バカと9人の女神と召喚獣    作:星震

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バカライブ番外編第一弾!
番外編ごとにあくまで世界線が違うバカライブとしてお楽しみください。
第一弾はクリスマスといったらこの子、ということで真姫と秀吉です!
二弾もすぐに投稿できるよう頑張ります!


バカライブSpinOut!:ワシと西木野とクリスマス

「秀吉君、真姫ちゃんをお願いします!」

 

「………はい?」

 

時は12月。

目の前の女性からの突然の信任に秀吉はそんな返事を返した。

 

「引き受けてくれるのね!良かった…」

 

「ちょっと待ってくだされ西木野の

 母上殿!!

 ワシはそういう意味で返事をした

 わけではないぞい!!」

 

目の前にいる女性は真姫の母であった。

今回真姫の携帯を使って西木野家に秀吉を呼び出した張本人である。

 

「話の過程を飛ばしすぎておるせいで

 ワシは何を任せられておるのかすら

 分からんのじゃが…」

 

「言ってなかったかしら?」

 

「今のが第一声だったからのぅ…」

 

 

天然なのかそれとも自分と同じ人種(バカ)なのかと疑う秀吉。

もっとも自分たちの中のバカという人種は遠慮することなく対等に話せるという親しみを込めたものであるが。

 

「それでワシは何をすればよいの

 じゃろうか…?」

 

「それは………これよ!」

 

そう言い真姫の母は秀吉の目の前に

ある物を出した。

 

「これは…サンタクロースの服?」

 

「そう!」

 

「ますます話が読めなくなってきたぞい…」

 

そう言いながらも渡されたサンタ服をまじまじと見つめる秀吉。

訳が分からなくともすぐに渡された衣装を確認するのは演劇で身に付いた癖なのだろうか。

 

「秀吉君には今年のクリスマス、

 真姫ちゃんのサンタになって

 もらいます!」

 

「あぁ…そういえばあやつはサンタを

 信じておるのじゃったな…

 しかし…なぜワシなんじゃ?」

 

ビッと指を指して言う真姫の母の言葉に戸惑う秀吉。

 

「今年はお父さんが多忙でクリスマスに

 お休みを取れなくて…

 誰もサンタをできる人がいないのよ…

 だからそこで秀吉君に白羽の矢が

 立ったのよ」

 

「それならばワシでなくてもよいのでは…?

 例えば母上殿ご自身ではいけないのかの?」

 

「私じゃあすぐに真姫ちゃんにバレ

 ちゃうから…」

 

「それは御父上でも同じなのでは…?」

 

「大丈夫よ。

 お父さんにはこの時期カロリーの

 高いものばかり食べてもらって

 太って貰ってるから。

 それでクリスマスが終わったら

 ダイエットして痩せて来年また太って

 を繰り返すの。

 この時期に限って毎年太っている

 ことを隠すのが一番大変なんだけれどね…」

 

「なんと素晴らしき役者魂…!!」

 

秀吉は感激しているが明久辺りがこのことを知ったら発狂してしまうだろう。

秀吉は知らないがクリスマス時期、真姫の父が食べている食事は三食すべて3000kcalを越えているのだから…

 

「しかし…

 ワシはサンタの演技など………

 役者たる者、練習なしという生半可な

 状態で演技はしたくないのじゃが…」

 

言われても尚役者としてのプライドを捨てたくない秀吉に真姫の母は別の話題を切り出した。

 

「そう…秀吉君が嫌なら仕方ないわね…

 あぁ、この衣装無駄になっちゃう…

 秀吉君に似合うのを選別して頑張って

 手に入れたんだけれど…」

 

「一体どんなルートで入手したんじゃ…

 それに生地も随分と良質なものでは…?」

 

「生地がいいのは勿論よ。

 なんたってこの服の値段は─────」

 

 

 

 

【数分後】

 

「とっても可愛いわよ秀吉君!

