あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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二十七話

 

「ほう、それでは来月の会談は連邦の大使を招いて元首である貴女自らが案内をなさるのですか」

「はい、そうなんです、なので間違いがあってはいけないと視察を兼ねて首都を巡っておりました」

「それはそれは王族のお勤めご苦労様です、流石は勤勉なガリア公国の国家元首となられたお方、コーデリア殿下もまた勤勉であらせられる。」

 

ははっと歯をきらめかせて笑うラインハルト。さっきまで入り口でメンチきっていた男とは思えない。高貴な方に対する振る舞いも上手く出来ている。

流石は皇子というべきか。変わり身が早い。

 

マナーもしっかりしていた。

そうでなくては護衛兵に速攻で摘み出されていただろう。今もラインハルトが何かしないか常に目を光らせていた。

折角のご好意で中に入れてもらったのだ。ラインハルトも無碍にするつもりはなかった。

出来うる限り完璧に目の前の女性を立てることに集中する。

 

それ程に、この絶好のチャンスを逃す訳にはいかなかった。

 

まさかコーデリア・ギ・ランドグリーズと会えるとはな。

恐らくこれが最初で最後の機会だ。

こんな奇跡は二度と起きない。どこかで二人きりになれないだろうか。そうすれば自分の正体を明かし目的を話しても良い。

 

通路に飾られてある古い絵画を見ているコーデリア姫。いまだ年若い彼女は肉親である国王夫妻を戦前に亡くした事で戴冠の儀を控えている身。女王になる前に戦争が始まってしまい。

 

彼女にとっては今が最も辛い状況のはず。

それを臆面に出さず公務を行なっている。健気だ。

頭全体を隠すように頭巾を被っているので表情しか分からないが目鼻立ちも良い。きっとガリア国民に好かれる良い指導者になるだろう。

何となく分かる。

 

「ガリア人は幸せです」

「え?」

「誠に国を想っている殿下のような指導者を戴けて」

 

国は豊かで気候は温暖。次代の指導者にも恵まれているときた。実際なかなか無いだろうこんな国は。

しかしコーデリア姫は意外にも。

 

「私は……良い指導者ではありません」

「え?」

 

驚いた。まさかそんな事を言うとは。

しかも外国人の俺に。護衛の人達も慌てている。いや、外国人だからこそか。どうしても身内には言えない事もある。

 

お互い似たような立場だ。

悩み相談なら聞きましょう。

 

「私もこの国は素晴らしい国だと思います、ですがこの国には未だダルクス人差別が根強く残っています、それがガリアが残す課題です」

「ダルクス人の差別を無くしたいと?」

 

かなりディープな国家の事情を話してくれる事に驚きを覚えつつ、成程と思った。俺たちを招いてくれたのには理由があったのだ。

 

「つまりどうすればダルクス人と他人種が仲良くなれるかを、ダルクス人を妻にもつ俺に聞いてみたかった、そう言う事ですね」

「はい、その通りです、貴方が奥様の権利を必死になって守ろうとしている姿に私は感銘を受けました、ぜひお話しを伺いたくて。申し訳ありません勝手な事と思いますが少しだけ付き合ってくれませんか」

「私達で良ければ喜んで」

 

話せば話すほどコーデリア姫は聡明な方だった。

意外にも論理的な考えを好むロジカル思考の方で。だからこそシビアな国の事情からも目を逸らさず一つずつ解決していきたい。そんな考えの持ち主だった。ラインハルトが自論を説く。

 

「やはりダルクス人差別をなくすには彼らの地位向上しかありません、弱い立場だからこそ彼らは迫害を受けるのですから」

 

「どうすれば地位向上に繋がるでしょうか?」

 

「そうですね彼らの良い所を広報するというのはどうでしょうか、ガリア国民にダルクス人の良い部分を広く知ってもらうのです」

 

「ああ、そうか悪い所しか知らないから差別が起きるのですね」

 

「それだけではありません、ダルクス人のみの部隊を作りましょう、その部隊を英雄に仕立てるのです、そうすればガリア国民はダルクス人を認めるはずです」

 

目から鱗だ。当然の事にも気づかなかった。何で思いつかなかったんだろう。コーデリアにとってそれは新鮮な視点からの気づきだった。

あらためてこの外国人の方は凄い人だと思う。

勇気を出して声をかけて正解だった。

 

……私の知らない多くの事を知っている。

 

もっと知りたい。知らなければならない。知って変わらなければならない。

そうしなければガリア公国に、ランドグリーズ大公家に未来はない。自らに流れる血の宿命により逃れる事は出来ないのだから。

 

「それに加えて土地を持つ事ですね、つまり彼らに国を与えるのです」

「!?……ダルクス人による国家樹立、ですがそれは」

「ええ、ほぼ不可能です、しかし彼らに誇りを取り戻させるにはこれしかない、無論ガリアにそんな土地の余裕はない」

「……」

 

いやある。この国のダルクス人に国を与える方法が一つだけ存在する。それをコーデリアは知っている。だがそれを口外してはならない。

口外すれば最後、この国は滅びるかもしれない。

 

「ですので自治区を作るのがよろしいかと」

「自治区ですか」

「はい、彼ら自身で統治し彼らが選挙をし彼らの法律で生きていく為の自治区です」

「難題でしょうね途方もなく。今のガリアではそれすら不可能に近い」

「そうでしょうね、ガリアならば」

「?」

 

どういう意味だろうか。

コーデリアが首を傾げる。ラインハルトはどこか遠くを見ていた。

 

