あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

116 / 139
三十四話

 

誰もが声を出せない。驚きの顔で固まる中、彼だけは拳を振り切った態勢で不敵に笑みを浮かべていた。他の連邦兵も唖然としていた。

お前何やってんの。という顔をしている。

 

「ふぅ……諦めて投降するかと思ったが一番くだらない方法を選んだな」

 

失神する大使を冷めた目で見下す金髪の兵士。

外道には鉄拳制裁もやむなしだ。

 

「そう思うだろう……

ウェルキン・ギュンター少尉?」

「君は……!」

 

軍帽を脱いで顔を見せる。

アリシア達からあっと驚きの声が上がる。ガリア制服に偽装していたのは、なんとラインハルトだったのだ。

 

いきなり現れたラインハルトに驚いているのは第七小隊だけではない。コーデリア姫も驚いていた。

どうして彼がここに?

 

「どうして貴方様が……」

「助けにきました姫殿下、言ったでしょ秘密の友人である限り貴女を助けると……まあ彼等がいたなら俺は必要なかったかもしれませんがね」

 

義勇軍第七小隊がいると分かっていれば、俺もここまで派手に動かなかったかもしれないが結果オーライだ。こうして危ない場面を回避できたのだから。

 

倉庫に誘導しなければ、そもそもこんな事になっていなかったかもしれないが。

……マッチポンプじゃないよな?

 

「……とりあえず君達は投降したまえ、このつまらない男の大義に付き合う必要はない」

「……作戦失敗か」

「ああ、ここまでだな」

 

素直に諦め投降する連邦兵。大使の行き過ぎた行動に付き合うつもりはないらしい。彼らにも彼らの正義があるのだ。それに従う。

……さて無事に解決した事だし、俺もそろそろお暇させてもらおうか。

気配を隠して、さあ逃げよう。

 

「どこに行くんですかラインハルトさん?」

「少し商会に所用があって俺は帰らせてもらう……っえ?」

 

ウェルキンに止められた。流石に逃げられないか。

何か言い訳しようと思ったが、いま俺の名前を呼んだ? 間違いないラインハルトと言った。

何で……?

 

「貴方はラインハルト・フォン・レギンレイヴ皇子ですね」

「……どこでそれを」

「とある筋から偶然にも、それを知りました」

 

とある筋?何じゃそりゃ。

ガリア諜報部にだってまだバレていないのに。

見れば全員の目が俺に向けられている。好奇の視線に。耐えかねた俺は隠しきれない事を悟った。

 

「……さよう、ハルトは世を忍ぶ仮の姿、我が名はラインハルト・フォン・レギンレイヴ、帝国の皇子である」

 

おおっとどよめきが上がる。

認めた遂に自らの正体を。

ウェルキンと見つめ合う。

この男の第一声は何かな。騙されていた事に対する恨み言だろうか。それとも帝国に対する復讐を遂げるか。

 

「……まずはありがとう、コーデリア姫を助けてくれてガリア公国の兵士として感謝するよ」

「……ああ」

 

思ったよりも普通だった。

もっと何かあるもんだと思っていたんだがな。一発殴られる覚悟はしていた。……あれ、ロージーの目に闘志が宿っているのは気のせいだろうか拳を固めてるぞ。怖い。

 

「……それから」

「……?」

「おかえり、また会えて嬉しいよ」

「……それはこちらの台詞だ、バリアス砂漠での戦い聞いたぞ活躍したそうだな」

「それも含めて話した方が良さそうだね、だけどまずは」

「ああ」

 

俺たちは再会の握手を交わした。

俺は帝国人として彼はガリア人として。こんな日が来るとは思わなかった。相争うしかないと思っていた二つの民族が再会を祝福し合うとはな。少し前までは誰も想像すらしていなかったはずだ。

やはり運命とは面白い物だ。

 

キュるる〜と可愛らしい音が鳴った。

何かと思えばコーデリア姫のお腹の音らしい。

恥ずかしいのか頬を赤くしている。無理もない短くない時間、拘束されていたのだ。体も消耗するだろう。

 

