あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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三十一話

 

ガリア公国ランドグリーズ城館。執務室。

今日は午前からコーデリアは公務を行っていた。といっても渡された書類にサインするだけだ。全て事前に宰相の目に通される。彼が許可したものだけがコーデリアの元に通されるのだ。

 

よく目を通してみると貴族の権利を守る法律案ばかり。

今まではそれに対して無心で業務を行っていた。何も考えず、ただ言われた通りの事をする。でも今は疑念が募る一方だ。

 

……こんな事ばかりで本当にガリア公国の為になるのだろうか。

 

いや分かっているのだ。このままではダメなことぐらい。それでも、どうする事も出来なかった。

今までは。

 

引き出しの中から草案書を出す。自分で書いてみたものだ。

題名はダルクス人の人権問題について、それとダルクス人部隊についての二つ。ラインハルトの意見を取り入れつつ、自分なりに考えて夜な夜な一人で書いてみた。まだ誰にも見せてない。

 

「……フフ」

 

不思議なものでそれを眺めていると何だか勇気が湧いてくる。

きっと自分の力だけで作った唯一の物だからだ。

 

とその時、執務室に一人の男が入ってくる。

宰相のマウリッツ・ボルグだ。

 

「おはようございます殿下、今日はいよいよ待ちに待った連邦との会談ですぞ!」

「……おはようございます宰相」

「おや?元気がないですな!困りますぞそれでは、昼には大使殿との会食や遊覧、夕方には会談があり夜には豪華な晩餐会が開かれます、殿下もお喜びになる事でしょう!」

「……そうですね」

 

どうだろう私は別に、とは言えない。

コーデリアはあまり乗り気ではなかった。ボルグ宰相主導で行われている今回の会談は急遽決まったものだ。

世の中に疎い私でも何だか怪しさを感じていた。

 

「宰相、もう一度聞きますが、これはガリア公国の民のために必要な事なのですか」

「おお、勿論ですとも連邦とガリアが一体となる事でガリアの民は悪しき帝国より守られるのです!」

「……ですが連邦の庇護を得る為に提示された、このガリアの資源の割譲は民を苦しめる事にはなりませんか?」

 

連邦との同盟を結ぶ為にガリアが差し出す代償が重すぎるのではないか。コーデリアとて無知ではないのだ。

中々引き下がらないコーデリアを諭すように。

 

「……姫様、確かに連邦の提示する条件は難しいものかもしれません、ですが国が滅んでしまった後では遅いのです!」

 

ガリアが帝国に滅ぼされてしまった後では何もかもが遅い。そう言われてしまえば納得するしかない。

でも、今日のコーデリアは少しだけ勇気を出した。

 

「……宰相、これを読んでみてはくれませんか」

「何ですかこれは?」

「ガリアを思って私が書いたものです、連邦に力を借りるのではなく、彼らから力を借りる事ができれば……」

 

この戦いに勝つ事が出来るのでは。コーデリアはそう考えたが。ボルグはそれを一瞥しただけで。

 

「却下ですな」

「え……」

「何かと思えばダルクス人ですか、あのような者達の力など取るに足らないもの、連邦と比べるものではないですな、それに何ですかこのダルクス人部隊というのは?不穏分子を増やすべきではありません」

「ですが彼らもガリア国民です」

「真のガリア国民とはガリア人だけですダルクス人は……おっと、そうでしたな姫様も……」

 

うっかりしていたとばかりに。わざとらしくボルグは言う。あえて間違えたくせに。

 

「ランドグリーズ大公家は特別です、なんせヴァルキュリアの血を引いているのですから、そうでしょう姫様?」

「っ……!」

「ですが姫様が間違った判断をした場合、誤ってあの情報が漏れるかもしれません、そうなればランドグリーズ大公家は姫様はどうなりますか?お考え下さい」

 

暗にあなたは余計な事を考えなくてよろしい。

とそう言っているのだ。

ボルグはそうやっていつも彼女を押さえつけてきた。

先代大公の、父が亡くなってから彼は好き放題し始め。コーデリアが若年なのをいい事に自らが大公の様に振る舞い出した。彼女にとっても屈辱だった。

 

「……貴方のお好きなようにしなさい」

 

ですがいつか報いを受ける時が来る。その時を信じてコーデリアはぐっと我慢した。希望はある。

 

