バカと9人の女神と召喚獣 バカテス×ラブライブ!   作:星震

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間に合わなかった…誕生日当日まで…
あともう少し早ければ…

というわけでシリアスを中和するための番外編第2弾です!
新たに高評価を下さったかるて&カルトさんありがとうございます!


バカライブSpinOut!:私と明久と水族館

恋人共にとって誕生日と呼ばれるその日は色んな場所をウロウロイチャイチャして楽しむ日のことらしい。

なんと嘆かわしきことか。

誕生日とはその者の誕生を家族が祝う日であり、男女がイチャイチャする必要はない筈だ。

 

 

 

 

 

 

………そう思っていた時期が僕にもありました。

3月15日の今日、僕はある人と待ち合わせをしていた。

 

「もう時間過ぎてるけど…

 園田さんどうしたのかな……

 何か事故になんて合ってないと

 いいけど…」

 

そう。今日僕は園田さんに誘われて水族館に出かけることになっていた。

なんでも園田さんが偶然懸賞で招待チケットを当てたんだとか。

そのとき何故か顔が真っ赤だったのは熱でもあったからなのかな…?

 

「あれ…もしかして園田さんかな?」

 

遠くで見覚えのある女の子がキョロキョロと周りを見渡していた。

 

「しまった…!!

 待ち合わせは広場とは言ったけど

 広場のどことは言ってないんだった…!」

 

女の子との初めての待ち合わせで相変わらずの馬鹿っぷりを発揮してしまう。

もしかして園田さんに気を使わせてしまったんじゃ…?

よし、ここは僕から行こう。

 

「園田さ~ん!」

 

「あ…明久!

 やっと見つけました…」

 

やっぱり随分と長い間探させてしまったみたいだ。

自分のバカを改めて理解させられた瞬間である。

 

「貴方という人は…

 広場のどこに集合かも言わずに電話を

 切ってしまうんですから…」

 

「うぅっ…ごめんなさい」

 

待ち合わせになれていないと大変だね…

せっかく約束の30分前にここに来ていたというのに肝心なことを連絡し忘れていたせいで全て無駄になってしまった。

夢の『ごめん、待った?』からの

『ううん、僕も今来たところだよ』を

言い損ねたよ……

 

「ごめんね…園田さん……」

 

「本当に仕方のない人ですね…

 ほら、行きましょう。

 遅刻してしまいますよ。」

 

「うん。あ、それと……」

 

「?」

 

「その服似合ってるね。可愛いよ」

 

「っ!?!?!?

 本当に貴方という人は…!!」

 

あ…あれ………?

もしかして怒らせちゃった…?

 

「い…行きますよ!!」

 

「あっ!園田さん!!」

 

園田さんの顔が少し赤かった。

やっぱり熱があるんじゃ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【水族館】

 

水族館の入り口まで来た僕たち。

見渡す限り人、人、人…

こんなに人が多いと動きづらいことこの上ない。

 

「やっぱり今日は人が多いなぁ。

 園田さん、はぐれないようにね」

 

「そう思うなら……

 はぐれないようにしてください」

 

そう言って園田さんは僕に手を差し出してきた。

 

「………お手?」

 

「違います!!

 貴方という人は本当に鈍いのですね…」

 

「ごめん。

 流石にいきなり手を握るとか

 じゃないと思ったから他に

 思いつかなくて…」

 

「私は犬か何かですか」

 

飽きれ顔で言われてしまう。

他に何をすればいいんだろうか。

僕の初めてのお出掛けは出だしから困った。

 

「それで…僕はどうすれば…?」

 

「だからその…

 手を……握ってほしいです」

 

「最初ので合ってたの!?」

 

「それ以外ありますか!?

 どうすれば『お手』の方から

 思い付いたのですか!?」

 

「いや、いきなり女の子の手を

 握るって痴漢でしょ?

 だから『お手』で園田さんの方から

 僕の手に触れて貰えば痴漢には

 ならないと思ったんだけど…」

 

「な…ならこれは貴方が今日待ち合わせ

 の場所を伝え損ねた罰です!!