 私の見当は間違ってなかった!」

 

「どうして女物なんじゃ…

 ワシは男なのに…」

 

結局、衣装の値段に負け秀吉はサンタ服を着せられてしまった。

秀吉のサンタコスを見てはしゃぐ真姫の母とは対になるように落ち込む秀吉。また一つ彼女の男としての威厳が失われた。

 

「これを当日に着て西木野の枕元に

 プレゼントを置く、それが任務

 なんじゃな。

 これだけでいいのかのう?」

 

「そうね…

 他に寝ている真姫ちゃんにイタズラ

 したいとかならちゃんと付き合って

 からにして貰えると…」

 

「そんなことせん!!」

 

「そう……」

 

「どうして残念そうにするのじゃ……」

こうして秀吉は西木野家の代用品サンタになることになったのだった。

 

 

 

【数日後】

 

「……とはいったものの、西木野が

 何が欲しいか分からんのじゃが……」

 

秀吉は電話の相手にそう告げる。

 

『ほう。

 それで毎年クリスマスぼっちの俺は

 何をどうアドバイスすりゃあいいんだ』

 

電話の相手は雄二である。

いつも何でも器用にこなす彼に助言を貰おうとした秀吉だったが毎年クリスマスぼっちだった雄二にはアドバイスできる知識はなかったようである。

 

「ワシはサンタ役を演じるのじゃが

 西木野に渡すプレゼントに悩んでおる。

 何を渡せば喜ぶのかわからなくてのぅ。

 雄二なら女子が欲しいものも分かる

 のではないかと───」

 

『分かるかボケ。

 むしろお前の方が分かるんじゃねぇか?』

 

「さらっとワシを女子扱いするでない」

 

ついには雄二にまで女子扱いされる始末。

彼女に男としての威厳はあるのだろうか。

 

『分からねぇなら西木野に直接聞けば

 いいだろ』

 

「どうして先輩に教えるのよっ!

 …と言われる未来が見えた」

 

『………そうか。

 なら街にでも一緒に見に行って

 西木野が気になってたものを

 やればいいんじゃねぇか?

 実際今まで西木野の親父さんも

 そうしてるだろうし』

 

「なるほど…視野に入れてみるとするかの」

 

『おう。

 まぁ正式な日にちが決まったら電話

 してこい』

 

「?よく分からないが分かったのじゃ」

 

そう言って秀吉は電話を切った。

だがこのとき秀吉は知らなかった。

裏で二人のクリスマスを見守る者ができることを。

 

「こんなおいしいイベント見逃すわけ

 ないよなぁ…?

 ……あ、明久か。クリスマスイヴに

 かくかくしかじかでな…

 予定がある?泣き言なんて聞きたく

 ねぇな、何とかしろ」

 

某天空の城に出てくる海賊のような台詞を言いながら彼は自分の欲を満たすためという汚い目的のために親友のデートを見守ることにしたのだった。

 

 

 

【クリスマスイヴ当日】

 

「遅い!!」

 

「おっと、遅刻しておるか?

 約束の時間は守っておる筈

 なのじゃが……」

 

時間通りに来たものの怒られた秀吉は訳が分からなかった。

秀吉は明久の恋愛のことになると敏感だが自分のことには鈍いようである。

真姫が約束の時間より早く来ていたことなど知る孝もない。

 

 

 

 

 

 

「先輩、最近音楽室来ませんよね」

 

街を歩きながら真姫にむすっとした顔で言われる秀吉。

 

「言われてみれば確かにそうかもしれん

 のぅ…

 最近はやることが多いものでな…」

 

「μ'sの曲より大事なことがあるの?」

 

「皆のダンスの練習を考えたり、

 生徒会に顔を出したりきちんと

 貢献はしておるぞい?

