バカと9人の女神と召喚獣    作:星震

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鍋と買い物とキャラ崩壊【Re】

「さて、デザートも買えたし帰ろうか…

 まだ夕飯まで時間あるし、ひとつくらい食べちゃお」

 

 明久は和菓子屋で買った饅頭をひとつ口に運びながら帰路につく。

 先程の和菓子屋の名物『穂むら饅頭』ことほむまん。その日の土産にと買ったものだったが、思わぬ美食に出会った。

 

「ほどよい甘さの餡、もっちりとした生地…これは是非リピートしたい逸品だね」

 

 明久はおまんじゅうを食べながらそんな感想を述べていたときだった。

 明久の携帯が鳴り響いた。

 

「・・・まさかFFF団(文月学園のバカ共)とかじゃないよね…?秀吉を文月学園に返せって電話なら即切りしてやるっ!」

 

 明久はおそるおそる携帯を開く。画面を確認すると相手は雄二だった。

 安堵しながらも、着信を繋ぐ。

 

「なんだ雄二か、どうしたの?」

 

『あぁ、明久。買い物はもう終わったのか?』

 

「お陰様でね。あとは食材を買うだけだよ」

 

『そうか。なら今日は鍋にしないか?』

 

 唐突にそんな提案をしてくる雄二。

 どういった風の吹きまわしなのか。

 

『引っ越し祝いでお袋が野菜を送ってくれてな。

 片付けも楽だし、転校記念に全員でどうだ?』

 

「確かに引っ越しの片付けがあることを考えれば楽なほうがいいか…わかったよ。野菜以外の具材を買ってくればいいんだね」

 

『おう。野菜はこっちで切って準備しておくから、頼んだぜ』

 

 明久は雄二との通話を閉じる。

 ひとり暮らし歴こそ長い明久だが、友人と鍋を囲んだことはなかったため、心を踊らせた。

 

「(雄二は先程、転校記念日って言ってたが。果たしてそれは記念すべきことなのかな。

 まぁ、でも文月学園にいたらオンボロ教室のFクラスになってた可能性が高かっただろうしあながち間違いではないかも…)」

 

 くだらないことを考えながらも明久は付近のスーパーを探しだす。

 普段の生活費を切り詰めすぎていた習慣なのか、安売りをしていることを検索条件にすることも忘れない。

 

「この辺のスーパーは…あ、ここならタイムセールしてるみたいだね」

 

 付近のスーパーに入り、明久は足早に頼まれたものを買い物かごに入れていく。

 

「野菜はあるって言ってたし、鍋つゆ、豆腐としいたけ…あとは肉だけか──お、あった」

 

 今がタイムセール中であることもあり、探していた豚肉は最後の1パックとなっていた。

 明久は肉のパックに手を伸ばした。

 

「あ」

 

「あ…」

 

 明久の手が誰かと重なる。手の伸ばされた方向を目で追うと、フードつきのパーカーを深く被り、夜だというのにサングラスをかけている人物がいた。

 背丈から見て中学生くらいだろうか。

 

「離しなさいよアンタ。あたしが先でしょ?」

 

「え、えぇ…」

 

 発せられた声の高さから女の子であることが確認できた。

 しかしながらその声色はドスが聞いており、こちらを威嚇してきているようだった。

 

「き、君は家の手伝いか何かで買い物に来てるのかな…?」

 

「は?なんでそんなことアンタに話さなきゃいけないわけ?」

 

 ギロッ、という擬音が聞こえるような、サングラスの下からでもこちらを睨み付けていることが見てとれた。

 

「こんな夜遅くに子供が外に出ちゃ駄目だよ?

