あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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二十六話

 

その日、

遅めの朝食を摂っていたラインハルトは食事を終え、コーヒー片手に新聞を眺めていた。

完全に休日の父親スタイルだ。

無言で読んでいたがとある記事に目がとまる。

あっと声が出た。対面に座っていたイムカがどうした?と聞く。

何やら嬉しそうなラインハルトが新聞を見せてくる。

そこにはこう書かれていた。

 

ーガリア義勇軍が大活躍!ー

バリアス砂漠にてガリア義勇軍第三中隊が敵ガリア方面軍と遭遇。ほぼ無傷で撃退する事に成功。の一文。

中にはウェルキンの名前もある。

成程とイムカが笑う。

 

「頑張ってるみたいだね」

「ああ、やはり強いなガリア義勇軍は」

「それだけじゃない」

「ん?」

 

ラインハルトが不思議そうに首を傾げる。気づいていないのだろうか。

 

「読んだ感じ帝国軍の被害も少ないみたい、それが嬉しい違う?」

 

わざらとらしくラインハルトの目が泳ぐ。

隠せてない隠せてない。観念したようにふっとため息をはく。

 

「その通りだ俺はウェルキン達が活躍するのが嬉しい、だが同時に帝国軍の被害が少ないのも嬉しい」

「恥じる事じゃない」

「だが……俺がやろうとしている事は彼らにとって裏切り者と蔑まれてもおかしくない事だし、ウェルキン達にとって俺は敵だ」

 

顔が暗い、実は思い悩んでいたようだ。

それもそうだラインハルトの立場はあまりにも複雑で、味方もいない孤立無援の状態だ。こんな状況で悩まないわけがない。

 

「それでも貴方はそれをやると決めた、だったら突き進むしかない」

「イムカ……ああ、その通りだ俺はこの戦いを終わらせたい」

「私もそれを応援する、私は貴方の盾だから」

「盾かイムカにぴったりだな」

 

頼もしい味方が少なくとも1人ここにいる。

何でも相談するといい。フフンと自信ありげに無い胸を張る。するとラインハルトは悪戯小僧の顔になる。変な事を考えている時の顔だ。

 

「それなら一つ相談したい事があるんだが」

「……なに?」

「あの連れ込み宿での一件はどうなったのかな」

 

連れ込み宿……?

と考えたところでイムカの顔が段々と朱に染まる。そうあれはリエラの尾行を巻くために入った夜の宿だ。男と女が行為をする為の。

 

「あ、あれは人目についていたから仕方なく」

「それだけじゃあなかったはずだが?」

「あの時は冷静じゃ、なかった!」

「あの夜の続きを期待しても良いのかな?」

「よくない!」

「……残念だ」

 

本当に残念そうな声だった。だがその口元が笑っている事をイムカは見逃さない。からかわれてる。

本気で心配しているのにラインハルトは私をどう思っているんだ。

 

……本当にどう思っているんだろうか。ふと気になった。結局あの夜の事は曖昧になってしまった。本当に私はラインハルトに愛されているのだろうか。確かめたくなった。

 

「貴方にはあの女がいるじゃないか」

「ん?セルベリアの事か?……ああ、俺は彼女の事を愛している」

「っ……」

 

すんなりとそれを認める。あまり良い気分じゃなかった。心がムっとする。

 

「でもお前の事も愛している」

すけこましみたいな事を言う。それだけではダメだ。試すように聞いてみた。

「……どれくらい?」

「世界を敵に回したっていい」

 

聞き間違いかと思った。思わずラインハルトをまじまじと見る。もう悪戯な笑みはかけらも無い真剣そのものだ。今のを真顔で言い切った。

 

「お前を手に入れる為に世界と戦えと言われたら戦う。それが連邦でも帝国でも合衆国だろうと邪魔する奴らは全て倒してお前を手にする」

 

その言葉に嘘偽りなし。連邦軍と正面から戦った男だ。言葉の重みが違う。やると言ったら本気でやるだろう。

 

「何でそこまで出来る私一人なんかの為に」

「……?何でそんなこと聞くんだ?そんなの…お前を愛しているからにきまってるだろ?……想いは伝え合えたと思っていたんだがな」

 

お前は俺を守る盾なんだろ?だったら俺は世界とだって戦えるさ。そんな事を真摯に言うラインハルトにもう何を言っていいやら分からなかった。嬉しいのに泣き出してしまいそうな変な気分だ。

恥ずかしくて逃げ出してしまいたい。

 

……本気なんだこの人は。私の事を本気で愛してくれている。

 

私の中に天秤がある。

左の秤には愛が載っている、

右の秤には復讐が載っている。

今日までどちらも同じ重さだった。

 

でも今は少しだけ左に傾いている。

 

 

 

 

 

 

 

怒らせてしまっただろうか。流石に二股宣言は引かれてしまったか。俯くイムカに見当違いな事を考えながらラインハルトは新聞に視線を戻す。いつになく真剣な表情でもう一度文面の文字を追う。

 

エレノア率いるガリア義勇軍が帝国軍を撃退した。

驚いたのはそこじゃない、その下のマクシミリアン率いるガリア方面軍をという文だ。新聞にはそう書いてあった。遠まきのアングルから撮られたであろう巨大戦車の写真も貼られている。

確かにこれは兄上のゲルビルだ。

これが本当なら兄上はバリアス砂漠に来ていた事になる。恐らくバリアス遺跡に用があったのだろう。

ここ一か月で収集した情報と照らし合わせて、

その可能性が十分に高い。

 

……鍵はそっちにあったか。

ランドグリーズにあると思っていたんだが、当てが外れたか。出来れば兄上よりも早く鍵を手に入れたかったのだが。鍵とはすなわち、兄マクシミリアンが帝国の覇権を手に入れる為の何か。それを指し示す手がかりの事だ。