 ワシとしてもお主の演奏を聞けないの

 は残念なのじゃが…」

 

「最近は誰かに聞いてもらって曲の

 出来を判断してたから曲が完成しても

 出来が分からないのよ…」

 

「そうか……

 ならきちんとそっちにも顔を出す

 ようにせんとないかんのぅ。

 しかし放課後にしか顔は出せん。

 昼休みは生徒会もあるからのぅ」

 

「それでもいいから。

 じゃあ昼休みは待ってる」

 

少しずつではあるが真姫は秀吉がいない日常に違和感を抱いていた。

秀吉は生徒会が忙しくなる以前は放課後と昼休みはほとんどといっていいほど音楽室に通っていたので真姫にとってそれは違和感でしかなかった。

 

「西木野?」

 

秀吉が彼女の名を呼ぶが返事はない。

歩いていて秀吉はいつの間にか真姫がいなくなっていたことに気がついた。

秀吉は来た道を引き返す。

 

「西木野、何をしているのじゃ?」

 

「……………」

 

真姫は立ち止まって手を繋いで歩いている家族を見つめていた。

 

「本当は今日、パパはお休みだったの。

 病院内の研修で駄目になっちゃった

 んだけどね」

 

「……いつもクリスマスは父上殿と

 一緒に過ごしておるのか?」

 

「そうだったら幸せなんだけどね。

 毎年予定が合わなくてクリスマスは

 あんまり帰って来ないの。

 今年こそはって喜んでたんだけど…」

 

真姫は秀吉の前を歩いていく。

だが進んだかと思えば彼女はまた、ふと足を止めた。

 

「今度はなんじゃ?……あれは」

 

秀吉が目を向けた先には店のショーウィンドウに並んだ熊のぬいぐるみだった。

真姫がじっと見ているそれを秀吉は好機と捉えた。

 

「あれがほしいのかの?」

 

「べっ…別にそういうわけじゃ…」

 

ならどうしてそんなに目を輝かせているのか、などと秀吉は聞こうとはしなかった。

この手の気持ちを素直に言ってくれないタイプの人間が身近にいるからである。

秀吉の姉、木下優子だ。

 

「西木野。少し待ってて貰ってもよいか?

 姉上に頼まれていたものがあるのじゃ」

 

「別にいいですけどあまり待たせない

 でよね」

 

秀吉が真姫に言ったことは勿論虚言だ。

早くも目的のプレゼントを見つけた秀吉はその店に直行する。

 

「なんとも……ファンシーというか

 可愛らしい店じゃな…

 男のワシがこんな所に足を運ぶのは

 少々気が退けるのじゃが…」

 

店の中はピンクや白といった色のリボンや壁紙で装飾されていた。

いかにも女の子の店といった感じである。

 

「業務中失礼する。

 あそこに飾ってある熊のぬいぐるみを

 買いたいんじゃが……」

 

秀吉はレジにいた女性の店員に話しかけた。

熊のぬいぐるみは他の商品と違ってショーウィンドウに飾られていたのでレジに運べないからである。

恐らく注文式なのだろう。

 

『あ~、あちらのぬいぐるみですか…

 料金が先払いになってしまいますが

 よろしいでしょうか?』

 

「そうなのか…了解した。

 到着日はいつ頃になるじゃろうか?」

 

『クリスマスまでには間に合いますよ。

 あそこの彼女さんへのプレゼント

 ですよね?』

 

「か…彼女!?

 いやいや、ワシらは付き合ってなど

 おらんぞい!?」

 

『では大切な人への贈り物ですね。

 貴方にとっての』

 

「そ…そうなるのかの……?

 いや、そうかもしれんが………」

 

『この機会に貴方にとってあの方が

 どんな人か考えてみてもいいかも

 しれませんね。

 こちらが領収書になります。どうぞ』

 

「ど…どうも。失礼した……」

 

秀吉は支払いを済ませ、届け先を自分の家と記載すると店を出ていった。

店員に言われたことを考えながら。

 

 

 

 

 

 

~数分後~

 

「あの~、もういいよね?

 秀吉出ていったし………

 けどよく口パクでバレなかったね…」

 

秀吉が出ていった後、女性店員(?)は一人呟く。

 

「いえ、もう少しそのままで…

 私もがんばりますから!」

 

「小泉さんの頑張りよりある意味何倍も

 キツイよねコレ!?」

 

女性店員……もとい明久もどきはぬいぐるみの品入れをしていた店員に叫ぶ。

小泉花陽である。

 

「どうして僕が女装して店員に

 ならないといけないのさ!!

