バカと9人の女神と召喚獣    作:星震

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 お世話になっております。星震です。
 活動報告と作品あらすじに出しているとおりですが、本小説のリメイクを行っています。
 今話を新たに投稿したのはリメイクした話が三人称視点に書き方を変更している関係上、ラブライブ側のキャラクターの掘り下げが甘いと判断したためです。
 
 今後もリメイクと同時に追加する話があるかもしれませんのであわせて読んでいただければ幸いです。

 更新までに時間がかかってしまい、申し訳ありません。


少女と廃校と音ノ木坂【Re】

「うわぁぁん!遅刻だよー!

 どうして起こしてくれなかったのお母さん!」

 

「何度も起こしたわよ!ほら、しゃきっとなさい穂乃果!海未ちゃんたち待ってるんでしょ?」

 

 午前10時を回った頃、とある和菓子屋では親子による言い合いが繰り広げられていた。

 穂乃果と呼ばれたその少女はトレードマークである黄色いリボンで髪を結い、サイドテールを作る。

 音ノ木坂学院。その校章のついた制服を身に纏うと急いで家を出た。

 

「行ってきます!」

 

「転ばないようにね!・・・まったく」

 

 家の前で開店前の看板を返していた彼女の母に見送られ、少女、高坂 穂乃果(こうさか ほのか)は家を出た。

 和菓子屋『穂むら』。その看板娘の元気な声が周囲に響くと、彼女を見た住民たちも手を振る。

 この辺りでの穂乃果は一種のアイドル的な存在となっていた。

 

「穂乃果、遅いです!」

 

「ごめーん!春休み中は早起きしてなかったんだよ~!」

 

 視線の先で待ち合い人である長い藍色の髪の少女、園田 海未(そのだ うみ)が叫ぶ。

 まったくもう、と呆れる彼女に対し、穂乃果はえへへと笑いながらこちらに歩み寄った。

 

「最後に会った日は起きられてたじゃないですか!どうして今日に限って…」

 

「この間は遊びだったんだもん!

 ことりちゃ~ん!海未ちゃんがいじめるよ~!」

 

 穂乃果は海未から逃げるようにして、ベージュがかった髪色とサイドテールが特徴的な少女の後ろに隠れる。

 南 ことり(みなみ ことり)。穂乃果のもう一人の幼なじみであり、二人にとっての支え役だ。

 

「まぁまぁ、海未ちゃん。今日はいきなり登校になっちゃったんだし、そのくらいで…」

 

「ことりは穂乃果を甘やかしすぎです!いきなりといっても、先週には──」

 

 ことりにそこまで言った海未は穂乃果に目を向ける。

 彼女は、自分に視線が集中したことに目をぱちくりとさせながらも、どこからともなく取り出したパンにかじりついていた。

 

「うん、今日もパンがうまい!」

 

「───はぁ」

 

 こちらの話に耳を向けず、呑気に家で食べそびれたのであろう朝食をとる穂乃果にため息をつく海未。長年の付き合いから慣れたものだが、この能天気さだけは直してほしいものである。

 

「・・・もういいです。ほら、いきましょう二人とも」

 

 怒ったような素振りを見せながらも二人の前を歩く海未。

 そんな彼女を見たことりはふふっ、と笑みを溢した。

 

「な、なんですかことり?」

 

「海未ちゃんも穂乃果ちゃんに優しいなぁって」

 

「うんうん、いつも来てくれてありがと!海未ちゃん!」

 

「ほ、穂乃果離れてください!重いです!」

 

「えぇ!?私体重そんなに重くないよ!・・・重く、ないよね…?」

 

 海未に無邪気に抱きついた彼女だったが、重いという言葉にショックを受けたのか、自分のお腹をさわさわと触る。

 その後も体重を気にしてか、ダイエットしようかな…等と呟いていた。

 

「そういえば、今日ってなんで登校になったか知ってる?まだ春休みなのに」

 

「いえ、私は何も…始業式はまだ先ですし。

 ・・・ことりはどうですか?何かお母様からは聞いていますか?」

 

「私も聞いてないんだ。・・・お休み中にお母さんが新しい生徒会の人たちとお話してたのは見たけど…」

 