 それなら問題ないでしょう?」

 

なるほど。

罰ということならやらなきゃいけないよね…

………あれ?手を握るって僕は得するのに罰になるんだろうか?

 

「それじゃあ…失礼します…」

 

「!?!?」

 

僕が手を握った途端、園田さんは固まってしまう。

こんな調子で大丈夫かな……?

 

「園田さん?大丈夫?」

 

「だ…大丈夫です…

 い…行きましょう…!!」

 

少し暖かいその手で園田さんは僕の手を引っ張る。

 

「園田さん、そっちは入り口じゃないよ?」

 

「わ…分かってます!!」

 

やっぱり園田さんの顔は赤いままだった。

行く方向を間違えたのも熱で無理しているせいなのかな………?

だとしたら早k(殴

 

 

 

 

 

 

【水族館 館内】水族館の切符を2枚買ってゲートをくぐった。

水族館に入ってまず僕たちの目に留まったのは天井から釣り下げられている巨大な魚の骨だった。

 

「大きいですね…鯨(クジラ)…でしょうか?」

 

「あれは鯱(シャチ)かな。」

 

僕が配布されたパンフレットを見ると鯱と書いてあった。よかった、間違えていなくて。

 

「鯨と鯱ってどう見分けを付けるんですか?

 私にはどちらも同じように見えるのですが」

 

「う~ん、鯨と鯱の違いについては

 研究者や本によって見解が違うから

 僕にもよく分からないんだよね…」

 

「ならどうして……」

 

いや、理由はあるんだけどね…

こんなこと言っておかしい奴だと思われないか不安なんだよね……

 

「……笑わない?」

 

「笑いません」

 

よし、ならここは園田さんの言うことを信じるとしよう。

 

「事前に海の生き物について調べたんだよ。

 まぁ、補習みたいなものかな」

 

「明久が予習……

 ん?今『補習』と言いませんでしたか…?」

 

「言いました」

 

一応聞き間違いじゃないです。

きちんと補習と言いました。

 

「一体何をしたら水族館と補習が

 繋がるんですか……」

 

「今日のために海の生き物について

 知りたいから教えてくれって鉄人に

 言ったら5時間くらい語り尽くされて…」

 

「西村先生は生物も完璧なのですね…」

 

おかげさまでイルカ、シャチ、クジラの違いが一目で分かるようになりました。専門家の人、ごめんなさい。

 

「どうしてそこまでして今日のことを…?」

 

「そりゃあ、園田さんに楽しんで

 貰いたいからね。

 折角、園田さんが誘ってくれたから

 エスコートくらいしたいな~…なんてね」

 

水族館に行ける。それも女の子と二人でなんて僕の人生じゃあ一生に一回だけだろうから園田さんには楽しんで欲しかった。補習という地獄を味わうとしても…

 

「あれ…?園田さん?おーい!」

 

園田さんに反応がない。

一体どうしたというのか。心配に思い、僕は園田さんの顔を覗きこんだ。

 

「ずるいです…明久……

 そんなことを開始早々言うなんて…」

 

顔を真っ赤にして少し恥じらう園田さんの顔がそこにはあった。

僕自身も少し目が合っただけだというのに恥ずかしくなってしまう。何故だろうか。

 

「えっと…ごめんなさい……?」

 

「なんで謝るんですかっ……」

 

顔が赤いせいか、園田さんの言葉一つ一つが色っぽく感じてしまう。

どうしてだろうか、園田さんの表情を見ているとこっちまで顔が熱くなってきてしまう…

 

「い…行きましょう。

 まだ始まったばかりなんですから…」

 

「う…うん!そうだね!!」

 

僕がエスコートするつもりが園田さんにリードされてしまった。

 

「出だしからこんなんじゃあ帰る頃には

 僕どうなっちゃうんだよ……

 

そんなことを小声で呟く。

繋いでいる手が熱かったことは園田さんも同じなんだろうか…

 

*****************

 

 

 

【館外】

 

「見てください明久!

