あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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十八話

「.....すごい」

 

これまで数多くの修羅場を潜り抜けてきたウェルキンをもってしても、目の前で繰り広げられる戦いを驚嘆の目で見るしかなかった。彼と彼女の戦いはそれ程にレベルの高いモノだった。

まず先手を取るのはやはり彼女だ。

暴風の様な速さで動きまわり視界に捉えさせない。

同じ場所に一瞬も存在しない彼女の幻影がフォントの合わない動画の様にブレて見える。

正しく常人には彼女の影すら見る事は出来ないだろうスピードで叩き込まれる斬撃。

それを彼は全てはじき返す。

寸分の狂いも許されない刹那、彼は不動ながら最小限の動きだけで剣を振るい防いで見せるのだ。まるで暴風をそぎ落とす凪の様に。

彼女の攻撃は全て彼の剣によって弾き落とされる。

 

いったいどれ程の修練を積めば可能なのか僕には分からない。

だけどそうしなければならない程の事情が彼にはあったのだろう。

きっと彼はその力を僕達に見せたくはなかったはずだ。

それでも彼はいま必死になって戦ってくれている。僕達みんなの為に。

 

.....いつか話してくれるだろうか?彼の本当の姿を。

それを知ってしまった時、僕はどうする?

答えは出なかった。少なくともこの戦いが終わるまでは。

重要なのはまずはこの戦いを生き伸びる事だ。

彼からの合図があれば直ぐに動けるよう部隊に指示を出す。

 

「.....全員で生き残ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激しい攻防から一転、アルテミスは俺の周囲を円を描くように動きながら様子を見ている。その顔には少なからぬ動揺が見て取れる。十三回。

それが俺の現時点で死んだ回数だ。

いや正確にはアルテミスが俺の首を取ったと確信して剣を振るった回数だろうか。

だが俺の首は未だ繋がっている。

彼女にとっては不可解でしかないだろう。

勝利を確信して振るった剣を悉く防がれたのだから。

アルテミスはどうしてか理由を考える。

直ぐに答えは出た。

 

「驚いた私の攻撃を先読みしてるんすね、それも凄く精密な防御の型で。

一度も攻撃を仕掛けて来ないのは全てのリソースを防御に振ってるからっすか」

「流石にバレたか如何にもお前の様な奴と戦い勝つには僅かな隙を狙うしかないからな」

 

最初から勝つには土台の部分で無理な話だ。

それはセルベリアとの訓練で昔から理解している。

だから俺は生き伸びる為の剣を磨いてきた。

どんなに攻撃が早くても関係ない。

神経を全集中すれば相手の最初の挙動からどんな剣を繰り出すかが分かる。

後はそれに対して最善の型で動けばいい。

 

「師は言った俺の剣は風だと。あらゆる攻撃を弾き落とす鉄壁の剣だ。

これを破るのは少し手間だぞ」

「普通は机上の空論で終わる話をここまで形にしている奴は初めて見るっすよ、人間がこれほどの技量を備えているとは驚きっすね」

「あまり人間をなめない方がいいぞ」

「そうっすね考えを改めるっす。——でもやっぱり結局勝つのは私っすよ」

 

確かに技量こそ高いが防ぐだけで手いっぱい。

俺には攻略の糸口がないのだと彼女は自信満々に言う。

ラインハルトも否定はしなかった。

 

「そうかもな」

「....普通の人間なら激昂する所っすよ」

「生憎と普通の感性で生き残れるほど軟な世界に生きてないんでな」

 

静かに前中段で剣を構える。

その程度の挑発には乗らない。

ただ時が来るまでやるべき事をやるだけだ。

それに攻略の糸口がない訳ではなかった。

 

ラインハルトが動揺しないのを見て不服そうにする。

なぜ勝てないと分かっていて、なお諦めないのか理解できない、

 

「諦めさせてやるっすよ絶望に陰るまで」

「お前には無理だ俺が戦ってきた敵の中でお前はそこまで強くない」

「——っ人間風情が!これで終わりにしてやる!」

 

次の瞬間。

激昂するアルテミスの体がブレた。

——幻炎の如く。

ラインハルトの視界から消えたアルテミスは恐るべきスピードで距離を詰め、炎が湧いた様に目の前に現れる。気づいた瞬間には間合いの中に入られていた。

——さっきより更に早い!