 ことりがお母さんと呼ぶのは、音ノ木坂学院の理事長である。

 しかしそんな人が、生徒会とはいえ一生徒に直接対話する場を設けていたということが海未には引っ掛かった。

 

「生徒会ということは今期の生徒会メンバーの就任式等でしょうか?」

 

「でも今までそういうのって始業式でやってたよね?それだけでいきなり登校日になるかな…」

 

「うわ~ん!こんなことならもっと早起きして遊んでおけばよかったよ~!」

 

 深刻そうに考える二人に対し、そんな間の抜けた声をあげる穂乃果。

 

「そんな理由ですか!?」

 

「だって貴重な春休みだよ!?それが一日なくなっちゃったんだよ!?」

 

「・・・そう思うのなら、まずは早起きして遅刻をなくしてください」

 

「う、海未ちゃん…顔が怖いよ…?」

 

 威圧的な笑みを浮かべる海未と萎縮する穂乃果を余所目に、ことりは苦笑いを浮かべる。

 

「・・・何もないといいけれど…」

 

 三人で過ごすいつもと変わらぬ日常。

 だがそんな中、ことりは妙な胸騒ぎを覚えていた。

 

────

 

 

 

「皆さん、本日は急な呼び出しの中、来校いただきありがとうございます」

 

 音ノ木坂学院に到着した三人は他生徒と共に講堂へと集められていた。

 生徒たちの視線の先。その講壇に立つのはことりの母である南理事長だ。

 

「ことりちゃんのお母さん…?集会で出てくるのって珍しいね」

 

 集会早々、理事長である彼女が講壇に立ったことに穂乃果だけでなく周囲の生徒たちも困惑を隠せずにいた。

 

「今日は我々だけでなく、音ノ木坂学院の生徒である皆さんにおいても重要な案件のため貴重な春休みをお借りしてお話させていただく機会を作りました」

 

 理事長の言葉の重さに楽観的に聞いていた生徒たちですら、講壇で話す理事長の言葉に耳を傾けた。

 海未が今朝方話していた、新生徒会の発足等といったような華やかな内容ではなさそうだ。

 

「長い歴史をもつこの音ノ木坂学院ですが、今まさに歴史の転換点を迎えようとしています。

 ・・・この数年間、音ノ木坂学院では生徒の入学希望数が年々減少傾向にあるのです」

 

 入学希望者の減少。これは現一年生の間でもクラスの話題になるくらいには周知の事実だった。

 現一年生。つまり穂乃果たちのクラスに至っても全ての科を合わせても4クラスしかない。

 今年の自分たちに後輩はできるのか。そんな話題が生徒たちの間で噂になっていた。

 

「(今までそういった話題は生徒間ではありましたが、学校側から直々にその話題に触れてくるとは一体どういった案件なのですか…?)」

 

 海未の中でこの話題は生徒たちに無用な心配や混乱を招くのを防ぐべく、学院側が意図的に話題に出さないようにしているように思っていた。

 しかし、今それを自ら公言した。それもこのような大掛かりな場まで用意して、だ。

 

「(私たちが考えていた以上に、この問題は深刻化していたのですね…)」

 

 教師陣の生徒たちに対する気持ちを慮れば、ここまで自分たちに公言してこなかったのは優しさからなのだろう。

 だが、そんな教師陣である理事長から発せられた言葉は、聡明な海未ですら驚愕させるに充分だった。

 

「──故にこの音ノ木坂学院を、廃校も視野に入れられた運営体制の変更を考慮されているのです」

 

 彼女の一言に講堂内がどよめきに包まれた。

 

 

「廃校って…学校なくなっちゃうってこと!?」

 

 静粛だった集会の場だというにも関わらず、穂乃果がそんな声を漏らした。

 だが、声を挙げたことによる心配は杞憂だった。

 ここにいる生徒のほぼ全員が、穂乃果と同じく困惑の声を抑えられていなかったからだ。

 

「で、でも、音ノ木坂って今まで何十年も続いてきた学校だし廃校までは…」

 

「・・・いえ、その長い歴史がむしろ重しとなっているのかもしれません」

 