……約束をした彼と。

この鳥籠を壊してくれるって。

今すぐにでなくともいい。いつか必ず来てくれると信じている。

 

彼には信じさせてくれる何かがあった。

これでも人を見る目はあった。

ずっと人の目を窺って生きてきたから。

彼の目はずっと私を見ていた、名ばかりの大公としてではなく、コーデリアという少女を。淀みのない一心で。

 

軽く調べてみた彼の事を。

意外にも情報が少ない。連邦の新聞に載っていた記事にあった。彼が表舞台に立つのは16歳の頃。今の私と同い年だ。当時、連邦軍の小部隊を次々と撃破する事で名を上げている。すごい、まだ士官学生だった彼は初陣初戦を勝利で飾る、その時の写真も記事に掲載されている。確かに面影がある。

その後、……え?

 

その後、連邦軍中部隊の奇襲によって部隊は壊滅、更に幹部候補学生35人が戦死している。彼自身も瀕死の重傷を負っている。生き残りはたった二人という壮絶なものだった。

 

思わず口元に手をやる。彼の過去にこんな惨劇があったとは思いもしなかった。

 

ラインハルトの受けた苦しみはきっと想像を絶するものだったに違いない。

35人は彼の友人だったそうだ。

恐ろしい体験をした事だろう。

その後の記載は残っていない、奇跡的に命を取り留めた後は自領に引き込んで出てこない空白期間、変な物ばかり作り続ける事で変人扱いされていたそうだ。

 

そして彼が表舞台に現れるのは七年後、後は知っての通りである。連邦の新聞では、それはもう恐ろしい存在だと書かれている。

一つの戦線が彼によって崩壊させられた。

今後の連邦軍は非常に厳しい戦いを強いられるだろう。それで締めくくられている。

 

凄いと純粋に思った。

これ程までに傷ついて、どうやって立ち上がる事が出来たんだろう。彼は7年をかけてリベンジを果たしたのだ。

彼のようにはなれないけれど。

待つ事はできるから。

 

いつかその時が来るまではボルグ宰相に従順なフリをするんだ。ボルグ宰相は満足したようで帰って行った。

意気込んでいると、

 

「ひ、姫様……」

 

そばに控えていた侍女の一人が歩み寄る。いつも昔から世話をしてくれている老侍女のマーヤだ。私の秘密についても知っている数少ない内の一人。

ボルグ宰相の横暴に耐えかねる一人でもある。

 

「あの男はいったい姫様を何だと思っているのか……!許せません」

「……大丈夫ですよマーヤ、私は負けません」

「姫様……ご立派です、大公様が生きていたならきっと喜んだ事でしょう、いつかきっとマーヤが何とかしてみせますからね!」

「ふふふ」

 

本当にこの人なら一人でもボルグ宰相に直訴に行ってしまいそうだ。

行動力の塊のような人だから。

いつも頼りにさせてもらっている。その時が来たら彼女にも協力してもらおう。

その為にも今日の公務も頑張ります。

 

 

その思いで取り組んだコーデリアは午後は大使を伴ってランドグリーズの名所を回った。あの博物館も勿論。歴史深いガリアに大使も気に入ってくれたようだ。

無事につつがなく進行し午後の公務は大成功に終わった。そしていよいよ、夜の部だ。

 

 

 

 

 

ガリア公国の主城、玉座の間。

そこにガリア公国の重鎮達が一同に介している。貴族達だけではない。

正規軍の司令官を始めとした軍人もだ。

そこには義勇軍所属のエレノアやウェルキンにファルディオもいた。数々の功績が認められて招待されたのだ。アリシアも連れて行ってと頬を膨らませていた。可愛いでしょとウェルキンが苦笑する。どうもこの二人、関係が急速に近づきつつあるようだ。羨ましい事で。とファルディオが苦笑する。

 

「ーーコーデリア姫、お言葉を賜りたく存じます」

 

恭しい態度でコーデリア姫に尋ねるボルグ宰相。朝とは大違いだ。

 

「……お集まりの貴頸、並びに紳士淑女の皆様、わたくしはいま……この上ない喜びを感じています」

 

つらつらとまるで台本を読み上げるような気分で。

事実、ボルグの用意した台本なのだこれは、それを読み上げるだけ。およそ生気を感じさせない声音で続ける。

 