数段階上のスピードで振り払われた魔剣が俺の胴を両断しようと迫る。

咄嗟に反応しようと動いた腕が瞬間的に止まる。

違うこれは——フェイント!

直前で無理やり剣の軌道を変える。

直後に不協和音が辺りに響いた。

俺の足を切り落とそうとしていた剣が止まる。

危うく足が一本無くなるところだった。

 

「こ、この技まで防がれるなんてっ」

 

呆然と己の剣と交差する俺の剣を見つめる。

どうやら今のが絶対の自信のある技だったようだ。

確かにあれほどの動きでフェイントをされたら躱しようがない。

俺が防げたのはあくまでセルベリアとの経験と運が良かっただけ。

あとは勘だ。

 

作戦は悪くなかった。経験値の差が出ただけだ。

言葉で焦らせ動揺を誘いフェイント攻撃で決着をつける算段が崩れたいま、彼女のプライドはズタズタに引き裂かれた事だろう。その隙を逃すはずもない。

 

「今度はこちらの番だ防ぎきって見ろ」

 

ここで初めてラインハルトは攻勢に転じた。

ひゅっと息を吐き右腕に力を込めると勢いよく敵の剣を弾き、返す刀で袈裟切りに切りつけた。アルテミスが慌てて剣で防ぐ。しかし調子を整える余裕は与えない。

曲調の切り変わった舞踏の様にラインハルトは連撃を繰り出し続ける。

たまらず後退するアルテミス。

自分が後ろに退いている事に気付く暇すらなかった。

 

「っ——なんでっ」

 

自分の様な速さはない。落ち着いて対処すれば躱すのは難しくないはずだ。

一度体勢を整えようと考えるスキを狙ってラインハルトの剣突きが襲う。

首を捻って避けようとするが躱しきれず頬を浅く裂かれる。

 

「痛っ!」

 

赤い血が頬を流れる。傷を負わされた。

それだけでアルテミスの精神を衝撃が襲う。

ヴァルキュリアである私が人間に手傷を付けられるなんて。

怒りが湧き上がる。刹那的な衝動に突き動かされ、ただ思い切り剣を振るった。

そこに剣の術理はなく速さにモノを言わせただけの一撃だ。

そんな技と言うにも稚拙な一撃がラインハルトに通用するはずもなく、ミリ単位で相手の剣筋を見切り最小限の動きだけで躱して見せた。

そんな完璧な芸当を見せられたアルテミスが次のラインハルトの攻撃を躱せる訳もなかった。

 

「これで終わりだ」

 

手首を返して振るわれる剣刃。

それを防ごうとして技量の差を突き付けられる。

剣を警戒するあまり他に目が行っていなかった。

それを見切ったラインハルトが蹴りを放ったのだ。

ブンっと音を立てて長い脚から繰り出される一撃はアルテミスの腹部に直撃し強烈なダメージを与えた。

「がハッ!」

口から空気が吐き出され、勢いよく地面を転がる。

直ぐには動けなかった。

ピタリと首筋に冷たい物が押し当てられる。

それが自分が安易に渡した剣の腹だと理解するのに時間はかからなかった。

避けられない。この距離だと炎を出すよりも早く喉を斬られる。

負けた私が剣で。

 

「ありえない」

「言っただろ人間をなめるなとゲームオーバーだ諦めろ」

 

諦める何を?

決まっている。これから待ち受けるのは私の死だ。

嫌だ死にたくない。まだ生きたいよ。

しかし認めざるを得ない現実にジワリと涙が滲む。

 

「いや殺さないで」

「広場を囲む炎の壁を解いて全員を解放しろ話はそれからだ」

 

言われた通り炎の壁を消す。

消える様に念じるとたちまち炎は鎮火した。

ラインハルトはそれを確認して。

 

「よし——ウェルキン!」

 

出された合図に呼応してウェルキン達がすかさず動き出す。

その顔には笑みがあった。

炎によって囚われていた市民達は助かったのだと歓喜の涙を流してすらいた。

 

これでもう大丈夫だろう。彼らの避難はウェルキン達に任せる。後はこの女だ。

俺には彼女に確認しなければならない事があった。

 

