バカと9人の女神と召喚獣 バカテス×ラブライブ!   作:星震

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一期最終回!
ファーストシーズン、堂々完結!

遅れて申し訳ありませんでした!
今回久しぶりということもあり、駄文が目立つかもしれませんがよろしくおねがいします!


祝!100000UA突破!

新たに高評価、お気に入り登録してくださった方々、ありがとうございました!

一期最終回、どうぞ!



バカと9人の女神と召喚獣

あれから数日が過ぎた。

あの日を境に高坂さんは部室に来なくなってしまった。リーダーが欠けてしまった今、μ'sは活動を休止している。

 

「今日、やるんだろ?例の計画」

 

「うん…そうだよ」

 

自分でもわかるくらい力のない返事で僕は雄二に答える。

 

「一応言っておくが…無理はするなよ?」

 

「無理なんてしてないよ。大丈夫」

 

「そうか。なら行ってこい。

 俺は自分の計画の準備をしてから行く」

 

「うん。それじゃあ」

 

僕はそう言って部室へと向かった。

そしてふと教室を見渡す。そしていつもある人影がないことに気がつく。高坂さんと南さんだ。

 

「先に帰っちゃったのかな…

 なら急がないと……」

 

僕は雄二と企てた計画を実行するため、まずは部室へと向かった。

 

*****************************

 

 

 

【部室】

 

「失礼しまーす」

 

僕は特に何の変わりもないいつもの挨拶をして部室に入る。

 

「遅い!!」

 

そして先輩からいつもの返答が返される。ただ一ついつもと違うことがあるとすれば部室に僕たち以外の人がいないことだ。

 

「皆、来ないんですね」

 

「皆それぞれのやることに戻ったのよ。

 私だけは変わらないけどね」

 

そう言って先輩は苦笑いを見せる。

 

「なんか、二人だけに戻っちゃった感じね」

 

「そうですね。けど、部室が広くなった

 というのもあってより一層寂しく感じます」

 

元々は僕たち全員で13人で使っていた部室は人がいないせいで寂しい空間となっていた。先輩はそんな寂しい空間を僕がここに来るまで一人で使っていたのだからいい気分はしなかっただろう。

 

「先輩、お話があります」

 

「何よ、いきなり改まって」

 

この寂しい空間を見て話す気が失せそうではあるがなんとか決意を固め、僕は本題に入る。

 

「先輩。これを」

 

「何よ、コレ?」

 

僕は持ってきた紙を先輩に渡す。先輩は数回に折り畳まれたその紙を開いた。

 

「え……?」

 

その紙を開き終え、内容を見た途端、先輩は信じられないものを見たかのような顔になる。

 

「退部届って…嘘でしょ…?」

 

「先輩僕は──」

 

「嫌よ…受け取らない。アンタからだけは絶対に」

 

「……」

 

「約束は?

 私を裏切らないって約束はどうなるの…?」

 

「もし、僕がこの部を先輩が大好きだった

 元の姿のμ'sに戻せなかったら、それを学校に提出してください。

 僕にあのときの約束を守るチャンスを下さい!」

 

 

 

 

 

 

【穂乃果Side】

 

今日も1日が早く感じた。

ただ朝起きて、学校に行って、帰って、寝る。それだけの1日が今日も終わろうとしていた。

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

「うん」

 

妹の雪穂が心配してくれる。

けど、どうしてなんだろう。最近は周りの人の優しさを素直に受け取れない。

 

「葉月ちゃんも心配してたよ。

 …それにこのままじゃことりさんとも───」

 

「分かってるよ!そんなこと私が一番分かってる!!」

 

今の私はこんな小さなことでさえ怒鳴り散らしてしまう。こんなにも心配してくれた妹に対して私はなんて酷いことを言っているんだろう。

 

「葉月ちゃんは?」

 

「もう寝たよ」

 

「そっか」

 

葉月ちゃんはもう寝てしまったようだ。もうそんな時間になっていることにさえ私は気がついていなかった。

最近はこんな調子がずっと続いている。

 

「じゃあ私は寝るからね…

 あっ、お姉ちゃん、携帯光ってるよ」

 

「え…?」

 

最近は皆からのLINEもあまりなくなった。気を使わせてしまっているんだと思う。

そんな中で直接メールでメッセージを送って来る人が誰なのか気になって仕方がなかった。

 

「けど誰が…?」

 

私は携帯を確認する。そして普段はあまり使わないメールを開いた。

 

『明日一緒に出掛けませんか?

     from Akihisa    』

 

それだけ書かれていた単調なメールに私は困惑した。

 

「(これって何の誘いなの!?)」

 

私は漫画とかでしか見たことはないけどこういうのはデートに誘うときに送るメールだった…気がする。

 

「誰からだったの?海未さん?」

 

「あ、明久君から……」

 

「えっ!?ちょっと貸して!」

 

雪穂は私の携帯を取ってメールを確認する。雪穂はメールを見た瞬間に顔を真っ赤にした。

 

「ちょっ!?何これ!?あの人また…」

 

雪穂は顔を真っ赤にしたまま、メールの画面で文字を打ち出そうとしていた。

 

「ゆ、雪穂!?何してるの!?」

 

「お姉ちゃん!こんなの絶対行っちゃ駄目だからね!

 あの人またナンパなんてして…!

 それもお姉ちゃんがこんなときに!」

 

あぁ、雪穂の誤解はまだ解けてないんだっけ。雪穂が行ってから見ればよかったかな?

 

「(でも明日って学校あるのに…

  明久君どうするつもりなんだろう?)」

 

「お姉ちゃん、こんなの絶対行っちゃ駄目だからね!

 あの人に何されるか分からないから!」

 

私は雪穂が返信を打とうとした携帯を取り上げてしばらくその携帯を眺めていた。

 

「私、行ってみるよ」

 

「どうして!?お姉ちゃん!?」

 

きっと明久君は立ち直れない私に変わるきっかけをくれようとしてるんだと思う。

今の私はひとりじゃ変われない。なら少しでもきっかけがあるなら、それを無駄にしたくない。

 

「…分かった。けど、無理はしないほうがいいよ」

 

「え?何が?もし明久君のことを言ってるんだったら───」

 

「あの人のことじゃないよ。最近外出してなかったでしょ、お姉ちゃん」

 

「う、うん」

 

なんだかんだ言って心配してくれる雪穂を横目に、私は明久君への返信をした。

 

 

 

【明久side】

 

「おはよう、高坂さん」

 

「おはよう。早かったね」

 

僕は高坂さんと待ち合わせをしていた。

一緒に出かけようと誘った僕だったけど、行くところはあまり決めていなかった。

 

「今日はどこに行くの?」

 

「これから決めるんだよ。」

 

***************

 

 

 

僕たちは歩きだした。

ゆっくりと自分たちがいきたいところに寄りながら互いの好きなものを教えあったりもした。

そして高坂さんがよく行くというゲームセンターに足を運んだ。

 

「高坂さん?どうしたの?」

 

