でも原作で保健室覗こうとしてたし、これくらいは……アリ、なのか?
まぁ、八話をどうぞ
イリーナ先生がやって来た次の日、つまり今日は彼女が暗殺計画を実行する日だ。舞台として選んだのが体育倉庫なので、遅くても五時間目の体育には決行に移るだろう。
「……おいおいマジか。二人で倉庫にしけこんでくぜ」
「なーんかガッカリだな殺せんせー。あんな見え見えの女に引っかかって」
朝にそう思った私の考えは間違っていなかったらしく、五時間目の体育という名の射撃訓練の時間、事態が動き出した。
三村君の言葉を聞いて視線を体育倉庫へと向けると、イリーナ先生と殺せんせーが二人で体育倉庫へと入っていくのが見えた。その殺せんせーの表情はデレデレとしていて、これから彼女に暗殺されるとは思ってもいないように見える。実際イリーナ先生は殺せんせーの前ではボロを一切出していないし、殺せんせーから見ればイリーナ先生はただの教師なんだろう。
……いや、本当にそうだろうか?
殺せんせーが色仕掛けにニヤついてるというのが衝撃的過ぎてよく考えていなかったが、普通に考えて本校舎ではなくわざわざE組に赴任してくる教師、それも「学校の意向」でやって来た教師だ。このE組の状況を考えると不自然でしかない。私だって初日である昨日の朝であった時点で違和感を覚えたくらいだ。あの超生物がそれに気が付かないとは考えにくい。つまり今引っかかってるように見せているのはおそらく演技だろう。……それとは別に、胸にニヤついてるというのは本当だろうけど。私にはわかる。
「烏間先生……私達、あの
「……すまない。プロの彼女に一任しろとの国の指示でな」
片岡さんにそう言う烏間先生も、何となく彼女を快く思っていないような雰囲気だ。まぁ烏間先生もここで私たちの教官としてサポートしてくれていたのだから、横合いから掻っ攫われるのは面白くないのかもしれない。
「だが、わずか一日ですべての準備を整える手際……殺し屋として一流なのは確かだろう」
……準備してたの手下三人だったけどね。でも有能な人間を従えているのならそれは自分の力と言ってもいいのかもしれない。ボードゲームで例えるなら、どれだけ強力な駒でも使う人次第で弱くなるし逆も然りだ。そう思うのは私がかつて
「ッ!?」
「キャッ……!」
「わー……うっるさいねコレ」
二人が倉庫に入って少しすると、中から聞こえてきたのは発砲音。それも私たちがさっきまで響かせていたエアガンの軽いものではなく、鉄と火薬が発生させる重厚なものだ。多少距離があるとはいえその音は大きく、中で行われている行為の壮絶さを物語っている。というかこんなに響かせて大丈夫なのか? 本校舎まで音が届いていたらどう言い訳するんだろう……?
「これは……本物の銃か」
「え、ビッチねぇさん
「みたいだね」
「それって……効く?」
「……効かないんじゃないかぁ」
「だよな?」
「効くならこの弾開発した意味無いでしょ」
銃声が響き始めてから一分程して音が止み、皆が思った事感じた事を口にしだした。その内容はやはり本物の銃を使用しているという驚きと、果たしてそれが殺せんせーに対して効果があるのかという疑問が大半だ。
私達でも少し考えれば簡単に気が付くこの事に最後まで気付いてなかった辺り、あの人がどれだけ自分の殺り方に固執してこちらを下に見ていたかが良く解かる。逃げられない場所まで誘導して全方位に弾をばらまくという方法自体は優れているのだし、そこで対先生物質を何らかの方法で使用していたのなら少しだが勝ちの目もあったと思う。
……と、そこまで考えた所で。
「――――いやぁあああああああああああぁあああああ!!!!!」
昼下がりの校庭に、絹を裂くような悲鳴が響き渡った。
「銃声の次は鋭い悲鳴とヌルヌル音が!」
それとヌルヌル音。
悲鳴はイリーナ先生のものだろうから、ヌルヌル音は殺せんせーの触手だろう。銃撃をどうにかした後で手入れが始まったと言った所だろうか。やはり鉛の弾は効かなかったらしい。どうなったのかは私の仕込んだものに期待という所か。
「いやぁあああああ」
……しかし。
「いやぁ……ぁああ」
……何というか。
「いやぁ……ぁ……あ」
……エロい。
次第に小さくなっていくイリーナ先生の悲鳴だが、その大きさに半比例するようにその声は段々と色を帯びていっているように感じる。後ヌルヌル。あのヌルヌルが見えない分余計に想像力を掻き立てる。あの豊満な胸に殺せんせーの触手がヌルヌルと……わー映えそう。
「めっちゃ執拗にヌルヌルされてんぞ!」
「行ってみよう!」
その声を聴くとほぼ同時に足が動いていた。これは……もしかしたら、私の仕込みが思った以上の効果を発揮しているかもしれない。