 絶対秀吉に気づかれてるよ!!」

 

「大丈夫ですよ先輩。

 だから先輩には口パクして

 頂いたんですから!」

 

花陽はそう言って明久が持っているものと同じ小型のトランシーバーを取り出す。

これを使って口パクの明久の声を自分の声と置き換えていたのである。

アキちゃん(CV:花陽)の誕生である。

 

「おのれ雄二め!!

 僕にこんな役をやらせやがって!!

 後で覚えてろ…!!

 今日だけで何人FFF団の連中が

 押し寄せて来たと思ってるんだ…!」

 

「先輩、これも真姫ちゃんたちのため

 ですよ!

 頑張らないと…!」

 

「もう終わったよね!?

 僕は任務を完遂したよね!?」

 

「こっちがまだ終わってないにゃ~…」

 

店に来た子供と遊んでいたもう一人の店員は明久を呼んだ。

星空凛である。

 

「やっぱりことりちゃんはすごいにゃ!

 明久先輩にぴったりのサンタ衣装だよ!」

 

「男の子が女の子の衣装を着ることを

 ぴったりなんて言わない!!」

 

女装させられた挙げ句、声まで女の子にされた今日だけは秀吉に同情する明久。

 

『お姉さん、これ読んで!!』

 

「こ…小泉さぁん………」

 

「レジは私と穂乃果ちゃんに任せて

 下さい!」

 

「明久君、ファイトだよ!」

 

「そんなぁ……」

 

本を持ってきた子供にお姉さんと呼ばれることと誰も自分が女装することに違和感を覚えないことに泣く明久。

仕方なく子供たちに本を読んでやるのだった。

……出来るだけ女の子っぽい自声で

 

 

 

 

 

 

「おかしい……

 西木野はどこに行ってしまったのじゃ…?」

 

店を出てすぐに真姫の姿が見えないことに焦る秀吉。

 

(まさか…あまりにもつまらないがために…!?)

 

秀吉は真姫を探し廻った。

探し廻って秀吉は真姫の持っていた携帯が落ちているのを見つけた。

 

「この先は…路地?

 嫌な予感しかせんぞい…!!」

 

秀吉は日の当たらない路地を突っ切って行った。

 

 

 

【路地】

 

『なぁ、いいだろ?少しくらい…』

 

『そーそー、折角のクリスマスを一人

 でいるのが可哀想だと思ったから

 俺たちが誘ってやってるんだしさ』

 

「だから着いてこないでって言ってる

 でしょ!

 それに私は人を待ってるの!!」

 

『へぇ、だったらあんな所で君みたいな

 女の子を待たせる奴はよっぽど

 バカなんだなぁ!』

 

『ま、お陰さまで周りの奴等も知らん

 ふりしてくれるし、本当にラッキー

 だったけどな!ハハハ!!』

 

男たちの君の悪い笑い声が真姫の耳に響く。

 

「いい加減にしないと警察に……!?」

 

真姫は自分の鞄から携帯を取りだそうとした。

だが携帯が見つからない。

鞄の中をかぎわける真姫の手を男の一人が握った。

 

『悪いが君を追いかける途中で携帯は

 捨てさせてもらったぜ。

 サツに連絡されると厄介だからな』

 

「ひっ…!?」

 

真姫はここにきて初めて自分の置かれている状況を危険に感じた。

ナンパや告白というものは今まで何度もされてきた真姫だが今回はそれのどれにも該当しない、ストーカーだということを。

 

『それじゃ、夜まで踊り明かそうぜ…!』

 

男の手が真姫の手を引っ張る。

恐怖で声が出ない、体に力が入らない。

真姫は咄嗟に名前を呼んだ。

今日出掛けようと誘ってくれた人。

顔は女の子っぽいけど変なところで男らしくなる人。

自分から唯一求めた人。

 

刹那、彼女を呼ぶ声が聞こえた。

 

「西木野!!」

 

「秀吉…先輩……?」

 

見間違いなんかじゃない。

目の前にいるのは木下秀吉その人だ。

 

『お、可愛い子が増えたじゃん!