そんな中、高坂さんが突然足を止めた。

高坂さんが目を向けている方向にはゲームの筐体があった。

小さな女の子たちがそのゲーム筐体を前にダンスをしていたのだ。

どうやらあれはダンスゲームのようだ。

 

「やってみる?」

 

「うん…」

 

高坂さんと僕は子供たちに声をかけてから、

『アポカリプスエキストラ』と書かれている機械にコインを入れた。

 

「けど、やるからには僕も本気でやるからね」

 

「私だって負けないもん!」

 

しばらくしてゲームの筐体から音楽が流れ始めた。

 

「懐かしいな。なんだか、皆とダンスの練習してるみたい」

 

高坂さんがそんなことを言っていた。

 

「高坂さん!もうゲーム始まってるよ!」

 

既にゲームが始まっていたことに気がつく。

高坂さんはようやく我にかえったのか、ダンスを始めた。

 

そのステップひとつを踏むたびに高坂さんの表情が明るくなっていく。

ゲームが終わると同時に高坂さんはライブのときのポーズを決めた。

 

「やっぱり、勝てなかったか…」

 

「最初ので高坂さんがミスしてなかったら僕が負けてたと思うけどね?」

 

二人でそんな会話をしているときだった。

 

『お姉ちゃん、なんだかアイドルみたい!』

 

そんなことを言った女の子がいた。

 

『うん!かっこよかった!……お兄ちゃんも』

 

「僕はついでなの!?」

 

目の前の二人の女の子に言われ、高坂さんは恥ずかしそうにしていた。

 

「よかった。

 やっぱり、高坂さんは踊るのが嫌いになったわけ

 じゃないんだね」

 

「えっ…?」

 

「踊っているときの高坂さん、楽しそうだったから」

 

 

 

 

 

【穂乃果side】

 

「私が…楽しそうだった?」

 

「うん。さっきよりも、ずっと楽しそうだったよ。

 ね?」

 

『うん!』

 

明久君が二人の女の子に聞くと女の子も頷いた。

 

「高坂さんはμ'sの皆と踊っているときが好きだから

 南さんがいなくなってしまうことでこれからも

 今まで通り楽しく踊れるか、不安なんじゃないかな?」

 

「…けど、私のワガママでことりちゃんを引き留める

 権利なんて……」

 

「似ているんだね、高坂さんと南さんは」

 

「えっ…?」

 

「二人は踊ることが、歌うことが好きなのに、

 自分のせいで相手の本当にやりたいことをさせて

 あげられなくなっちゃうんじゃないかって

 考えているんだと思う。…前に南さんも雄二に

 似たようなこと相談してたみたいだし…」

 

「ことりちゃんが…?」

 

「だから高坂さん。

 君が本当に好きなことを南さんに伝えてみたら

 いいんじゃないかな?

 これは簡単そうに聞こえてすごく難しいことだと思う。

 けど、踏み出さないと何も始まらないよ?」

 

『それなら簡単だね!お姉ちゃんはダンスが好きなんだよ!

 私たちが見てもそう見えたもん!』

 

女の子が私の手を握ってそう言った。

 

「(さっき踊っているときもそうだった。

  他のことに集中できなくなってて…)」

 

ぐちゃぐちゃになる頭を整理しようとしたけど、

もう答えは出ていた。

心じゃなくて、表情に。

 

「(そっか。私、やっぱり変わらないんだ)」

 

「私は…大好きなんだね…踊ることが」

 

「えっ?」

 

「明久君!もう一回勝負しよ!

 穂乃果が勝ったらジュース奢ってね!」

 

「いいよ。ただし、家の門限までには帰るんだよ?

 妹さんに怒られちゃうでしょ?」

 

「あはは…そうだね……」

 

私のことを心配してくれているのかそんなことを言いながらも勝負を受けてくれる明久君。

 

『お姉ちゃん!次は私たちともやって!』

 

さっきの女の子が私にそう言ってくる。

 

「うん!いいよ。お兄ちゃんに勝てるように頑張ろうね!」

 

『ありがとうずら!』

 

「ず…ずら?」

 

『あ、ごめんなさいずら』

 

『な、何やってんの!ずらまるちゃん!

 東京ではずら禁止ってヨハネとの契約!』

 

『善子ちゃんも『だてんし』ってやつ出てるずら』

 

『あぁ~も~!!』

 

「あはは……」

 

この二人は花丸ちゃんと善子ちゃんっていうらしい。家族で東京旅行に来てたまたまこのゲームセンターに立ち寄ったんだって。

 

このあと、この二人にダンスを教えたらすぐに上手くなっちゃって私たち三人にジュースを奢るようになっちゃって二人のご両親からお礼を言われてしまうのは別のお話。

 

*****************

 

 

【数日後】

 

「・・・ったく、予定より早ぇんだよ」

 

「何言ってるのさ、オーダー通りだよ。

 しっかり言いたいことをぶつけ合ってきたよ、僕たちは」

 

音ノ木坂の講堂に入った僕と高坂さんを待っていたのは雄二だった。

そのステージにひとり胡座をかいて座っていた。

 

「坂本君?どうしてここに?」

 

「よ、高坂。

 その様子だと決心ついたみたいだな」

 

「……うん」

 

雄二が何の決心がついたのかと聞くまでもなく高坂さんは頷く。もう自分の中で決まったことはひとつしかないからだろう。

 

「どれ、『俺たち』に聞かせてみろ、お前の決心とやらを」

 

雄二がそう言うと高坂さんは精一杯の声でこう言った。

 

「私は、ここでファーストライブをやったとき、

 ことりちゃんと海未ちゃんと歌ってこう思った。

 スクールアイドルやっていたいって。

 辞めるって言ったけど気持ちは変わらなかった。

 学校の為とかラブライブの為とかじゃなく私好きだったの。 

 皆と歌うことが。それだけは譲れない。

 私はもう一度、皆とこの場所で歌いたい!!」

 

「よく言った!!」

 

雄二はニヤリと笑いステージから飛び降りる。

そして後ろを振り向いた。

 

「だ、そうだぜ?お前ら」

 

「「えっ…?」」

 

僕と高坂さんはそんな声を挙げた。

そして雄二が声を出したステージの後ろに目を向けた。

 

「まったく、言うのが遅いのよ」

 

「先輩!?どうしてここに…」

 

そこには先輩がいた。いや、μ'sの皆がいた。

 

「やっと戻ってきたわね。明るい表情の穂乃果が」

 

「穂乃果先輩に暗い表情は似合わないにゃー」

 

「絵里ちゃん…凛ちゃんもどうして……?」

 

高坂さんが訳がわからずに僕たちの方を向いた。

だが、この件については僕は知らない。

 

「お前の気持ち、伝えるなら早いほうがいいと思ってな。勝手で悪いが全員に隠れてて貰った」

 

「と、いうことは…」

 

僕の思った通りの人物がステージの裏から現れる。

 

「穂乃果先輩の気持ち、ちゃんと私にも届きました…私たち皆同じだったんですね」

 