昨日の放課後に三人へお願いした仕込みは彼らの協力が無いと不可能なものだった。ガキのやる事だと断られてしまえばそれまでだったが、意外とすんなり協力を取り付けることが出来た。別途報酬を設けたのが良かったのだろう。
「殺せんせー!」
体育倉庫から殺せんせーが出て来た。その体には傷一つ無く……いや、服の方は急ごしらえの補修がされてるから、無傷ではないか。でもダメージがあるのは服だけで、本体には何の影響も無さそうだ。
「「おっぱいは!?」」
あ、潮田君と被った。
「いやぁ……もう少し楽しみたかったですが」
そう言って殺せんせーはニヤニヤと下品に笑ってる。余韻に浸ってるんだろう。つまりそんな事をしたという事だ。何をしたのか徹底的に聞き出したいという気持ちに支配されそうになるが、今はグッッッ……と堪えておく。
殺せんせーも深く語るつもりは無いのだろう。話の内容をこの後に控えてる小テストにすり替えてしまった。
「ぅぅ……」
「あ、イリーナ先せ……」
殺せんせーに続くようにしてイリーナ先生も倉庫から出て来たのだが、その姿に固まってしまった。体操服、それもブルマ。前時代的な服装だが、私はどちらかというと体操服と言えば今自分が来ているジャージ状の物よりもこちらの方が真っ先に思い浮かぶ。月の裏側に落ちた時、いつの間にかクローゼットに入っていた体操服がブルマだったからだ。着てもあんなにゼッケン歪まなかったけど……
「まさか……わずか一分であんな事されるなんて……」
そこからイリーナ先生の口からうわ言の様に零れてくる、殺せんせーの手入れを聞いていた。肩と腰のこりほぐしに始まり、オイルと小顔とリンパのマッサージ。そして早着替え……え、つまり一回脱がしたって事? ひん剝いたの?
「……その上まさか……触手とヌルヌルで、あんな……あんな事を……」
その言葉を最後に、イリーナ先生は倒れてしまった。
何をしたんだ。そんな思いを込めて殺せんせーの方へ視線を向けると、丁度潮田君が私の代わりに質問してくれていた。
「さぁねぇ。大人には大人の手入れがアリマスカラ」
「「「悪い大人の顔だ!!!」」」
うん、悪い大人の顔……言い得て妙だ。殺せんせーの無表情を見たら何で言峰神父の薄ら笑いが頭をよぎったんだろうか私は。
はは、このザマァと言ってこちらに微笑む言峰神父の幻影を頭を振って追い出した。とりあえず、私は私でやる事をやってしまわねば。
「さ、教室に……にゅやっ? 岸波さん?」
教室へと促す殺せんせーを無視して体育倉庫の中に入る。中は銃痕がそこかしこに付いていて悲惨な事になっていた。でも音が響いていた時間を考えると銃痕が少ないような……? まぁいいか。仕込みが正常に機能していればわかる事だ。
「あ、あった」
体育倉庫の片隅、銃弾が当たらず、かつ全体を見渡せる位置に隠すようにして取り付けられた「それ」を回収する……うん、問題なく動く。ちゃんと「録画」できている。
そう、私の仕込みとは何てことない、ただのビデオカメラ。暗殺が始まる前に録画状態にしておいてほしいとお願いした。
鉛の弾が殺せんせーに効かないであろうことはわかっていたが、効かないにしても種類がある。はじき返されるのか、貫通してもすぐに修復するのか、あるいは体内で溶けたりしてしまうのか。超スピードで躱してしまうのかもしれない。本物の銃弾を前に殺せんせーがどう行動するのか、それを知るだけでも今後の暗殺において何らかの役には立つだろう。五月に入って体力も戻り、本格的に暗殺に力を入れるためにも殺せんせーの事を調べようと思い、購入しておいたビデオカメラ。まさか最初から使う機会に恵まれるとは思っていなかった。
ちなみに記録を取る事については「防衛省の指示」という事で通しておいた。面倒だが、後で烏間先生と口裏を合わせておこう。その時に彼らに渡す
「岸波さーん? 教室に戻……」
「あ、殺せんせー」
私を怪しんだのか、殺せんせーが倉庫に戻ってきた。そして私の手にあるものを見た瞬間、ピシッという音が聞こえてきそうなリアクションで固まった。
「そ、それはまさか……」
「――――――」
何も語らない。殺せんせーに対して語る事は何も無いのだ。ただ一言、心の中でGJとだけ呟き皆の所へ戻る。幸いというか、教室へ戻らずにまだそこにいてくれた。
さて、戦利品を報告しよう。
「殺せんせーの大人の手入れ、一部始終収めたぞー!!」
「「おぉおおお!!!!」」
「でかした岸波ィ!」
「にゅやぁあああーーーーッ!!?」
そう、本来は銃弾に対してどう行動するかを収めるのが目的だったが、その副産物としてイリーナ先生に対して行った「大人の手入れ」まで手に入れてしまった。これを見ないでおくという選択が出来ようか。いや、出来ない。
私の持ち帰った情報に一部男子が歓声を、殺せんせーが悲鳴を上げた。特に岡島君の喜びようは相当なものだ……あぁ、転入初日に見た時から分かっていたさ。君からは近しいものを感じると……!