 ことりに続けるようにして口にした海未に、穂乃果とことりが彼女の言葉に意識を向けた。

 

「音ノ木坂はかつて、この辺りを学園都市とした中でも有数の巨大校だったと聞いています」

 

 音ノ木坂学院のある地区は、いくつかの学校や研究機関が集約する巨大な学園都市としての形を成している。

 中でもここ数年で、文月学園と呼ばれる学校が他にない教育システムを取り入れたことで目覚ましい発展を遂げていると世界的なニュースにもなっていた。

 

「ですが他の学園が表立って栄えていく一方、音ノ木坂だけが生徒数の減少や部活動の実績の衰退が浮き彫りになってしまっているのも事実です。

 無名の学校ならいざ知れず、かつて巨大校として栄えていた音ノ木坂の衰退は学園都市全体としても見過ごせずにはいられないのでしょう…」

 

 淡々と語る海未に、二人は黙って聞くことしかできなかった。

 

「音ノ木坂が…廃校…?」

 

 例え深刻さが理解できないとしても、数年連れ添った聡明な幼なじみである海未がここまで深刻に考えていることを見れば、普段は能天気な穂乃果でさえ事態を呑み込めた。

 

「─ですが音ノ木坂としてもこの廃校を逃れるべく、二つの新しい政策を実行すべく動いてきました。

 本日はこの場をお借りして、その内容を皆さんに共有させていただきたいと思います」

 

 南理事長がそう言うと、講壇裏のスクリーンに電子資料が映し出される。

 ショックからなのか、俯いていた穂乃果も壇上に照らされた光に気付き視線を向けた。

 

「こちらは、試験召喚システム。

 これは文月学園を発祥とし、国の学業における一大事業として研究が進められている最新カリキュラムです」

 

 試験召喚システム。そう名打たれた資料の各所には生徒にそっくりな小人のような生き物を侍らせた者たちの姿があった。

 

「何あれ…ちっちゃい人が戦ってるよ!?

 っていうかあれ、どうやってでてきたの!?」

 

「穂乃果、少し静かに。まだ説明の途中で──」

 

「か、可愛い~!」

 

「ことりまで!?」

 

 さっきの消沈はどこへやら。穂乃果とことりの興味はすっかり、戦う小人へと向けられていた。

 ・・・だがかく言う海未も生徒たちそっくりな、面妖な生き物に興味がないわけではなかった。

 

「試験召喚システムは、自分のテストの結果に応じた強さをもつ召喚獣と呼ばれる生き物を操作し、競い合う競技です。

 そして、この映像に映っている試験召喚獣を用いた集団戦が試験召喚戦争です」

 

「(あれが召喚獣…頭上にある数字は体力のようなものでしょうか)」

 

 召喚獣を操作しながらもお互いの学力を競いあっているその映像は、集団による結束と学力向上の目的を勤めているように見えた。

 ・・・だが海未はその映像の中に、一人だけ異質を放つ生徒がいることに気がついた。

 

「(あの人…なぜあんなにも苦しそうな顔をしているのでしょう…)」

 

 映像の隅に映っていたのは茶髪の男子生徒だ。

 木刀を手に、学ランを着用しているような見た目の召喚獣が相手の攻撃を受ける度にその部位を追うようにして抑え、顔には脂汗が浮かんでいた。

 他の生徒たちが面白おかしく召喚獣による戦いを繰り広げる中、彼の戦っている場所だけが殺伐とした緊張感を放っていたのだ。

 

「(体調でも悪いのでしょうか…しかし、文月学園も画面の隅とはいえ、このような映像を他校に流すのはいかがなものかと…)」

 

 学園都市にて名を馳せる文月学園に不安を募らせる海未。

 映像は終わり、南理事長は召喚システムの説明を続ける。

 

「ご覧いただいたのが試験召喚システムの概要です。

 このカリキュラムを我が校でも導入し、学力向上を目指すと共に運用校としての実験と研究を行っていきます」

 

 画面のスケジュールに表示されたのは試験召喚戦争についての日程だ。

 学園祭のイベントとしての開催や学力強化合宿においての運用が設定されているようだった。

 

