あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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二十九話

 

「……何だ?悪寒が」

 

一瞬、背筋に冷たいものが走った気がする。

だが、もう何もない。不思議な事もあるものだと首を捻るラインハルト。何故か強気な赤毛女の事がチラついた。

そういえば元気にしているだろうか?

のほほんとそんな事を考える。まさか今まさに怒れる彼女がラインハルトに一発入れようとランドグリーズに向かっている最中だとは思わなかった。

気を取り直してギュンターから提出されたレポートを確認する。

 

「……これは本当なのか?」

 

あまりの酷い内容に思わず疑問を呈してしまった。

ギュンターは優秀だ。優秀過ぎると言ってもいい。それでも疑ってしまう程にガリア宰相マウリッツ・ボルグ侯爵のガリア運営は酷いものだった。

 

特にガリア正規軍の人事が酷い。優秀な者でも貴族ではないというだけで要職に就けず佐官にすらなれない。将校クラスは全て貴族のコネで入った者達ばかりで構成されている。

これでどうやって戦争に勝つんだ。

頭を抱える。……成程だから義勇軍には優秀な者が多いんだな。ほとんどが平民だから。妙に納得する。

 

では政務はどうなのかと云えば、こちらも酷い。

近頃行われる連邦との会談内容に目を通して絶句する。

表向きガリアの保護を名目に同盟を結ぶとあるが、その為にガリア公国のインフラ事業及び全国のラグナイト資源の採掘権を保有する旨が書かれている。採掘分配は連邦が55%を所有。

驚異的な数字に自分の目を疑う。

 

「馬鹿な……これでは隷属と変わらないではないか!?」

 

ガリアを売るような蛮行だ。

しかも大西洋連邦機構の勢力に半ば組み込まれるようなもの。中立国を是とするガリア公国において、到底受け入れられる内容ではないはずだ。

 

だがボルツ宰相は前向きに検討しているようだ。非常識な。

今回の内容ではほぼ合意の流れとなるだろう。信じ難い事に。

 

貴族至上主義の上に愛国心の欠片もない。

このレポートからはそれが読み取れる。

いっそ嘘であってくれと願うほどに。

 

このままでは仮にガリアが戦争に勝ったとしても困窮する未来は避けられない。今よりさらに危険な状況下になる。

そんなの誰だって分かるだろうに。

 

マウリッツ・ボルグ。ダメだこの男、はやく何とかしないと。

恐らくこの男、連邦が良い条件を出したら直ぐに飛びつくぞ。ガリアを捨てて。

こういう男は自分の家が豪華で庭が広がる事しか考えてないのだ。

 

最悪、連邦に高跳びしかねない。

こいつ一人がやれば良いが、問題はコーデリア姫を連れて行かれる事だ。連邦に行けば二度とガリアに帰る事は出来ないだろう。

出来たとしても完全にガリアが連邦化した後だ。

今回の会談でそれが起きないと断言は出来ない。

 

この連邦大使の男もくさいな。

名前はジャン・タウゼント。

この男の経歴を見ると、どれも会談を行なった後に小国が連邦に併合されている。かなり強引なやり方で自分達の勢力に取り込んでいるのが分かる。

……もしかすると。

 

「気にしておいた方が良さそうだな、ギュンター、影を総がかりで会談中は見張らせろ。妙な動きがあれば直ぐに知らせるんだ」

「かしこまりました」

 

首都中に潜ませた影を動かす。リスクが高いが仕方ない。コーデリア姫の身に何かあれば帝国とガリアの停戦どころではない。

最悪、俺自身を秤にかけねばならん。

つまり俺が人質になれば停戦になる可能性がある。

危険だし、そう簡単に行くほど甘くはないだろうが、選択肢の一つに入れておくべきかもしれないな。

 

そうなるとイムカには悪いが……。

 

「……ギュンター、お前にプランBを命じておく」

 

そう言ってラインハルトはギュンターと秘密のプランを立てる。上手く行けばガリア上層部をひっくり返せる。何故かイムカを抜いて話し合うのだった。

話も終わり。ふとラインハルトが思い出したように言う。

 

「そういえばギュンターお前、コーデリア姫と俺達が出会う事を事前に知っていたな?」

「はい」

「即答かよ」

 

やっぱりだ。おかしいと思ったんだ。

ギュンターがあんなアクシデントを犯すわけがない。基本的に俺のスケジュールは彼が組んでいるからな。

 