 ペンギンですよ!」

 

「まだ生まれたてなのかな?

 小さくて可愛いね」

 

あれからしばらく水族館内を回って

今は水族館の外のペンギンを見に来た。

ペンギンがいるエリアで気温が低いお陰かさっきまでの熱は冷えた。

助かった…のかな?

 

「こんなにも多くの種類がいるのですね…」

 

「コウテイペンギンとかアデリーペンギン

 なんてのはよく聞くけど、ジェンツー

 ペンギンとかフンボルトペンギン

 なんて名前は僕も初めて知ったよ」

 

しばらくペンギンたちを見ているとエサやりの時間になったのかペンギンたちは館員の人の元へ歩いていってしまう。

 

「あ…行ってしまいましたね……」

 

少し残念そうにする園田さん。

園田さんもやっぱり女の子だから可愛いペンギンは好きだったみたいだ。

このエリアに回ってきてよかった。

 

「丁度いい時間なのかな。

 次に行こうか」

 

「はい」

 

僕は繋いでいる手を引いた。

 

******************

 

 

 

【館内、暗転エリア】

 

暗い通路の中、生物の化石が薄暗い青色のライトに照らされている。ここのエリアは化石や地層の見本が展示されているようだ。

 

「あ…明久…

 ちゃんといますよね……?」

 

「う…うん。いるよ……」

 

「絶対に離さないで下さいね……?」

 

あぁぁぁぁぁもう!!

どうして今日はこんなに体温が上がったり下がったりするのさ!!

最初の体温に逆戻りだよ!!

 

「そ…園田さん……

 流石にそんなにくっつかれると……」

 

「ごめんなさい、ですが…今だけは……」

 

園田さんの意外な弱点。

暗い中で独りぼっちになること、と…

って冷静に分析してる場合じゃないんだけど!?

 

「(なんで今日はこんなにドキドキしてるんだ…)」

 

大丈夫かな…園田さんと繋いでる手、汗ばんでいたりしないかな!?

もしそうなら凄い恥ずかしいんだけど…

 

暗闇の通路を抜けるまで、僕も園田さんも展示物に全く集中できなかった。

 

*******************

 

 

 

【館外、アクアリウム】

 

「「はぁ……」」

 

イルカショーが行われるアクアリウムにて二人でそんなため息をついた。

周りを見渡すとカップルやら家族連れやらが多く、とてもため息をつくような場所ではないのだが…

 

「ごめんなさい、明久…

 あのときの私はどうかしていました…(ゲッソリ)」

 

「いや、そんなに気にしなくていいから!

 寧ろありがとうございました」

 

潮風に当たって冷静になったのか園田さんは脱力していた。

むしろ僕にとっては金輪際ないであろう体験をさせて貰えたから土下座しながらお礼したいところなんだけど……

 

「少し、潮風に当たります……

 時間になったら起こしてください…」

 

なんと、疲れ果てて園田さんは眠ってしまった。

ごめんね…僕のせいで……

 

しばらくして開演のブザーが鳴った。

進行を勤める司会が軽やかなBGMと共にステージに現れた。

……ん?司会!?

 

『さぁ!

 これより、カップル限定イベント、

 幸せのイルカの縁結びを開始いたします!』

 

「はぁ!?」

 

ちょっと待った!!

こんなイベントなんて聞いてないぞ!?

おかしいな…パンフレットには確かに普通のイルカショーって……

 

「なっ!?

 貼り紙!?修正されているだと!?」

 

パンフレットのイルカショーのページが剥がれ落ち、その下からカップルイベントの文字が現れた。

 

「くっ!!

 家族連れがいるのは親がバカップルな

 ままだからか!

 不味い、ここからさっさと脱出しないと…!」

 

そのときだった。

後ろから扉が閉まる音が聞こえた。

係員が扉を閉めたのだ。

 

『……ショーを見ずに会場から出るなど

 不届千万』

 

「はめられた!!

 っていうか今明らかに知ってる奴

 いたよね!?