「姫様でもお腹は空くんだね」

「コラっロージー失礼だろうが!」

「……アリシア何か食べる物はあるかい?」

「それならパンがあるよ!」

 

そう言ってアリシアが持ってきたのはまだ出来て時間の経っていないパンだった。ほんのりと温かそうだ。

コーデリア姫も興味を示している。

 

「これは……?」

「夜に作ったばかりのシナモンパンです、お口に合えばいいんですが」

「……おいしい」

 

お口に合ったらしい。黙々と食べている。可愛らしい姿にほっこりする。そういえば俺も腹が減ってきたな。

 

「俺も貰っても……?」

「どうぞどうぞハルトさん、じゃなかったラインハルト皇子様」

「皇子様はいらないよ……確かにこれは美味い」

 

シナモンの風味と甘さが効いてる何だか安心する味だ。暫く帝国の皇子とガリアの姫様のパン試食という謎の時間が流れる。

 

「凄い光景だね、アリシアのパンに箔が付いたんじゃない?」

 

アリシアがパン屋を出したら謳い文句に出来そうだとウェルキンが言った。確かに。彼女がマイスターになって店を開いたら是非また食べたいものだ。

 

「コーデリア姫、お怪我はありませんか」

「はい、大丈夫です、ありがとうございますギュンター少尉」

 

幸い怪我もない様子、コーデリア姫も元気を取り戻していた。だがその顔は暗い。その理由を話してくれた。ボルグ宰相とタウゼント大使の二人が共謀して今回の事件が起きたらしい。

どうやら前情報は全く間違いではなかったようだ。クズどもめ。

身内に裏切られたのだ意気消沈するのも無理はない。

 

「滑稽ですね、自分の意思を殺すしかないと思い、今まで彼等に従っていたのに騙され捨てられた。私には国家元首を名乗る資格なんてない」

「……コーデリア姫は逃げていませんか?生きていることから」

「おいウェルキン姫様に何言ってやがる!」

「待ちなラルゴ隊長に任せな」

 

ラルゴをロージーが止める。好きにやらせな。渋々引き下がるラルゴ。

 

「生き物はみな生きてるために必死です、僕達も生きる事から逃げる事は出来ません。自分の意思を持ち生き残るために戦っています。コーデリア姫も同じはずです必死に生きてきた、戦ってきた。だったら自分の意思をもてるはずです」

「私は……」

「僕達は最後までガリアを貴女を守ります、どうか一緒に生きて行きましょう生き物の強さを、ヴァルキュリアとしてではないコーデリア姫の強さを見せてやりましょう」

「……貴方の真っ直ぐな言葉が羨ましい。……わかりました、私も意思をもってみます生き物としての意思を」

 

求められる理想のヴァルキュリア人の強さではなく、コーデリアとして生きる者の強さ。その意思をもてと言われたのは初めてだった。

見せてやろう宰相に。私の意思を。

 

コーデリア姫の目に力強さが宿る

覚悟と意思を持ったようだ、だがまだ足りないとラインハルトは考える。仕方ない口出しするとしよう。

 

「ーーではボルグ宰相の件は俺がやろう」

「……どうする気だい」

「これより俺の力の全てを結集させて城を攻める。ーーボルグ宰相の首は俺が取る」

「な!?」

 

ラインハルトの過激な発言にみな面食らう。

流石にそれは……という反応だ。

だが現実問題これしかない。

ボルグ宰相を倒さなければ結局は変わらない。そして俺にはそれが出来る力がある。

 

「ウェルキン、俺は帝国の人間だ、分かるな?俺を利用しろ」

「どういうこと?」

 

アリシアが困惑の声を上げる。他の者も首を傾げている。唯一ウェルキンは俺の言わんとしていることが分かったようだ。

だが答えはNOだった。

 

「……駄目だよラインハルト、それを見逃せば僕はガリア軍人ではなくなってしまう。……例え君が姫の為に手を汚す考えだとしても、国家要人暗殺を見て見ぬふりするわけにはいかない」

 

