石碑があったところを抜けると、まだまだ建物内が続いているのがわかる。壁が崩れ落ちていたり、階段の先が崩れて居たりと、城自体が壊れかけているのも酷くなっている。
「ここ、かつては立派な城だったのかな……」
「さぁどうだろうな。まぁ時が経てば朽ちていくのは自然の摂理だろ」
「魔王がいる城にそれが当てはまるわけないでしょ」
「それもそうだ」
「ったくあんたは……」
ゼシカとククールの会話に耳を傾けながら、レイフェリオは改めて建物全体を見るようにして視線を向けてみる。
外苑らしき場所からは、これまで通ってきた道のりもなんとなくわかる。空は相変わらず薄暗い霧に包まれているので輪郭は何となくしかわからないけれど、崩れてさえいなければ立派な城ではあったのだろうというのはわかった。
『レイ? 何か気になることでもあったの?』
「いや、何でもない」
「兄貴、ゲルダの勘だとこっちのが先に続いているっぽでがす」
「わかった」
道が複雑化しているところだと、意外にもゲルダの勘はよく当たる。本人曰く、単なる偶然だというらしい。宝のありかを嗅ぎ付けるのは元盗賊として考えられることだけれど、ゲルダの場合は自分が求める道を嗅ぎ分けていると言った方が正しいのかもしれない。いずれにしても、時間をかけられない場所ではかなり頼りになる力だ。
ヤンガスの後を追っていくと、目の前にドラゴン族らしき魔物が現れた。リザードファッツという青いドラゴン、それが二体。
「ったくしつこいったらありゃしないね」
「けっ、そんな減らず口が出てくるなら余裕じゃねぇかよ」
「うるさい。それはあんたの方だろ」
悪態を吐きながらヤンガス、ゲルダが前方へと駆けていく。そのままヤンガスが斧を持って降りかかると同時にゲルダはもう1体の方へ身体を動かし、注意を惹きつける。ゲルダを援護するようにククールが後方から弓で威嚇して1体の相手をし、ゼシカとヤンガスがその間に1体へと攻撃をしかけていた。ならばとレイフェリオはククールたちが相手をしている1体へ向かって駆け出す。腰から剣を抜き、跳躍した。
「ククール!」
「レイフェリオ!」
それだけで十分だった。レイフェリオの意図を理解したククールは弓から手を放し呪文詠唱に入る。
「バイキルト」
剣を振り下ろす瞬間に呪文の力に身体が包まれるのがわかった。口元に弧を描きながら、レイフェリオは勢いのまま振り下ろす。ドラゴン族に有効な剣技、ドラゴン斬りだ。
「グシャァァァ」
「今だ、ゲルダ」
「任せな!」
止めをゲルダに任せレイフェリオは地面に着地すると、そのままヤンガスたちが相手をしている1体へと駆け出す。腰に剣を納め、呪文詠唱のために集中した。
「ヤンガス」
「合点でがす」
「ギガデイン!」
強烈な雷が天から落ちてくる。本来、空が見えている場所で使う方が効果が高い呪文ではあるが、竜神族としての魔力を持つレイフェリオからすれば空が見えていなくとも関係がない。従えと、天に命令すればどこであろうともその雷は降り注ぐ。無論、人が多い場所で多用できる呪文ではない。
「グ……がぁぁ……」
「けっ、図体だけでやしたね」
「ここで苦戦しているようじゃ、ラプソーンなんて相手にできないでしょう。私たちは負けるわけにはいかないんだから」
どんな魔物が出てこようとも、負けるわけにはいかない。油断はできないけれど、それでもレイフェリオたちにはこれまで戦ってきたという自負がある。
「ほら、レイフェリオ行きましょ」
「あぁ」
まだまだ魔力は十分だとゼシカも、ククールも余力を十二分に残している。レイフェリオもまだまだだ。ドルマゲスとの闘いでは消耗した状況での戦いだったが、今のレイフェリオたちは法力によって闇の力からは守られている。そのお陰もあるのだろう。
外苑らしき場所から再び城内に入る。多少壁が崩れてはいるものの、これまでよりは城という体裁が整っていると言えるだろう。階段を降りれば、広い空間へと出る。長い階段が下階へ随分と続いていた。個別の空間は存在せず、ひたすら階段を降りていき、一番下らしき場所にくると水が地面から噴き出しているような場所にたどり着いた。
「噴水? こんなところに?」
「魔王の城にある噴水なんて触りたくないもんだがね」
「ただの水だろ」
「いや……」
「レイフェリオ?」
ゼシカ、ゲルダ、ククールに続いてレイフェリオは一歩前に出て彼らが触れようとするのを制止した。法力を持っているからだろうか。レイフェリオには目の前のそれが水には見えない。液体であるのは間違いないが、そこにあるのは薄暗い力を持つ何かだ。
