あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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四十五話

 

「ああ、言い忘れてたんだが。ハーデンスこの戦い君が部隊を指揮しろ」

 

それは演習開始の5分前に言われた事だった。

残り間近な時間を愛用の対戦車槍の点検作業に使っていると、ふらりとジークハルトがやって来て唐突にそう言い出したのだ。

まるで今日の昼食は何だろなと言うような気やすさで。

 

「……俺がですか?」

「うん、やってみてくれないか俺の代わりに」

 

レオンはまじまじとジークを見詰める。

何を考えているのだろうかこの人は。

俺に指揮の代行を頼むなんて。副官とはいえだ。そう考えレオンはふと気付く。

 

「いや最初からその為に俺を副官に?」

「お、流石だな気づいたか、そうだ今後、俺の小隊はお前に任せるつもりだ」

「え……っ」

 

呆気に取られる。まさかそこまで権限を与えられるとは思わなかった。まだ何の実績もないイチ生徒にだ。

分からない。

この人は俺に何を望んでいるんだ。

何か目論見があるはずだ。サングラスに隠れた彼の目から意図は読み取れない。

 

「……ん?どうした?」

「……いえ何でもありません、分かりました俺が指揮を取ります、正直どこまでやれるか分かりませんが精一杯やってみます」

 

レオンは臆せず答えた。

これは俺にとっても悪い話ではない。むしろ好都合だ。そうだろ?なんせこの戦いは只の演習ではない。

 

相手は本物の貴族だ。

この戦いに勝てば俺達の軍での評価は変わる。

弟を守る力が手に入るかもしれない。

だったら臆病者になるなレオン・ハーデンス。

レオンはジークハルトから指揮権と無線機を受け取ると小隊初の命令を発する。

 

「こちらレオン・ハーデンス……皆、勝ちに行くぞ!」

「了解!」

 

全分隊員の声が演習場に響いた。

 

 

 

 

⭐︎⭐︎

 

 

 

 

ーー数分後。

演習開始の信煙弾が打ち上がった。

それと共にレオンは作戦開始の号令を上げる。

 

「全分隊作戦開始!偵察兵は前へ出ろ!A班B班は拠点の制圧、C〜F班は援護だ!」

「うおおおお!」

 

それを合図にジークハルト小隊は動き出す。

気合いの声を上げると走り出した。

直ぐに銃撃の音が鳴り響く。あっという間に演習場は戦場となった。

それを見たレオンも援護に回る。前衛指揮だ。危険だが彼の性分に合っていた。

 

レオンは冷静に戦況を見据えていた。

 

……後手に回れば恐らく負ける。

五分の状況とはいえこちらは生徒で向こうは軍人だ。地力の差で劣っている以上、長期戦は不利だな。

つまり……。

 

「ーー先手必勝だ!」

 

構えた対戦車槍を撃つ。パシュッと乾いた音と共に撃ち出された火槍は敵が守っていた拠点を吹き飛ばした。派手な威力だが非殺傷仕様だ死にはしない。だが気絶や脳震盪くらいは起きるだろう。

 

「ぐわあああっ!」

 

拠点から敵兵がいなくなったのを確認してA班に拠点を制圧させる。その間も警戒を疎かにしない。取り返しにくる敵兵を警戒しての判断だ先行させた偵察兵から報告はない。

無事にアルファ拠点を制圧する。

 

「よしまずは一つ!」

「よっしゃー!!」

 

小隊から歓声が上がる。

正規軍が相手でも戦える、誰しもがそう確信した。

士気が上がるのを感じる。レオンはこれを好機と考えた。

 

「よしこのままの勢いで攻め上がるぞ!」

「おー!!」

 

その後もレオンの的確な指示の下、

小隊は敵を押し込んでいった。入り組んだ道を巧みに利用し奇襲する。ジリジリと後退を余儀なくされた隊長格の男は本当に相手は学生かと驚愕する。

 

「馬鹿な我々が防戦一方だと!?」

 

それまで相手が学生だからと舐めた態度を取っていた兵士も一転して考えを改める。

相手は只の学生じゃない一端の兵士なのだ。

 

「くそっバルドレン様のお手を煩わせるわけには!」

「見つけたぞ!お前が隊長格だな!」

「ーーっ!?」

 

しまったと思った時にはもう遅い。

現れた突撃兵の乱れ撃ちが味方を襲う。実戦であれば即死は免れない。悲鳴を上げながら地面に倒れ込む。その光景に見事だと称賛を送りながら自らも撃たれる。

がくりと膝を落とした軍人を見てランシール生は。

 

「やったぞ!これで二つ目だ!」

 

勝鬨を上げる。

順調に二つ目のベータ拠点を落とせた。

勝てるぞ。

このままいけばジークハルト小隊は勝てる。だがそれを許さない男がいた。無線が入る、先に行った偵察兵からだ。

 

「気をつけろレオンそっちに……っ!」

「どうした!」

 

音信途絶、反応がない。

どうやら倒されたようだ。

危険を察知したレオンはすぐさま皆に防衛態勢をとるよう命令した。

 

「敵だ!全員、拠点を利用して防御の構えを取れ!」

 

直ぐに教科書通りの防御態勢に入るランシール生達。レオンも対戦車槍を構える。

来るなら来い迎え撃ってやる。

 

 

 

 

 

⭐︎⭐︎

 

 

 

 

「……やるではないか。学生の集まりと聞いた時はあの男は勝負を捨てたかと思ったのだがな」

 

戦況を見据え静観していたバルドレン兄妹は思いのほかランシール生が健闘している事に感心の声を上げる。

正規軍と交戦すれば直ぐにでも敗走すると考えていたが。聞こえてくる情報によれば思ったよりも奮戦しているようだ。現在は第二拠点の攻撃に移っている。これも直ぐに奪われるだろう。