「ガリア公国と連邦国が手を取り合うことは……ヨーロッパの恒久なる平和に繋がるでしょう」

「諸君!神聖なるガリアの自由と誇りが、帝国の手によって踏み躙られようとしている!ーーだが!ヴァルキュリアの加護が永遠に約束されたコーデリア姫がいるかぎり……わが公国が敗北することはない!そうですな姫?」

「………はい、わたくしはヴァルキュリアの血を引くもの……正義はこの身と共にあります」

 

ようやく台詞を終えられた。内心ほっとする。

讃えるようにタウゼント連邦大使が拍手をする。

 

「連邦大使としてガリア公国を訪問できた事は私にとって史上の喜びとなりました、ラグナイト資源に富み、東西の中央に位置する貴国は正にヨーロッパの要所、我が連邦は貴国と手を組み共に悪しき帝国を打ち砕く事を約束しましょう!」

 

拍手する中、勇ましいだけの言葉にファルディオが、

 

「フン……そのヨーロッパの要所を自分達が欲しいだけだろ……よっぽど数十万の兵を失った事が堪えたんだろ、ラインハルト皇子も余計な事をしてくれたもんだぜ」

 

割を食うのはいつも小国だ。無理な合意の裏には深刻な損失を穴埋めしたい彼らの思惑が透けて見えた。連邦も必死だ。

 

「……そうだね」

 

ウェルキンが何とも言えない顔で答える。結局、ランドグリーズに戻ってからも彼には会えなかった。彼の宿泊するホテルに行ってみたが留守だった。上官のエレノアに尋ねるのもやめておいた。

彼とは個人的に会いたかったからだ。

 

「我々が手を組めば帝国など恐るるに足りません!」

「帝国を打倒し、このヨーロッパ全土を我がガリアと連邦のものにしようではないか!」

 

ガリアの重要人物達が拍手する中で、

タウゼント大使とボルグ宰相が固く手を結ぶ。カメラのフラッシュが連続する。歴史に残る一幕だ。

 

「ヨーロッパ全土……物騒な事を口走ったわね」

「俺たちは他国に攻め込みたいわけじゃないのに」

「故郷を大切な人たちを守りたいだけなんだ」

 

カメラマンのエレットもウェルキンとファルディオもその言葉に不穏なものを感じ取っていた。……まさか、戦争を拡大するつもりじゃないだろうな。

連邦の代理戦争に付き合わされるつもりは毛頭ないぞ。一抹の不安を拭いきれなかった。

 

「両国の輝かしい未来に……乾杯!」

「乾杯!」

 

周りを放って美酒に酔いしれる二人を見て嫌悪を感じる。

それは何もファルディオだけではなかった。

コーデリアもまた何もできない自分に怒りを感じていた。黙って二人のやり取りを見ていることしかできない。

今日ほど無力感を感じた事はないだろう。

 

気分が優れない。夜の晩餐会を途中で抜ける。

表向き主役だが私がいなくても変わらない、そう考えたコーデリアは自室に帰る。

 

その帰路でのことだ。

 

ほんの一瞬の出来事だった。だから侍女のマーヤは何が起きたか分からなかった。コーデリアが忽然と消えたのだ。

ほんの数歩先を歩いていたはず。慌ててキョロキョロと周囲を見渡し、見当たらない主君の姿だが、遠ざかっていく複数の足音を聞いた

 

ここに来て事態を把握する。

コーデリア姫が何者かによって誘拐されたのだ。

侍女の悲鳴が城に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

ー先に言っておくと、今回の騒動では4人の行動が鍵を握る事になる。

まず先に動いたのは事態を聞きつけたウェルキンだ。直ぐに義勇軍第七小隊で出動する。

 

その次に事態に気づいたのはまさかのラインハルトだった。張り込ませていた影の報告で事態を知ったラインハルトが単独で動いたのだ。

 

その次に懲罰部隊ネームレスが動く事になる。ラインハルトの動きに気づいてクルトが追跡を開始する、まだコーデリア姫が誘拐された事には気づいてていなかった。

 

三者三様の立場と思惑が複雑に入り混じる中、

コーデリア姫救出というガリアの長い夜が始まろうとしていた。……果たして彼女の運命はいかに。

 

 





もしもラインハルトの苦しみが、どんなものかを感じたい場合は原作をプレイしてアリシアを除く全ての隊員達が死亡したと考えて下さい。それがラインハルトの抱えるトラウマです。
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