とりあえずどうぞ〜
ーーーーーーーー2095年、3月
冬も終わりを迎え、気温も幾分かマシになって来た春前。
女の子の成長を祈るひな祭り、桃のなる時期ということで桃の節句と呼ばれ、お雛様の人形を飾り、女の子はその綺麗さに酔いしれ、男の子は菱餅や雛あられ、ちらし寿司を食す、そんな行事。そして各学校の最高学年生のほとんどがその学校ですべての学業を終え、それを表彰する卒業式。小中学校までは一緒だった友達やクラスメイトとは別れ、各々自分たちの進路へとまず一歩を踏み出す。やりたい事を目指して、あるいは探すために大学を目指す者、安定した職を手に入れるため専門学校へと入る者、そもそも勉強を嫌い、学校を疎みそのままバイトをしながら定職を探す者。どの道も進む人間には正解とも不正解とも覚え、違う道から見てもどちらにも捉えられる。すべての道の一旦の区切りと続きを示す月
ーーーーあ、それとホワイトデーとかいう忌々しい、不愉快な・・・・・・女子からチョコ貰ったからっていい気になってんじゃねえゾォ!友チョコってなんだよ。いない奴どうすんだよおい・・・え?義理チョコ?しょうがないなぁ残ると勿体無いからもr(ブツッ)・・・
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九州は内陸のとある土地。
大きな道路に沿ってスーパーやコンビニ、喫茶店といった華やかな店が立ち並ぶ。車通りが多ければ周囲も発展するが故の光景である。逆に少しでもメインストリートから小道にはいれば住宅街、奥に行けば田んぼや畑、ビニールハウスといったのどかな風景も広がっている町。人はこれを「田舎」と言うが、山の方の村のことはなんと言うだろう(別に馬鹿にしているわけではない)。
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私はこの街が好きだ。
深夜にバイクの団体さんや、車をブンブン鳴らして走り回る人が出没することはあるけど、週一あるかないかだし、その他、ごく稀に事故や近所の人が救急車で運ばれるだけだから大して騒がしくなく、かと言って静か過ぎる事もない。都会のような大型のスーパーやショッピングモールなんてものはないが、買い物する分には大して困る事もないし、ケータイのアンテナも3本立ってる
「ん〜・・・うん、いつも通り。」
春がある程度まで近づいて来た朝方に鶴隆(ツルタカシ)は台所に立っていた。現時刻は午前5時、それよりも早く起きてピンクの割烹着を着て朝食の準備をしている隆(タカシ)は慣れた手つきで包丁とおたまを持ち替えながら料理を進める。包丁で大量の野菜を切り、フライパンを時々コンロから持ち上げて楕円を描くように動かすと、炒めている野菜や肉は一瞬宙を舞う。重力に従って落ちてくる具材はフライパンを動かす事で全て回収され、鼻孔をくすぐるような香りを周囲に漂わせる。
炊飯器のアラームが鳴る。
それを確認した隆は炊飯器を開け、湧き上がった蒸気と香りに口元を綻ばせる。
「はぁ〜、やっぱり朝に嗅ぐこの香りは」
ーーーー格別、そう言おうとした時、台所と繋がった居間の扉が開いた。
「おはよう、たか兄。」
「おはよう波斗。」
居間に現れたのは黒いジャージに黄緑色の反射バンドを付けた中学2年生の波斗。水泳で色が抜けた茶髪に、身長は見た目170ほどで肩幅が広い。波斗は挨拶をして早々に居間で柔軟を始めた。
隆はその姿を確認すると止めていた手を再び動かしだした。
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靏波斗。俺はこの家の子供ではたか兄の次、2番目に年上。
たか兄が春から家を出てしまうから、次からは俺が弟達の面倒を見ることになってる。
「今日はちょっと気温が低いから中にもう一枚着た方がいいよ。」
「大丈夫。走ってる間にあったまるから。」
料理をしながら俺の心配をしてくれるたか兄は器用で気配りが上手でイケメン(本人に言うと「鏡を貸そうか?」と言ってくる)で、正直たか兄の代わりを務められる気がしない。たか兄と
「うーん、でも気をつけてね。はい、出来たよ。」
たか兄は俺におにぎりを作って手渡してくれた。
「波斗におにぎりを握ってあげられるのもあと両手で数えられるぐらいになっちゃったな・・・」
そう言いつつ台所に戻るたか兄。
その遠ざかる背中を眺めながら、俺は真白な握り飯を頬張る。
今日のおにぎりは、少し辛い気がした。
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「・・・ねえ、たか兄。」
どうしても聞いておきたいことがあった。
「何?」
たか兄は声を掛けた俺に返答しながらも、料理を続ける。ピンクの割烹着はいつ見てもシュールな訳だが・・・慣れているから気にせずに、それでも少し吃って言葉が続く。
「・・・俺、たか兄みたいになれるかな。」
俺の発した言葉にたか兄の割烹着姿の背中が動きを止める。そして振り返り俺の顔を不思議そうに覗いてきた。
