残念イケメンと劣等生   作:ライトフォレスト

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随分お待たせしましたことお詫び申しあげます。
最近、なかなかタイプが進まないもです。言い訳ですが、そろそろ人生の分岐点とも言える行事があるのでその不安でしょうか?いいえ、何もしてないのしそれは無い・・・こともないのですが、これから更新が遅くなることが予想されます。ですのでどうかその辺りはご容赦お願いしたいところでございます。



そして唐突ですが、



素材ドロップ確率増加の礼装はよ(紙片が・・・紙片がぁぁぁ)


ではどうぞ


15話 偏心と変心

報告書を提出をしたその日の放課後。隆は軽やかな足取りで生徒会室に向かっていた。鼻歌のテンポに合わせて軽くステップを踏み、薄い桃色の肩掛けを握る指は小指が上がっている。窓の向こうは雲で太陽が隠れ、隙間から覗く空は青い顔で1人を伺う様にも見える。

 

通りすがる生徒は思わず振り返る。

その不気味さに。

現在、隆は気分が高揚している。と言っても体を激しく動かしてはしゃぐことも、奇声を発して感情を露わにすることもない。滲み出すことはあるが。

無邪気な微笑みながらもどこか闇を帯びた生徒は今日も仕事に急ぐのであった。

 

 

 

 

その後、真由美に手渡された書類と映像を元に、CADの不適正利用を働いた生徒はそれぞれ厳重な罰則を科せられた。

 

 

 

 

某所〜

 

「情報を集めてきた本人が言うのだからそうとしか言いようがない」

 

「・・・そうですか」

 

「闇討ち減るよ!やったねたっちゃん」

 

「おいバカやめろ」

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

それから1週間。

部活動勧誘期間も終わり、本格的な実習も始まり魔法科高校の名にあった学校風景が流れ始めた。部活動に所属した者は道具を取りにロッカーへ、そうでない者もそれぞれ手荷物を持って同じ廊下を別々の目的で歩く。

いつもならば、

 

 

授業終了と放課後開始の合図でそれぞれが荷物の準備を始める。今日の授業は面白かった、実習の記録がどうだ、他愛のない会話が流れる。弾んだ声にロッカーの明るい金属音が隣りあい、傾く陽の光がそれを覗くように窓から差し込む。いつもなら、

 

 

 

ピンポンパンポン。緊急以外に鳴らさなくなったドミソドの音階。連絡であれば個別の端末に送られる時代にほとんど使われなくなったアナウンス音。

唐突な始まりは廃れてしまったお決まりも介入させないものであった。

 

 

 

『全校生徒の皆さん!』

 

 

 

 

スピーカーから流れる声とハウリングに似た甲高い音が恐らく、校内全域に大音量で放たれた。

楽しい喧騒を引き裂く不快音。多くの生徒はこの不意打ちに耳を塞ぎ、音源に非難と困惑の視線を一斉に首を持ち上げて浴びせかける。

 

そんな中でも1人冷静でいたーー美術部から借りた秘 蔵 本(BでLな本)を片手にーー者が1人。

女子の友達が増えた。雫とほのかに自作のクッキーをプレゼントしたことでクラス内の女子陣が興味を示し、仲良くなったのだ。また、別クラスの女子までも噂を聞きつけて話しかけてくるようになり、だんだんと同学年女子の輪の中心に立っていた。今読んでいるものも一科、二科に関係なくできたコネで手に入れたもの。

 

 

「あーらぁ?今日は何か催すなんて聞いていないわねぇ」

 

 

「隆さん!これは一体・・・」

 

ほのかは視線を上下に切り替えながら雫を傍らに隆の元へとやってくる。いきなりの放送に、何か学校側が連絡をするのと違った別の様子を全開で見せる頭上の声に一抹の不安を覚え、何か知ってる可能性のある生徒に声をかけたのだった。同様の考えを持ったのはもう1人。隆の同僚、深雪。

 

「私もサッパリだわ・・・深雪ちゃんも同じ、多分生徒会にも知らされてないわ。とりあえず話を聞いて見ましょう」

 