「だから心配しすぎって言ったのよ。穂乃果先輩は絶対に戻ってくるって言ったでしょ?」

 

「そういう真姫ちゃんは穂乃果ちゃんがいなくなったあの日、泣いてたやん?」

 

「な、なんで知ってるのよ!!」

 

「花陽ちゃん…真姫ちゃん…希ちゃんも…」

 

それぞれが高坂さんの思いを、決意を間近で聞き、そして何より高坂さんの帰還を喜んでいた。

 

「穂乃果…」

 

「海未ちゃん……」

 

園田さんが高坂さんに歩み寄る。

 

「貴方の気持ち、しっかり聞き留めました。

 私も貴方に思い出させて貰った事が

 ありました」

 

「えっ?」

 

「穂乃果に振り回されるのはいつものことだった、ということです」

 

「ええっ!?そんなこと!?」

 

「はい。…けど、『そんなこと』で私たちが離れたことはないということも思い出しました」

 

「海未ちゃん…」

 

「今回私が怒ったのは穂乃果が自分に

 嘘を言い聞かせていたからです。

 いつも真っ直ぐで向こう見ずな貴方が

 一度の失敗で折れてしまうのが

 嫌だったんです」

 

「そ、そこまで言わなくてもいいじゃん…」

 

高坂さんは園田さんの言葉に肩を落とす。

 

「いいえ、穂乃果は本気の気持ちを私たちにぶつけてきました。

 だから私たちも今一番伝えたい本気の

 気持ちをぶつけます!」

 

「ひ、ひいぃ…」

 

 

 

 

『おかえり、穂乃果!!』

 

「えっ…?」

 

皆の言葉が揃った。僕と雄二も皆が何を言おうとしていたのかは分かった。

僕たちも一番最初に伝えたかったことだから。

 

「皆、高坂さんが帰ってくるのをずっと待っていたんだよ。

 活動停止…なんて言ってたけど、

 結局高坂さんが帰ってきたときに

 いつでも元の居場所で迎えられるよう

 にってずっと準備してて…」

 

「どう…して…?」

 

高坂さんは涙を流していた。

 

「そんなの決まってるでしょ」

 

先輩が高坂さんの目の前に歩み寄る。

そして持っていたハンカチで高坂さんの涙をそっと拭う。

 

「ここがアンタの…高坂穂乃果の作った居場所だからよ」

 

先輩は高坂さんの手をそっと握る。

 

「穂乃果がいたから私はアイドルに

 なれた。

 穂乃果のこの手が、私たちそれぞれに

 居場所をくれたのよ」

 

「私が…?」

 

先輩は高坂さんに語り続ける。

 

「そうよ。ここまでのことだってそう。

 穂乃果がいてくれたから私は文化祭の

 ときもオープンキャンパスのときも

 大勢が見てくれている中で歌う夢が

 叶ったの。

 あのときは失敗してつまづいたけど

 私にとっては大事な思い出なの」

 

「けど、あのときは本当に後先考えないで

 やってたし…

 今回みたいなことにならないかって

 思うと怖いの…」

 

「それは穂乃果ちゃんだけやないよ。

 私たちだって同じや」

 

「希ちゃん……」

 

「これからこの先も楽しいことだけ

 じゃなく、今回みたいに辛いことに

 試されることだってあると思う。

 …けど、それも私たち全員で踏み出した

 道ならそれでもいいと思うわ」

 

「きっとそのときだって、

 私たちの思いが集まればなんとか

 なるかもしれません…

 今だってこんなにもお互いの喜びも

 不安も話し合えてるんですから」

 

「真姫ちゃん、花陽ちゃん…」

 

「それに穂乃果先輩いつもかよちんに

 言ってたにゃ!

 どんな辛いことがあっても泣かずに

 頑張らなきゃ終わったときに笑えないって!」

 

「凛ちゃん…そうだね……

 泣いてちゃ駄目だよね…」

 

「そうよ、泣いてなんかいられないわよ。

 悲しいことがあるからってずっと立ち

 止まっていたらその先に待っている

 楽しみにも会えないんだから。

 まだまだこれからがあるわ。

 この時間の中で一緒にいる限り、ね?」

 

「絵里ちゃん…あれ?なんでだろ?

 私、涙が止まらないの…

 あはは、泣かずに頑張るって決めたのに

 …弱虫だね、私」

 

「いいじゃないですか。今くらいは。

 泣きたいときは泣いたっていいんです。

 そのあとで、強い自分になれば

 いいんです。

 もし、それでも自分が見つからない

 なら一緒に見つけましょう…?」

 

「…海未ちゃんにはずっと助けて

 貰ってばっかりだね。

 私がいきなりスクールアイドルを

 始めるって言い出したときから…」

 

「例えそのときは少しの可能性を

 感じただけのスタートだとしても、

 高坂さんの真っ直ぐな思いが皆を

 ここに、μ'sという場所に繋いだんだよ」

 

「皆……ありがとう…ごめんなさい、ごめんなさい…!!」

 

涙を流す高坂さんを会長が宥める。

皆が安心する中で、雄二がステージから飛び降りた。

どこかに行くつもりのようだ。

 

「ほんじゃ、俺も少しはカッコつけて

 くるとすっか」

 

「雄二!

 そういえばどうして皆がいるの!?

 雄二の計画は明後日の筈じゃ…」

 

「いや、南の飛行機の出発日が変わった。

 南の飛行機の出発は今日だ」

 

『えぇっ!?』

 

皆が驚く。どうしてそんなことを黙っていたんだ、

このゴリラは。

 

「こんなことしてる場合じゃないじゃない!

 はやくことりを引き留めに行かないと!」

 

「引き留める前提ですね、先輩は」

 

「当たり前でしょ!あの子だって…

 今すぐ行くわよ、皆!!」

 

「ちょっと待った」

 

先輩が道も分からずに空港まで行こうとしたときだった。

雄二が行く手を阻んだ。

 

「どきなさい坂本!!こんなことしている暇ないのよ!!」

 

「それはアンタらも同じだ。矢澤先輩」

 

「どういうことよ?」

 

雄二が説明しようとしたときだった。

講堂のドアが勢いよく開いた。

 

「雄二!!講堂の使用許可は取れたぞい!!」

 

「…こちらもライブの開催時刻を書いた

 チラシをばら蒔いてきた。

 しっかりと町中に拡散してきた」

 

「よくやったお前ら!!次の準備に入ってくれ!」

 

雄二が二人に親指を立てる。

 

「そちらも準備は出来たようじゃな。」

 

「…よく戻った。高坂」

 

「秀吉君!土屋君も!」

 

高坂さんが久しぶりに会ったであろう二人に手を振る。

もうすっかりいつもの高坂さんに戻ったようだ。

 

「それでライブって何のことよ?」

 

「あー…あえて言うならばμ'sの

 復活ライブってとこか?」

 

「そんなの聞いてないわよ!?」

 

「あぁ。今言ったからな。

 だが、共犯者はいるぞ。な、西木野?」

 

「なっ!?」

 

あぁ…なるほど。

秀吉経由で協力してもらえたのかな?

