あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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三十三話

 

「……良かった間に合った」

 

目の前の装甲車を見て安堵するウェルキン。

ギリギリだった。

あと少し遅れていたら連れ去られていただろう。

ここはもう海路で運ばれる物資運搬用に使われる港の倉庫街、停泊する船は目と鼻の先だ。

密集する建物が軒を連ね迷路のようになっている。

部隊を隠すにはうってつけだ。

 

……でもまだ安心できない。 

未だコーデリア姫は敵の手にある。

敵か連邦の人間が、皮肉な話だ。連邦が姫を連れ去るとは思わなかった。許せない。

 

それは僕だけじゃない第七小隊のみんながそう思っている。

……だから。

 

「容赦する必要はない!装甲車以外は全て倒せ!一斉掃射開始!」

「おうよ!」

 

言下に第七小隊の攻撃が始まる。

あらかじめ待ち伏せていた隊員達の銃撃が連邦兵を襲う。カモフラージュの為かガリア兵の制服を着ていた彼等は銃弾の雨を浴びて次々と倒れていった。

 

いかに特殊部隊とはいえ劣勢なのは明らかだ。

その様子を装甲車の中から見ていたタウゼント大使も、まずいと考えた。護衛達だけでは突破出来ない。

 

「車を回せ!迂回して回り込め!奴らを倒す必要はない!コーデリアを船に回収できれば連邦の勝利だ!」

「了解」

 

装甲車が移動を開始する。中が盛大に揺れる。それまであった優美さのかけらもない。いかに大使の余裕の無さが露呈するようであった。コーデリアはそこに一縷の望みを見た。

 

……助けて!

強くそう願った。

 

 

 

 

4

 

 

 

連邦兵と思われるガリア制服で偽装した兵士が港の倉庫街に待機していた。大使の逃走を手助けする為のバックアップ部隊の一人だ。

命令あるまで隠れていた。

その彼が顔を出したという事は。

遂に来たという事だ命令が。

 

無線機を片手にやり取りをしながら大使の逃走ルートを確認する。途端に兵士が顔をしかめる。

どうやら逃走は上手くいってないようだ。

何度かのやり取りの後、無線機を切る。

そろそろ行動開始だ。作戦内容は大使の逃走を妨害する敵部隊を背後から急襲すること。

味方のフリをして近づいたところを背中からドカン。

簡単な任務だが嫌な仕事だ。

 

行くかと突撃銃を背負い直したところを撃たれた。

 

「ハ?っ……あグァッ!!?」

 

苦悶の声を上げる兵士。たまらず地面に倒れる。

一体何が起こった。

見れば右足を正確に撃ち抜かれている。血が溢れていた。

混乱さめやまない兵士に闇の中から男の声が。

 

「念の為、足を撃ったが……お前は連邦兵だな?」

 

現れたのは金髪の男、闇に紛れる黒衣を纏う。

その手には連邦製の狙撃銃が握られていた。

 

「貴様!?なぜ俺を撃った!俺は連邦国所属の兵士だぞ!」

味方だろ、そう思った。直ぐにそれが間違いだと気づく。男は無感情に、

「ああ、良かった……間違えてガリア兵を撃たなくて」

「な、何、なぜ、貴様何者だ!?」

 

底冷えする目で俺を見下ろすこの男はいったい。

どこまでも冷たい氷の目。俺を何とも思ってない人間の目だ。

 

「……今は帝国のスパイだと名乗っておこうか」

「帝国だと!馬鹿な何故帝国のスパイが!?」

「コーデリア姫の救出とお前ら連邦の魂胆を打ち砕きに来た」

「まさか俺たちの作戦がバレて!?……クソッ!」

「お前らがコーデリア姫を攫った理由が読めてきたぞお前ら……戦争を始める気だな?ガリアを傀儡にして帝国を攻撃する腹積りか」

 

兵士は末端だ。全てを知るわけではない。

だがそれでも兵士にも、これが連邦の戦いを有利にする為のものだということは理解していた。だから最悪な作戦にも参加した。

男の言う事がかねがね合っている事も分かる。

 

「っお前ら悪の帝国を打ち倒すには仕方のない事だった。貴様らが戦争を始めなければ、こうする必要はなかったのだ!」

「だからか弱い女の子一人を攫って遠くに監禁しましょうってか?連邦は変態趣味の集まりか?」

「黙れっ愚弄するな!許さんぞ帝国の豚が!」

「……豚は羽が生えてて可愛いんだぞ、もっとましな言葉をはけ」

 

ニコリとも笑わず。男は兵士を見下す。

……さてどうしたものか無抵抗な兵士を殺すのも忍びない。影に来てもらって拘束させようか。

よそ見をする。

 

「馬鹿が!死ね!」

 

兵士が突撃銃を手に構えた。必殺の距離、殺したと確信の笑みを浮かべるがドンと胸を撃たれて呆気にとられる。……なんで。

男はよそ見しながらも銃口は油断なく兵士の胸を向けていた。わざと演技をしたのだと理解するがもう遅い。

クソッタレと地獄で文句を言う。

 

「……これで正当防衛になるな」

 

死んだ兵士を横目で見やる男というかラインハルトは現在の状況を脳内マップに広げる。

義勇軍第七小隊が特殊部隊との激戦を制している。このままいけば装甲車を追い詰めるだろう。あれ?俺いらなくね、と思ったが偽装した兵士が各地で張っている。不安要素は消しておくべきだ。

 

「だとすれば俺も偽装しておくに越した事はないな……」

 

ラインハルトは死体に目をやった。

連邦の大義の為とやらの為に死んだ兵士の制服を。

……安心しろお前の死は無駄にはしない。

最後まで使い潰してやるよ。

 

およそ兵士の想いとは真逆の行為をする為に……。

 

そしてガリア兵の制服に身を包んだラインハルトはまた闇に紛れる。その後、連邦兵が次々と消息を絶つが、その理由を連邦兵は最後まで理解できなかった。

 

 

 

 

 

5

 

 

 

獲物を追いかけたネームレスが現場に駆けつけて見たものはガリア兵の死体だった。周りに何人もの兵士の死体が転がっている。

どれも頭部の損傷が致命傷になっている。

的確に一発で。

……これを全部ハルトさんが……?