頷いた3人は教室正面やや上の音源に視線を向ける。非難、不安に加えて、危惧の注目が集まった。

 

『・・・失礼しました、全校生徒の皆さん、僕らは学内の差別撤廃を目指す有志同盟です!』

 

「あらあら・・・」

 

教室内の非難の色が一層濃くなる。差別撤廃?笑わせるなよ雑草(ウィード)が。意識高い同級生の声が部屋の雰囲気を最高潮にまで高める。そうでもない生徒の心にチクチクと痛みを与え始める。

隆は辺りを見渡してため息をつく。なんと流れに染まりやすいのだろうか、この中に一体どれだけその格差を見て知る人間がいるのだろうか、現在の魔法実技の測定に当てはまらない優者が劣等者として紛れていることを知る者はどれだけいるのだろうか。考えを巡らせ呆れの短息を吐き出す。

 

 

『僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します。』

 

「きっと生徒会から連絡が入るわね・・・」

 

隆の呟きに応えるように、この場の2人の端末に連絡が入る。

 

『生徒会より 放送室前に今すぐ集合』

 

「私は少しやる事があるから深雪ちゃん先に行ってて。多分達也君も向かってるはずだわ」

 

「わかったわ靏君。また後で」

 

「2人とも気をつけてね」

 

深雪の行動は早かった。緊急の集合なのにどういう事だろうか、などという言葉を送るつもりはない。教室を出た深雪を見送ると同時に隆も見渡した時に、気になった生徒に近づく。

 

「・・・あなたも来る?」

 

声を掛けられた森崎は椅子から何も言わずに立ち上がる。そして隆に正面を向いて目で相槌をうつ。

それを確認した隆も満足げに微笑み、身を翻して教室を出て行く。

 

「・・・森崎君も変わったね」

 

「うん、いい方に」

 

女子2人の呟きは物知らぬ者共の喧騒に掻き消えて届かなかった。が、がらんとした廊下を力強く進む2人の大きい背中をそっと押したように歩幅は大きくなった。

 

 

差別撤廃。

一科生と二科生の壁をなくすのか一科生としての優越感、二科生の劣等感を無くすのかどちらかわからない。だけど放送室にいる先輩の話を、二科生でもイリーガルな強さと精神を持つアイツの考えを聞いてみたい。

かつて学校の風潮に凝り固まっていた自分だからこそ、こいつに付いて来た。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「・・・多少強引でも短時間の解決を図るべきだ」

 

「申し訳ありません。遅れました」

 

放送室前に2人がついた時には十文字、摩利、鈴音が。そして部活連と風紀委員の実行部隊が揃っていた。先に行くよう告げた深雪も達也の隣でキョトンとしている。

 

「森崎、お前には連絡を入れていないはずだが」

 

隆のうわべだけの謝罪を受け止めて自身の疑問を投げつける摩利。厳しく聞こえる言葉だが本人には悪気はない。投げつけられた森崎も動じなかった。が、答えたのは隆。

 

「荒事になることを予想して私の勝手な判断で連れて来ました。」

 

「・・・そうか」

 

隣の森崎の目を見た摩利は何かを悟ってそのまま流した。

同じく達也も深雪も、果ては十文字まで、森崎の静かに力強い瞳を見て黙する。ある者は意外に、ある者は差異を感じ、ある者は納得して、森崎の参加を黙認した。

 

 

放送が流れていないということは放送室の電源は落としたのよね・・・閉ざされた放送室の扉。強行突破をするべきという渡辺先輩の意見。相対していたのは鈴音先輩。鈴音先輩は慎重に、渡辺先輩は早急に強行突破と意見は分かれているみたいね。

 

んー、交渉を要求するために学校の施設に立て籠もるのは色々間違ってると思うんだけど・・・まあいいわ、そんなことより。

 

 

「「十文字会頭はどうお考えですか?」」

 