「……ここより遥か東の地に多くのダルクス人が住むニュルンベルクという都市があります、ほとんどがダルクス人なので恐らく反発もないでしょう、そこならば自治区を作る事も可能かもしれない」

 

聞いたことのない地名だ。

ダルクス人によるダルクス系自治都市。

それが実現すればダルクス人にとって正に夢のような場所になるだろう。

 

「そんな場所が本当にあれば夢のようですね」

「夢を現実に変えてみたくありませんか」

「現実に?……確かにそれが現実になるなら私は何だってやるのに」

 

その言葉にラインハルトの目が輝く。この人に俺の理想の共犯者になってもらおう。その資格は十分にある。会ったばかりだがこの人の言葉には嘘がない。本心でダルクス人の事を憂いている。

 

「成程……どうやら俺と貴女は立場だけでなく目標や考え方も似ているようだ」

 

この人になら俺の正体を告げても問題ない。俺の勘が告げている。

 

「……そういえば貴方の事を詳しく窺っていませんでしたね、不思議な考えを持つ外国人さん貴方は何者ですか」

 

彼女も俺に興味をもったらしい。

ちょうどいい改めて自己紹介するとしよう。だがその前に。

 

「ふむ……それを教える前に一つお願いと約束を聞いてくれませんか、承諾して頂けたら全てお話しいたしましょう」

「なんでしょうか?」

「人払いとこの事は誰にも口外しない事それだけです」

 

この女性は信用できるが護衛連中は別だ。

 

「……分かりました」

「ひ、姫様?」

 

ざわめく護衛達にコーデリア姫が一言。

 

「下がりなさいお前達」

「しかし宰相様のご命令ですので」

「お前達の主は誰ですか」

「っ……分かりました、では5分だけです、それ以上は踏み込ませていただきます」

 

ぞろぞろと出ていく護衛を見送るとコーデリア姫はほっと息を吐いた。ようやく気を抜けたといった様子だ。奇妙な話だが外様の俺たちにではなく護衛に対して圧迫感を感じていたのだろう。

可哀想に。だが今は時間が惜しい。

 

 

「……私の名前はラインハルト・フォン・レギンレイブ。……帝国の皇子です」

 

それを口火にラインハルトは己が何者であるか口早に告白した。なぜガリアにいるのか事のあらましを説明する。最後に自らの目的を話した。

あまりに荒唐無稽な物語に、コーデリア姫は最初困惑し、驚き、最後には信じられない様子でラインハルトとイムカを交互に見る。

信じられないかもしれないが本当だと頷くイムカ。コーデリアに対して同情していた。自分なら絶対に信じないからだ。

 

「まさか、そんな事が……」

 

コーデリア姫は大きく深呼吸する。

そして額に手を当てて情報の整理に努めた。

帝国の皇子がガリアに密入国し正体を偽装して義勇軍に護衛させ、そのまランドグリーズに潜入した。その目的はガリア公国を守るため……?

理解できない。気づけば白い額に汗していた。それ程にラインハルトの語る言葉は常軌を逸していた。でもだからこそ拭いきれないリアルさがある。

 

「正直、未だ半信半疑ですが貴方の、いえ、貴方様の言う事を信じましょう。これが嘘なら貴方は稀代の大嘘吐きですよ」

「申し訳ないコーデリア姫、このような不躾な立場での非礼お許し下さい。それと俺の事はラインハルトとお呼び下さい」

「分かりました、では私の事もコーデリアと、それでこれからどうするおつもりなのですか、あまりにも危険な状況でしょう」

「なに心配いりません俺には頼もしい仲間達がいますから」

 

自信満々の笑顔で答えるラインハルトにコーデリアは羨ましいと思った。私にも自信を持って言える仲間がいれば。

何かが変わるかもしれないのに。

 

「必ず兄上を止めて見せます」

「私にできる事はありますか」

「そうですね、では、まず俺の心配よりもご自分の事を優先して下さい、今の貴女は籠の中の鳥のようだ。羽ばたく事を許されず無理矢理、押し込められている」

「っ……!」

 

図星だ。やはり気づかれていた。

さっきの護衛とのやり取りを見れば一目瞭然か。

ガリア公国、国家元首といってもこの様だ。帝国の皇子様に知られてしまうとは恥ずかしい限り。

俯くコーデリアにラインハルトは。

 

「では我々は秘密の仲間ですね」

「……え?」

「コーデリア姫が俺の秘密を隠してくれている限り俺も必ず貴女を助けましょう友人として」

 

そう言ってもらったのは初めてだった。

父と母が亡くなって以来、誰も私の事を気に掛けてくれなかった。腫れ物を扱うように遠巻きに見ているだけ。

私よりも宰相の言う事を聞くようになった。

自分の意思を持つなと言われた。

私は王女という立場でありながら城の中で孤立していた。だからこそ何かを変えたくて城を出てランドグリーズ中を巡っていた。

 

だけど城という鳥籠から外に出ても、目の前には壁が立ち塞がっていた。ランドグリーズこそが私を閉じ込める牢獄だっのだ。

皮肉な話だ。

 

ならば初めての友達がガリアを攻める帝国から来たというのも運命かも知れない。可笑しな話だ。

だったらもっと皮肉で可笑しな話にしてしまおう。

コーデリアはこの日、己の立場と向き合う覚悟を決めた。

まずは自らの足場を固めるために。

 

「壊していただけませんか?この鳥籠を」

「承諾しましょう」

 

握手を結ぶ。

帝国の皇子とガリア公国の国家元首との。

ここに非公式かつ秘密の契約が交わされた。

連邦との会談が行われる13日前の出来事である。

 

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