「・・・そしてもうひとつ。これが音ノ木坂学院において大きな変革点となる施策です。

 今まで女子校として存在し続けてきたこの学院ですが、共学化の道を考慮しています」

 

 講堂内に再び激震が走る。

 それもその筈。今までの音ノ木坂としての形を崩さなければならないということだったからだ。

 

「尚この件で、試験召喚システムの導入よりご尽力いただいている文月学園から共学化のテスト生が来校する予定です。

 突然の共学化に慣れない方もいるでしょう。

 ・・・ですが皆さん、どうか我々の音ノ木坂学院に力を貸してくださるテスト生徒の方々を助けてあげてください。彼らもまた、我々の都合で慣れない地に足を踏み入れることになる立場ですから」

 

「お母さん…」

 

 南理事長は生徒たちに頭を垂れながらも語る。

 恥を忍んで生徒に尽力を乞う母の姿に、ことりは胸を痛めた。

 

「私…お母さんがこんなに大変な思いをしてるなんて知らなかった…」

 

「ことりちゃんのせいじゃないよ…こんな大きなこと誰だってどうにも──」

 

 理事長としての母がこの頃多忙を極めていたのはことりも知っていた。

 そんな中でも娘である自分に廃校のことを悟られぬよう無理をしていたのではないのか。

 ことりの中にはそんな自責の念が渦巻いた。

 

「ここまで展開しておいた手前、気休めにもならないかもしれませんが廃校はまだ本決まりというわけではありません。

 ですがその未来をより確実に避けるべくしての試験召喚システムの導入と共学化のテストです。

 これからの皆さんには変革する学園生活でご苦労とご不便をおかけすると思いますが、どうか皆さんのご協力をお願いいたします」

 

 再び生徒たちに一礼する南理事長。

 その姿を最後に、現二年生と一年生を集めた集会は幕を降ろしたのだった。

 

───

 

 

 

 

「・・・これからどうなっちゃうのかな。私たち」

 

 集会を終え、帰路に着く三人。

 衝撃と驚嘆の入り交じった気持ちを抱えたまま、生徒たちは解散した。

 

「私たちの在学中に学校がなくなることはないと思いますが、今年入学してくる一年生は後輩ができないということもあるかもしれませんね…」

 

 頼みの綱である試験召喚システム。そして共学化。

 その二つの希望を提示されても、事態の深刻さに対する困惑のほうが強かった。

 

「文月学園…確か音ノ木坂から見て、UTX高校とは反対方面にある学校だよね?二人とも、場所とかわかる?」

 

「うん。学園祭で見に行ったことあるから。

 さっきの試験召喚の大会がやっててすごい盛り上がりだったよ。出店の制服の出来も本格的でびっくりしちゃった」

 

「ですが、それを知ってどうするのですか。穂乃果」

 

「今から見に行こうよ!この辺りで一番すごい学校なんでしょ?

 もしかしたら廃校をなんとかするヒントがあるかもしれないよ!」

 

 穂乃果の言葉に海未は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。

 いつも突然自分たちを巻き込んで事を起こす穂乃果だが、今回は事の大きさが違うのだ。

 

「そ、そんな楽観的にいく筈がないでしょう!学校側だって考えた上での策の筈ですし…」

 

「それは私だってわかってるよ!

 でも、私は何かできるならしたいの!少しでも今の状況を変えられる時間があるなら、私は行くよ!」

 

「今は春休み期間ですから、文月学園も誰もいませんよ!?

 第一、他校に無断で立ち入るのは不法侵入です!いくら穂乃果とはいえ、それを見過ごすことはできません!」

 

「さ、流石に校舎には入らないよ!ちょっとだけ!校門をくぐるだけだから!」

 

「それはもう敷地内に入ってしまっているんです!」

 

 ぐぬぬ、とお互いに引き下がらない穂乃果と海未。

 互いに眉を寄せる二人に、ことりは恐る恐る手を伸ばした。

 

「あ、あの…二人ともそのくらいに──」

 

「「ことり(ちゃん)!!」」

 

「は、はい!」

 

 穂乃果と海未の視線と声が仲裁しようとしたことりへと向けられる。

 

「ことりちゃんはどう思う?行ったほうがいいよね!適当視察!」

 

「敵情視察と言いたいんでしょうがこの場合、使い方が間違っています!文月学園は敵ではなく協力いただく方々でしょう!