「最後に一つだけ聞きたい事がある。——お前は特務機関『獅子十二泉協会(レーベンスボルン)』出身者だな?」

 

帝国軍でも僅かしか知らない。

その機関の名を言う。

すると女はどうしてそれをと云った顔で俺を見上げた。

やはりそうか。

レーベンスボルンとは特別な血筋を持った子供達を誕生・育成させる為の施設運営母体の事だ。

帝国中から特別な血つまりヴァルキュリアの因子を受け継ぐ者をかき集め研究する事を目的としている。従順な帝国の兵器に仕立てる。その為ならば掛け合わせ、要は強制的に子を産ませる事もあるのだという。悪辣非道なる帝国の闇そのものだ。

名前の通り帝国に十二あるそれを——俺は数年前に全て潰して回った。

.....潰したはずだった。

だがまだ一つだけ残っていた。

それが彼女達の存在で発覚した。

セルベリアから聞いたギルランダイオ要塞に居たヴァルキュリアも恐らく同様の存在だろう。

そうなると俺に彼女は殺せない。

俺こそ彼女達を生み出してしまった(帝国)そのものなのだから。

結局誰一人として救えなかった。

この世界に生まれてしまった哀れなヴァルキュリアを今度こそ俺は救いたい。

 

「お前たちは帝国に洗脳されている哀れな犠牲者だ、いつの日か救ってみせる」

「.....いったい誰なんすかあんた」

「悪いがそれだけは答えられない。だが俺の言葉に嘘偽りはない」

 

困惑する彼女から剣を引き離す。

手を差し伸べようとした瞬間、それを見計らっていた様にして頭上から影が舞い降りた。

 

勢いをそのままに上段からの唐竹割が来る。

青い光芒が尾を引いて剣身が俺を真っ二つにしようと迫る。

咄嗟に俺は剣を構えて受け止めた。不協和音が辺りに響く。

新手か。やはりその女もヴァルキュリアの特徴を備えていた。

その女はまだ若かったが落ち着いた様子で俺を見据えている。

呆れ混じりにアルテミスに向けて言う。

 

「何で貴女が倒されてるんですか馬鹿なんですか?」

「ニーアちゃん!助けに来てくれたんすね.....!」

「貴女が倒されたら作戦が失敗するじゃないですか仕方なくですよ馬鹿」

「うー酷いっすニーアちゃん」

 

抗議を無視してニーアと呼ばれた女は俺を見る。

 

「それで?この馬鹿を倒す程の力量から見て一角の武人とお見受けしますが何者です?」

「その問いは繰り返しになるが答えられない」

「そうですかでは無理やりにでも聞きましょう」

「ニーアちゃんでも勝てないと思うっすよ?」

「馬鹿、二人でやるんでしょうが」

 

ピキリと青筋を立て睨む。美しい顔が台無しだ。

二対一は流石にキツイな。だが防御に徹すればやれない事はない。

 

「例え殺されようと口を割る気はないがな」

「問題ありません貴方の心に直接聞き出します」

「心....?妙な言い回しだな」

「ニーアちゃんは手で触れた人の心が読めるんすよ凄いでしょ」

「馬鹿!人の能力を喋る人がどこにいますか!?」

「え?私喋っちゃったっす」

「.....馬鹿がここに居た」

 

ため息をこぼすニーアを前にラインハルトは怪訝な表情になる。

人の心が読めるだと?ヴァルキュリアにそんな超能力はないはずだが。

そういえばアルテミスも火を自在に操っていたな。

実験によって後から付け足したのか。恐らく非人道的な方法で。

帝国内でどんな実験がされていたのか考えたくもない。

つまり彼女らはヴァルキュリアの力に加え炎熱能力(パイロキネシス)精神感応(テレパス)といった特殊能力を付与された超能力者(サイキッカー)でもあるという事だ。

そういえば前世でもそんな研究がされていたな。

人間の脳を開発する実験が。

 

しかしまずいな。それが本当なら彼女に触れられた時点で俺が何者か分かるという事だ。

絶対に触られる訳にはいかない。

こんなところで足止めされる訳にはいかないのだ。

神経を集中させ意識的に呼吸をする。

 

「.....我が剣は風、踏み入れるものなら入ってくるがいい」

 