 それも僕がいつも一緒にいる奴!!」

 

『それじゃあ、ルールを説明するよ~』

 

僕の疑問などそっちのけでイベントは進行していく。無慈悲なり。

 

『今からボク…じゃなくて私が選んだ

 カップルにはこのイルカくんたちに

 指示を出して貰います!

 見事イルカくんたちに指示を出して

 ジャンプをしたときにハートを

 描かせることができればその

 カップルには当館の年間パスポートと

 ホテル宿泊券をプレゼント致します!

 あ、勿論ホテルは防音だからちょっと

 くらいならエッチなことしても大丈夫だからね!』

 

「聞き逃さなかったぞ僕は!!

 今ボクって言ったぞあの係員!!

 それも最後の問題発言!!

 絶対僕の知ってる女子だよ!!」

 

けどどうして彼女がここに…!?

まさか僕たちが水族館に入ったときから仕組まれていたのか!?

 

「ということは雄二の差し金か…!

 ならそうはいかないぞ!

 ここは園田さんが寝ているのを

 いいことに参加を拒否して──」

 

『決めたよ!!

 そこのさっきからくっつきっぱなしの

 ラブラブカップル!

 前に出てきてね!!』

 

「………………」

 

「わ…私たちはカップルなどでは…!!」

 

あぁ、最後の頼みの綱が切れた。

園田さんが僕にもたれかかって寝ているのをイチャついていると紹介しやがったよ…

カップルという言葉を聞いて飛び起きる園田さん。あれ?園田さん無理矢理起こされると機嫌が悪いんじゃ……

 

『お二人は学生さんですか?』

 

係員からマイクを渡される僕と園田さん。

 

「貴方も学生な件について」

 

「はい…そうです」

 

『そうですかー!

 青春ですねーうんうん…』

 

クソッ!!

僕のマイクだけオフにしやがった!!

都合の悪いことはかき消すつもりだな!

園田さんが周りの空気に取り込まれ始めている!これはいけない!!

 

『とっても可愛い彼女さんですね!

 彼氏さんは幸せ者ですね~このこの~…』

 

「え…はい………」

 

「あ…明久!?」

 

あ、しまった。

 

『さて、では早速チャレンジに入りましょう!

 お二人にはイルカくんのまえに来て頂いて───』

 

あそこで否定したら園田さんを可愛いくないと言ってるようなものじゃないか!

分かっててあの質問をしたな!!

 

「明久!!」

 

「えっ!?な…何?園田さん」

 

しまった。余計なことを考えている間に時間が経っていた。

 

「こうなってしまった以上仕方ありません。

 頑張りましょう」

 

「う…うん」

 

あれ…?なんで僕少し残念に思ってるんだ…?

園田さんにとって僕とカップル扱いされることが仕方ないことだから…?

…はは、なんだこれ。偽のカップルなんだから園田さんは嫌に決まってるのに。

僕だけ楽しむなんて虫が良すぎるだろ……

 

『彼氏さんはこっちに来てくださーい!』

 

僕は呼ばれた方に向かう。

一匹のイルカが水中からこっちを見ていた。

 

『タイミングはお二人に任せます!

 それでは、チャレンジどうぞ!

 …あ、それと失敗したらお二人の仲が

 悪くなるという言い伝えがあるので

 頑張ってください!』

 

「適当だ!!肝心の司会が適当だ!!」

 

僕が園田さんの方を見ると園田さんは不安そうにしていた。司会に突然あんなことを言われたらそうもなるだろう。

 

『あれ…?彼氏さん!?どちらへ…?』

 

「あ…明久……?」

 

僕は園田さんのもとに歩み寄る。

 

「大丈夫、これを失敗したくらいで

 僕たちの関係は壊れるようなもの

 じゃないよ。

 まぁ、今は偽物の恋人だけど…

 だから、思い詰めないでいこう」

 

偽物の恋人だけど、の部分は小声で言ったので観客には聞こえていない。

それ以外はハッキリと伝えた。

 

「貴方という人は人様の前でよくも

 そんな恥ずかしい台詞が言えますね」

 