ウェルキン達がボルグ宰相に刃向かえば反逆罪だが俺がやれば戦場の常だ。なんせ俺は帝国人、戦争という名目でガリア人を合法的に殺せる敵なのだから。それが駄目だと言うのならば。

 

「……だったら俺とお前はやはり敵同士になるな」

「………ああ」

「何でそうなるんだい!?協力し合えるんじゃないのかい!あたしらは!」

「そうですよラインハルトさん力を貸してくれたら、とても心強いです!」

「イサラ……」

 

イサラとロージーの意見も尤もだ。

出来るなら協力してやりたい。

だが俺達の立場がそれを許さない。目的は一致しているはずなのに、ままならないものだ。

 

「とにかく俺は一度拠点に戻る、それは見過ごしてくれるな?」

 

ウェルキンがコーデリアを見る。意図が伝わりコーデリアは頷く。

 

「わかっ……」

「ーー残念ながらそれは出来ない」

 

言葉を遮りクルトが入ってくる。

遅れながらネームレスが到着した。

どうやら周囲の残存連邦兵を掃討してくれたようだ。流石は猟犬仕事が早い。そして最後の獲物を残すのみ、というわけか。

 

「俺を捕えに来たか?」

「連邦と帝国のスパイ両方捕える絶好の機会を逃すはずがない合理的だろ」

「……ふふ、それでこそ猟犬だ、お前達はそれでいい」

 

そうでなくてはならない、そうあるべきだ。

猟犬に私情は必要ない。敵に対して慈悲を与えてはならない。そうでなくては帝国に勝てないだろう。

 

「お前達の事はリエラを拾った時から知っていた、俺の部下は強かっただろ?」

「っ……やはり貴様が関わっていたのか!」

「そうだ俺の指示で襲わせた全ての責任は俺にある」

 

あっさりと認める。もう全ての悪事を洗いざらい話しそうな勢いである。ネームレスの隊員達も完全に俺を敵と認定したようだ。怒り心頭である。クルトだけは冷静だ。この状況下でその余裕。

 

「……まさか逃げられると思っているのか?」

「ふっふっふ……切り札というのは最後まで取っておくべきだ」

 

余裕しゃくしゃくな態度を崩さず。ラインハルトは無線を飛ばして。

 

注文(オーダー)だ……イムカ至急応援を頼む今すぐ来てくれ」

 

最優の盾を呼ぶ。彼女ならば直ぐにでも駆けつけて俺を救ってみせるだろう。ヴァルキリーを纏ってヴァールを振り回すイムカはそれだけで青い嵐のようなものだ。故にラインハルトにはネームレスを前にしても逃げ切れる自信があった。

彼女さえ来てくれれば……。

だが、

 

……イムカから返信が来ない。

 

「…………」

 

ラインハルトの顔が無言で固まる。予想外の事が起きた時にする顔だ。汗が頬を垂れる。無線機が壊れた訳ではない。

何故か知らないがイムカは返信出来ない状況にあるという事だ。

……イムカの身に何か起こった? 

 

「ギュンター聞こえるか?」

「はいラインハルト様」

「良かったそっちは無事だな」

「現在ホテルの拠点が襲撃されましたので別の拠点に移っております」

 

襲撃したのはネームレスだな。俺の前に拠点を急襲したか、やれやれ用意周到な事で。逃げ切れたのは流石ギュンターと言うべきか。

 

「イムカは無事か?」

「こちらからも連絡がとれない状況です」

 

心配だな。無事なら良いんだが。

仕方ないイムカが来れないなら俺は詰みだな。

ここから逃げ切るのは実現不可能だ。

であれば。

 

「プランBを発動する。ギュンター、イムカの事は頼んだぞ後のことは任せた」

「……かしこまりました御身の安全を祈っております」

 

通信終了。無数の銃口を突きつけられながらネームレスに囲まれた状況を見て、ラインハルトはふっと笑みを浮かべたかと思うと両手を上げた。そしてあっけらかんと言う。

 

「降参する」

 

こうしてラインハルト・フォン・レギンレイヴの身柄は拘束された。7月24日深夜3時の事である。

未だ夜は明けない。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。