 

「なんで言わなかったのよ真姫!?」

 

「そうにゃ!

 そんな楽しそうなことなんで言って

 くれなかったの!」

 

「言うつもりだったわよ!

 穂乃果先輩のことがあったあとで!」

 

先輩と凛ちゃんに責め寄られ西木野さんはあとずさる。

高坂さんに元気になってもらってから言おうとしていたのだろう。西木野さんの優しさが伝わってくる。

 

「…ということはこの用意をしろと、

 そういうことですか?坂本さん」

 

「理解が早くて助かる」

 

「坂本君はどうするの?」

 

会長が雄二に問いかける。

 

「俺は、μ'sのマネージャーとして

 最後の、そして男として人生最大の

 勝負をしてきます」

 

「そう……分かったわ。

 ここは私たちに任せてことりさんの

 ところに行ってきて」

 

「…恩に着ます」

 

雄二は立ち上がってブレザーを着直す。いつもは出てるシャツをしまう。

本気の勝負をしにいくようだ。

 

「明久と高坂はこの時間にタクシー

 使ってこっちに来てくれ。

 南を連れて帰ったあとはソイツに

 乗って帰るからよ」

 

そう言って雄二は僕に紙切れを渡す。タクシーの時間が書いてあった。

本当に用意周到なやつだ。

 

「雄二はどうやって行くの?」

 

「まだ南は空港に向かってない。

 先に自転車で行って待ち伏せすんだよ。

 そんじゃ、ここは任せるぜ」

 

雄二はそれだけ言うと講堂を出ようとする。

だが、僕の目の前を通りすぎる前に止まった。

 

そして、雄二はニィッと口の端を吊り上げて僕に向けて手を挙げる。

僕はその行為を理解し、同じく手を挙げて応える。

 

ここからは雄二の仕事だ。あとは、任せるからね!

 

「明久──」

 

「雄二──」

 

パァンッ!!

 

「あとは任せろ、明久!!」

 

「しくじるなよ、馬鹿雄二!!」

 

すれ違い様にお互いの手を叩く。

これで僕の役目は一段落。あとはあいつ次第だ。こんなことを雄二に託すなんて馬鹿だとも思う。

だけど、こんなことを任せられるやつは雄二くらいしかいなかった。

 

僕は高坂さんと時間になるまでこっちの用意を手伝うとしよう。

 

「行くぞい、明久!!

 ワシらの最後の仕事、華々しく勝利で

 飾ろうぞ!」

 

「…ここにいた証を残そう。

 μ'sの皆と一緒に!!」

 

「秀吉…康太……そうだね!

 やろう!皆!!」

 

『おーー!!』

 

 

 

 

「けど、坂本君が南さんをねぇ…

 南さんの前では甘いと思っていた

 けど…」

 

「私はお似合いだと思いますよ?」

 

「ですがそんなの…ハレンチです!!」

 

「けど、海未ちゃんも吉井君と

 そうなるかもしれないんやで?」

 

「男の人生最大の勝負、きちんと成功

 させなさいよ、坂本!!」

 

「ことり先輩もきっと坂本先輩のことを

 大切に思ってる筈にゃー。

 きっと大丈夫にゃ!」

 

「(雄二、君はとんでもない勘違いを

  招いていったみたいだよ…)」

 

***********************

 

 

【ことりside】

 

結局、皆には言わずここに来てしまった。穂乃果ちゃんにも、海未ちゃんにも言わずに。

…けど、これでよかったと思う。

もし今、二人に会っちゃったら私は留学するのを諦めちゃうと思うから。

 

「早く来すぎたかな…?

 まだ時間余っちゃったなぁ…」

 

時間は早く行動して損はないってあの人が言ってたっけ。

早い時間から召喚獣の練習に付き合ってくれたなぁ…

ごめんなさいって言いたかったな。

 

『次の便が発進いたします。

 ご乗車の方は機内にてお待ちください』

 

「あっ…」

 

皆との、彼とのことを思い起こしていたらもう時間が経っていた。

私はトランクケースを持って飛行機に向かう。

 

…けど、そんな中で聞こえるはずのない声が聞こえた。

 

「南……南!」

 

違う、あの人の声が聞こえる筈がない。

 

「いや、目の前にいるぞ。

 俺は亡霊でも死霊の声でもねーぞ」

 

「ひゃあっ!?」

 

目の前の柱に寄りかかっているのは確かに坂本君だった。

 

「坂本君!?どうしてここにいるの!?」

 

「見送りだ。

 理事長が今日が出発だって言ってたからな」

 

「(お母さん…どうして…)」

 

皆には言わないでって言った筈なのに…

 

「…最後まで迷惑かけちゃったね」

 

「おいおい、向こうでもそうやって

 誤り続けて生きてくのか?

 もっと胸をはれよ」

 

「…ありがとう」

 

これ以上話しているのが辛かった。

どうせ別れてしまうなら思いが強くならないうちに離れたかったから。

 

「お見送りありがとう。

 私、もう行くね…皆によろしくね」

 

冷たいけど、私はトランクケースを持って飛行機に走りだそうとした。

でも、できなかった。

 

「坂本君、離して…?

 飛行機に遅れちゃうよ…」

 

私の腕を坂本君が掴んでいたからだ。

 

「南、これは本当にお前がやりたい

 ことなのか?」

 

その一言で私は一瞬戸惑った。自分の心を見透かされているような、そんな考えが頭に浮かんだ。

 

「そうだよ…?だから、もう行かせて」

 

「……」

 

そう言っても坂本君は手を離してくれない。

 

「ねぇ、坂本君?どうしたの?」

 

「もう一回聞く。

 これは本当にお前がやりたいこと

 なのか?

 お前が心から望んだことか?」

 

「だからそうだって──」

 

私は力任せに腕を振り解こうとする。けど、坂本君の力に私が勝てるわけがなかった。

 

「お願い、坂本君…もう行かせてよ。

 私のことは放っておいてよ!!」

 

お願いだからこれ以上、私の気持ちを出させないでよ…

そう心で必死に叫びながら伝える。

 

「どうして坂本君が私の邪魔をするの!?

 私のしたいことを応援してくれるって

 言ってくれたのに!!」

 

空港であることも気にせずに私は叫んでいた。

心ではなく、声で。

 

「応援…してよっ…!!

 行ってこいって、あっちに送ってよ!!

 諦められなくなっちゃうでしょ!!」

 

「何を諦めるんだ?

 今本当にやりたいと思っていることをか?」

 

「私のわがままで穂乃果ちゃんの夢まで

 壊したくないの!!

 ずっと近くで見てきたんだよ!?

 ずっと前向きに頑張ってるところを!」

 

「やっと心からの声を出したな」

 

「えっ…?ちがっ……これは…」

 

私は叫んでいた中で自分がやりたいことと行っていた留学を否定したことを思い知らされる。

 

「(私は…どっちが嘘なの…?)」

 

自分でもどっちが本当にやりたいことなのか分からなくなっていた。

 

「どうして…応援してくれないの?