少しキザな気もするがこれぐらいが丁度いい。

相手を威圧するには格を見せつける必要がある。

狙い通り二人が息をのむ。迂闊には手を出してこない。

このまま膠着状態が続けばいいが。

 

「貴方は強い。ですが姉様の為にも作戦を失敗する訳にはいかないのです!」

 

言下に地面を踏み込み勢いよく走り出した。

速いがアルテミス程ではない。

間合いに入った瞬間、ラインハルトの剣が動く。

手首を返して翻ったそれをニーアはその場に伏せる程の低姿勢で躱す。

驚くべき柔らかさとバネで肉体を制御し低姿勢のままに足を狙ってきた。

横凪に切り払われる魔剣をラインハルトはその場で跳躍する事で躱す。

足は人の基盤だ。弱点になりうるからこそ、そこを狙われても対処できる様に訓練は嫌というほど積んできた。空中体勢からの全体重を乗せた一撃を叩き込もうとした所で邪魔が入った。

飛び上がったアルテミスが横から割って入りラインハルトの横腹に峰打ちを入れようとしたのだ。

寸での所で手首を返しそれを防ぐ。

ガキュイィィンと音が鳴ってラインハルトの体躯が飛ばされた。

ヴァルキュリアの膂力によって吹き飛ばされるも見事に着地して見せる。軸足が全く崩れない。

そして余裕の笑みを浮かべる。その程度かと。

内心は冷や汗ものだったが。

 

「人間が空中で私達の連携技を躱すなんて」

「見事に防がれましたね.....本当に凄いっす」

 

一方は警戒の色でもう一方は尊敬の色でラインハルトを見る。

余裕ぶって見せた甲斐があった。

優勢の様に見えて消耗が激しいのはラインハルトの方だ。

呼吸で誤魔化しているがもう保たない。

あと少しあと少しなんだ。

とその時——

 

「——ハルト!後ろだ!」

 

聞こえた瞬間、何も考えず後背に向かって剣を振り払う。

独楽の様に身を捻り振り払われた剣はちょうど俺の背中を切りつけよとした敵の剣とかち合った。切り結ぶ敵を視界に収める。今度は黒い髪の少女だ。

三人目のヴァルキュリアの出現を即座に理解する。

頭の中の警鐘が鳴る。

これ以上はもう無理だ。だがそれを無理やり頭の片隅に押し込んで最後の抵抗を行う。

もうとっくに限界は超えていた。

それでもラインハルトは諦めなかった。

だがしかし――

 

唐突にラインハルトの体がピタリと止まった。

自分の意思とは裏腹に体が全く動かない。

どんなに力を込めても無駄だった。万力の様な力で体全体が固まっている。

すると黒髪少女が言った。不思議な手印を結び。

 

「金縛りの術です」

 

金縛りだと?そんなちゃちなものじゃないはずだ。

指一本すらまともに動かせないぞ。

これも超能力の一種なのか?。

揃いも揃ってでたらめな力だ、冗談じゃないぞ。

 

「よくやったわディー、そのまま抑えておいて」

「ディーちゃんまで居たんすか隠れて様子を伺っていたんすね」

「肯定」

 

コクりと頷くディーと呼ばれた少女が指を振る。

それだけで両腕が後ろでに拘束される。

一人でに自由を奪われるというのは不思議な感覚だ。

所謂念動力者(サイコキネシス)というやつだろうか。

不可視の縄で簀巻きにされニーアの前に突き出される。

 

「さあ何を隠しているのか私に教えて下さい」

 

そう言うとニーアが俺の頭に手を乗せようとする。

ゆっくりと近づく手に観念する。

ここまでか。そう思った瞬間、俺とニーアの間を一発の銃弾が通り抜ける。

 

「そこまでだ彼を離すんだ」

 

見れば銃を構えたウェルキンが立っていた。

ラインハルトの目が見開く。

何をしているんだ。

銃を向けた者がどんな末路を辿ったか知っているはずだ。

死ぬ気か。逃げろウェルキンお前達だけでも。

だがそんな願いとは裏腹にウェルキンは真剣な顔で銃口をニーアに差し向けた。

アルテミスがその間に割り入った。

 