「本当、何やってるんだろうね僕は」

 

「…ですがありがとうございます」

 

「え…?」

 

お礼を言われるとは思っていなかったのでそんな声が漏れる。

 

「やるからには成功させますよ!」

 

「園田さん…分かった!!」

 

僕はイルカくんのいる持ち場に戻った。

司会が少し困ったような表情をしていたが状況を察したのか僕が持ち場に戻るともう一度スタートからやり直してくれた。

 

『では、気を取り直して……

 どうぞ!!』

 

僕はイルカくんを一撫でする。

頼むよと思いを乗せて。

 

「明久!!」

 

「行くよ!!せーの…!!」

 

**********************

 

 

 

 

【エントランス】

 

「………」

 

「………」

 

気まずい。さっきあれだけカッコつけておいてこの有り様だよ。

いや、イルカくんのイベントは成功したんだよ…?

ただ、貰った商品が…ね……

 

「明久」

 

「あ、はい……」

 

「また、一緒に来てくれますか…?」

 

「えっ?うん!園田さんが僕なんかと

 一緒でいいならいつでも!」

 

年間パスポートはいいのだ。

また次一緒に来る約束までできて嬉しいよ。

けど、もう片方は……

 

「次は…泊まり込みで来るのも

 いいかもしれませんね…」

 

「えっ!?

 泊まるって…ホテルに……?」

 

「…わざわざ言わせないで下さい」

 

「ごめん」

 

だが僕たちはまだ高校生、学生なのだ。

そんな年頃の男女が一つ屋根の下で泊まるというのはどうなんだろうか。

やはりいくら仲がいいといえどラインは守らなければならない。

 

そんな中、僕はふと水族館の売店が目に留まった。

 

「園田さん、僕少し用事を解決してきて

 いいかな?」

 

「え…はい。

 では、ここで待っています……」

 

僕は話題を変えるのが下手だ。

去り際に園田さんが少し悲しそうな顔をしていたことに気がついた。

 

**********************

 

 

 

「園田さん……?」

 

僕は売店で用事を解決した後、さっき園田さんと別れた場所に戻った。

だがそこに園田さんの姿はなかった。

 

「あぁ、そうか……

 帰られちゃったのか……はは…」

 

自分が見限られたと思ったそのときだった。

 

「え…これって……」

 

僕はさっきイベントで貰った年間パスポートが落ちていることに気がついた。

 

「どうして園田さんの持っていたこれが…?」

 

パスポートが落ちていた先の通路を見るとそこは立ち入り禁止のテープが張ってあった。

嫌な予感がした僕は気づかぬ間にテープを破っていた。

 

********************

 

 

 

 

 

 

『で?どうする?この子。

 なぁ、アニキ一体なんだって

 こんな子を連れてきたんだ?』

 

『はー?

 お前知らねーのか?この子、あの

 スクールアイドルの園田海未ちゃんだぜ?』

 

『あー俺アイドル知らねーや』

 

『はぁ?お前時代に遅れすぎだろ』

 

「は…離してください!!」

 

『えー、そりゃないぜ。

 折角出会えたんだからさ、じっくり

 歌声聞かせてくれよ』

 

「いい加減に…!」

 

『あぁ、あと君の連れのボウズ、

 今俺の仲間が始末しに言ってるから』

 

「明久に手を出したら許しません…!!」

 

『それは君の頑張り次第ってとこかな』

 

「さ、触らないで下さい!」

 

『ったく、うるせぇ女だな!!』

 

「きゃっ!?」

 

『女だからって手加減してもらえるとか

 思うなよ?』

 

「アンタも、こんなことしておいて

 タダですむと思うなよ?」

 

『なっ!?誰だ!

 どこから沸いてきやがった!?』

 

男が僕に怒鳴る。

園田さんを押し倒していた男はそのまま僕の方に殴りかかってくる。

 

「典型的な小者ですね。

 僕の悪友が言ってましたよ。

 アンタみたいなやつは口より先に

 手が出るって。不意打ちなんか効くと

 思いましたか?おめでたい思考ですね」

 

僕は相手の攻撃を避け、園田さんから離れたのを確認すると園田さんを立ち上がらせる。

 

「明久…!!」

 

「ごめんね、園田さん。

 すぐ終わらせるから待ってて!」

 

『嘗めやがって!!