 あのときも、今回も……」

 

私は一度、坂本君に助けを求めた。

そのときはスクールアイドルを続けたくて、坂本君に相談しようとした。

けど…

 

『自分の私情を混ぜてなんて中途半端な応援はしたくない。俺のためにも、お前のためにも』

 

そう言って断られてしまった。

あのときから私はスクールアイドルを続けることを諦めた。

 

「なら坂本君はどっちの夢なら応援

 してくれるの!?

 分かんないよ!!坂本君が言ってること!!」

 

「今この瞬間、お前が心からやりたい

 と思う方を選べ!!

 他人のことなんか──」

 

『おい、お前!!何をやっている!!』

 

騒ぎを聞いていた警備の人達が駆けつけてきた。

警備の人達は私から坂本君を離して腕を拘束した。

 

「クソ!!離しやがれ!!」

 

『大人しくしろ!!』

 

「ぐあっ…」

 

坂本君は地面にねじ伏せられた。頭を抑えられて苦しそうにしている。

私はその場にいるのが怖くなった。

 

「っ…」

 

「ま、待て南!!」

 

私は坂本君が数人係りで押さえられている間に

トランクケースを持って走り出した。

 

「(ありがとう。

  こんなずるい私のために傷ついて

  くれて…)」

 

そして最後に一言だけ、残した。

 

「こんなずるい私だったけど、

 …大好きだったよ」

 

これで言いたいことは言えた。この気持ちにだけは嘘はつけなかったから。

私は走り出した。

 

「南!!」

 

彼の声が聞こえる。

ううん、もう聞いちゃ駄目だ。

 

「南!!」

 

その声と共に私の腕がまた引っ張られた。

その暖かさはさっきまで私に触れていた温度。

「えっ…!?」

 

振り替えると、倒れている数人の警備の人達がいた。

そして自分の手を掴んでいる人がいた。

 

「どれだけずるくても、わがままでもいい!!

 お前の本当に『大好きなこと』をやれ!!」

 

「!!」

 

傷ついた状態でそんなことを言う彼。

そんな言葉だけで彼は私の冷えてしまっていた心を暖めてくれた。

優しく溶かし尽くしてくれる。

 

「どうして知ってたの…?」

 

私は坂本君に自分が本当にやりたいことを伝えられなかった。なのに何故私の気持ちが分かるんだろう。

 

「…やりたいことを語っているはず

 なのに泣きながら言われても説得力

 ねぇっての」

 

「え…?私、泣いてる…?」

 

「そんなモン見せられたら誰だって

 分かるだろうよ。

 …ずっと一緒にいたμ'sの奴等なら

 尚更だろ」

 

坂本君はそう言って地面に足を崩す。

大人の警備員を何人も相手にしていたのだから流石に坂本君でもただではすまなかった。

 

「どうしてこんなになるまで…」

 

「教えてやる。

 俺の私利私欲に溢れた身勝手な理由をな」

 

空港であることも気にせずに坂本君はその場に座る。

 

「最初は自分のせいで南を誤解させて

 ひとりで抱え込んでさせてしまった

 ことに対する罪悪感と責任感から

 お前を連れ戻そうとしていた。

 だが、今はそんなことはどうだっていい。

 ただ、お前が自分の気持ちに嘘を

 言い聞かせたままいなくなっちまうの

 が嫌だった。

 …そうだな、これはただの自己満足だ」

 

坂本君は切れた唇の血を手で拭う。

 

「だが、それでもいい。

 お前との約束を果たせるなら、

 偽善者にでも、悪人にでもなってやる。

 俺が言った全力で応援してやるって

 言葉を撤回するつもりはない」

 

「そんなことされる価値、私にはないよ…

 私はどうしたらいいの?教えてよ、坂本君…」

 

「『俺たち』に教えてくれ、南。

 お前の本当の気持ちを」

 

「俺たち…?」

 

「雄二!!南さん!!」

 

私達の周りに出来ていた人ごみを通り抜けてきた人達がいた。

 

「遅せぇぞ、遅刻だ」

 

「ほんと、時間にうるさいね、雄二は」

 

「吉井君…?どうして…」

 

「僕だけじゃないよ。ほら」

 

「ことりちゃん!!」

 

「え…穂乃果ちゃん!?」

 

穂乃果ちゃんは私に向かって走ってくる。

止まらなかった穂乃果ちゃんを私は無意識のうちに腕に抱き止めていた。

 

「ことりちゃん、ごめん!

 こんなの穂乃果の身勝手だって

 分かってるけど、私はまだことり

 ちゃん一緒にと歌いたいの!!

 明久君たちもいなくなっちゃう中で、

 ことりちゃんまでいなくなっちゃう

 って考えたら怖かった、嫌だったの!!

 けど、やっぱりμ'sは全員いないと

 駄目なんだって思えたの!

 もう、逃げないから!自分の気持ちから!

 だから、行かないで、ことりちゃん!!」

 

「穂乃果ちゃん……」

 

なんだ。こんなに簡単なことだったんだ。私のやりたいことは最初から決まっていたんだ。

 

「穂乃果ちゃん、ごめんなさい…

 私だって自分の気持ち、分かってたのに…

 私はμ'sの皆のために衣装を作って、

 一緒に歌いたい…だから留学なんてしない!!」

 

私は穂乃果ちゃんを抱き締めたまま、泣いてしまった。

内に閉じ込めていた気持ちが爆発してしまった。

 

「ありがとう、穂乃果ちゃん……」

 

私はやっぱりずるい子だね。

けど、そんな私でも許してくれる人がいた。

それを教えてくれたのはこのμ'sという私の本当の居場所だった。

 

 

 

【雄二side】

 

「明久」

 

「なんだい?雄二」

 

抱き合ったまま泣き合う二人を見ながら俺は明久に語りかける。

 

「予定より来るのを送らせたのは

 何を見越してのことだ?」

 

「不器用な雄二のことだから南さんに

 気持ちを伝えるまでが時間がかかると

 思ってね。ほんのちょっと遅れさせて

 貰ったよ」

 

「へっ、余計なことしやがって」

 

俺は明久に肩を貸してもらい、立ち上がる。

そして一言、これだけ言った。

 

「最高のタイミングだ、馬鹿野郎」

 

「そっちもお疲れ、色漢」

 

俺たちは互いの拳を合わせる。

そして、最後の仕事に向かうのだった。

 

 

 

 

「おいおっさん!もっと飛ばせねぇのか?」

 

『ま、不味いですよ!これ以上は!』

 

俺たちはタクシーに乗り込んで音ノ木坂を目指していた。

だが、なかなか到着せずにいた。

 

『駄目です!この先は渋滞です!

