あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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二十二話

 

——風車の村ブルール郊外。

 

「.......あー平和っすねー」

「馬鹿みたいにね」

「肯定」

 

緑の野原をベッド代わりにして寝転がっている。

アルテミス、ディー、ニーアの三人娘だ。

あれから三日程が経過していた。

彼女達は次の命令があるまで帝国軍が制圧したブルールという村に滞在している。当初は何もない村だと思ったがこれがどうしてよい村だ。風は気持ちよい香りがするし日差しは温かい。

春の陽気に当てられて最近の三人はいつもここで昼寝をしていた。

 

「次の命令が来る前に私達バターになっちゃいそうっすね」

「馬鹿みたいにね」

「恍惚」

 

先の傷が癒えた後もこうしてポケーッとしている機会が増えた。

それ程に三者三様に先の戦いが与えた影響は大きかった。ニーアは瀕死の重傷。ディーも意識不明の重体で一時は危急を要したが今ではすっかり回復している。ヴァルキュリアの肉体と最新鋭の医療の賜物である。それでも絶対安静を言いつけられていたが。

そして不敗を誇りとしていたアルテミスはというとあれから態度が変だ。

うわの空で虚空を仰ぎ見ていたかと思えば思い出したようにニヤニヤと笑みを浮かべる始末。

ハッキリ言って不気味である。

一応こいつも安静にしておくよう言われた。頭が重傷なのかも。

 

暇を持て余した三人は自然と一緒に行動を共にする時間が増えた。

そして今に至る。

 

「そういえば隊長捕まったらしいわよ」

「あー、やっぱり怒らせちゃいましたかね、今はジェシカという名前でしたっけ」

「うん....新しい名前」

 

かつて同じ施設で訓練した仲間が今では一軍の将だ。

いやはや出世したものだと感慨深い。

それに比べて私達はというとお昼寝三人娘っす。

 

「ぐす私って無能っすかね」

「任務成功したんだから良いじゃない」

「うん」

「いや私はまだまだっす」

 

そう言って謙遜するアルテミスを見て本当に変わったわねとニーアは思う。

.....この娘前まではもっと自分の力を過信する性格だったはずなのに。

それもこれもあの男が原因だろう。

人間のくせに私達と同等の力量をもっていた異質な男。

正規軍でもない、ましてやガリア人でもないあの男。

いやあの人と言うべきだろうか。

私はあの人の秘密を知ってしまった。

 

『.......まさか帝国の皇子だったなんて』

 

まさかである。

敵だと思っていた人間が私たち側の人間。しかもそのトップに近い人間ときた。

 

第二皇子ラインハルト・フォン・レギンレイブ。

今やその名を知らぬ者はいない程に有名な男。今も行われている西方戦線で最も早くそして最も多くの勲功を積み上げた稀代の名将。

そう呼ばれている。

 

その男がなぜ敵地の真っただ中にいる?

分からない。

私が知りえたのは彼が何者なのかという事だけだ。

彼の目的までは見えなかった。

 

謎の多い人物だきっと私達と同じように秘匿される理由があるのだろう。

だとしたら私はこの情報をどうするべきか。目下の悩みどころはそこだ。

いの一番に伝えるべき隊長は独断専行の罪で捕まってるし(許可取っておきなさいよ馬鹿)

 

「........はぁ」

「おやため息とはニーアちゃんらしくないっすね」

「憂鬱?」

 

近くにいるのは馬鹿二人だけ。

下手に伝えるわけにもいかなかった。

悶々としていたニーアだったが、やがて考えるのを諦めた。

どうせ考えるだけ無駄だ。

私の役目はただ上に伝えるだけ。

その程度の道具。それが私だ。優秀な姉とは違い私は不出来なのだから。

 

同い年の双子の姉であるエムリルは今や機関の幹部候補にまで上り詰めている。今回の作戦では唯一独断行動を許されている。

流石は姉様だ妹の私も鼻が高い。

自慢の姉だ。

ただ兄と慕うあの男さえいなければ完璧なのだが。

 

本名は知らない。ただハイエルとだけ呼ばれるあの男はいつも薄ら寒い笑みを浮かべているダルクス人だ。

奴が何者なのか詳しい事は知らない。

私はあの男に避けられているし私も近寄りたくない。

いつも私達ヴァルキュリア人を見下しているような目で見る。

あの目が嫌いだ。

 