 友達?』

 

『だったら調度いいじゃん!

 今から俺たちパーティーに行くところ

 なんだけどどうよ?

 向こうに車呼んでっから──』

 

「とっとと失セロ」

 

『『え……?』』

 

秀吉の口から出た言葉に男たちはおろか真姫までもが困惑する。

目の前の少女のような可愛らしい容姿をした少年のどこからそんな言葉が出てきたのか、その言葉が役者としての彼が発したために殺意を帯びていたのか、はたまた本心から出た言葉なのか。

 

「え……?」

 

気がつくと彼に手を握られていた。

後ろを振り向くと男たちの顔は未だに何が起こったのか分からずにいるような顔をしていた。

今の彼の言葉が数々の喧嘩を潜り抜けてきた彼らにどれだけ恐怖だっただろうか。

だが真姫には分かるように思えた。

今の彼から発せられた言葉は半分が本音で半分が演技だったのだろうと。

だがその本音こそが純粋な殺意だったのだ。

残りの気迫や覇気は全て演技。

まさに会心の演技といえるだろう。

 

「先……輩」

 

「急げ!!早く逃げるぞい!!」

 

さっきまでの気迫はどこへやら。

秀吉は真姫の手を引いて全力失踪していた。

 

「せめて時間稼ぎくらいには…!!」

 

秀吉は路地にあったゴミ箱や瓦礫を全て崩し、邪魔を作るとさっきまでいた店の前に真姫を連れていった。

 

 

 

~数分後~

 

『な…なんだったんださっきの…?』

 

『いや…わかんねぇよ…

 けど体が動かなかったぞ……?』

 

『夢でも見てたのかなぁ…俺たち』

 

『だ…だろうな!

 じゃなかったらあんな可愛い子が

 二人も現れるわけないしな!』

 

『あぁ!あんな可愛い子があんなに

 恐ろしく思えるなんてこともないよな!』

 

『『ハハハハハハハ!!!!』』

 

二人の震えた笑い声が路地に響く。

すると彼らの体に何かが当たる。

何かにつつかれている感触だ。

 

『ん……?なんだ?お前はァ?』

 

「………」

 

彼らの前には雪だるまが立っていた。

比喩などではない。

そのまま、雪だるまが立っていたのだ。

 

『見てんじゃねえぞ、このタコ!!』

 

男の一人が雪だるまの頭をアッパーで殴る。

すると雪だるまの顔が落ちる。

彼らの目の前の雪だるまは着ぐるみだったようだ。

 

「はぁ……

 この程度だから秀吉にビビって

 やがんだよなァ……

 典型的なザコキャラじゃねぇか…」

 

『な…なんだお前は!?』

 

「俺の親友が随分と世話になった

 みたいじゃあねぇか、お兄さん方?

 覚悟はできてんだろうな?」

 

『こ…この!!ふざけるな!!』

 

男の一人が雪だるまの中の人、雄二に殴りかかる。

雄二は避けることもせず、それを顔に受けた。

男の拳が顔にめり込むが雄二は顔色ひとつ変えない。

 

「お前はもう死んでいる」

 

『あぁ?何言って……ぐはぁっ!?』

 

雄二がそう言うと男は後ろから看板を降り被っていた小柄な男によって背中を強打する。

康太だ。

 

「……雄二、あとは任せる」

 

「おうよ。

 さてお兄さん方?この落とし前、

 どう払ってくれるんだ?」

 

『に…逃げろぉぉぉぉ!!』

 

男たちは来た道を逃げようとする。

だが来た道は秀吉が逃げる際に瓦礫やゴミ箱をぶち撒けて塞いでいたため道がない。

 

『道がないだと!?くそぉぉ!!』

 

「おぉ、瓦礫で障害物を作ったのか。

 秀吉の奴、やるじゃねぇか。

 ま、西木野を守るのに必死だったのか」

 

『ま…不味いぞ!!このままじゃあ…!!』

 

「ぐははは!!!