 ・・・ことりも穂乃果をとめてください!」

 

「わ、私は…」

 

 答えをはぐらかそうとすることりだったが、やがて二人から発せられる無言の圧力に屈する。

 俯きながらも、精一杯の声で言葉を紡ぐ。

 

「私は…行ってみてもいいと思う。

 お母さんがしようとしてること、私も知りたいの」

 

 そう告げたことりの言葉に、反対派だった海未は観念する。

 穂乃果は賛同してくれた嬉しさからか、ことりに抱きつく。

 

「はぁ…仕方ありませんね。ですが、見に行くだけですよ?」

 

 校舎のみを見ても変わるものはない。その気持ちに変化はない海未だったが、二人の気持ちを汲み取り、渋々ながらもついていくのだった。

 

───

 

 

 

「ここが文月学園…って大きすぎない!?」

 

 校門前に着いて穂乃果の第一声はそれであった。

 海未もことりもその大きさに言葉を失っていた。

 

「おそらく、旧校舎とそれ以上の大きさの新校舎を繋いで一つの形を成しているのかと…」

 

「なんか前来たときより大きくなってる…気がする」

 

 事実、ことりが来たときよりも文月学園は巨大化していた。

 試験召喚システムにより、学園都市のホストと呼ばれるまでに栄えた文月学園はその有り余った財源で校舎のアップデートを行っているのだ。

 

「・・・ですがやはり誰もいなそうですね。校門は空いていますが…」

 

 おそらく春休み期間中でも、部活動等が行われているためだろう。

 

 

『そこに誰かいるのかい?』

 

 巨大な校門の前に立ち尽くす三人にそんな声が届いた。

 

「ひゃっ!?ごめんなさい!私たちは決して不法侵入したわけでは──誰もいない…?」

 

「今、誰かの声が聞こえたよね?穂乃果ちゃん?」

 

「私あんなガラガラ声じゃないよ!」

 

『・・・あんな声とは、これまた失礼だね』

 

 確かに声は聞こえる。

 が、穂乃果たちの周囲にはやはり誰もおらず人の気配すらなかった。

 

「やっぱり聞こえるよ!もしかして幽霊!?」

 

『・・・こっちだよ、こっち』

 

 すると、校門前の校庭から、地面で汚れた腕が辛うじて伸びているのが確認できた。

 

「ゾ、ゾンビだぁぁ!!」

 

『少しは落ち着いとくれ。腰に響くよ…

 ・・・見ての通り、出られなくなっちまってね。悪いけど、ちと助けてくれないかい?』

 

 ゾンビ、もとい声の主の方を見る三人。

 そこにはなぜか大きな落とし穴ができていた。

 よく見ると骨組みのような部分が確認でき、人為的に作られたものであることが見て取れた。

 

「で、ですが私たちは他校の生徒でして…

 勝手に校門をくぐるのは──」

 

「海未ちゃん!そんなこと言ってる場合じゃないよ、困ってるみたいだし行かないと!」

 

『立ち入りのことなら、アタシが許可するさね。

 腰が抜けちまって一人じゃ出られないんだよ』

 

 事態を聞いた三人は校門を潜り、落とし穴の方へと向かう。

 

「だ、大丈夫ですか!?今引き上げますから!」

 

『あぁ、すまないね』

 

 穂乃果を筆頭に、落とし穴から声の主を引き上げる。

 地の底から現れたのはスーツを着た年配の女性だった。

 

「ふぅ…今回ばかりは本当に召されちまうかと思ったよ。

 まったく、今日に限って誰もいないんだからツイてないよ」

 

 引き上げた女性はそう言ってスーツについた汚れを手で払う。

 それを見たことりは自分のハンカチを差し出した。

 

「ありがとう。でもソイツは気持ちだけ受け取っとくよ」

 

 汚れてしまうことを気にしてか、笑みを浮かべてことりを静止する女性。

 しかし、ことりは心配そうな顔をしながら、せめてと女性の顔についた汚れをハンカチで拭った後、優しく微笑んだ。

 

