あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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三十六話

 

「……ダルクスの王?」

「ええ……といってもまだ自称ですけどね、現段階の調査では。ダルクス人とヴァルキュリア人の関係をもっと読み解かなければならない。ダルクセンを名乗るのは、それまでおあずけです」

 

目の前の男が何を言ってるのか分からない。

それでもヴァルキュリアの力は本物だ。

選択を間違えた。最も危険なのはこの男だ。

ことここに至ってイムカは正気を取り戻す。ショック療法だ。

 

「だからこそ僕は貴女が欲しい、ダルクス人であり強い意志と力を持っている貴女が……」

 

そう言ってハイエルはイムカの頬を撫でる。愛しむように。その不快な感触にイムカの顔が歪む。

 

「そんな顔をしないで下さい。それともあの男のせいですか?だとすれば邪魔だなあの男……ラインハルトは」

 

ハイエルの瞳に嫉妬の色が映る。

……まさか僕の障害になるどころか恋敵になるとはいけすかない男だ。あの男は妙にダルクス人を重用しているようだから前々から目をつけていた。僕の王国を作るのに奴は邪魔になる。

どうやらこの国に来ているようだから始末してもいい。ちょうどガリアも彼を捕まえようとしているようだし。彼らの手でやらせよう。

 

「それまで貴女には少しの間だけ眠ってもらいますよ」

「っさせない!」

 

イムカが攻撃の手を再開しようとするが。その前にハイエルは己の中にある力を呼び起こした。

 

「ーー覚醒率1%解放」

 

言下に、

一瞬でイムカの視界が蒼い奔流に呑まれた。

痛みはなく、あるのは光だけーー。

近距離で手榴弾が爆発したようなものだ、容易くイムカの意識は刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーっハ!?」

 

気づいたら路地裏に倒れていた。

丁寧に上から上着が掛けられていた。あの男がやったのだろう。意識を失っていたイムカは直ぐに自分の置かれている状況を理解した。

そしてすでに辺りが白やんでいる事に気付き絶望する。

 

ーー作戦はラインハルトはどうなった。

 

「ギュンター……?聞こえるか」

「………イムカ様ですか?ご無事でしたか」

「すまない敵の襲撃にあった。さ、作戦はどうなった、ラインハルトは無事?」

 

少しの間があり返事があった。

 

「……殿下はガリア諜報部に捕縛されました」

「な……!?」

 

愕然とする。ラインハルトなら上手く切り抜けたかもしれない。そんな淡い希望が打ち砕かれる。ラインハルトが捕えられた。

作戦は失敗してしまったのだ。

 

「……そんな」

 

私のせいだ。あの時、一目散に逃げていたら良かったんだ。そうすればラインハルトの作戦通り状況は推移した。

取り返しがつかない。

失敗した。失敗した。失敗した。

失敗した失敗した失敗した失敗した……。

 

「助けないと……」

 

どうやって?私一人の力では無理だ不可能だ。

現実は非情だ。やり直しはきかない。時間を巻き戻す事はできない。もう彼に会えないかもしれない。そう思うと目の前が真っ暗になる。

守ると誓ったのに……!

 

ふらふらと立ち上がると当て所なく歩き出す。

どこに行けば良い。私はどこに向かって進めばいい。分からない何も。

 

「現在プランBが発動中ですイムカ様はポイントZ地点に向かって下さい」

「……プランB?っ、……何だそれは?」

「………」

「ギュンター?教えろプランBとは何だ!?」

「……ラインハルト様はかねてより自らが捕まった時を考えて予備計画を立てていました、それがプランBです」

 

再度、愕然とする。茫然自失と言ってもいい。

こうなる事をラインハルトは見越していた?

私は頼りにされていなかったのだろうか。

 

「……殿下は今の状況になると考えていたということ?」

「分かりません、ですがラインハルト様は最後にこう言い残しました。イムカの事を頼むと最後まで貴女の身を案じていました」

「っ……!!」

 

視界が滲む。涙が出てきた。

私は何て愚かな真似をしてしまったんだ。復讐に身を委ねて大切な人を失ってしまった。守られていたのは私の方だっんだ。

 

「ああっ……!」

 

失って初めて気づいた。私はこんなにも……!

彼の姿を恋焦がれる。

また笑う彼の顔を見たい。その為なら私は何でもする。

 

「まだ間に合うだろうか?こんな私でも殿下を」

「助け出します何としても必ず」

「……分かったZ地点、そこに行く」

 

イムカはこの日、復讐すべき相手を知った。そして、それよりも大事な事を思い知った。復讐よりも前に守るべき人を守りきれ。それが自分の使命だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュンターの指定したZ地点はガリア屈指の富裕層が住むエリアだった。そんな所にボロボロの浮浪者じみたダルクス人が居るものだから余計目立つ。

 

……本当にこんな場所が?

つくづく思う。これまでラインハルトに守られていた事に。こんな場所、一人じゃ絶対に出歩けない。

苦労しながらイムカは目的地に着いた。

とんでもない豪邸が目の前にある。

戸惑いの表情でイムカはそれを見る。絶対に此処じゃないだろと確信を持って言える。

 

……ここが新しい拠点?大貴族の住む館にしか見えない。

あまりにも場違いな拠点(?)を前にして立ち尽くしていると黒服の男がやって来る。すわ立ち退かされるかと身構えていると。

 

「……イムカさんですね?話しは聞いています、どうぞこちらへ」

 

あっさりと門が開いて中へ案内される。

あれよあれよという間に奥に進んでいき別宅だろうか、本館とは別の館に案内された。いったい何が起こっているのかイムカには分からなかった。何だか凄い力が働いているのだけは分かる。

これはラインハルトの力というよりは。

むしろ帝国の……。

 

「こちらになります既に皆様集まっております」

 

黒服の男はそう言うと、さっさと居なくなってしまった。

まるで自分は何も見ていないとでも言うかの様に。

終始困惑しながら恐る恐るイムカは扉を開けた。

作業服姿の男が振り返る。見た顔だ。

 

「お?……よお!イムカじゃねえか!」

「本当だ久しぶりだな元気にしてたかよ!」

「おーいみんなエース様のご帰還だぞ!」

 

そこにあったのはヴァジュラス・ゲイルの面々が揃っている光景だった。あっという間に囲まれる。思っても見ない光景に目を白黒させて声が出ない。

 

「みんな……どうしてここに?」

「驚いたろ?姉御が用意してくれたんだよ」

「俺達第ニ選抜組の為にな、第三、第四の連中も来てるぜ」

 

第二選抜組からはヴァジュラス・ゲイルから三十名。

第三から第四は各部隊から精鋭が選ばれている。

そして第一先発組は……。

 

「お待ちしておりましたわイムカさん」

 

エリーシャ・バレンタイン率いる影達。

彼女はいつも通りの侍女服を来て優美な動作でイムカの前に来る。イムカのぼろくちゃな顔を見て、あらあらと袖口で拭いてあげる。

 

「貴女で最後です、イムカさん。準備を整えたら行きましょう」

「……どこへ?」

「決まっているでしょう?反撃開始です……ガリア上層部をこれより引き摺り落とします」

 

エリーシャはそう言って微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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