 悪い子にはサンタさんが

 苦しめマスプレゼントをくれてやるぜぇ!!」

 

『『ひぃぃぃぃぃぃ!!!』』

 

その後、この男たちの姿をクリスマスに見た者はいなかった。

 

 

 

 

 

【西木野家前】

 

「すまなかった西木野!

 ワシのせいで嫌な思いを…!!」

 

秀吉は真姫に頭を下げる。

助かったものの、自分のせいでこうなってしまったことに変わりはないのだから。

 

「先輩が謝ることじゃないでしょ…

 まぁ…今回は流石に怖かったけど……

 それより、さっきのあれは何?」

 

「さっきの……?何のことじゃ?」

 

「覚えてないの…?」

 

やはり会心の演技ということなのか、

秀吉本人すら全く覚えていないようだ。

気がついたら自分の手を引いて助けていたらしい。

 

「そのようなことが…

 そのような演技をどうして

 覚えとらんのじゃワシは…!!」

 

「そこ悔しがるところなの…?」

 

真姫は少し呆れていた。

 

「折角の外出がこのような結果に

 終わってしまってすまない…

 次はこのようなことがないよう

 気をつける」

 

「次…来年も行ってくれるってこと?」

 

「すまん、今年がこのような有り様

 だったのに来年など嫌じゃったか…」

 

「違うの!そうじゃなくて…

 そうじゃないけど……」

 

「………?」

 

「とにかく、来年はこんなのは無し!

 きちんと着いていてよね?」

 

「了解した。

 次までにその会心の演技とやらを

 習得しておいてみせよう」

 

「そういう問題じゃないの!!もう……

 来年は楽しみにしてるからね…?」

 

「っ!?……了解じゃ……」

 

一瞬秀吉の反応が遅れたのは何か理由があるからなのだろうか。

それはご創造にお任せするとしよう。

 

 

 

 

【クリスマスイヴ:夜】

 

「じゃあ秀吉君、お願いね!」

 

「了解した。

 最高のサンタを演じてみせよう」

 

秀吉は届いていた熊のぬいぐるみを

持って真姫の寝室の扉を開ける。

音を全く立てずに真姫のベッドまで近づく。

 

「お、これか。

 この靴下にぬいぐるみを入れれば

 任務は完了するのじゃな」

 

真姫の枕元に置いてある靴下にぬいぐるみを入れて、秀吉はその場を去ろうとした。

 

「う………ん」

 

「なっ!?」

 

出ていこうとした秀吉のサンタ服の袖を真姫が掴んでいた。

 

「(起こさぬようにそっと手を離せば…)」

 

「…離れないで」

 

「!?」

 

「……約束」

 

来年の約束のことを言っているのだろうか。

ただの寝言の筈なのにその言葉は秀吉の胸に離れがたい衝動を植え付けた。

 

「(だがこのまま朝まで過ごせば

 西木野のサンタの夢を壊してしまう

 ことになる…

 どうしたものじゃろうか………)」

 

さっき靴下に入れたぬいぐるみが秀吉の目に留まった。

 

「すまんのぅ、西木野。

 今は一緒にいてやれぬ……

 じゃがこやつが一緒にいてくれる

 からのぅ。

 今夜はこやつで我慢してくれ…」

 

秀吉は真姫の手を離して靴下から取り出した熊のぬいぐるみを真姫に抱かせた。

 

「今日はすまなかった。

 来年はきっと楽しませてみせるからのぅ」

 

秀吉は寝ている真姫にそう呟くと部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

【翌朝】

 

「おはよう、ママ」

 

「おはよう、真姫ちゃん。

 サンタさんからのプレゼントは来てた?」

 

「うん、これ」

 

真姫は母に昨晩のぬいぐるみを見せる。

 

「可愛いぬいぐるみねぇ~。

 でも…この子……」

 

真姫の母が何かを言おうとしたときだった。

 

「おぉ、プレゼントが来たのか。

 よかったのぅ、西木野」

 

「な…なんで先輩がいるのよ!?」

 

「あぁ…昨日はパパがいなかったでしょ?