隆と達也、同時に同じセリフが重なり問いかけられた相手どころか、その場にいる全員が驚いたように2人を交互に見やる。目上の先輩に対して出過ぎたような真似を誰も咎めはしない。その時間すらも惜しい状況でだ。

 

「俺は彼らの要求する交渉に応じても良いと考えている。元より言いがかりに過ぎないのだ。しっかりと反論しておくことが後顧の憂いを立つことになるだろ」

 

「ではこの場はこのまま待機しておくべき、と?」

 

達也の問いに隆は同調するように十文字を見つめる。

 

「それについては判断しかねている。不法行為を放置すべきではないが、学校施設を破壊してまで性急な解決を要するほどの犯罪性があるとは思われない。学校側に警備システムから鍵を開けられないか問い合わせてみたが却下された」

 

達也は一礼をして引き下がる。摩利の攻める視線が達也を襲う。

 

「そういえば、中の生徒とコンタクトは取れたのですか?」

 

隆が軽く手を上げて質問する。

 

「いや、『交渉に応じるまで動かない』の一点張りだ」

 

「中の人間は話を聞く気は無い・・・のですか。誰か相手方で話を聞いてくれる人に仲介をお願いしてみましょう。ね?達也君?」

 

達也に一気に視線が向けられる。

隆の問いにため息をつきながら達也は端末を操作し始める。

 

 

 

1・・・2・・・3・・・4・・・5・ブッ

 

 

 

「もしもし、壬生先輩ですか?」

 

集まった視線のうち何本かの色が変わった。

驚愕。この前噂が立ったばかりの相手の連絡先を持っているとは手が早い。などと考えている。

 

「それで、今どちらに?」

 

 

「はぁ、中にですか。それはお気の毒です。・・・いやいやバカにしているわけではありません。先輩も、もう少し冷静に状況を・・・はい、すみません。」

 

「それで、本題に入りたいのですが、十文字会頭は交渉に応じると仰っています。生徒会長の意向は未確認ですが」

 

話を聞き漏らさないために話に集中している数人の生徒のうち鈴音は大丈夫だと達也に合図を送る。

 

 

「・・・いえ、会長も同意です。

ということで、交渉の日時や場所、形態について打ち合わせをしたのですが・・・ええ、今すぐ。・・・いえ、先輩の自由は保証します。我々は警察では無いので、捕まえて鎖に繋ぐような権限はありませんよ」

 

では、と会話を終了すると同時に端末とユニットを元の場所にしまう。

 

「今すぐ出てくるそうです」

 

「今のは壬生紗耶香か?」

 

「えぇ、待ち合わせのためにとプライベートナンバーを教えられていたのが思わぬ所で役に立ちましたね」

 

「さすがは凄腕のジゴロ」

 

「おい、誤解を招くような言い草はよせ。というか、やっぱりあの時覗いていたな?」

 

「アラーナンノコトカシラー」

 

隆とのやりとりにすっかり緊張感が抜けた空間に達也は癖になったため息をつき、追求を早々に中断して引き締める。

 

「はぁ・・・そんなことより態勢を整えるべきだと思うのですが」

 

「態勢?」

 

何を言っているんだと摩利は疑問の表情を向け、達也は何を言ってるんだと呆れの表情を向ける。

森崎は何を言っているんだろうと首を傾げ、隆は何をかクスクス笑い始めた。

 

「中の生徒を拘束する態勢ですよ。鍵まで盗む連中です。CADはもちろん

のこと、武装している可能性もあります。」

 

「君はさっき自由の身を保証するという趣旨のことを言っていた気がするのだが」

 

摩利の質問に森崎も同意の表情で達也を見つめる。

 

「ほら、達也君は()なんて言ってないでしょ?それに達也君個人で相手と話をしていただけで何かの代表で交渉しているとも言ってないわけだし。いやぁねぇ、ちゃんと話の中身を確認しないなんて」

 

隆ともう1人意外はポカンとして達也を見つめている。

 

「悪い人ですね。お兄様は」

 

「今更だな、深雪」

 

「ふふ、そうですね。」

 

達也が振り返ると、軽ろやかで楽しげな口調に、満面の笑みを添えた深雪が立っている。

 

「でもお兄様?壬生先輩のプライベートナンバーをわざわざ端末に保存していた件にいては後ほど詳しくお話を伺わせていただきますね♪」

 

 

 

 

兄妹・・・?