 

兄上が皇帝になる為のピース。

それがガリア公国に存在する。

ギルランダイオ要塞から帰還した侍女長エリーシャからもたらされた情報だ。

 

しかしそれが何なのかまでは分からなかった。

分かっているのは聖槍というキーワードだけ。

最初はヴァルキュリアの槍の事かと考えたが違う。

確かに強力だがそれだけで帝国を御せるとは思えない。

あれはあくまで個の力だ。軍の力の前では形無しだろう。強大な帝国を落とせる程ではない。

だからこそ、それを示す手がかりを調べる為に俺達はガリア公国に来た。この一月以上情報収集に専念したが、結果は芳しくない。

 

もう7月も下旬、

開戦から四ヶ月以上が経っていた。

各地では一進一退の攻防が続いている。意外にも粘り強さを見せているガリア軍も損耗の激しさを見せている。押し込まれるのも時間の問題だ。

その前に兄上が探す聖槍を見つけ出し。

この国の国家元首と話し合いのテーブルに着かなくてはならない。そろそろ結果が欲しい所だ。

 

以前イムカに尋ねられた事がある。

ラインハルトの影達を使えないのかと。

彼らには間諜として首都に紛れ、ガリア情報部に対する防諜・妨害工作を行ってもらっている。

情報戦に付きっきりでこっちまで手が回らないのだ。それもギュンターだけは例外だ。彼には俺達のサポートを任せている。

 

残る唯一の懸念はリエラだが問題ないだろう。

あれ以来、特に音沙汰がないし、監視の目もない。ノーマークだ。

だからといって油断は出来ないが。

 

「さて今日はどこに行こうか」

「またどこかの図書館?」

「いや、もう資料は充分集まった、次はもっと深い格式のある場所に行こう」

 

準備を整えてイムカと外に出る。

 

 

 

 

 

格式の高い場所に行こう。それが最初の間違いだったとラインハルトは痛感した。ガリア公国の深い歴史を知る為に絶好の場所だと安易にそう考えたのがいけなかった。

ここガリア歴史博物館の入り口で。

 

「申し訳ありませんがダルクス人のお客様は入る事が出来ません」

 

2人は守衛に止められた。

男が指差す先にはダルクス人立ち入り規制のマークが。ああ、そうかとイムカは思い出す。珍しいことでは無い。帝国でも似たような経験をして来た。確かにここは富裕層の地区のようだし、こういう扱いを受けるのは覚悟しておくべきだった。

 

納得したイムカに対してラインハルトはというと、笑顔のまま微動だにしない。石像のように固まっている、ああいや違う。青筋を立てて激怒していた。

 

「……もう一度言ってくれないか聞き間違えたかもしれない」

 

赤いランプが点滅している。最終通告だ。次ふざけた事を言ったら男に命はない。男はそれに気づかずため息を吐きながら。

 

「ですからダルクス人の使用人の方は入室できません規則ですから」

 

言うにおいてこの男、イムカを使用人呼ばわりしやがった。ぶっちーん。ラインハルトの心がキレる音。

 

「……くくく、クハハハハハ」

 

地獄の底から這い出るような不気味なトーンで。

 

「おい、こら……人の嫁に向かって言うに事欠いて使用人だと?どこまでふざけた態度してやがる」

「嫁、ダルクス人が?」

本当にその考えはなかったといった顔だ。

ますます許せん。

「どこからどう見てもお似合い夫婦だろうが」

「しかし規則ですので」

「どんな規則だ、ただのダルクス人排斥じゃねぇか、迷惑かける以前の問題だ支配人を呼べ、こんなふざけたルールを作った奴は誰だ」

一言文句を言わないと気がすまない。眼光だけで人を殺しそうな勢いだ。あまりの剣幕に狼狽えた男が。

「こ、困りますお客様、……ってそうでした今日は一般の方は断っているんでした、ですのでお帰りください」

急遽思いついたような言い草に、

「なんだと?どこまでもふざけた態度を、そんな嘘が通用するとでも思っているのか、いい度胸だ」

喧嘩を売られたと思ったラインハルトが殺気を放ち出す。

「ほ、本当なんですこれから大事なお客様が来られるんです!」

ぶるぶると男の顔から血の気が引いている。意識を飛ばさないのはプロ意識の成せる技か。そろそろ人の目が増えて来た。

「私は気にしない落ち着いてハルト!」

「言っただろイムカ俺はお前たちの為なら世界とだって戦えるガリア公国!?もう知らぬこんな国、ダルクス人だからと差別するなら俺が滅ぼしてくれるわ!」

愛が重すぎる。

たった一人の男の人種差別でガリア公国が滅びの憂き目に合うとは誰も思うまい。

男も現在、祖国が存亡の危機にあるとは想像すらしてないはずだ。

ただとんでもない相手を怒らせてしまった事だけは分かる。

まじでガリアに対して宣戦布告を考え始め。あわや国が滅びるといったところで、背後に誰かが来る。

 

「……ダルクス人に対する差別があったのなら私が謝ります、だからその人を許してあげてくれませんか」

 

涼しげな透き通る声に、ラインハルトの熱が冷める。どうやら話の分かる人間が来たようだ。だが言いたい事は山ほどあるぞ。何か言ってやろうと涼しげな声の主を見て硬直する。

……まさか彼女は。

 

こんな所で会うとは思わなかった。いや会えるとすら思わない。さっき男が言った言葉が嘘じゃない事を理解する。

彼女は、いや、この御方はガリア公国において唯一にして最も高貴な人間。

 

ガリア公国元首にして次期女王。

コーデリア・ギ・ランドグリーズその人が目の前にいた。

 

事態は急転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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