あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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四十二話

 

その日、ランドグリーズ近郊の屋敷の一室にて、

秘密の会合が行われた。

その場にいるのは全員がガリア貴族と呼ばれる者達だ。既に室内は熱気を帯びていた。

 

「いったい何なんだあの男は!?」

「突然現れたかと思えば我々のやり方に事あるごとに口出ししてくる始末!」

「先日に至ってはとうとう軍の予算まで盗られた!」

「もうこれ以上は我慢ならん……!あの金髪の小僧め!」

 

とある人物に対する悲鳴ともとれる糾弾の声が室内を満たす。そう彼らが話しているのはラインハルトの事だ。正確にはジークだが。

 

いきなりぽっと出に現れたかと思えば、

常に姫の横に立ち我々の邪魔をしてくる。

あの手この手で姫様を言いくるめようとすれば必ずあの男がいらん事を言う。ボルグ宰相なき今、我々が台頭するはずだったのに。

全てあの男にかっさわれた。

 

このままではまずいと思った貴族達は急遽会合を開いた。こういう時だけ動きが早い。

あるいはこれが貴族の本来の姿なのかもしれない。外部からの異物を排除する為の国の自浄機構、それが貴族というシステムだ。

ガリアをあるべき姿で守らなければならない。

だというのに姫様は無名の男を登用した。

 

あのジークハルトという男を……!

 

「調べてみても名前以外の情報は伏せられています恐らくガリア情報部の仕業でしょう」

「ますますもって怪しいではないか!」

「直ぐにでも排除するべきだ」

「どうやって?姫様のお気に入りだ、勝手な事をすればこっちの首が危ういぞ」

 

みな一様に推し黙る。

情けない。国の為に身を捧げる有志はいないのか。

このままではどこの馬の骨とも知れぬ男に好き放題されてしまうぞ。

 

かといって何か対策があるわけでもない。

自らも黙るのみである。

時間だけが無為に過ぎ去るかと思ったが頼もしい援軍が現れた。

 

「待たせたな諸君!ガリアの為の会合は有意義に進んでいるかね?」

「これはガッセナール伯爵!」

 

その場にいた貴族全員が低頭する。

それほどまでにその男は別格だった。この場にいる誰よりも。現れたのはギルベルト・ガッセナール。ガリア南東に位置するクローデンの森一帯を支配する大貴族だ。

自分達のような木っ端貴族とは違う。

 

「ハッハッハ!楽にしたまえ!」

 

大貴族と思えない軽快さ。だがその体躯に身にまとう覇気は本物だ。ガリアきっての武闘派貴族。穏健派の多いガリアには珍しい毛色の人物だ。

 

今回の会合の発起人でもある。

 

ここにいる全員が彼の呼びかけに応じて集まった。

流石の影響力だ。

宰相のいない現在、正規軍においてはNo(ナンバー).2の実力者と言っていいだろう。

 

「それで件の若者について何か詳しい事は分かったかね?」

「……いえ、それが依然として詳細な事は分かっていません」

「ほう?我々のコネクションを使っても分からないとは余程の重要人物のようだな」

 

確かにと内心でうなづく。

貴族の力を使っても分からないのは普通ではない。ハッキリ言って異常だ。

 

「直ぐにでも調べ上げます」

「いや、彼が何者なのかはどうでもいい、重要なのはガリアにあだなす存在か否か、それが大事だ」

 

そう言って彼は書類の束ををテーブルに投げた。

これは……新型戦車についての報告書?

 

「どうやら彼は新型戦車を造るらしい。きたる決戦を見据え戦力増強を図るようだ。アマトリアンで働く私に仕えるスタッフからの情報だ」

「それがどうかされましたか?」

「見よこの一文を。正規軍に送らずと書かれている」

 

首をひねる貴族達。顔には疑問符が。

正規軍に送らずどこに送るというのだ?

読み進めていく。

 

「製造された新型戦車は義勇軍に……ばかな!?」

「我ら正規軍を差し置いてなぜ平民達に!」

 

怒る貴族達の声が紛糾する。

意味が分からなかった。なぜ正規軍人である我々よりも半軍半農(軍もどき)の義勇軍などを優先するのか。あのジークという男はガリアを戦争に負けさせる気か。

そうとしか思えない。

 

ふざけるな。貴族達が口々にわめく。

 

「これは重大な利敵行為だ!」

「すぐさま告発すべきでは?」

 

また思い思いの事を口走り始める。

熱量が上がってきたのを見計らってギルベルトが口を開いた。

 

「諸君らの思い痛いほど分かるぞ。案ずるな既に手は打ってある」

「おお!流石はガッセナール伯!」

「古来よりの習わしに従い貴族の決闘を申し込む、今頃は我が息子と娘が宣戦布告を叩きつけているはずだ、あの若造にガリア貴族の力を見せてやろうではないか!」

 

拳を握り込み威勢よく啖呵する。

その勇ましい姿に取り巻き貴族が褒め称える。もう勝ったような雰囲気だ。安堵する者までいる。

 

「ご子息のバルドレン殿は何十人もの帝国将兵を戦場で撃ち倒してきた烈士、御息女のオドレイ様は戦車戦では十輌もの戦車を撃破したとか。お二人ならば必ずや、あの金髪の小僧めを懲らしめてくれるでしょうな」

「懲らしめる?ふっふっふ、それだけで済めば良いですがねぇ」

「……というと?」

「恐らく戦いにすらならないでしょう。なぜなら現在アマトリアンには義勇軍が居ません。これから数日間、学徒兵による特別演習期間となるからです。つまり彼には使える部隊が存在しない最初からな」

 

既に勝敗は見えているのですよ。

無論それはギルベルトの根回しによるものだ。

それを聞いた貴族達は爆笑する。

 

「ワッハッハ!これは見物だ!さぞかし今頃あの生意気な男は顔を青くしている事でしょう!」

「流石はガッセナール伯爵!策士ですな!」

 

同情する。これほどに不利な状況なら奴に万が一の勝ち目もないだろう。貴族の作法を叩き込んでやる。

 

「あの若造にガリア貴族の恐ろしさを教えてやろうではないか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回 結成ジークハルト小隊!
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