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

達也の言ったように中から出てきたレジスタンスをホイホイした後、教師陣と話をつけてきた真由美によって全員解放され、交渉の打ち合わせのために真由美と連盟は生徒会室の方へ消えていった。壬生と達也の間で解釈の食い違いのいざこざがあったのは仕方のないことだが、十文字の重厚なプレッシャーに黙殺されたのはかわいそうに(お気の毒に)と思った隆であった。

 

 

 

 

 

現在隆達は自分達の教室まで移動していた。生徒会室で話し合いをする為に生徒会は一部を除いてお休みになった。いつものこの時間の賑わいは大半が帰宅するか、部活に行くか、一部の生徒は教室に残っているものの、すでにピークは過ぎていた。4人の歩く音が周囲の話し声より大きく感じる程に。

 

「今日の件、どうなるかしら」

隆はポッと出た言葉を目の前にいる2人に、隣の1人に投げかける。放送室前からここまで一切の会話がなかったのが気まずかったわけではない。

 

「壬生先輩達と会長達とで話し合った上で結論が出るだろう」

 

「そうねぇ・・・。今日のうちに結論を出して3日以内には何かするんじゃないかしらね」

 

隆の意見に達也も頷く。

 

「・・・どうしてわかるんだ?」

 

今度は森崎の質問に深雪が頷く。

 

「相手に時間的余裕を与えない為、こういうのは時間をかければかけるほど相手に有利よ。賛同者が増えると同時に主に一科の生徒の反発も膨らむばかり。『どうして早く対処しないんだ』なんて言って勝手に行動を始める人間も増える。デモ隊に反デモ隊が衝突でもしたら相手の思うツボよ」

 

頭にハテナマークを浮かべた2人は納得したように首を何度も縦に振る。

 

「ねぇ、チビちゃん。もしこの状況になったら、貴方はどっちに付く?」

 

隆の呼び方にもはや慣れた森崎は顎に手を当てて立ち止まる。達也も深雪も質問に少し驚いて隆を、ついで森崎を見る。廊下に4人だけの空間が現れる。

 

「・・・俺は・・・俺が正しいと思う方に味方する。」

 

「へぇ・・・なら、差別撤回の意見が正しいと思ったらそっちに付くの?二科生に味方して他の一科生から嫌われるとしても?」

 

「一科生とか二科生とか関係ない。そんな事に拘ってたら見えるものも見えなくなる」

 

その後すぐに俺は部活があるから、と言って走り去って行った小さな背丈の少年を取り残された3人で見送る。

達也と深雪はフリーズした体の首だけをギギギと音を立てるように振り返る。そこには満面の笑みを浮かべている隆。達也がゆっくりと口を開く。やはりこう聞いた。

 

 

「何をしたんだ?」

 

いつか聞いた質問にやはりいつか聞いたセリフが帰ってくるのみだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

畳の擦れる音と拳が空気を切り裂く音が鳴り響く。

隆は司波兄妹と別れた後にここ、MMA部員として武道場に足を運んでいた。

総合格闘技部ではなくマーシャル・マジック・アーツ部。USNA(北アメリカと周辺諸島で構成された一つの国)の海軍が考案した徒手格闘に魔法を織り交ぜた近接戦闘術。

なぜマジック・マーシャル・アーツでは無いのか?