 一緒に行ってあげるからお母さんの所に帰ろう?そしてその豚肉をお兄さんに渡してくれると嬉しいな」

 

「あたしはそんな年齢じゃない!!多分アンタよりも年上よ!!」

 

「うんうん、そうだね~。でも、初対面の人にそんな言葉使いしちゃ駄目だよ?」

 

「あくまでも信じないつもりね…!とにかく、その手を退けなさいよ!!」

 

「そうは言われても…ここじゃないスーパーは遠いしなぁ」

 

 これを逃したら恐らく数キロ先のスーパーまで閉店ダッシュをするはめになる。

 今朝の遅刻ダッシュの反動で節々が悲鳴を上げている中で更に負荷をかけるようなことをすれば、明日の自分は筋肉痛で動けなくなっていることだろう。

 

 ──故に、ここで引き下がるわけにはいかない!

 明久は意を決し、少女に歩み寄る。

 

「これパーティーサイズだけど、大丈夫?

 あんまり肉ばっかり食べてると太っちゃうよ?」

 

「そっちのほうが初対面の女の子相手に失礼すぎるでしょうが!

 アンタ、どこの学校!?年いくつよ?」

 

「なんかヤンキーみたいな質問の仕方だね…学校はともかく、今年で高校二年だけど…」

 

「はっ!!わたし今年で三年よ!

 わかった?わたしのほうが目上なの。年上は敬いなさい!」

 

「三年──」

 

 明久の視線が彼女の顔から徐々に下へと移る。

 

 容姿は──サングラスとマスクで見えない。

 背丈は──小さい。

 胸は──うん。小さい。

 

 三年。彼女の言葉を鵜呑みにするというのならば、もう既に成長は──

 

「──ははっ」

 

「アンタどこ見て笑ったのよ!はっ倒すわよ!?とにかく、わたしは年上よ!敬語を使ってくれない!?」

 

「肉ばっかり食べてると太りますよ?」

 

「そこだけ敬語にするんじゃないわよ!!」

 

「え~…」

 

「どうしても退かないっていうのね…」

 

 唯一幸いなことはこの時間のためか、スーパーに人が少ないことだった。

 これだけ二人で騒いでも尚、店員に追い出されたりしないあたり大きな喧騒にはならずにすんでいる。

 

「どうしても退くつもりが無いなら…喰らいなさい、にこにーの必殺!」

 

「な、何が起きるんだ!?」

 

 必殺、と聞いて雑魚キャラのような台詞を吐く明久。

 すると、彼女は身に付けていたフードとサングラスを外す。フードの下に隠れていて見えなかったツインテールと、サングラスの下のルビーのような赤い瞳が顕になる。

 

「にっこにっこにー!!」

 

「・・・え?」

 

 明久は固まった。

 先程まで不審者のような見た目の人物が美少女に変身したかと思えば、唐突に奇行に走り笑顔をむけてきたからだ。

 さながら感情のジェットコースター。明久はその緩急さに着いていけずにぽかんと口を開けていた。

 

「チャンス!!」

 

「え…あっ!?」

 

「わたしの笑顔に見とれたのが運のツキよ!さよなら~!!」

 

「こっ…こらぁぁぁぁぁ!!」

 

 フードとサングラスを再び身に付け、レジへと走り去っていく女の子。

 ・・・雄二たちに今日の鍋は肉なしでいいか聞いたほうがいいかもしれない。

 

───

 

 

 

「おう、遅かったな、明久。」

 

「た、ただいま…」

 

 寮へと帰った明久は息を切らしながら玄関に倒れ、伏した。

 

「どうしたのじゃ!?

 そんなにゲッソリとしてしまって…息まで切らしおって」

 

「・・・水、飲むか?」

 

「ありがとう康太………」

 

 あの後明久はダッシュで隣町まで豚バラ肉を買いに行ったのだ…

 朝のダッシュもあり、一日の体力の限界を迎えていた。

 

「ゆ、雄二これを…」

 

「あ、あぁ…

 何て言えばいいのか…とりあえずお疲れさん──この袋は何だ?」

 

「穂むらまんじゅう…略してほむまんっていうらしい…」

 

「ほぉ、旨そうだな…鍋の後で頂くとするか」

 

「もう準備はできとるぞい明久。お主はゆっくりと体を休めるがよい」

 

「・・・とりあえず座れ、明久」

 

「うん…でも買ってきた調理器具をキッチンに戻してくるから待ってて…」

 