 だから誰か家を守ってくれる人が

 必要だったのよ。

 夜遅くに真姫ちゃんを送ってきた

 ときに落とし物をして取りに

 来たっていうからそのついでに

 停まって貰ったのよ」

 

「そ…そうなの………?」

 

「お…おそらく」

 

「自分のことでしょ……?」

 

適当な理由を並べられた秀吉はどう反応すればいいのかわからなかった。

 

「けど…

 サンタさんどうして私が急にこの熊が

 欲しくなったって分かったのかしら…?」

 

「ふむ……確かに……

 まぁ、サンタにはなんでもお見通し

 なんじゃろうな」

 

「それはそれで怖いけど……

 けどよかった。ちゃんと貰えて」

 

「しかし西木野よ。

 どうして急にその熊のぬいぐるみが

 欲しくなったのじゃ?」

 

「それは…なんとなくよ。

 けど、この熊先輩に似てると思わない?」

 

「ワシに?

 どんなところがそう思うのじゃ?」

 

自分と熊の共通点が見つからない秀吉は真姫に問う。

 

「男の子か女の子か分からないところが」

 

「ワ…ワシは男じゃ!」

 

だが言われてみればこの熊は男の子なのか女の子なのか分からない。

可愛らしい顔をしているにも関わらず、服装は男の子の服を着ている。

 

「確かに…

 こやつはオスなのかメスなのか

 分からんのぅ……」

 

秀吉は真姫の熊を見て唸る。

 

「先輩にはプレゼント来てないの?」

 

「えっ?」

 

秀吉は予想外の質問に反応が遅れる。

 

「ワ…ワシは今年一年悪い子にして

 おったからかもしれんのぅ!

 明久たちと一緒に鉄人に怒られとるし!」

 

「……それもそうね」

 

「納得されても困るのじゃが!?」

 

秀吉は自分が後輩に問題児として見られていたことにショックを感じた。

 

「じゃあ…これあげる」

 

「ん…?これは………」

 

秀吉は真姫からプレゼントの箱を渡される。

 

「開けてもいいかの?」

 

「そのためにあげたんだから」

 

了承を貰った秀吉は包みを丁寧に開け、箱の中身を取り出した。

 

「これは……熊のぬいぐるみ?」

 

「うん。この子と似た種類の子だけどね」

 

秀吉はその熊をまじまじと見てみる。

自分の知っている誰かにそっくりなその熊はツリ目で少しひねくれていそうな感じの女の子の熊だった。

 

「そうか!この熊お主に似ておるぞい」

 

「わ…私に?」

 

「確かに真姫ちゃんそっくりねぇ~」

 

真姫の母も納得の出来らしい。

 

「と…とにかくプレゼントを

 貰えなかった先輩にはその子あげる。

 それなら寂しくないでしょ?」

 

「そうじゃな…ふふっ……」

 

秀吉はその熊を抱えると微笑んだ。

 

「さぁ、ご飯にしましょう。

 秀吉君も食べていって!」

 

「よろしいのか?

 なら御相伴に預からせて頂こう…」

 

「先輩、その子は一度置いておかないと…」

 

「おっと、そうじゃった…」

 

秀吉と真姫はお互いに似た熊を近くのソファの上に置いた。

秀吉が片方の熊を持ち帰ったらこの二匹の熊は離ればなれになってしまう。

そうなれば二匹の熊がこの西木野家で揃うことはなくなるだろう。

 

 

 

 

 

だが数年後、大人になった二人の家の部屋で再び寄り添う未来があるということを二匹の熊も二匹の持ち主たちさえもまだ知らない。




次回は本編の方が合宿編の前に文化祭編をやります。
スピンアウトの方は……考え中です。
急いで執筆します!

今回もありがとうございました!
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