「何言ってるの?」
ーーやっぱりこれを聞くのはやめよう。
たか兄に懐いている弟達、やんちゃでいたずらばかりするクソガキども。俺の言うことは聞かないのにたか兄の言うことには素直に従う。
たか兄がこの家を出たら俺が年長者として下を抑えないといけない。たか兄のように出来るのか不安で仕方なかった。相談したかった。だけどーーー
「いや、なんでmーー「波斗は波斗でしょ。私を見習うのは悪いことではないけど、私になる必要はない。出来ないことは分担してやればいい。一番年上だって気を張る必要はない。かと言って自覚は忘れちゃいけないよ。
『適当』を知って、『適当』を見極めなさい。」
「・・・最後の、意味わかんないんだけど」
「ふふっ。さ、そろそろ出ないと。」
そう笑って濡れた手を拭い、俺を催促する。
俺はたか兄の言ってることがイマイチわからなかったけど
「うん。行ってきます。」
ーーーーなんだかわかったような気がした。
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「いま」『いま』
「『わーかれーのときー。』」
ーーー体育館に生徒たちの合唱が響く。建物だけでなく聞く人にも、自分たちも含めた全員に少なからず心を揺さぶる。カメラを構えた生徒の親族は胸に花を付け、腕には手渡された卒業証書を腕に挟んでいる我が子の、潤んだ目から溢れる涙に促されるように目に涙を浮かべる。今まで何度か立ち会っている先生方も感極まり、「俺は泣かない。」なんて言った男性の先生も目を腕で抑えて天井を向いていた。歌い終わり、各々涙を拭き取りながら席に着く。席に着いた生徒はそのまま話す事なく進行は次へと進めていく。
『ーー卒業生 答辞。生徒代表、鶴 隆』
「はい!」
私は既に拭い終えた顔を上げて立ち上がる。歌い終わってからこのために席を通路側に入れ替わり、静寂の中、ゴム靴の軋む様な音をそっと立てながら脇を通る。
途中、席に着いている市長や教育委員会の方に振り返って会釈。ステージの階段前で先生方の方を向き会釈。階段上がってステージにも会釈。校長先生が私達に証書を渡し、お言葉を送った場所に立つ。ステージから見える景色は練習の時よりも高く見える。
一斉に集まる視線。頭上のライトは私を照らし、私の体を熱する。あたかも自分が緊張で上がっているような錯覚を覚えるが、心はいたって平静。私は学ランのポケットから取り出した紙からさらに中の答辞の紙を取り出す。
一回やってみたかったのよね。
紙を開いて、台の上に置いた。
『・・・本日は私たちのためにこのように盛大な卒業式を開いていただきましてありがとうございます。また先程は校長先生をはじめ来賓の皆様、在校生の皆様からあたたかいお言葉を頂き、胸が熱くなる思いがしております。本当にありがとうございました。
3年前の春。初等教育を終えた私はクラスメイトのする噂(先輩後輩関係、不良生徒etc.)に多少なり不安を覚えながらも、新しい生活の喜びを胸にこの学校の校門をくぐった事を昨日のように思い出されます。
学校生活が始まってまず驚いたのは運動会の早さ。授業にようやく慣れた頃から始まった練習。紅白に分かれて同級生や上級生と正々堂々とぶつかり、その絆はとても固く結ばれました。』
毎年騎馬戦で相手選手のイイ身体を取っ組み合いの時にさりげなく触って楽しんだ後に辛くも勝利風を演じて相手を叩き落としていたのは内緒。
『クラス対抗の合唱大会やスポーツ大会、修学旅行。
私は部活動には無所属でしたが、時折助っ人を頼まれ、即席の戦力として友人の助力をする傍らで先輩後輩という関係、部活動に我武者羅に打ち込む姿勢。それらに憧れたのを思い出します。
そして気がつけば3年生。周りが進路について考える中でいつも何処かで助けてくれた先生方は私をあえて突き飛ばし、私達を自立させようと厳しく接して頂きました。
・・・今日私達はこの学校を卒業します。自分たちが信じた道を歩き出す。正直を言いますと、私は4月を迎えると同時に東京という未開の土地で1人、新天地への期待とともに底知れぬ不安を抱いております。みんな見知らぬ世界に期待と不安を友と手を取り合い力に変えてこの学校に入学した時のように次のステップを踏み切ります。
最後になりましたが、校長先生をはじめ諸先生方、そして、お父さん、お母さん、本当にお世話になりました。私たちは必ず皆さんから受け取った「心」を忘れずに、それぞれの進路へと旅立っていきます。どうかあたたかく見守ってください。そして時には変わらぬご指導をお願い致します。卒業生を代表し、ここでもう一度心から感謝の言葉を申し上げ、答辞とさせて頂きます。 本当にありがとうございました。』
話し終えると会場に割れんばかりの拍手が鳴り響く。
嗚呼、楽しかった。
だけど、別れを代表していうなんて出来れば2度とごめんだわ。
頰に伸びた涙の跡はいつの間にか消えていた。
多少の修正を加えるかもしれません。
あと、本編へは次の次になります。