あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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三十二話

 

「っ……コーデリア姫が誘拐されただと」

 

その第一報を聞いた時、ラインハルトは悪い予想が当たったなと思った。彼女を拉致誘拐したのは恐らく連邦だろう。他に思い当たる組織がいない。

 

……いや一つだけあった。

一瞬、あのヴァルキュリア部隊が思い浮かんだ。

彼女達ならやりかねない。

だが今回は違ったようだ。

 

「標的は現在、装甲車に乗り換え第三から第五ルートを使い東に向かっている模様」

「……そうか、奴らの狙いはヴァーゼル港だな船に乗って逃げる気だ」

 

そのまま大河を下って連邦領に逃げ込むつもりだな。船に乗り込まれたら最後だ。最悪の状況を想定する。

判断は早かった。

 

「これより連邦軍部隊を攻撃する!俺も出るぞ!影はそのまま装甲車を補足し情報を送り続けろ、イムカは倉庫街に向かいヴァルキリーに搭乗し俺の命令があるまで待機せよ!」

「了解!」

 

迅速に行動に移る。時間との勝負だ。

傍に置いておいた愛用の狙撃銃Zmーsg3を手に取る。よろしく頼むぞ。頼もしい相棒はきっと答えてくれるだろう。

 

先んじて俺だけホテルを出た。

目指すべき港方面に最速で迎えるルートを瞬時に割り出す。よしここからなら余裕で間に合うな。

幸い城と港の間にホテルがあったため、時間的余裕はある。

 

………んっ?

誰も見ていない事を確認したラインハルトが、そこで違和感を覚えた。

何だ?朝にはなかった気配がある。

 

誰かから見られていた。

何度も修羅場を潜り抜けてきたラインハルトにはある種の危険察知が備わっていた。そのスキルがラインハルトに警告している。

おいそっちに行ったら危険だぞ、逃げろどこかに。

 

ラインハルトは一瞬、躊躇った。躊躇った後に走り出した。港へ向かいコーデリア姫を助ける。もうその考えしかなかった。

たとえどんな危険が迫ろうとも構うものか。友達を救いに行くのにそんな事考えていられないのだ。

 

……待っていろコーデリア・ギ・ランドグリーズ、今助けに行く!

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 

 

「ーー目標、動き出したぞ、凄い速さだ!」

 

なんてスピードだよ偵察猟兵以上かと唸るアルフォンス。向かいの建物の屋上で監視していたのは彼だった。

目標が出てきたかと思ったら脇目も振らず走り出したのだ。しかも物凄い速さで。このままだと見失っちまう。

慌てるアルフォンスをよそに待機していたクルト達ネームレスの動きも迅速だった。

 

「よしみんな作戦通りで頼む帝国のスパイを捕縛する!」

「了解!」

 

各ポイントで待機していた隊員達が走るラインハルトを追いかける。猟犬の名に恥じぬ追走劇が始まった。リエラも参加している。未だ複雑な心境の彼女だが、もうここまできたら覚悟するしかない。

 

……ごめんねハルトさん。本気で行くね。

 

自分が誰よりも早く見つけて先に捕える。そうすれば彼に外傷を加えずにすむ。その思いでリエラは走り出した。

瞬時に仲間達を抜き去る。

あまりに人間離れした速さに仲間達ですら驚いた。

 

「……リエラって、あんな動きしてたっけ?」

「見ない間に随分と成長したみたいだな……」

 

あれから二ヶ月と経っていないはずだがリエラの成長具合が凄まじい。俺たちも負けていられないな。

グスルグの言葉に誰もが同意した。

 

 

 

 

 

2

 

 

 

 

 

「っ……来るか!」

 

早いな。急速に接近する気配を感じ、走るラインハルトは足を止める。勢いのままに慣性を殺さずズサーっと地面を擦りながら背後を振り返る。隠そうともしない気配に向けて狙撃銃を構えた。

一方通行の建物に囲まれた路地裏だ、敵は視線の先からやって来る。

 

かくして暗闇の先から現れたのは、ラインハルトの知る人物だった。僅かに目を細める。

 

「リエラか……」

「……ハルトさん見つけたよ」

 

現れたのはリエラだった。悲しげにこちらを見据えている。

意外と言えば意外だ。だが彼女が猟犬部隊の一人である事を知っている身としては、驚きはない。

……そうか俺が間諜だと気づいたか。

 

おもむろにラインハルトは狙撃銃を下ろした。

彼女と戦う理由はない。油断なく警戒していたリエラが訝しむ。

 