「ラインハルト様ならあの程度の事は、何でもない事かと、むしろ機会をものにするチャンスだと思いましたので」

 

まったく悪びれもせずに。

慇懃無礼な態度を崩さない。むしろお前なら出来て当然だよな?と言わんばかりだ。お前は俺を何だと思ってるんだ。

侍女長と云いこの男といい俺に対する期待値が高すぎないか。

俺は何でも出来るわけじゃないぞ。

予想と対策を立てるのが人より少し上手いだけだ。

 

だから予想不可能な位置からの攻撃に弱い。

殲滅のラインハルトとか呼ばれてるらしいが、案外、俺の個人的な勝率は低いのだ。

最近もあのヴァルキュリア達に敗れ、連邦軍にも予想を超えられたし、あの野盗モドキの連中にも完全敗北した。

あれ、よく考えたら俺って負けっぱなしでは?。

 

ラインハルトの考えは間違いではない。

ただし比較対象が高すぎるだけだが。

 

「ギュンター俺はただの雑魚だぞ」

「……何を考えてそのような結論に至ったか知りませんが、ならば私はもっと雑魚だと思いますので気になさる必要はないかと」

「お前が雑魚?冗談は休み休み言え」

「その言葉そっくりそのままお返しします」

「……ただいま」

 

ちょうどイムカが買い出しから帰ってくる。悪いけどお前より俺の方が弱いから、貴方より私の方が弱いです、と言い合っている意味不明な場面にイムカは呆れた目で二人を見る。

また二人で変な事してる。

 

「……ってあれ?イムカ帰ってたのか?」

「ふむ、気づきませんでしたね私とした事が」

「ダメだぞちゃんとただいまを言わないと」

「そうですな常識ですよ」

「……」

 

イムカは無言で二人に飛びかかった。イラっときたのは言うまでもない。自業自得だ。イムカの理由のある暴力が二人を襲う。

 

「私より二人の方が弱い、それで、いい?」

「ふぁい」

「……はい」

 

頭に出来た、たんこぶをさすりながら。情けない声を出すラインハルト。威厳のかけらもなかった。ギュンターも大人しく頷く。

一応、落ち着いたのでイムカが切り出す。

二人に伝える事があったのだ。

 

「ここに帰る途中でリエラを見た」

「……ほう?」

 

それは興味深いな。

リエラか仲間達と再会できたのだろうか。

彼女には世話になったし無事でなによりだ。

 

「まだ俺達の尾行を諦めていないようだな」

「分からない何だか忙しそうにしてた」

「猟犬部隊ネームレスか、調べたところ諜報部子飼いの実働部隊らしいな、十中八九、この首都に巣食う諜報員の摘発に動いているのだろう」

 

その半分ぐらいは俺達なんだけど。

きっと今頃、ガリア諜報部は大忙しだろうな。

ここ一カ月は特に。

思い当たる節がありまくりなラインハルトはふっと笑う。

 

「そろそろ尻尾を掴まれそうだな、7月の会談が終わったら次の拠点に移るか」

「了解しました」

「……ハルト、気になっていた、オペレーションガーゴイルって何?」

 

結局あれは何だったのか。

その問いかけにラインハルトはニヤリと笑う。

悪戯をする時の顔だ。何だかろくでもなさそう。

 

「あれはただの符号だ、俺が首都に到着した事を伝える為のな。それ以上の意味はない、だが言うなれば(デコイ)かな」

「デコイ?」

「ガリア情報部に対する嫌がらせと言ってもいい、きっと彼らは今も解析している事だろう、中身のない計画を。それに気づいた時どんな顔をするのか見ものだろう?」

「……」

 

何だか期待した自分が恥ずかしい。

どんな壮大な計画が始まるのか興味津々だったのに。蓋を開けてみれば子供の悪戯だ。無邪気さがない分よりタチが悪い。

 

「おかげでこの一カ月、悠々自適に過ごせただろう?」

「いつ事が起きるのか、気が気ではなかった」

 

それに頑張っているのは影達だ。

ハルトが自慢するのは違うと思う。クハハハハと笑うラインハルトは意気揚々と目の前の機械を操作する。

懐から小型携帯機を取り出すと。

 

「……それじゃあ今日もやるとするか」

 

スイッチをONにした。

楽しい夜の諜報戦の始まりだ。

 

 

 

 

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