「・・・すまないね。

 アタシは藤堂 カヲル。この文月学園の学園長だよ」

 

「学園長!?そんな人がどうして落とし穴に?」

 

「うちのバカ共(バカ四天王)の仕掛けた罠に嵌められちまってね。

 恨み言を買う心当たりはあるが、あのバカ共には西村先生にキッチリお仕置きしてもらうことにするよ」

 

 その場に座りながら軽く笑い飛ばす女性に苦笑いを浮かべる三人。

 対する女性は三人の制服に目が留まる。

 

「その制服は…音ノ木坂の生徒かい?」

 

「はい!音ノ木坂知ってるんですか!?」

 

「この辺りの学校とは縁深いからねぇ。

 しかし、音ノ木坂の生徒が一体どうしてうちに?」

 

 唐突なカヲルの質問に言葉を探す穂乃果。

 まさか忘れたわけではないでしょうね、と心の中で溢しながらも海未が代わりに答える。

 

「文月学園はここ数年の発展が目覚ましいと評判ですので、私たちの学校との違いを確かめたく参りました」

 

「ふむ…

 ・・・おおよそ、南理事長は例の件を生徒にも展開したってことかね」

 

 図星をつかれた海未はその場でビクッと肩を跳ねさせた。

 

「正直すぎるのもいいが、相手に状況を悟らせるもんじゃないよ」

 

 つかみ所のないカヲルを前に海未の表情は険しいものとなる。

 一方でことりは不安そうな表情を。穂乃果に至っては何の話しかさっぱり理解できていないのか首を傾げていた。

 

「だが、助けてもらった恩もあるからね。特別に学校内を見学──」

 

「いいんですか!?」

 

「──させてやりたいところなんだけど、色々国の機密もある学校だからね。

 正規の手順を踏まないと入れてやれないんだよ」

 

「えぇ~…」

 

 目を輝かせたかと思えばすぐに消沈する穂乃果。

 そんな彼女を見たカヲルはどこぞのバカ(吉井 明久)の面影を重ねた。

 

「・・・でもアンタたち、うちのノウハウを持ち帰ったとしてどうするんだい?

 学校側の運営がくるならまだしも、生徒ができることなんてたかが知れてるさね」

 

 三人に突きつけられたのは大人から見た現実的な意見だった。

 

「・・・私は、学校の運営のこととかは全然わかりません」

 

 言葉を失っていた海未とことりの前で、穂乃果がカヲルに語りかける。

 どうにか今紡げる気持ちを纏めて話そうとしているのであろう、その手の握りこぶしに力がこもっていた。

 

「でも、ことりちゃんのお母さんたちが必死で学校をなくさないようにしてくれていることだけはわかります。

 それなのに生徒の私たちが何も考えないのは嫌なんです。

 ・・・私も音ノ木坂が好きだから」

 

 穂乃果の言葉を聞いたことりは彼女から目が離せなくなる。

 自分が言葉にできずに言いたかったことを、穂乃果が言葉にしてくれたのだ。

 

「それに──」

 

 まだ何か理由があるのかい、と内心思いながらもカヲルは穂乃果の言葉に耳を傾ける。

 ・・・だが、その答えは耳を疑うものだった。

 

「転校に必要な受験勉強とか、したくないです!

 私、音ノ木坂だってギリギリ合格だったのに!」

 

「は…はぁ!?」

 

 涙目で懇願するように告げた穂乃果に、海未はすっとんきょうな声を挙げた。

 

「穂乃果…あなた、そんな理由で私とことりをここまで連れまわしたんですか!?

 もう許しません!さっきまで感心してた私の気持ちを返してください!」

 

「い、痛いよ海未ちゃん!ほっぺ引っ張らないで!