 お前ら!やっちまえ!!』

 

男が怒鳴るが誰も味方は来ない。

 

『なっ!?お前ら…いつの間に!?』

 

「あぁ、ごめんなさい。

 一人、二人は後ろから急所をやったんで

 当分起きないと思いますよ」

 

『くそ…!!なんなんだよお前は……!!』

 

「僕が誰かなんてどうでもいいでしょう。

 それより、よくも園田さんに手を

 挙げてくれましたね。

 覚悟はできてますよね?」

 

『一人で出てきて調子くれてんじゃねぇぞ!』

 

「あぁ、それとさっきの園田さんとの

 会話、全部録音させて貰いました。

 倒した仲間の証言も付いてますよ」

 

『なっ…!?』

 

「貴方は、僕の大切な人を傷つけた。

 だから、物理的にも社会的にも

 消して差し上げます」

 

自分でも信じられない口調と言動で言葉が紡がれていた。

それだけ目の前の敵に対しての恨みが大きいのだろう。

 

『くそっ…!!くそっ!!』

 

「一度劣性になったらそんな態度に

 なるんですか。無様ですね

 ということで……」

 

僕は自分の上着を脱ぎ園田さんにその光景を見せないように園田さんの顔に覆い被せた。

 

「お前の残りの休日のスケジュールは───」

 

思いきり足を振り上げる。

そして怯える男の急所にめがけて降り下ろした。

 

「──全部入院だよ」

 

刹那、男の悲鳴が響く。

勝利した僕は園田さんを連れて部屋から出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【海岸】

 

ひとまず水族館を出て海岸まで園田さんを連れてきた。

暴力沙汰を起こしたからあまり館内にはいない方がいいと判断してのことだ。

 

「ごめん、園田さん。

 怖い思いさせちゃったね」

 

「……貴方は強いです」

 

「え……?」

 

「あんな屈強な男に立ち向かうことが

 できて…私を守ってくれて……」

 

「園田さん、僕は弱いんだ」

 

真実を話そう。

今回あいつらに勝つことができたわけも。

 

「今回の男たち、全員力は僕よりあった。

 けど、全員筋肉バカだったから

 録音とかで弱みを握って頭脳戦に持ち込んで

 殴り合いでは相手の急所を狙い続けた。

 卑怯な戦い方しかできないんだ。

 僕、力ないからさ…」

 

「明久……」

 

「けど、あのときはそんなこと

 どうでもよかった。

 どんなに卑怯でも、残酷な戦い方でも、

 園田さんを助けたかった。

 僕はただの偽善者なんだ……」

 

こんなの力のない者の言い訳にしかならないかもしれない。だが、園田さんはこう言ってくれた。

 

「でも、貴方が助けてくれたのは

 貴方が優しいからです」

 

「え……?」

 

予想外の回答だ。

僕はその言葉の意味を理解できなかった。

 

「例えやり方が汚くても、偽善だと

 しても、貴方は私が傷つかないように

 することを一番に考えてくれました。

 上着で私の視界を見えないように

 したのが何よりの証拠です。

 私を想ってくれたことに、嘘偽りの

 感情はありません」

 

「園田さん……」

 

「けど、貴方が傷つくのは私も嫌です。

 だから、二度とこんなことはしないと

 約束してください」

 

「けど…

 それだと園田さんを守れない…」

 

「守られるだけの関係は嫌です。

 貴方に頼られる私になってみせます」

 

あぁ、そうか。

目の前の女の子、園田さんは他人のために強くなろうとすることができるのか。

誰かのためだけではなく、自分を甘やかさないためにも。

 

「…わかった。約束するよ」

 

「ありがとうございます。

 明久、こんなときに言うのも

 可笑しいですが、今日は楽しかったです」

 