「あ」
自分の所業が衆目に晒されると察知したのか、殺せんせーがマッハで私からビデオカメラを掻っ攫った。
「何するんだ殺せんせー! 返して!」
「か、か、返しませんよ! 何て事してるんですか岸波さん! 授業に関係ないものを学校に持ってきては駄目でしょう!?」
「何言ってるんだ、
「そーだぜー? っつーかそれ殺せんせーが言うのかよ?」
岡島君……!
「な、何がですかァ!?」
「だって殺せんせー、授業に関係ないもの持って来ちゃダメなんだったらお菓子持ってくるのもダメじゃね?」
「にゅやっ!? し、しかしこんな先生はとても生徒に見せられないと言いますか……!」
「うっわァー生徒からもの取り上げる理由が個人的なものって……それって教師としてどうなの? 殺センセー?」
「あぁっ!?」
岡島君とカルマの援護射撃が加わり、殺せんせーは逃げ道を無くしてしまった。しかもカルマに至っては殺せんせーがテンパってる内にビデオカメラを取り返すというファインプレーだ。
「だ、駄目です岸波さん! その映像は中学生にはまだ早いですよ!!」
「……へぇ? 生徒に見せられないようなコトしてたんだ?」
「ゔッ」
「うっわァー。神聖な学び舎で教師がそんなコトしてイイと思ってんの?」
「あの、それは……」
「これは教育委員会に提出しなきゃだね」
「だねー。わいせつ教師として明日の一面を飾らせよう」
「イヤァアアアアアア!!! 止めて下さい首が飛ぶーーー!」
いや、国家機密をその辺の機関に持ち込める訳ないだろうに……というか何で地球を壊す生物がクビを恐れてるんだか。私たちの先生をするためなんだろうけどさ。
「と、とにかく! これは君達には見せられません!」
「あっ!」
クソッ、また奪われた! マッハとか反則じゃないか反則!
「君達に見せても大丈夫だと思う部分だけ編集してからお返しします! では教室で小テストを! 終わった人から今日は帰ってヨシ!」
「あっ逃げやがった!」
「返せエロダコー!!!」
ビデオカメラを強奪した殺せんせーはマッハで飛び立ってしまった。大至急映像の編集をするのだろう。
どしゃり、とその場に崩れ落ちる。岡島君や三村君も同様に膝をついた。
「チクショウ……こんなのって無ェだろ……!」
「俺たちのエロが……岸波のファインプレーが……」
「ふざけるな……ふざけるな馬鹿タコォオ……!」
何のために高い金出して買ったと思ってるんだ……! エロは主目的じゃなかったが、主目的じゃなかったが!
「……岸波さんってさ、イメージとだいぶ違うね」
「だねぇ。まー面白いからいいじゃん?」
潮田君とカルマの言葉を聞き流しながら、私たちはとぼとぼと教室へと戻った。
ちなみに後日手元へ返ってきたビデオカメラからは、きっちりと手入れの部分だけが切り取られていた。おのれ……おのれおのれおのれ……!
◆
その後のイリーナ先生はといえば、酷いの一言に尽きるだろう。
ミスを挽回しようとして計画のプランニングに集中するあまり相変わらず授業をまともに行わない。一応私たちは今年受験なのだから、せめて普通に授業をしてほしい。そういった意見を磯貝君が皆を代表して言ってはみたのだが。
「地球の危機と受験を比べられるなんて……ガキは平和でいいわね~?」
……この人はどれだけプロとしてのプライドに固執するつもりなんだろうか?