なぜ姉はあんな男に付き従っているのだろう。

他者の心を読める私でも姉の考えは分からない。

昔はそうではなかったのに。

 

この地がそうさせるのか、センチメンタルな事を考えてしまう。これが同郷を想う心というやつだろうか、だとしたらお笑い草だ。私達には帰る家など無いというのに。

 

ゼロ・ワルキューレはその名の通り虚無を目指すという意味で名付けられている。使い捨ての兵器だ。

博士が行う研究を成功させる為の実験道具。

アルテミス達はそれを理解してない。むしろ自分達を優れた存在として自画自賛している。だから私はこいつらの事を馬鹿と呼ぶ。

 

こいつらを馬鹿呼ばわりすれば少しだけ気がまぎれた。

何も知らないでヘラヘラと笑って。

恐らくその時が来るまで笑い続けているのだろう。

私達は戦い死ぬ為にここにいる。生きる事を許されている。

それはまるでモルモットの様に。

陰鬱な事ばかり考えていると。

 

「あら....うふふ仲良しさんね」

「イース」

 

ふと声を掛けられた。目線を上げれば女性が立っていた。平時であれば女性兵とは思えないだろう優し気な顔立ちをしている彼女もまた立派なヴァルキュリア兵士の一人だ。

識別名はYイース。兵科は衛生兵である。癒し手としても名高い。

事実私は彼女の御蔭で命拾いをしている。

そういえば、

 

「イースお礼がまだだったわね感謝するわ」

「うふふ、はい、大切なお友達の為ですもの当然ですわ」

 

至極当然とばかりに言う彼女に、いつから友達になったのやらとへそ曲がりな事を思う。

 

「あーいまニーアちゃん意地悪な事を考えたでしょ」

「何で分かるのよ」

「あ、思ってたんすね勘でいったんすけど」

 

ニーアちゃんは分かりやすいんすよと口を尖らせるアルテミス。そんな事ないわよと言うあたしを見てイースが嬉しそうに笑う。

 

「私もお邪魔するわね」

 

そう言うと寝転がる三人に並ぶように腰を下ろし、やおら寝転がりだした。直ぐに可愛らしい寝息が隣から聞こえて来た。

 

「寝るの速っというか何この状況」

 

別に私は仲良く寝ていたわけではなく、この二人が後から何故かついてくるだけだ。

私としては離れて寝てほしいのだけど。

あれ以来、アルテミスは毎日顔を見せに来るから、苛立つ私は痛む傷を我慢してまでテントを出て来ているというのに。これでは本末転倒ではないか。

内心ため息を吐く。

 

何てことを考えているのが良くなかったのか、優しいお姉さん代表のイースが来たのがきっかけか、周りにいた少女達も集まり出した。年端もいかない少女たちは姉と慕うイースの横に寝転がる。気づけば十人以上がニーア達と一緒に日向ぼっこをしていた。

 

第三者が見たらそれが町を襲撃した女性兵たちの姿とは思えない事だろう。

実際そう思ったようだ。

 

「......何やってんだお前ら」

 

呆れたような男の声が。直ぐそばにヤン・クロードベルトがいた。傷に顔をもつ男は信じられないとばかりに私達を見ていた。

 

「おや隊長さん独房に入れられたんじゃなかったんすか?」

「馬鹿やろうただの謹慎だよ」

「良かったっすねジェシカちゃんが寛大で」

「っち何が寛大だ、俺達は当分、前線に出られないんだぞ、どうやって勲功を稼ぐんだよ」

「左遷っすか?そりゃたいへん」

「フンっまあ、機会はいくらかあるだろうがな、それまでは休んでろ」

 

落ち着いて言う。だがギラギラとした闘志は隠せていない。

ヤン・クロードベルト。ハイエルがどこからともなく連れて来た男。

いきなり私達の上官になった野心を隠そうともしなかった。街を燃やす事にも躊躇いがない。優しさのかけらもないこの男ならばきっと私達を十全に使いこなすだろう。そしてこの地で私達は死ぬ運命にある。なぜなら私達はゼロ・ワルキューレ。

 

いずれゼロになる、私達の束の間の時間がブルールに流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一週間後、ラインハルト達の目には王都の門が映っていた。

 




よく寝た
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