あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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四十三話

 

数日前から俺達ランシール王立士官学校の生徒達はアマトリアン演習場に来ていた。目的は来る学徒兵動員に向けての実施訓練。俺たちは今日までガリアを守るために勉学に励んできた。もう間も無く帝国軍と戦うため正式にガリア軍に入隊する、その為に最後のテストをここで受けるのだ。

 

アマトリアンに入り数々の厳しい訓練を乗り越えていた俺たちに召集命令が与えられたのはその数日後の事だった。

 

「何だろうな召集命令の内容って」

「そりゃお前、俺たちが何のために訓練してるか忘れたのか?」

「……じゃあ、いよいよ帝国軍と戦うために軍は俺達を?」

「やってやる、やってやるぞ……!」

 

演習場に集められている者達の顔は様々だ。

不安にかられる者、平然としている者、自分に言い聞かせて無理に士気を上げる者、反応は様々だ。

 

「レオンお前はどう思う?」

「ん?俺か?」

 

声をかけられた赤毛の青年が振り返る。精悍な顔立ちの彼はそうだなと顎に手をやり。

 

「今日、こんな事があるとは聞かされていなかった、恐らく昨日今日でなにかあったな」

「何かって何だ?」

「それは分からない、だけど、これから起こる事は俺達にとって、とても重要な事なのは間違いない」

 

雰囲気にながされず落ち着いた彼の態度に周りの学生達も感心した。しきりに頷いた。

 

「流石レオン俺達のリーダー頼りになるぜ!」

「よっ学年一の秀才!期待の星!」

 

どうやら彼は周りの人間から頼りにされているようだ。それを過分な評価だと思っているレオンは苦笑する。

 

……彼らが期待してくれるのは嬉しいが、まだ俺は何もしていない。

例え学校での成績が優秀でも、戦場の実績になるわけではない。

これからだ俺達は。

 

俺達は帝国軍と戦い勝たなくてはならない。

そして家族を守って見せる。

その為に俺は故郷にいるたった一人の家族である弟を残してランシールのスカウトを受けたんだ。

 

弟を守る為なら俺はなんだってやってみせる。

学園の門を叩いた時と同じく決意を新たにしていると、ざわめきが起こった。

現れたのは二人。一人は整備兵らしき男。もう一人はサングラスをした将校風の男だ。どちらも若いな。

 

「ランシール王立士官学校の皆さん急遽お集まり頂き感謝するっす。自分はリオン・シュミット整備士っす。突然の事に困惑しているかもしれませんが、皆さんには僕たちを助けてほしいっす」

 

どういう事だ?

生徒達の多くが不思議そうにしている。

レオンもまたいきなりの事に困惑するしかない。

 

「これから名前を呼ぶっす、呼ばれた人は前に出て欲しいっすレソト・ドミニク」

「は、はいっ」

 

生徒名簿を手に次々と彼は名前を呼ぶ。

呼ばれた生徒は素直に前に出る。

そして−–

 

「次レオン・ハーデンス!」

「……はい!」

 

呼ばれた。ここは彼らの言う事を聞こう。

大人しく前に出る。その後も生徒達が呼ばれていく。中には友人の名前もあった。そうして述べ50人程が呼ばれた。選考理由にどういった基準があるのだろうか考えていると。

 

「呼ばれなかった者達は解散して自由にしていいっす、特別に工場内の見学も認めるっすよ、呼ばれた者は待機っす」

 

なんだか釈然としないながらも彼の言葉に従う。

無理もない。何で集められたのかも分からないのだ。

皆、疑問符を付けながら帰っていった。

いやいよもって謎は深まるばかりである。

 

「それじゃあ兄貴、後は頼むっす」

「ああ、ありがとうリオン助かった」

 

兄弟なのだろうか。それにしては似てないが。

将校風の男が前に出る。

どうやら彼が本題のようだ。

 

「今日から俺がお前達の上官になる、お前達にはこれから俺の指揮下に入ってもらう」

 

なんだって?

どういう意味だろう。

そう思ったのは俺だけではないはずだ。呆気に取られている。

一人の生徒が手を挙げる。

 

「あの〜質問願います」

「何だ?」

「……貴方はいったい誰なんですか?」

 

皆んなが知りたかった事を聞いてくれた。

そうだ何者なんだこの人は。それが分からないと、この人の指揮下に入る以前の問題だ。その質問に対して彼はふっと笑みを浮かべ自信を込めて言った。

 

「ジークハルトだ。特別軍事顧問のジークハルト」

 

知らない誰?

恐らく全員がそう思っただろう。聞いた事のない名前だ。この無名の指揮官に対してどう反応すればいいのか分からない。

 

特別軍事顧問。それが何なのか分からないが高位の階級である事は彼の胸章を見れば明らかだ。

戸惑いを隠せない俺達を無視して彼はとんでもない事を言い出した。

 

「早速だが本題に入ろう、君達には明日、正規軍と戦ってもらう」

 

……は?

まるで何でもない事のように言う彼の発言に俺達は一瞬何を言われたか分からなかった。正規軍と戦う。何故?

 

「無論、戦うと言っても戦闘訓練だ、演習の一環だと思えばいいだろう、しかし負けは許されない」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!どう言う事ですか!?」

 

正規軍と戦う!?