 海未ちゃんとことりちゃんは成績いいから大丈夫かもだけど、私にとっては大問題なんだよ~!」

 

「もぅ、穂乃果ちゃん…」

 

 流石にこれには海未だけでなくことりも呆れていた。

 そんな光景を目の当たりにしたカヲルはため息をつき、こめかみを抑える。

 

「このレベルのバカがうちの学校以外にもいたとはねぇ…

 南理事長も苦労するわけだよ、まったく」

 

 カヲルの脳裏に、文月学園においてバカ四天王と呼ばれた男たちがよぎる。

 落とし穴の件然り頭のネジが外れたバカ四天王共程ではないにしても、思考パターンは彼らと同類に見えたのだ。

 

「・・・はぁ。音ノ木坂がなくなってほしくないのはアタシだって同じだよ──ほら」

 

 そう言ってカヲルはスーツから手帳のようなものを取り出して三人に見せる。

 

「これは…音ノ木坂の生徒手帳!?」

 

「えぇ!?今と全然違くない!?」

 

「何十年も前の代物さ。

 ・・・アタシも、音ノ木坂出身だったんだよ。

 友好の証ってものでもないが、音ノ木坂に出向くときは常に持ち歩いてるのさ」

 

 すり減ったソレをカヲルは懐かしむように握りしめる。

 そして大切そうにスーツに仕舞い、彼女らに向き直る。

 

「個人的な気持ちで音ノ木坂を復興させたいのは大人も同じってことさね。

 だから、アンタたちは悔いのないように残された学生生活を生きな。・・・どれだけ懐かしんでも、夢に描いても、時間(とき)を巻き戻すことはできないからね」

 

 自らの経験を語るように、三人に告げるカヲル。

 その口から出た言葉の重みに三人が立ち尽くしていると、校舎の方から眼鏡をかけたスーツ姿の女性がカヲルに駆け寄ってきた。

 

「・・・おや、迎えがきたみたいだね。

 アタシはそろそろ行くよ。南理事長によろしく伝えておくれ」

 

 眼鏡の女性に肩を借り、ゆっくりと校舎へ向かうカヲル。

 何かいい忘れたことでもあるのか、あぁそれと、と三人に目を向ける。

 

「今回助けてもらった恩はそのうち返すよ。

 文月学園学園長の名前においてね」

 

 そう言い残し、カヲルは今度こそ去っていった。

 残された三人は唖然としていた。

 

「後悔することがないように…」

 

 穂乃果はカヲルの残した言葉を繰り返すように口にする。

 

「ねぇ、二人とも。

 私たちでも探してみようよ!学校を存続させる方法!

 入学希望者が増えれば、廃校の話もなくなると思う!」

 

「ですがどうやって…具体案はあるんですか?」

 

「それはこれから探すの!

 やっぱり私は音ノ木坂が好きだから!」

 

「・・・そうだね、私も音ノ木坂が好き。

 これから入ってくる一年生にも私たちと同じように学生生活を楽しんで貰いたいと思うの」

 

 胸の内を打ち明けた二人は海未を見る。

 その視線を送られた海未は自分もソレを求められていることに気づいた。

 

「わ、私は二人のように理由はありませんが…

音ノ木坂が好きなことも、なくなってほしくないことも事実です…」

 

 本当にそれだけ?とこちらに訝しげな視線を送る穂乃果にたじろぐ海未。

 ですので、と海未は続ける。

 

「その…明日また、音ノ木坂の良いところを探すことから始めましょう」

 

 不器用ながらも返答した海未の言葉に、賛成の意を汲んだ穂乃果とことりは彼女に微笑むのだった。

 

 




 以下ラブライブ原作からの変更点です。
 ・原作では穂乃果の学年は2クラスしかありませんが、まだ廃校が確定じゃないこともあり4クラスにしています(試験召喚戦争できなくなるし)。
 ・世界から注目される文月学園とハイテクすぎるUTXが近くにあるプレッシャーから、ことりお母さんが原作以上に追い詰められてます…
 ・ババァの設定は作品に合わせてオリジナル交えて変えてます。穂乃果たち相手には普通に優しいおばあちゃんです。
 ・あと海未ちゃん多めじゃない?って思われることでしょうが、三人の中でツッコミ役として一番バカテスの雰囲気と親和性が高いから必然的に多くなってしまうんですよね…

 今回もありがとうございました!

 追伸、落とし穴の件は明久たちを強制転校にしたんでババァの自業自得です。

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