「僕もだよ。

 最後はこんな終わり方になっちゃったけど…」

 

「そうですね……」

 

潮風に吹かれる綺麗な黒色の髪を揺らしながら園田さんはそう言った。

 

「だからさ、最後はいい終わり方に

 したいと思うんだ」

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誕生日、おめでとう。園田さん」

 

「あっ……」

 

僕は水族館内で買った二匹のイルカがハート型を描いている指輪を渡す。

 

「どうして私の誕生日を…

 それにいつの間に……」

 

「南さんから聞いたんだよ。

 それと、これを買ったのは例の

 ホテルの話が出て離れたときだよ」

 

「用事ってこのことだったんですか…?

 ですが、いただけません…こんな高価なもの…」

 

「園田さんに貰ってほしいんだ。

 ずっと前から準備していたからさ…」

 

「ずっと前からですか……?」

 

僕は鞄から二枚の紙切れを取り出した。

 

「実は…園田さんに誘われる前に

 僕から誘おうと思ってたんだよね…」

 

「それは…水族館のペアチケット!」

 

効果を亡くしてしまった二枚の紙切れを鞄にしまいながらそう言った。

この二枚と指輪を買うために駅前の『ラ・ペディス』でバイトをしていたのは内緒だったりするけどね。

 

「考えてたことは同じだったみたいだね…」

 

「ふふ…そうですね……」

 

園田さんは指輪の入った小さな箱から指輪だけを取り出して指輪を僕に渡してきた。

 

「では、明久が着けてください……」

 

「わ…分かった」

 

僕は指輪を箱から出して園田さんの指にそっとはめた。

 

「…少し緩いですね」

 

「あ…指のサイズ聞いてなかった……」

 

「でも…明久らしくて私は好きです」

 

「あ…あはは………」

 

最後の最後にとっておきのバカを発揮する僕。

どこまでも抜けている……

 

「明久、もうひとつ誕生日に欲しい

 ものがあるのですがよろしいですか?」

 

「僕にできることなら…」

 

もうお金は結構ピンチだけどね。

けど、その希望の物は全く違う物だった。

 

「一度だけでいいんです。

 私を…名前で呼んでください」

 

「な、名前で!?」

 

いきなりハードルが高いお願いだね…

少し恥ずかしい気持ちもあるけど、僕は覚悟を決めて彼女の名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

「誕生日、おめでとう。海未ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【同刻】

 

「ははっ。上手くいったみたいだね!」

 

遠くの物陰から明久と海未の様子を見ていたイルカのイベントの司会者…もとい、工藤愛子は楽しそうに言う。

 

「……当然」

 

扉を閉めて明久と海未をイベントに誘導したスタッフ、康太はカメラに収めた写真を見ながらそう言った。

 

「成功してもらわないと困るっての」

 

「私たちはあくまで裏作業だけだったけど…

 海未ちゃん、嬉しそう…」

 

今回は裏作業を担当した二人、

雄二とことりが言う。

 

「しかし、お前が協力してくれるとは

 思わなかったぞ、工藤」

 

「吉井君には学力強化合宿のときに

 お世話になりっぱなしだったからね。

 少しは恩返しできたかな」

 

「……感謝する」

 

「ムッツリーニ君、デート一回ね」

 

「……!?」

 

「冗談だよ。あははっ」

 

雄二はそんな二人を呆れながら見ていた。

 

「でも坂本君、よかったの?」

 

「ん?何がだ?」

 

雄二にことりは問いかける。

 

「怖い人たちに海未ちゃんが拐われる

 のは計画外だったんだよね…?

 坂本君が助ければ吉井君は…」

 

「確かに怪我をせずに済んだだろうな。

 平気な顔はしてるが、あいつ結構

 ダメージ蓄積されてるぜ」

 

「だったら…!!」

 

「けどな」

 

雄二はことりの方を見て笑いながらこう言った。

 

「あいつはいつも必ず、誰かのために

 何かを始めたら止まらねぇ男だ!」




さぁ、次回からシリアス再開です…
頑張って参ります。


今回もありがとうございました!

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