その話をすると「おっと誰か来たようだ」のパターンに陥るので口にするのはやめましょう。

 

 

閑話休題(それはおいといて)

 

 

魔法を織り交ぜた武術、基本はやはり己が身から繰り出す拳や蹴り。新入生はまず部屋の脇で正拳突き。型を体に覚えさせるところから始める。のだが、既に武術を習得した生徒は早速技に習得に移っている。

道着に着替えた隆が立っているのは道場の中央。

本日が2日目の隆は武術経験者という事で2年の先輩と手合わせをする事になった。魔法なしの時間無制限一本勝負、先に有効打を打った方が勝利。

隆は相手と対する前、十三束に自身のつけていたヘアピンを手渡す。そのまま髪をかきあげて硬化魔法で位置を固定する。隆がお気に入りのヘアピンを忘れた時以外で髪をかきあげるのは、自身が本気を出す時。身体を激しく動かす際に、達也よりも長い前髪が邪魔になる。ストレートな分、一々髪が揺れるのが鬱陶しい。

 

 

「一年、靏隆です。よろしくお願いします」

 

「二年、沢木だ。」

 

互いが相対する。どちらも普段は着痩せするが故に道着のような一枚の服装になるとその洗練された肉体が露わになる。一切の無駄も許さない、しっかりと絞られた筋肉。そして纏っている雰囲気が両者を強者であることを無言で語っている。

審判の半ば振り上げた手でさらに引き締められた空気に飲まれて周囲のどよめきも搔き消え、手を振り下ろす時を今か今かと固唾を呑み込む音が自分達耳に嫌に残る。

もっとも、2人には既に聞こえてはいなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめっ!」

 

 

 

 

 

 

 

第1に行動したのは隆。沢木に一歩で肉薄し、拳を繰り出す。対して沢木は最低限、体の向きを変えて躱す。隆は続けて左の掌底、右の拳と繰り出すも、受け流し、躱される。隆の右の拳を躱した沢木はそのまま前進する力を乗せて肘打ちを繰り出す。隆の鳩尾に直撃する寸前、左手で受け止め、後ろに飛ぶ事で威力を殺す。

 

危なかった。

今の一撃、咄嗟に下がらなかったら防御越しでも()()()()。隆の頰を氷のような汗が伝う。別に油断などはなかった。武術を納めて五年、週に何回か暇を見つけては技を磨いたつもりであったが、奈何せん本当の強者には通用しそうもない。だが、諦めるというつもりは毛頭ない。

隆は再び沢木と相対する。隆の一手から戦いは再開した。

今度は一撃一撃を確かめるように。

 

流され、躱し、反撃を加えられる。

つくづく力の差を痛感する。こちらが本気で戦い方を組み立てても、目の前の先輩は加減込みで最小の動き、最小の力で攻撃を蹴散らす。しかも一撃毎が重い。防御すればその都度、受けた部分が痺れ、躱せばその鋭さに空の切り裂きを肌で感じる。そうこう考えている隆の拳は段々軽くなっていく。痺れた手足が自分の動きを縛っていく。攻撃の数は圧倒的に多い隆の方が追い詰められていた。

 

戦いは周囲が見ても明らか。隆の息が切れ始め、玉のような汗をかき始めた。沢木は二年の部員、いや、この部活動生でも屈指の実力を持っている。手合わせした新入生の殆どが最初の一撃で沈んでしまった。同級生でも魔法なしで沢木と対決すれば同じ結果を迎える。

だが、この新入生はどうであろうか。一撃を受けて止め、格の差を見てもなお抗い続けている。目に見えた戦いではあるが誰も目を離せないでいた。

 

 

疲れてバテているはずの隆の軽い一撃が次第に増える。

相手に反撃を許さないためか?否。隆がヤケを起こしたのか?否。

相手の隙を作るため。相手の本気を引き出そうと放っては放って、わざと作られた隙に引っかからないように、よく見極める。

打ち込む拳が次第に速度が乗り出す。

体内を巡るアドレナリンが痛みを和らげていた。隆の連打が激さを増し、沢木の余裕を少しずつ削っていく。

 

限界だ、隙を、なんでもいい、小さな隙を作る。

まだ、まだ、まだ、まだまだまだまだまだ・・・

ラッシュに少しずつ押されていく沢木。

体勢を保つために下げた足が畳の縁に引っかかった。

微かな、ほんの一瞬、気が逸れた。

それだけで十分であった。

 