そんな話し聞いてないぞ。しかも負けは許されないなんて無茶苦茶だ流石についていけないと一人の生徒が文句を言う。すると彼はやれやれと大仰に首を振って。

 

「ランシール王立士官学校。ガリア各地から逸材が集められ軍事教育を受ける士官候補生達と聞いていたのだがな、どうやら俺の勘違いだったようだ」

「なっ!?」

「お前達は何のためにここに居る、ピクニックにでも来たつもりか?明日、お前達は戦場に駆り出されるかもしれない、その時も同じ事を言うつもりか?」

「ですが、せめて事情だけでも教えて下さい……」

「機密事項だ教える事は出来ない、学生気分はここで捨てろ、それが出来ないなら出て行け、こんな理不尽はこれから先いくらでもある」

 

確かに彼の言う通りかもしれない。

だが事情も知らずに戦えない。会ったばかりの誰とも知れない男の下につきたくはない。そう考えた生徒達が一人、また一人と踵を返した。彼も止めようとはしなかった。

 

「行こうぜレオン、付き合ってらんねーよ」

「……」

 

逡巡した後にレオンは踵を返そうとしたが、やめた。

 

……やってみよう。

このまま何も分からないまま帰るのは俺の性に合わない。そうだろ?

ここで何が起こっているのか確かめるんだ。

それに困っているようだし、少しぐらいなら力を貸してもいい。

 

それに昨今、ガリアを取り巻く状況は変わりつつあると聞く。これはその兆候ではないか。

もしそうであれば深く知る良い機会かもしれない。

故にレオンは立ち止まった。

友人達はそれを見て顔を見合わせる。仕方ないなと言いながらもレオンの横に立つ。残ってくれるようだ。

 

「悪いな」

「いいよ、お前についていくって決めたからには、とことんついて行ってやるさ、あの指揮官に俺達の力を見せつけてやる」

 

フンと鼻を鳴らす友人。

そうだなあの指揮官殿に俺達の力を認めさせてやるのも悪くない。ランシールの名は伊達ではないという事を。

 

ジークハルトは残った生徒達を見渡す。一人一人の顔を見て、

 

「残ったのは三十五名か………。ここに残った君達は俺を指揮官に認めるという事でいいんだな?」

 

俺達は頷いた。

 

「ならばこれより今後、君達を俺の指揮下に入れる。喜べ特別部隊だ義勇軍でも正規軍でもない。全く異なる特色を与える、義勇軍を支援し正規軍を超える為の。そして帝国軍に勝つ為の部隊だ」

 

名はジークハルト小隊。

それを聞いた俺達は良い知れない高揚感を感じていた。帝国に勝つと彼は言った。その言葉が嘘ではないと感じたからだ。気づけば彼から圧倒的なカリスマを感じていた。俺だけではない全員がそれを感じた。まるで万の軍勢を指揮する司令官を前にしているような気分だった。

 

「手始めにまずはアレに勝ってもらう」

 

彼が指差す方向を見る。

そこにいたのは蒼い鎧を纏った騎士の様な何か。

何だアレは。

見た事のない武装を纏った兵士が演習場の真ん中に立っていた。

 

「……貴族との戦いは明日だ。故に悠長な事はしていられん、今すぐにでもお前達を歴戦の古強者にする必要がある。だから俺が君達に命ずる事は一つ……死ぬなよ」

 

……え?

そうまだ俺達は知らない。これから地獄が始まる事を。ここに残った事を早々に全員が後悔するのはそれから直ぐの事だった。

だがもう俺達は逃げられない、この金髪の指揮官から。

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあああああ!!!」

「助けてくれ殺される!」

「いやああああ!?」

 

演習場に悲鳴がこだまする。そこはまさに地獄と化していた。その様子を見ているジークはほっと胸を撫で下した。

 

「何とか明日までに間に合いそうだな」

「本当に大丈夫なんすか!?あれ!」

 

リオンが思わずツッコミを入れる。それ程の惨劇が目の前で行われている。自分も同罪とはいえ、あまりにも可哀想である。

ジークも内心そうだなと同意する。

一対多とはいえヴァルキリーを相手に生徒だけで戦うというのは無謀を通り過ぎて自殺行為と言うしかない。

だがこの程度は乗り越えてもらわなければこの先、戦い抜く事は不可能だ。この三十五名を生き残らせる為には。

 

「………35人か」

「え?」

「いや何でもない」

 

奇しくもその数は俺にとって意味を持つものだった。それは今も俺の心に重くのしかかる。

一種のトラウマだ。

もうあんな事は繰り返さない絶対に。

その為なら鬼にもなろう。

かつての誓いをまたここで誓う。

 

「皆んな距離を取れ!協力して戦うんだ!」

「ほう?……良い動きをするようになった」

 

考え事をしている間に演習場の光景が変わっていた。それまで逃げ惑うしかない生徒達が反撃に打って出る。その中心にいるのは一人の生徒だった。

 

「確かレオン・ハーデンスと言ったか」

 

中々の指揮ぶりだ。

悪くないな。

勝てとは言ったが俺も本当にイムカを相手に勝てるとは思っていない。だが食い下がる事は出来そうだ。

これは良い収穫かもしれん。

学生とは聞いたが流石はガリア唯一の士官学校の生徒か。侮っていたつもりはないが動きも悪くない。粒揃いだ。

評価を上げる必要がありそうだ。

 

そうそう、この旨をランシールにも伝えなければならないな。まさか勝手に自分達の生徒が引き抜かれたと知ったら、激怒されるだろうが。

まあ、何とかなるだろう。

今はとにかく明日に備えてみっちりと訓練に励もう。

 

 

 

 

数時間後、生徒達の屍の山が出来ていたのは想像に難くない。……大丈夫だラグナエイドはたっぷり用意しているからな。

 

 

 

 

 

 




次回 決闘
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