暗殺が失敗している時点で私たちの間に差なんてものは一切無いというのに、その後も出てくるのはこちらを見下した発言のオンパレード。正直私も聞いていて腹が立った。
まぁそんな事ばかり言ってたら自然と学級崩壊もする。
「出てけくそビッチ!」
「殺せんせーと変わってよ!」
「な、なによアンタ達その態度! ぶっ殺すわよ!?」
「上等だよ殺ってみろゴルァ!!」
その時の崩壊っぷりはかなりのものだった。普段から荒っぽい村松君達はともかく、温厚な速水さんや木村君までもがいきり立ち、消しゴムやら鉛筆が飛び交う悲惨な状態になっていた。それと茅野さんは巨乳なんていらないって言ってたが……うん、大丈夫だよ茅野さん。小さいのも需要はあるよ。少なくとも貧乳派を一人知ってるから。
そしてそんな事があった次の日のイリーナ先生の授業。みんな一応席にはついているものの、机の上に広げているのは英語と関係ない教科の教科書が多い。どうやらほとんどの人が授業をしないならしないで本格的に自習の時間として過ごすことにしたらしい。
しかしその日の英語の授業で始まったのは、昨日とはまるで違う光景だった。
「……だから、私の授業では外人の口説き方を教えてあげる」
イリーナ先生の口から語られたのは、彼女の授業方針とでも言うべきものだった。世界各国で仕事を成功させてきた経験と実績から、仲良くなる会話のコツを教える……つまりコミュニケーション能力の授業だ。
どうやら昨日の授業の後、意識が変わる何かしらがあったらしい。烏間先生か殺せんせーが彼女に何かしたのだろうがそこはどうでもいい。殺し屋としてここに在籍するために、教師の仕事もやる気になったという事だ。
「……そ、それなら文句無いでしょ?……後、悪かったわよ色々と」
揺れる視線、小さく丸まった背中。殺せんせーに比べれば不安が滲み出ている立ち姿だが、それはまさしく「新米教師」とでも呼べるものだった。
「……なーんか、普通に先生になっちゃったな」
「もうビッチねぇさんなんて呼べないね」
「あんた達……わかってくれたのね……!」
イリーナ先生の変貌にクラス全員が少し笑った後、そんな会話が飛び出した。
「考えてみりゃ先生に向かって失礼な呼び方だったよね」
「うん、呼び方考えないとね」
「じゃ、ビッチ先生で」
「えっ」
思わず横を見た。何でそうなるんだカルマ!?
「え……っと、せっかくだからビッチから離れてみない? ホラ、気安くファーストネームで呼んでくれて構わないのよ?」
イリーナ先生も笑顔を浮かべてはいるものの、これに関しては不満が隠せないらしい。
「でもなぁ……もうすっかりビッチで固定されちゃったし」
「うん、イリーナ先生よりビッチ先生の方がしっくりくるよな」
それは……あぁ、確かにそうだけど。イリーナ先生よりビッチ先生の方がなんかしっくりくるけど! それは流石にひどすぎないかな!?
そんな私の思いをよそに、イリーナ先生への呼称はビッチ先生に決定してしまった。
「わ、私はちゃんとイリーナ先生って呼ぶからね!」
ビッチコールが鳴り響く中、せめて自分だけでもと思い声を上げた。呼びやすかろうがしっくりこようが、いくらなんでもビッチ先生は酷過ぎる……!
「あ、アンタ……! いい
「えっ……え!?」
そう言ってこちらへ突っ込んでくるイリーナ先生……前言撤回だ、この人ビッチ先生じゃないか!
「そーいえば岸波さん、ビッチ先生のキステクCランクとか言ってたよー?」
「何ですってぇ!?」
中村さん!? 何で今言ったの!?
「……そう……だぁったらCランクかどうか……確かめてもらわなきゃねェ……?」
「い、いや、あのその……」
「覚悟しなさいッ!」
「ま、待っンんんぅ―――――!!!?」
いかれた。むちゅっといかれた。潮田君にしたやつよりねっとりしたヤツだ。頭を押さえられて逃げる事も叶わない。そして口の中を縦横無尽ににゅるにゅると動き回る舌……歯列を撫でまわされ唇を貪られ自分の舌を搦め取られる。成す術がない、一方的な蹂躙。
でも何て言えばいいんだろう。テクニックが凄いという事はわかるけど、キアラやギルガメッシュにされた時みたいなぽわぽわした感じが無い。終始テクニックを見せつけられているという感じだ。
「ぷ ぁ」
やがて口が離された。自然と息が荒くなる。
「……フゥ。感想は? これでもCランクって言えるかしら?」
感想? あぁ、感想……?
「び……B、まいなす……」
「マイナスって何よ!?」
マイナスの理由:ぽわぽわしない
恐らくこれが年内最後の更新になります。
あと採集決戦クリアしました……ソロなんとかにやーいお前の父ちゃんダビデしに行くんだという思いで駆け抜けました。