 

隆は肉薄する。相手の顔すらも見る余裕すらないまま、相手に向かっていま持てる力をつぎ込んだ右の拳を突き出すーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと自分の右側に沢木先輩が顔を覗かせている。その他の生徒も視界の端入る程度には近くに集まっていた。

そしてどうやら、カウンターを食らって少しの間気を失っていたみたい。頰がピリピリする。

 

「大丈夫か。すまない、加減ができなかった」

 

そう言う沢木先輩は済まなそうに膝をついて語りかけてきた。半身を起こそうとすると激しくはない頭痛に顔を顰める。それに目の前がぼやけて見える。

 

「そう仰っていただけるだけ、嬉しいです。」

 

ゆっくりと立ち上がろうとする隆に沢木が手を差し出す。視界がぼやける中でしっかりと見えた武術家の手。一瞬キョトンとしてよく見えない手の主を見つめて、そっと自分の手を重ねる。一気に引き上げられる力に助けられて隆が立ち上がるも、脳が揺らいだのかうまく立っていられない。引っ張られたまま前に倒れかかる隆を沢木が受け止める。

 

「おっと」

 

隆の顔に火がつく。すぐに沢木から離れ、ピシャリと背筋を伸ばして直立する。気恥ずかしくて相手を直視できない。

 

「も、申し訳ありません!脳震盪がまだ抜けていないみたいです!!」

 

声も変に上がる。

おかしな様子の隆に心配をしていた沢木も口元が綻びる。

 

「ふっ、おかしな奴だな。」

 

益々顔が赤く染まる隆の背後から十三束が心配そうな顔を浮かべてやってくる。

 

「隆君、大丈夫?」

 

「ひゃい!?あ、あぁ・・・大丈夫。ちょっとふらついただけだから」

 

不意な声に驚いたものの、十三束の顔を見て少し落ち着きを取り戻す。よくよく周りを見ると他の部員が隆を見つめていた。キョロキョロしているうちに1人の先輩が歩み寄ってくる。神妙な顔で近づいてくる先輩に隆も真面目な顔になる。

 

「さっきの試合、凄かったぞ!」

 

「へ?」

 

隆は一瞬、さっきまで沢木と手合わせをしていたことを忘れ、褒められたことに疑問を感じた。思い出したとしても、不甲斐ない戦いをした自分が賞賛されるのはお門違いだと思った。が、周囲の他の先輩にも労いと褒めの言葉を千切っては投げ込まれる。

 

「魔法なしで沢木にあそこまで食い下がる奴、久々に見たぞ!!お前すごいな!!」

 

「そんな・・・褒められるようなことでは・・・」

 

たじたじの隆は取り囲み騒いでいる人垣の向こうで沢木が困ったように笑っている。どうやらこのなんとも言えない恥ずかしさから救ってくれる人はいないようだ。

5分後、ようやく解放された隆は十三束と並んでレギュラーの先輩達に技術を教えてもらうことになった。今回は沢木からMMAのいろはを教わった。

隆の熱心さと習熟度は先輩達も、隣にいる十三束までも嫉妬するほど眼を見張るものであったそうな。

 

 

 

この日就寝まで隆の頰は赤かった。いや、紅かった。

そして何を思ったか、次の日から隆の登校時間と仕事処理速度が段違いに早くなった。時間を空けて部活に向かう隆の足取りは軽やかに、通りすがる人間が思わず振り返るほど満面の笑みを浮かべていたと言う。ただ、ひたすら真っ白な、純粋な水のように澄んだ瞳を真っ直ぐとやや斜め上へと向けていた。

 

 

 

 




どうも、ここまでで切ったほうが良い気がしましたので切りました。次回は一気にメガネ兄弟をボコる事になります。


あと、今週末に投稿は難しいと思われます。
察しのいい方はどうか良くなるよう祈って頂ければ、もし同輩であれば、頑張りましょう!

ではまた。


コメントお待ちしております(ごますり)
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