 お客さんが指定した時間には到着

 できそうにありませんよ!』

 

「渋滞だぁ!?このクソ忙しいときに…!!」

 

「どうするの?坂本君?」

 

南が不安そうにしていた。それは一緒に乗っていた高坂も同じだ。

 

「っ…

 やべぇ、とんでもねぇ無茶

 思いついちまった」

 

「雄二?」

 

「明久、秀吉たちに連絡しとけ。

 必ず高坂たちを届けるから時間を

 伸ばせと」

 

「わかったよ。

 あ、秀吉が曲はどうする?だって」

 

「オープンキャンパスで使わなかった

 一曲を頼むと言っておいてくれ」

 

「OK!」

 

明久は秀吉に連絡をし始めた。

 

「坂本君、これからどうするの?」

 

「行くんだよ、音ノ木坂に俺たちの足で」

 

「えぇっ!?」

 

「おっさん!!ここで降りる!

 会計はこいつで、釣りはいらん!!

 ここまで無茶してくれた礼だ」

 

『えっ!?ちょっと!?』

 

俺たちはそう言うとタクシーを降りる。

 

「雄二、連絡取れたよ!

 少しだけしかもたないから急いでってさ」

 

「分かってるっての。

 康太が全力で準備してくれたステージ、

 無駄にするわけにはいかねぇ。

 行くぞ!」

 

「けど私達の足じゃあ…」

 

「違うぞ南、お前らの足じゃない。

 俺と明久の足だ」

 

「えっ…?それって…」

 

「乗って、高坂さん!」

 

「お、おんぶ!?けどそれじゃあ…」

 

「いいから!

 高坂さんたちはライブの体力も残して

 おかないといけないんだから!」

 

「そういうわけだ、乗れ、南」

 

「えぇっ!?けど坂本君怪我してるし…」

 

「もうタクシーで充分に休んだ。

 こんなときくらい、マネージャーを

 信じてくれ」

 

俺と明久は有無を言わさずに二人を背中に乗せて走り出した。

長い道のりを止まることなく。

 

***************

 

 

【にこside】

 

「ううっ…緊張する」

 

花陽が両手を合わせてそう言う。

 

「て言うか凛たち、私達制服のままだよ!

 このままでライブするの?」

 

「スクールアイドルっぽくていいんじゃない?」

 

真姫の言うとおり、スクールアイドルが制服でライブをするのはあり得ない話ではない。

けど、肝心のメンバーがまだ揃っていなかった。

 

「…すまん、明久からの連絡だ。

 あともう少しだけ耐えてほしいそうだ」

 

「明久たちは間に合うの?」

 

「大丈夫です、にこ先輩。明久たちは絶対来ます」

 

土屋からの連絡に私たちは不安になる。

時間は刻一刻と迫っていた。

 

「そう言っている間にもう時間やけど…」

 

「お客さんを待たせるわけにはいかないわ。

 木下君の方もそろそろ限界なんじゃ……」

 

木下は客席の人たちに遅れているということを伝えていた。なんとか時間を稼いでくれているけど、そう長くは持ちこたえられない。

 

「(お願い、間に合って明久…!)」

 

そう私が思ったときだった。

 

「「「「うわぁぁっ!?」」」」

 

裏口のドアが勢いよく開いた。

まさか、と思って私は裏口を見た。

 

「な……何やってんのよ、アンタたちは!?」

 

「あぁ…先輩。どうも。只今戻りました……」

 

そこには汗でびしょびしょになった明久と坂本が背中に二人を背負ったまま倒れていた。

 

「み、皆…お待たせ~……」

 

「穂乃果!!」

 

「お待たせ!」

 

「ことりちゃん!よかったにゃ、間に合って!」

 

明久の背中には穂乃果が、そして坂本の背中にはことりがいた。

 

「よくやったのぅ、明久!

 流石はワシが見込んだ男じゃ!」

 

木下が倒れている明久を抱える。

ちょっと、何してんのよ!?

 

「ひ、秀吉…困るよそんな…今すぐ結婚しよう」

 

「ワシは男じゃ!」

 

部活では日常茶飯事だった二人のやりとりが久しぶりに見られた。

 

「…雄二、席は取っておいてある。

 そこでゆっくり休め」

 

「あぁ、すまない。康太、水をくれないか?

 流石に数10キロはキツかったぜ……」

 

土屋はそう言われると坂本に水の入ったペットボトルを渡した。

 

「じゃあ、全員揃ったところで、

 部長のにこっちからライブ前の一言を!」

 

「えぇ!?何よ、その無茶ぶり!」

 

希は私にそう言って少し意地悪そうに微笑む。

 

「…なんてね。このときに言うことはもう考えてあったの」

 

私はそう言って手を皆の前に出した。

皆は私の手の上に自分の手を乗せてくれた。

 

「今日みんなを一番の笑顔にするわよ!」

 

私は穂乃果の目を見てウィンクした。

ここからは、アンタの仕事よ。

 

「よーし!!やろう皆!」

 

『μ's、ミュージックスタート!!』

 

私たちは手をステージの天井に向けて上げた。

明久たちがここまで用意してくれたステージ、大成功させなきゃ笑って終われないわ。

 

「(大成功したそのときは明久に思いを伝える。

  ここまで一緒に来てくれた明久に…)」

 

***************

 

【明久side】

 

高坂さん達はステージに立った。

 

ステージのカーテンが開く。

開かれたその先には大勢のお客さんが居た。

僕たちは観客席に座って始まるのを待つ。

 

「私達のファーストライブはこの講堂でした!

 その時私は思ったんです!

 いつかこのステージを満員にして見せるって!

 この想いをいつか、みんなに届けるって!

 だから私達はまた駆け出します!新しい夢に向かって!」

 

皆で用意した最高のステージの上で高坂さんはこう言った。

 

「これから歌う曲は私達の始まりとこの先を

 描いた曲です!

 聞いてください!」

 

『MOMENT RING!!』

 

本来はオープンキャンパスのとかに使う予定だった曲。

だが、その曲を歌う皆はオープンキャンパスのときよりもずっと綺麗で楽しそうだった。

 

******************

 

 

 

 

「終わったね…」

 

「そうじゃな。

 これでワシらもこの学園にはいられないのじゃな」

 

「…名残惜しいが仕方ない」

 

ライブが終わった後、僕たちはある場所に向かっていた。

雄二が大事な話があるらしい。

そして道の途中で雄二は足を止めた。

 

「それで雄二、わざわざこんなところに連れてきた

 理由は何?」

 

「あぁ、そのことなんだが…

 お前ら、この学園に残りたくはないか?」

 

その言葉は僕たちに衝撃を与えた。

 

「そんなことができるの!?一体どうやって…」

 

「理事長から聞いたんだがな。

 この試験生徒ってのは転校する前の学校と

 転校した後の学校の両方に名前があって、

 片方の名前が学校の名簿から消えたそのとき、

 初めて片方の学校の生徒になるらしい」

 

「けど僕たちの名前って文月学園から

 消されたって転校を知らされたとき、

 ババァ長が言ってたよね?