「待つっす。この人は私とのゲームに勝った。だからあんた達は生かしてやるっす。だけど次はないっすよ死にたくないなら街の人間を連れてさっさと逃げるっすよ」

「彼を置いて逃げる事は出来ない」

「死にたいんすか?」

「僕達を救うために戦ってくれた彼を置いて逃げるぐらいなら死んだ方がましだよ」

「......人間ってのは本当に愚かっすね」

 

それは侮蔑とは違う、どこかもどかしい様子でアルテミスは言うと、手の平をウェルキンに向けた。

チラリとラインハルトを見た。

熱い鼓動を認識する。

どうも自分はこの男の剣に惚れてしまったようだ。

だから撃ってくれるな。あんたを殺したくはないんすよ。

この人の頑張りを無駄にしてはいけない。

一触即発の中、唐突にニーアがそれを止める。

 

「待って彼が何か言うわディー拘束を緩めてあげて」

「了解」

 

手印を結ぶとラインハルトの口が動かせるようになった。だが無理に固められていたせいか上手く舌が回らない。それを察してニーアが顔を近づける。

 

「素直に喋る気になったかしら?」

「.....逃げろ」

 

その一言にニーアは成程と頷きウェルキンを見据える。

「貴方によ逃げろと言っているわ命の恩人の言葉に素直に従っておきなさいな」

「っ!」

 

ギュッと奥歯を噛む。だが答えは一つだ。

ウェルキンは偵察銃のボルトを引き銃弾を装填する。退く気のないウェルキンを冷たい眼差しで見るニーア。

馬鹿が素直に従っておけばいいものを。

愚かな判断をする奴は嫌いだ。

内心そう思いアルテミスに男を殺すよう命令する。

何故かまだ焼き殺していないアルテミスを不思議に思いながら口にしようとした。

だがラインハルトの言葉は続いていた。

 

「違うウェルキンに言ったんじゃない。お前たちに言ったんだ」

「......え?」

 

何を言っているんだこの男は。

不可解に思いながらもどうせ男の出まかせだろう。

と最初そう思った。だがこの男は不敵な笑みを崩さなかった。

するとヴゥイイイインとどこからともなくラジエーターの駆動音が聞こえて来た。

......戦車いや違う、これは何?

戸惑うニーアを前にラインハルトが笑う。

 

「来たぞ来てしまった。——蒼い機神(ヴァルキリー)が」

 

言下に壁をぶち破って広場にそれは現れた。

蒼い機体を身にまとい手にはヴァールが握られている。

ヴァジュラではない、より軽量化され背中に背負ったラジエーターも小型化されている。

先の戦争での教訓を生かし一人での着衣脱を可能とした機構になっている。

それでいて性能差はヴァジュラの約四倍だ。

その機体の名を俺はヴァルキリーと呼んだ。

 

「ひっかきまわせ.....イムカ」

 

誰にも聞こえない微かな呟きだった。

だがそれに呼応したかの様にイムカは動き出す。

機械の筋肉が一瞬でイムカを俺の前に導き、あっという間に彼我の距離をゼロにする。

ラジエーターの発光が蒼い線を描きヴァルキュリア三人の目を惹いた。

いきなり眼前に現れたイムカが手に持つヴァールを振り回す。

重い鉄の塊がまるで小枝の様に動き三人に襲い掛かった。

 

「っ——躱せ!」

 

アルテミスの言葉で三人がその場から飛ぶ。

直後その空間を乱舞するヴァールの刃が襲う。

あと一歩遅ければ格子状に体が裁断されていただろう。

三人の背中にひやりとしたモノが伝う。

それは恐怖と呼ばれるものだ。

たった一人からなる敵を相手に恐れを覚えている。

ありえない事だ。何なんだこの敵は。

 

幽鬼の様に佇む騎士の様な敵は金髪の男を守る様に立ち。

尋常ではない殺気を放っている。

脅威度は男の比ではない。

只者ではないと三人は理解する。額から汗が滲んだ。

 

「....炎よ我が手に集え」

「三人で連携するわよ」

「委細承知」

 

本気でいかなければこちらが殺されるだろう。

それ程の凄みがアレにはあった。

アルテミスが火球を作り出しニーアが指示を出す、その横でディーが小刀を構える。

三人の戦女神と一人の機神の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




三人の小娘がラスボスに立ち向かう構図ですね。

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