「触れない方がいい。闇の力が蓄えられている。底に石が見えるだろ? あれから途切れることない闇の力を感じる」
「これか? 俺には水色の唯の石にしか見えないが」
「割ってみるでがすか?」
「いや、やめておこう」
単なる石ならばヤンガスの怪力で割れるかもしれない。しかしこれは違う。割れた瞬間、この場所に闇の力が満ちてしまうかもしれない。
「何でもかんでも壊せばいいってもんじゃないだろうさ」
「ゲルダの言う通りだ。今は先に進む方を優先しよう」
「が、合点でがす兄貴」
更に奥へと続く階段を降りると、城というより街並みに近い雰囲気がある回廊へ出てきた。正面にある石碑はどこかで見覚えがある。途中で予言めいた戯言が書かれていたそれと酷似していた。同じようなことでも書いてあるのかと、石碑を調べてみる。
『汝の背を見つめる五つの像は 神に深い悲しみを捧げるべく 長い旅を経た巡礼者である
道に迷いし巡礼者に 大いなる闇の祈りを……』
「……なんか嫌な感じがするわね。この言葉」
「露骨に人数を指定している辺り、俺たちのことだろうな」
巡礼者が示す人数は、レイフェリオたちの人数と一致する。ここはラプソーンの城だ。そもそも巡礼者という言い方も気になる。まるで神に対して祈りを捧げにきたかのようだ。暗黒神を名乗っているのだから、ラプソーン自身が神だということかもしれないが、あからさま過ぎる。
「っ⁉」
「兄貴?」
すると不意に奇妙な視線を感じ、レイフェリオが振り返った。するとそこには、あったはずの階段が消え失せ、奇妙な石像が姿を現していた。五体、それもレイフェリオたちとよく似ているそれに背中に冷や汗が流れる。
「おいおいおい、これなんだよ……」
「流石に気味が悪いわね」
「暗黒神だかなんだか知らないが、どこかであたいらを監視でもしてるんじゃないかい。随分と姑息な真似をしてくれるもんだよ」
ククール、ヤンガス、ゼシカ、ゲルダ、そしてレイフェリオ。今の服装と同じ姿の石像。魔物ではないようで動く気配はない。だが自分らと同じものが突然現れれば、誰だって警戒はするだろう。現時点で襲ってくることはないにしてもだ。出入口を塞ぐという意味ではこれ以上の気味悪さはない。
「兄貴……」
「先へ進もう。出口は塞がれた以上、前に進むしかない」
「そう、ね……」
全員と顔を見合わせ、頷くとレイフェリオを先頭に前を向いた。回廊は一本道。時折左右にある扉にも触れてみたが、開く様子はなかった。だがそれも先へ進めば進むほど、姿を変えていく。
「あ、あにき……」
「本当に気味が悪い仕掛けだ……」
整えられていたはずの回廊、徐々に道はほつれ、壁は崩れてく。同じところを回っているかのようにも感じるが、それにしては景色が変わり過ぎだ。何よりも気味が悪かったのは、あの石像だった。
「これがあたいたちの未来っていいたいわけかい。くだらない」
ゲルダがそう吐き捨てる。レイフェリオたちとよく似た石像は少しずつ崩れていた。最初は多少ボロボロになっている程度だったのが、今は首がなくなっている状態だ。同じところを回っているようにも見えても、レイフェリオたちは振り返らなかった。先にあった石碑に従い、ただまっすぐ進んできた。その結果がこれだ。街や石像が朽ち、やがて地面は毒沼に、壁は牢獄のような鉄格子が現れ、その中には骨が落ちている。
「闇の色が濃くなってきたな」
「あぁ、さっきまでは平気だったが、身体が重さを感じるようになったぜ。あの時、ドルマゲスと戦った時みたいにな」
おそらくレイフェリオが放った法力よりも、ラプソーンが放つ闇の力が強くなってしまったからだろう。ただでさえ不慣れな力だ。ラプソーンに破られてしまうのも当然の摂理なのかもしれない。それに加えて、ここはラプソーンの城なのだから。
「レイフェリオ、これ見てみろ」
「……階段?」
「ってことは……この先に、でがすか」
「……行こう」
回廊の中に現れた道。階段の先に何があるかなど、考えるまでもない。レイフェリオは深呼吸をしてから、その階段へと足を踏み入れた。
「こ、こ……」
階段を降りると、広い闇色の空間の中に回廊が続いている。大きな扉からは強い闇の波動が届いていた。レイフェリオが扉に手をかけ、重たい扉を開く。その先には、小さな体躯の存在が浮いていた。
「……来たか、虫けらどもよ」