 じゃあ音ノ木坂の生徒になるんじゃないの?」

 

「いや、試験生徒という肩書きでいる間は両方の

 学校に所属していることになる。

 あのときババァが言ってたのは俺たちの転校の

 退路を無くすための出任せだ」

 

「…あのババァ、許すまじ」

 

康太が殺意に満ちていた。

 

「さて、問題だ明久。

 俺たちがこの二つの高校に所属している状態で

 文月から名前を消したらどうなる?」

 

「試験生徒制度が適用されて…

 自動的に音ノ木坂の所属になる…!?」

 

「正解。

 ならば、自分から名前を消すにはどうすれば

 いいと思う?」

 

「……まさか、お主やるつもりか?」

 

「あたぼうよ!!お前ら───」

 

秀吉の勘が働く。

そして雄二はニヤリと笑みを浮かべてこう言った。

 

「リアルファイト、しようぜ?」

 

****************

 

 

 

【文月学園】

 

「さて、そろそろかね」

 

「はい。学園長。

 音ノ木坂から吉井君たちの名前が消去されるまで

 一時間を切りました」

 

「ま、使えない馬鹿も役に立ってくれたってことさね。

 何か褒美くらいはやりたいもんだがねぇ…」

 

二人が学園長室で来るべき時間を待っているときだった。

部屋の外が騒がしくなっていることに気がついた。

 

「なんだい、こんなときに……なっ!!」

 

学園長の藤堂カヲルがドアを開けると、そこには真っ赤な液体で赤くに染められた廊下の姿があった。

 

『あー、あー、聞こえるか?このクソババァ』

 

「この声!坂本かい!?」

 

放送室から雄二の声が聞こえる。

すぐにカヲルは放送室に職員を送り込んだ。

 

『散々俺たちを騙してくれたみたいじゃねーか。

 この落とし前、どうつけてくれるんだ?』

 

雄二のドスの聞いた声が全校放送として響く。

 

「が、学園長!大変です!」

 

「なんだい!?どうした!」

 

「学園の放送室を職員が確認したところ、

 どうやら放送室からではなく、ハッキングで

 外部から放送をしているようです!」

 

「土屋の仕業かい!」

 

『これから仕事の完遂を祝って、

 諸君に観察処分者の力を見せてやろうと

 思ってな』

 

カヲルがあわてている間にも雄二の放送は続く。

 

『俺たちの召喚獣は全部観察処分者仕様だ。

 俺たちが明久と手を繋いでる限りはな』

 

花陽との一見で観察処分者の仕様は移すこともできると分かった雄二はこれを利用した。

 

『ちなみに俺たちの召喚獣は全員

 水性インクバズーカを持っている。

 こいつを学園中にぶちまけてやるから

 楽しみに待ってろよ、クソババァ』

 

「おのれ、アイツら試験生徒の制度を知ったっていうのかい!

 だから教えないでおいたってのに…」

 

「彼らはまさか自分から文月学園にある名前を消すことを

 目的として…」

 

彼女らが気がついたころにはもう遅く、学園のほとんどが雄二たちによって塗りつぶされていた。

 

 

 

 

 

「はははは!こいつはいいぜ!

 召喚獣に好きな武器を持たせることができるじゃ

 ねぇか!」

 

インクバズーカを撃ちながら雄二は叫ぶ。

 

「…敵のお出ましだ」

 

康太がそう言うと僕たちを止めようと文月の生徒が待ち構えていた。

 

「作戦どおりにいくぞ!

 俺が盾を持って前に出る。

 後ろからバズーカ持ってついてこい!」

 

「「「了解!」」」

 

召喚獣が直列に並び、盾を持った雄二の召喚獣が前に出て攻撃から守る。

その後ろから僕たちがバズーカを放つ。

そう!このフォーメーションの名前は……

 

「「「「ジェットストリームアタック!!」」」」

 

黒いインクを放つ僕たちの召喚獣。

敵の召喚者に向けて放たれたそれは相手の視界を奪う。

 

「はははは!どうだ!敵の召喚獣に対して攻撃する?

 そんな古典的な戦いかたで俺たちに勝てるわけねぇだろ!」

 

「!!雄二、前!!」

 

「何っ!?うわぁぁっ!」

 

雄二の召喚獣の前に豪腕が振るわれた。

その一撃は地面を抉るほどに強い。

僕たちが知るなかでそんなことができる人物は一人だけだった。

 

『そうかそうか。

 観察処分者仕様なら自分で作った武器も

 持たせられるのか』

 

目の前には巨大なアトミックバズーカ…ではなく花火を持った召喚獣がいた。

 

「て、鉄人!?どうしてここに!?」

 

「貴様らが馬鹿な動きをしないかと思い、

 文月で待ち構えていて正解だった。

 貴様ら、今日という今日は覚悟できているんだろうな?」

 

「ま、待て鉄人!

 そんなバカデカイ花火撃ったらフィードバックで死ぬ!」

 

「安心しろ。痛みは一瞬だ。

 そして、盾を持って前線にでている坂本、お前だけだ!」

 

「ふざけるな!!

 たかが花火ひとつ、明久で押し出してやる!」

 

「な!?やめろ雄二!!あっ、康太たちまで!

 逃がすか!」

 

「…お前らでなんとかしろ」

 

「さすがにあれをまともに喰らうほど

 ワシもお人好しではない!

 退散させてもらいたく──」

 

争っている間に鉄人は花火をこちらに構えていた。

 

「すべては貴様らにこの落書きを落とさせるために! 

 文月学園よ!私は帰ってきたぁぁぁ!!」

 

「「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?」」」」

 

僕たちの召喚獣は星の屑となった。

 

そして、しばらくしてこんな紙を渡された。

 

 

 

以下の者を文月学園から

 

退学処分とする。

 

 

 

吉井 明久 坂本雄二 木下秀吉 土屋康太

 

 

 

「「「「任務、完了………」」」」

 

 

目的を達成した僕たちは満足そうにそう言った。

 

*****************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、何ですか?話って」

 

「う、うん。来てくれてありがと……」

 

「なんで改まってるんですか…」

 

僕はあの戦いの後日、先輩に呼び出されていた。

なんでも、話したいことがあるらしい。

 

「明久、アンタにはたくさんのことを教えてもらったし、

 大切なものをいっぱいもらった。

 だから、お礼が言いたかったの」

 

「先輩…」

 

「ありがとう。いつも私を助けてくれて」

 

普段の先輩とは違った少ししおらしい姿にこっちが恥ずかしくなる。

多分、他人には見られたくないような顔になってると思う。

 

「明久、私はそんないつも助けてくれる

 アンタのことが──」

 

先輩が何かを言おうとしたそのときだった。

 

「明久くぅぅぅぅぅん!!」

 

「こ、高坂さん!?」

 

高坂さんが凄い勢いでこっちに走ってきていた。

 

「な…なんかこっちに突進してきてない!?」

 

「こ、高坂さん、ストップ!ぶつかるーーー」

 

衝撃に備えて僕は目を閉じていた。

が、その衝撃は訪れることがなかった。

目を開けて見ると高坂さんが目の前で止まっていた。

 

「あれ…?高坂さん…?」

 

「あ、明久君………」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか頬に高坂さんの手が

添えられており、唇に柔らかい感触が重ねられた。

その行為がキスと呼ばれるものだと気づくのに時間は掛からなかった。

 

「こ、こ、こ、高坂さん!?何を!?」

 

「えへへ…キス、だよ?」

 

「いやいやいや!どうしていきなり!?