「なぜ銃を下ろすの?」

「戦う意味がないからな時間が惜しい君も協力しろ」

 

その言葉に何を言ってるか分からない。リエラは困惑した表情で。

 

「……っまずは質問が先よ!答えなさい!貴方は何者なの!?」

「何者と言われても君はもう分かっているんだろ?俺がスパイだって事を、それ以上言うつもりはないぞ」

「……やっぱり貴方なのね!首都中に変な機械を設置させたのは!夜な夜な変な音を出して市民を不安に陥れていたのも!」

「ほお……?」

 

驚いた、そこまで知っているのか。

だったら、

ますます機密情報を言うわけにはいかないな。まだ俺の正体にまでは迫っていないはずだ。

しかし……。

 

「変な音とは心外だな……良い歌だったろ?」

そこだけは譲れないのか訂正させる。

「それは……うん」

「あれは大事な人に教えてもらった俺の好きな歌なんだよ」

良い笑顔で、本当に好きなんだなと分かる。なんで帝国のスパイなんかやってるんだろう。

「そうなんだ……って、そうじゃなくて!貴方の身柄を拘束します、大人しくして下さい!」

「それはできない相談だ俺にはやらねばならない事がある」

 

それを邪魔するのであれば。

仕方ない、ここでリエラを倒す必要がある。

今は彼女を説得するための材料も時間もない。

力づくで押し通らせてもらう。

 

「……だったら、ここで止める!」

 

それはリエラも同じだ。すぐさま捕縛に動いた。

ぐんとラインハルトに迫る。早い。ヴァルキュリアの覚醒が身体能力の強化を獲得した。傷つけないよう組手で圧倒する。

その思いで放った拳が空を切る。

 

「っ……!」

「おお、早いな」

 

そう言って事もなげに半身で躱すラインハルト。思ったよりも早いねぐらいの気安さだ。自信のある攻撃を簡単に回避された。

少なくない動揺を振り払うように次々と攻撃を行う。

 

「よっ、ほっと……今のは惜しい」

 

だがその全てを最小限の動きだけでいなされてしまう。リエラは愕然とする。まさかここまで力の差に開きがあるなんて。

いったいどれ程の修羅場を潜ったというの。

自分も死神と恐れられる程の修羅場を潜ってきた。

 

でもラインハルトは次元が違った。

圧倒されるのはこちらの方だ……!

全く無駄のない無駄な動きにリエラが翻弄される。

 

「くっ……」

 

まずいこのままでは仲間達が追いついてしまう。

下手をすればここで銃撃戦が繰り広げられる。夜中とはいえ市民に被害が出ないとは限らない。

早く決着をつけないと。

 

「ーー戦いで焦りは禁物だぞ?」

「っあ……っぐぅ!?」

 

その一瞬の隙を逃さずラインハルトの反撃がリエラを襲った。長い足から繰り出された蹴りが顔面めがけて飛ぶ。容赦ない一撃をギリギリ防御するも勢いを殺せず、地面を無様に転がる。

追撃を警戒するも彼はあっさりと身を翻した。

 

「では先を急いでいるのでな」

「ま、待って……!」

「ーーリエラ無事か!」

 

呼び止めるがラインハルトは気にせず懐から投擲物を取り出す。爆発物!?ちょうどグスルグ達が駆けつけるが、もう路地裏にそれを投げた後だった。

リエラとグスルグ達の間に落ちたそれはカチッと音がした瞬間、爆発する。熱と衝撃の代わりに来たのは光。目を潰す程の光量に全員が目を抑える。閃光弾ーー!?

 

「ーーーッ!!……くそ」

 

視界が慣れてきた頃には彼の姿はどこにもなかった。いったいどこに。リエラが気配サーチするが、もう音も気配もしなかった。かつてセルベリアすら騙した気配遮断だ、リエラ達には彼の影すら捉える事ができなかった。

 

「……彼はいったいどこへ?」

「まだ遠くには行ってないはずだけど……」

 

リエラが申し訳なさそうにする。ごめんね取り逃しちゃった。グスルグが気にするなと笑う。

 

「他のポイントから出撃した奴らも追ってる、袋の鼠だ。……念の為、クルトに判断を仰ごう」

 

ーーもうここは俺たちの狩場だ、獲物を炙り出すだけでいい作戦は成功する、と絶対の自信を語るグスルグの言葉にリエラはただ頷く事しか出来なかった。

 

……何だか胸騒ぎがする。彼の意図が読めない。

本当に彼は敵なんだろうか?

追撃の手を緩めなければトドメをさせたはず。

……どうして?