 見かねた雄二たちに休むよう促される明久だったが、不思議と思考は疲れよりも別のことへと向いていた。

 今日遭遇した二人の少女だ。

 

 ──高坂穂乃果。屈託のない笑顔で好奇心旺盛な彼女はきっと学校でも周囲を笑顔にしているのだろう。学年こそ聞きそびれたが、音ノ木坂の生徒と言っていたので、彼女の宣告どおり、また学校会えるかもしれない。

 

 ──そしてもう一人。自分をにこにーと自称していた少女。

 口こそ悪く、自分が年上だと主張する見栄っ張りな面が強かったが、件の必殺技のときに見えた素顔は明久の中に強く焼き付いていた。

 威嚇するようでしかなかった彼女も、あんな風に笑うのか。いわゆるギャップという奴に明久はやられていた。

 

「明久、どんどん取ってけ。もう肉も良い感じに煮えてるぞ」

 

「・・・あ、うん」

 

 雄二に促され、各々鍋をつつく。

 しかしながら、明久の中では鍋の味よりもさっきのできごとが引っ掛かっていた。

 

「ねぇ、雄二」

 

「何だ、どうした」

 

「喰らえ!にこにー伝授の必殺技!」

 

 モノは試し、とばかりに三人に向かって

 

「にっこにっこにー!!」

 

「「「・・・」」」

 

 

 

 

 

 ──瞬間全てが凍り付いた。

 一撃必殺。絶対零度ともいえる一撃に明久は恐る恐る訪ねる。

 

「ど、どう思うコレ?」

 

「「「最悪じゃぁぁぁぁぁ!!」」」

 

 三人の絶叫がまだ家具の揃っていない寮内に轟いた。

 

「そ、そこまで酷い反応する!?

 いや、まぁ分かってたよ?僕がやるとこうなることくらい。

 可愛いあの子だからできるコトなんでしょ!?」

 

「一体どうしたというのじゃ明久!?頭でも打ってしもうたのか!?」

 

「・・・明久は錯乱状態だ。今すぐ救急車を!!」

 

「呼ばなくていいから!!ホントに携帯出すのやめて!!」

 

「いやそれどこじゃねぇ!!国立病院にでも電話を…!!新型の感染症かもしれねぇ──西木野総合病院…ここだ!」

 

「違うってば!!落ち着いてよ皆!!」

 

「・・・っていうかお前のその寒いギャグのせいで鍋がまた冷えちまったじゃねぇか!!なんてことしやがる!」

 

「いや、ギャグじゃないから!・・・多分」

 

 明久の笑顔は散々な言われようであった。

 尚、再度鍋を食べるまで30分くらい掛かった。

 

───

 

「おい、にこにー」

 

「その呼び方やめて!?ふざけたのは悪かったから!ただ皆がこの元ネタ知ってるか確認したかっただけだから!」

 

「誰が教えたかはともかく、お前がやるのは金輪際見たくねぇわ。

 ・・・それより明久、片付けは俺たちでやっておくから風呂入ってきたらどうだ?」

 

「うん。じゃあ入らせて貰おうかな」

 

 明久は3つある暖簾のうち、しっかりと男湯と書かれている青の暖簾を潜り、浴場に上がる。

 やはりというべきか、中の広さは銭湯と遜色ないものだった。

 

「しかし、ホントにどうなってるんだこの学生寮は…男湯と女湯と秀吉湯に別れてるし…」

 

 秀吉湯はともかく、野郎しかいないのをわかっていてなぜ女湯を作ったんだろうかあのババァは。

 明久は悪態をつきながらも、体に湯をかける。

 

「うぅっ、体中が痛い…これも全部あの人のせいだよ…」

 ・・・でも、あの人がしたときは少し可愛かった…のかな?」

 

 ただし、あのポーズは二度とするまい。

 雄二たちの化物でも見るかのような反応を思い出した明久は固く心に誓ったのだった。

 

 ・・・が、面白がった雄二によってしばらくの間、明久のあだ名がにこにーとなった…

 

 





今回もありがとうございました!!
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