 それにこういうことはちゃんと

 好きな相手とーー」

 

「なら問題ないよね?」

 

「え…?」

 

「私は明久君のこと、大好きだよ?

 ちゃんと言うと結婚したい、とか

 お嫁さんになりたい、とかそういう

 意味の大好きだよ!」

 

「「はいぃぃぃぃぃぃ!?」」

 

その場にいた僕と先輩の声が揃った。

 

「おいどうしたってんだ南!?

 なぜそんな輝いた目で俺の後ろを

 着いてくる!?」

 

「まだあのときのお返事聞いてないよ?

 空港で言ったこと、本気だったんだよ?」

 

「だからって何故追いかけてくる!?

 俺はこんなラブコメ求めてねぇ!」

 

「もーっ、逃げるなら…

 ことりのおやつにしちゃうぞーっ!」

 

「あぁ、なんでこうなるんだ!」

 

あっちはあっちで大変なことになってるし、強く生きろよ、雄二。

 

「まったく、お主は他人事のように…」

 

「へ?どういうこと?秀吉?」

 

「…お前も例外ではない。

 ほら、あそこを見ろ」

 

「ん…?げぇっ!?」

 

そこには一連の会話と行動を見ていたμ'sの皆様がいた。

 

「明久、穂乃果…

 貴方たちは…学園内でなんてことを…!」

 

「ハ、ハラショ~…

 日本人は挨拶でキスをするのね…」

 

「しません!しませんから!!」

 

普段μ'sの中での常識人である園田さんと会長はショートしてしまっていた。

 

「穂乃果ぁぁぁ!!

 アンタ、よくも私が大事な話を

 しようとしていたときにぃ!!」

 

「あれ?ひょっとしてにこちゃんも

 明久君のことが好きだっtむぐっ!?」

 

「ちょっと!!

 なんでアンタはそうやって思ったこと

 を全部話しちゃうのよ!!」

 

そう言って高坂さんの口を塞ぐ先輩。

 

「にゃん…にゃん……にゃん………」

 

「録画しましたよー…シマシタヨー…」

 

駄目だ、凛ちゃんも小泉さんも壊れてる!!

 

「本当に何やってるのよ…

 たかがキ…キスくらいで!!」

 

「真姫ちゃんは大人やな~。

 …あ、ごめん。手がうっかりー」

 

「ひゃっ!?ちょっと!?」

 

「い、いきなりなんじゃ西木野!?

 突然ぶつかってきおって!?」

 

「ちょ、ちょっと!?

 いきなりそんなに近づかないでよ!」

 

「ぶつかってきたのはお主の方じゃろ!?

 ワシは無実じゃぁぁ!!」

 

「あっ、ちょっと!!

 なんで逃げるのよ!!待ちなさぁぁぁい!!」

 

秀吉、君も苦労しているんだね…

 

「やっぱりこのメンバーは楽しいわぁ。

 これから先どうなるかウチでも

 わからんなんて、な」

 

副会長はそう言って何も書かれていないカードを取り出す。

 

「…だが、わからないからこそ楽しめる。

 そういうことがあってもいいはずだ」

 

「そうやなぁ」

 

あの、副会長に康太君や。

見物してないで助けてくれませんかね?

 

「くそっ!こうなったら最終手段だ!!

 明久を身代わりとして逃げる!!」

 

「なっ!?自分だけ助かるつもりか雄二!

 そうはいくか!!

 貴様も一緒に死んでもらう!」

 

「ぬかせ!明久!!

 あのときのタイマンの続き、今ここで

 やってやる!!」

 

「上等だ雄二!!

 相棒だからって手加減はしないからね!!」

 

「「試獣召喚(サモン)!!」」

 

僕と雄二の召喚獣が同時に現れる。

音ノ木坂にある試験召喚システムから僕たちの召喚獣が呼び出された。

 

 

 

【にこside】

 

「まったく、何やってんのよ、あいつら」

 

目の前には召喚獣で戦う二人のバカの姿があった。

 

「(もう、結局明久に言いたいこと

 言えなかったし…どうするのよ…)」

 

穂乃果は明久に思いを伝えた。

あんなにも正直に。私にはできないことだと思う。

 

「(なんて伝えればいいのよ…

  海未も、花陽も、絵里も、多分凛

  も同じこと考えてると思うけど…

 これ以上出遅れると大変なことに

 なる…気がする)」

 

私は穂乃果みたいに素直に思いを伝える勇気はないし、明久と一緒にいられる時間も少ない。

 

「けど……

 アンタを好きって気持ちは誰にも

 負けたくないから…!!

 試獣召喚(サモン)!!」

 

私の召喚獣が出てくる。

そしてその武器を坂本の召喚獣に向ける。

 

「うおっ!?何すんだ部長!?」

 

「先輩!?どうして…」

 

「アンタに聞きたいことが山ほどある

 から、こんなとこで死なれたら困るのよ!」

 

「フィードバックはあるけど

 死にませんからね!?」

 

明久が叫ぶ。

 

「それならことりも、坂本君には

 聞きたいことがあるから、参加するね。

 試獣召喚(サモン)!!」

 

ことりの召喚獣が出てくる。

あれが噂に聞く制御不能の召喚獣ね!

相手にとって不足はないわ!!

 

「ほら、なにしてんのよ明久!!

 行くわよ!!」

 

「分かりました!覚悟しろ、雄二!!」

 

「へっ!!

 コンビネーションの勝負なら俺たちが

 負けるわけねぇだろ!!

 行くぞ、南!!」

 

「はーい!」

 

 

 

 

 

 

 

明久、私はアンタのことが好き。

この気持ちを伝えられるのはいつになるかわからないけど、この気持ちは誰にも譲れない。

 

もう少しだけ待ってて。

 

この楽しく馬鹿をやっていられる日常の中で、きっと伝えてみせるから!

 

「それまでは一緒にいてよね!

 この、音ノ木坂で……

 バカと、9人の女神と、召喚獣が

 いるこの場所で!!」

 

 

 

 

バカと9人の女神と召喚獣 first season

 

« The END»

 




次回から二期に入ります!

あと復活ライブの曲を『MOMENT RING』に変更してます。
あと途中の穂乃果とμ'sの再会の台詞で何か気づきましたか?
気づいた人はすごいですよ!
そしてさらっと登場したずら丸とヨハネちゃん。

一期完結に感謝を込めて、ここまで応援してくれた方々、ありがとうございました!


今回もありがとうございました!

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