 

やっぱり変よ何か私達はとんでもない思い違いをしているのかもしれない。

 

 

 

 

3

 

 

 

 

 

ここが連邦軍の装甲車輛の中だとコーデリアが気づいたのは、目の前の男を知るからに他ならない。

すなわち、

 

「タウゼント大使?これはどういう事ですか」

「申し訳ありませんコーデリア姫このような形で再会する不敬、どうかお許し下さい、貴女を連邦に保護させて頂きます」

「保護?……拉致の間違いでしょう」

 

どうしてこのような事になっているのか分からない。どうして私が連邦に?でもこれだけは分かる。大使は許されない事をした。

タウゼント大使はやれやれと肩をすくめ、

 

「そう睨まないで下さい、これもガリア公国と連邦国の為です、覚悟してください」

「ふざけないで私は国家元首です、その私が嫌だと言っているのに何がガリアの為ですか恥を知りなさい」

「しかし力のない者が上に立ち国を守れますかな?後のことはボルグ宰相に任せてコーデリア姫は平和な地で穏やかに過ごされるが良いでしょう」

「ボルグ宰相……?」

 

ここでその名前が出てくるということは。

まさか……。

コーデリア姫が信じられないといった顔で。

 

「ボルグ宰相もこの事を?二人で協力して私をガリアから遠ざけるつもりですか!」

「おっと、失言でしたかな……?ですが問題ないでしょう。まもなく到着です、船旅はお好きですか?」

 

コーデリアの事など聞く耳を持たない。

彼にはボルグ宰相が統べるガリアとの条約にしか興味がないのだ。ボルグからしてもコーデリアはお払い箱だ。

それを知ってコーデリアの顔が歪む。

悔しくてたまらない。

どれほど私の権利を蔑ろにすれば気が済むのか。

 

「どうして私は貴方達のやる事に従っていたはず、なのにどうしてこんな仕打ちをするのですか……」

 

タウゼントは憐憫の眼差しを送った。最後に語ろうか。

 

「何も知らない不憫な姫君、少し説明するとしましょう。実のところ連邦の内情は苦しい、知っておりましょう数カ月前の戦いを。あれほどの被害を出しておきながら連邦軍のノーザンクロス作戦は発動中、直ぐにでも立て直す必要があるのです、じきにジークヴァルラインで大会戦が始まる、その前にガリア戦線を押し上げてガリア軍には帝国領内に進軍してもらいたいのです」

「ガリア軍に帝国を攻めよと言うのですか!?」

 

最初から連邦はガリアを利用する気でいたのだ。

ボルグ宰相も言っていたではないかヨーロッパ全土をガリアと連邦のものにしようと。合意宣言の時の台本もその為のもの。

全てはガリア軍を第二次大戦に参加させるための偽装工作だ。

 

「ヨーロッパの平和の為です、正義の為に」

「そのためならばガリアを地獄に落としても構わないというのですか」

「その問いに私はイエスと答えなければなりませんな」

 

顔色ひとつ変えず大使は頷いて見せた。愕然とするコーデリア。

……連邦大使という肩書きは伊達ではないのだ小娘よ。

連邦が勝つ為ならば小国が幾つ滅んでも構わない。

本気でそう思っていた。

 

それからコーデリアは大人しくなった。

諦めたのだろう、あるいは全てに。

容易い仕事だったなとタウゼントは自分の仕事ぶりに満足する。後はボルグ宰相が上手くやるだろう。

 

連邦に帰ったら休暇を取ろう。

故郷のワインを浴びるほど飲むのだ。連邦の勝利の報を肴にな。故郷に想いを馳せていると、装甲車が止まる。

もう着いたのか?

……いや違うこれは。

 

「どうした!」

「目の前の道を戦車が塞いでいます!」

コーデリアが顔を上げる。

 

そこには先を読んで待ち伏せていた義勇軍第七小隊の姿があった。進行方向を塞ぐのはエーデルワイス号だ。戦車長のウェルキンが号令する。

 

「第七小隊、作戦開始、コーデリア姫を救出せよ!」

「了解!」

「ちっ……!配置した特殊部隊に応援要請を入れろ!奴らを蹴散らせ!何としてもガリアから脱出するのだ!!」

「応!」

 

かくして連邦軍特殊部隊と第七小隊が衝突する。ウェルキンは姫を救出する為に部隊を展開し、ラインハルトは密集する建物の闇を頼りに隠れながら人知れず連邦兵を倒していき、その匂いを猟犬が辿りながら捕縛せんと迫る、状況は混迷を極めながらゆっくりと終幕へと駆け上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

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