 

リエラは信じられないものを見た気分になった。

もしかしたらハルトさんは敵ではないのかもと考えていた疑念が払拭されてしまう。

これほどの光景を見てしまったら仕方がない。

 

「あの時、私がちゃんと拘束出来ていれば……!」

 

リエラが悔やむのも分かる。凄惨な光景にさしものグスルグも何と言うべきか躊躇う。だがしかし、報告で聞いていた彼の情報と随分と食い違うなと思った。

 

情報では彼はもっと殺しを忌避していた感じがあった。

だが目の前の光景にはそれがない。

絶対に逃さず殺すという執念すら感じられた。

俺たちを相手にするのと対応が違う。

この差は一体なんだ。

 

逆に疑問に思うほどだ。考えるグスルグに無線連絡が入る。クルトからだ。

 

「グスルグか」

「ああ、どうしたクルト?」

「それが……」

「なに!?」

 

伝えられた情報にグスルグは驚愕した。

コーデリア姫が攫われた。それが先ほど諜報部より送られてきた。現在、動ける部隊は捜索に当たっているらしい。情報規制のため遅れたがネームレスにもようやく届いたのだ。

 

偶然か必然かリエラ達はその渦中にいた。

伝え聞いた現場はすぐそこだ。

いや、偶然とは思えない。

 

グスルグは死んでいるガリア兵士達に目をやる。

……まさか。

すぐに確認した。結果は思った通りだ。

 

「こいつらガリア兵じゃないぞ!連邦兵だ!」

「ええ!?」

 

偽装兵である事を見破る。リエラも驚愕する。

……じゃあハルトは連邦兵のみを倒していたということになる。どういう事、もう訳が分からないよ。

リエラは混乱する。いったい誰が敵で誰が味方なのか皆目分からない。

 

「優先すべきはコーデリア姫の救出だガリア兵に偽装した連邦兵を倒せ!帝国のスパイ捕縛は後でいい!」

 

まさかラインハルトも同じ目的で動いているとは思わない。

だが結果的にこの場でウェルキン、クルト、ラインハルトが、同じ目的の為に戦う事になる。ーーコーデリアの救出、その一点において奇跡的に噛み合ったのである。表の英雄と裏の英雄、帝国の英雄が共同戦線を張るのだ。もはや連邦兵になす術などなかった。

 

 

 

 

 

6

 

 

 

 

 

……あと少し、あと少しのところだったのだぞ!

 

ガリア兵に邪魔されながらも迂回する事に成功して、目的地までほんの数十メートルという所で、どこからともなく放たれた狙撃兵の一撃でラジエーターが壊された。

仕方なく装甲車を放棄して徒歩で移動する事に。

停泊させていた船を目前で敵に捕捉される。

混沌とした中で「こちらです大使殿!この中へお逃げ下さい!」の声に釣られて倉庫の一室に逃げ込んだ。狼狽しながら倉庫内を見渡して愕然とする。

 

馬鹿者!逃げ道が一つもないではないかっ

ガリア兵に扮した味方を怒鳴りつけるが、軍帽を目深まで被った金髪の兵士は肩をすくめるのみ。

もう後がない事を悟る。

 

そしてタウゼントは片隅に追い詰められる。それを包囲するのは第七小隊の面々。ウェルキンまで偵察銃を構えていた。

 

「諦めて投降して下さい!そうすれば命までは取らないコーデリア姫を解放して下さい」

「っくそ、どうしてこんな事に!」

 

あと少しだったのに、こいつらが邪魔しなければ。

逆恨みするタウゼント。

たがまだコーデリア姫は私の手にある。

かくなる上は、

 

「動くな!コーデリアがどうなってもいいのか!?」

「なっ!?」

 

人質のコーデリア姫に銃口を向ける。もう三下の悪党のやる事だ、まともな精神状態の奴がやる事ではない。

 

「武装を解除して私達を通せ!さもなくば……!」

 

最悪コーデリアさえ死ねば邪魔な奴はいなくなるのだ。タウゼントは本気だ。本気でコーデリアを害すつもりだった。

不気味な緊張感が場を支配する。

ウェルキンがゆっくりと口を開いた。

 

「……まずは貴方が武器を地面に置いてください、そうすれば貴方達を通します」

 

その言葉にタウゼントは一度、拳銃を自らの眼前まで離した。言う通りにするかと思われたが、銃をジッと見て自嘲気味に笑った。

 

「……残念だ、交渉決裂だな」

「っ待て!」

 

制止の声も虚しくタウゼントは銃口をコーデリアに向けた。

……後は頼みましたぞボルグ宰相。たとえ犯罪者の汚名を被ったとしても連邦の未来のため、この引き金を引こう。

コーデリアの顔が恐怖に染まる。

 

「連邦に栄光あれ!」

「ーーそこまでだ」

 

引き金を引こうとした瞬間、横から伸びて来た手に拳銃を取り上げられた。味方のはずのガリア制服にだ。その男は軍帽を目深に被った金髪の兵士で、タウゼント達を引き入れた男だった。

そして、男は突然の事に声も出ないタウゼントの顔をーー思いっきり殴り飛ばしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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