あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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二十一話

この世には持つ者と持たざる者の二通りの人間がいる。

誰もが知っている、それはこの世界で最も不変な真実だ。

それは貴族という名でこの帝国にも存在する。持つ者として。

 

しかしそんな貴族の中にも二通りの人間がいた。

持っているのに奪う者と持っていたのに奪われた者だ。

貴族は貴族からも奪いながら常に政争を繰り広げている。

その中にヤン・クロードベルトはいた。

俺は持っていたのに奪われちまった側だ。

正確には俺ではなく当主である親父がだが。同じ事だろうよ。

どんな意図があったにせよ三大貴族であるブラウンシュバイク候に立てつこうなんぞ馬鹿な事をするからこうなる。おかげで家は取り潰し一族郎党は食うに困った。

どんな薄汚い事でもやった。殺しに誘拐あらゆる悪事に手を染めた。

そうするしか生き残る道がなかったからな。

その過程で闘技場の優秀な奴隷共を手駒に加えられたり悪い事ばかりじゃあなかった。

まあそいつらも全員あの魔女に殺されちまったんだが。

だが神は俺を見捨てなかった。

新たなる手駒を俺に与えてくれた。あの魔女と同じ化け物共を。

 

ようやくだ、ようやく俺は怨嗟の中で死んでいった一族の悲願を叶えられる。

奪われたクロードベルトの家名と領地を取り戻すのだ。

その為には功績を立てなければならない。

今回の都市襲撃案もその一環だった。

これで敵前線は後方と分断された。

あとはいかようにも料理できる。

一気に片を付けるか。あるいは少しずつなぶり殺しにするか選ぶだけだ。

 

これで俺の昇進は間違いないな。

そう思っての独断専行だった。どうやらこれがまずかったようだ。

本陣に呼び出された俺は意気揚々と向かったはいいが、出迎えたのは男どもの厳しい視線の数々だった。いや一人だけ女がいた。

この軍の指揮官だ。確か名はジェシカと言ったか。

まだ若いこの年で一軍を担うとは大したものだ。さぞかし指揮官としての才能があるのだろう。

もしくはその体で誑し込んだか。

 

「それで俺を呼び出したのは何の用だ?」

「貴様っその口の聞き方は無礼だろう!」

「構いません——単刀直入に聞きましょう。なぜあの部隊を動かしたのですか?待機命令を出していたはずですが」

「おかしなことを言うお嬢さんだ戦争を有利に進める為じゃないか」

「いいえ分かりません。....なぜ私の命令を無視したのですか」

 

それが理由か。命令無視、確かに俺は今回の作戦を独断で行った。

だがそれはそうせざるをえなかったからだ。ヤンはやれやれと首を振る。

 

「ならその質問に答える前に聞きたい。お前さんが俺達に与えた命令は待機、ただそれだけだった。その理由はなんだ?」

「.....部隊の温存を行っただけです。あなた方の力はこの先の戦いに必要ですから」

至極もっともな言い分だ。

だがヤンはそれを否定した。

「違うね。あんたは俺の部隊を使う気がない、この先もずっと。.....違うか?」

それに対してジェシカは目を細める。続けてヤンは言う。

「大体は俺も部隊についての事情を知っている。おおかた、あの部隊が傷つくのを恐れたんだろう。.....同郷だもんなぁ?お前さんの」

「.....っ」

 

微弱な表情の変化をヤンは感じ取った。

やはりだ。この女は仲間が傷つくのを恐れている。

それはこの女の戦い方からも分かる。

堅実なのだ。この女の戦争は。

時間をかけてゆっくりと攻め立てている。

まるでお互いが傷つくのを恐れるかのように。まさかと思っていたがこれで納得がいった。

この女は戦争そのものを嫌っている。

 

「何でお前さんの様な人間が軍の指揮官をやっているのか知らないが、これだけは忠告しておいてやる。あんたのやり方じゃこの戦争には勝てないぜ絶対にな」

「......何ですって?」

 

強い視線にさらされながらもヤンは皮肉った様に笑う。

 

「だってそうだろ?この戦争を終わらせるなら俺達を使うのが一番の早道だと分かっているはずだ。なのにそれをしない......あんたは恐れているんだ仲間が死ぬのを。そして相手を殺す事を」

「っ黙りなさい!もう十分です。......ヤン・クロードベルト、貴方を軍規違反の罪で拘束します」

 

兵士に囲まれたヤンは大人しく拘束を受ける。

拒むつもりはない。なぜなら分かっているからだ。

この戦争は俺達がいなければ勝てない。

いづれ俺達に機会は与えられるだろう。この女が望むまいが。

 

それはきっと遠くない未来だ。

 

 

 

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