女は俺と目を合わした。穢れを知らない碧眼が俺を射抜く。

 

「お兄ちゃんが隠している秘密を私に話してほしいんだ――貴方は一体何を私に隠しているの?」

 

「――――」

 

 

「別にまだ何も言わなくていいよ。だから続けるね。私、見たんだ。マスターの部屋で、マスターが書いた文字を。私には読めない文字だった。マシュが言うには未来の日本って言う国で使われている文字らしいの。だから、私には読めなくて当然だった。でも、私にはその文字によく似た物を何処かで見た記憶があった」

 

「遠い遠い昔の記憶。私がまだ戦争にいくもっと前、ドンレミの村でお兄ちゃんにフランス語を教えて貰うよりももっと前、確かにその文字を何処かで見たことがった」

 

「――――――」

 

「思い違い? 記憶の間違い? ううん、そんな筈はないよ」

 

彼女はゆっくりと首を振る。

 

「だって、それはお兄ちゃんに関することなんだから――大好きだったお兄ちゃんについてのことなら私はどんな昔の事でも思い出せる」

 

そうこれは今は昔、ドンレミの村での何気のない話。

 

まだ幼かったジャンヌが俺の部屋に来た時のある日常の一ページ。

 

 

 

 

『うんっ。今日お兄ちゃん手伝いないって言ってたから遊びにさそおーと思って! お兄ちゃんは何してたの?』

 

ジャンヌは背伸びをして俺の机を覗き込む。俺が自作で作ったこの不格好な机はジャンヌの身長だと背伸びをすればどうにか机の上が見えるくらいの高さだった。

 

『うわー、文字がいっぱい……お兄ちゃんが書いたの?』

 

『あぁ』

 

『凄いね、お兄ちゃん! もう文字も書けるんだ! 私なんて最近習い始めたばかりで……お兄ちゃんの文字なんて書いてあるか読めないよ』

 

まぁ、それはジャンヌだけでなく、この国の殆ど、いや下手をすると全員が読めない可能性がある。だって、これはフランス語でも英語でもなく、“日本語”だから、な。

 

 

 

 

 

 

俺の記憶の片隅にも確かにあった古ぼけた物語だった。

 

そして彼女は口する。全ての始まりであり、全ての終わりであるその言葉を。

 

「ねぇお兄ちゃん。お兄ちゃんはもしかして――」

 

「――未来から来たの?」

 

その問いかけに対する答えを俺は持ち合わせていない。

 

それぞれの思いが渦巻く中夜は明ける。全てが終わる決戦はもうすぐそこに……。




ひたすらに主人公が受けのターン。

それと、誰がノリと勢いとノリとノリで書いた前作の一話がここで登場すると予想できただろうか。少なくともこれを書くまでは作者でも予想できなかったぜ。というか、このFGO編すらもない物だったというのに……!

そして、いつの間にジャンヌさんここまで賢くなったんですかね……。

頼むからジャンヌは畑で泥団子作って全身泥だらけになって遊んでいるアホなジャンヌさんが私は好きです。頼む返って来てくれジャンヌゥゥゥウ!

カルデア編ではジャンヌさんがジャンヌすることを祈っています。

ん? この作品カルデア編もやるのか……?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。