既に演習開始から十分が過ぎていた。

 

「賭けはお前の勝ちだなオドレイ」

 

どうやら二人で賭けをしていたようだ。十分以内に倒せると踏んでいたバルドレンは妹の勝ちを讃える。悔しげな様子は一切ない。

オドレイもまた誇る素振りを見せず。

 

「自分でも意外でしたわ。ランシール王立士官学校の生徒であることを加味してのものでしたが、まさか彼らがここまで我が部隊の攻撃に耐えるとは思いませんでした」

 

しかも指揮官は平民出の若者というではないか。

未だ戦場を知らない若者が我が部隊の精鋭を相手に五分以上の戦いをするとは信じられない。

おもむろにバルドレンが叫ぶ。

 

「俺の武器を持てい!」

「ははっ」

 

暫くすると兵士が武器を運んでくる。あまりの重さに二人がかりで運ばなければならなかったそれは大剣だった。爆裂剣と呼ばれるそれは大柄な体躯のバルドレンの身長すら超える得物だ。

それを掴み振るう。

ブォンと空気が引き裂かれる。

それを見たオドレイは。

 

「行かれるのですね?」

「うむ、調子に乗る学生共に教えてやらなければならん。選ばれしガリア貴族の力を」

 

貴族と平民の間には確固たる隔たりがある。

それを身をもって教えてやろうではないか。

父親譲りの体躯に覇気を漲らせる。

 

「五名俺について来い!残りはオドレイを守れ!……ここは任せたぞ?我が妹よ」

「お任せください兄上!」

 

第3拠点と指揮官である妹を守る為に10人ほど残す。これで万が一にもここが落ちる心配はなくなった。

それでは狩りの時間だ。

 

「行くぞ!」

「オウッ!」

 

バルドレンは巨人の様な足音で走り出した。

重い大剣を抱えているとは思えない。

途中、偵察兵とおもしき敵兵を捕捉しこれを屠る。逃げる暇すら与えなかった。

 

「ぎゃあっ!?」

 

気絶する偵察兵に見向きもしない。足りないこの程度では。

次の標的を探す。

 

まもなくレオン達の守る第二拠点に到着する。

確認する教科書通りの陣形だ守りは固い。

ならば、

 

「煙幕弾を張れ!」

 

普通なら正面衝突を避ける状況でバルドレンはあえて正面突破を図った。直ぐさま白煙弾がレオン達の視界を塞ぐ。教科書にはない展開になんだなんだと混乱するジークハルト小隊。その隙間を縫う様にして近づいた影が彼らを襲う。突如として目の前に現れたバルドレンに突撃兵が驚きの声を上げる。

 

「なっ!?てきーー」

「ーー遅い!」

 

言い終わる時間も与えずに突撃兵を撃破する。

手加減しているとはいえ下手すれば死ぬ一撃だ。

一発で昏倒する。

それを見届ける事もなく近くにいた敵に目を向ける。目が合った時にはもうバルドレンは踏み込んでいた。

 

「え?え?」

「ハアアアア!!」

 

間合いに入った瞬間に大剣を振るう。

斬るというより殴り飛ばすといった感じだ。

当たった瞬間に木の葉の如く吹き飛ばされるランシール生、それを見た学生が反撃を試みるが効果はない。

その巨体に似つかわしい身軽な動きで躱していく。

 

「どうした!その程度か!?」

 

挑発的な言動をしながらも動きは冷酷だった。

腕は半ば機械的に次々とバルドレンはランシール生を倒していく。防御を強くした意味がない。これが貴族の力だと言わんばかりだった。それを見ていたレオンは耐えられないと判断する。

 

「くっ、皆!後退だ!a拠点まで下がれ!」

 

とっくに防衛線は崩壊している。

このままでは壊滅の恐れがあった。

それだけは避けなくてはならない。数を減らしながらジークハルト小隊は後退した。

 

 

 

 

 

⭐︎⭐︎

 

 

 

 

「ハァ……ハァ、みんな大丈夫か?」

 

荒い息を吐きながら、レオンは皆に声を掛けた。

誰かが恐怖に染まった声で叫んだ。

 

「いや、10人以上やられた、あの一瞬で!」

 

あっという間だった。

油断していたわけではないが、相手はこちらの想定を超えていた。まさか煙幕を隠れ蓑に突っ込んでくるとは思わなかったのだ。それに敵の攻撃は俺達の防御を遥かに上回っていた。

 

「くそっあんなのと、どう戦えばいいんだよ!」

友人が弱音を吐く。他の生徒も同様だ。

どうすれば良い。たまらず懇願して来る。

 

「レオン……どうすればいい?教えてくれっ」

「……」

 

考えろ。

直ぐに敵はやって来る、時間はないぞ。

レオンの顔が険しく歪む。

どれだけ考えても今の俺達であの敵に勝つビジョンが見えない。部隊の練度、経験値どれを取っても俺達より上だ。

勝てない。勝てないなら……。

 

「だったら勝つ必要はない」

「え?」

驚いた様子でレオンを見る。それは負けを認めるということか。たがレオンは首を振って。

 

「皆、昨日の訓練を覚えているな?どんな敵でもアレに比べればずっとマシだ、そうだろ?」

「え?まぁ、確かに……」

 

言われてみればそうだと全員が思った。

いくら敵が強いといっても確かにアレに比べれば随分とマシに思えるから不思議だ。

 

「だったら勝つ必要はない。戦いながら回避に専念しろ、協力して生き残れ」

「それでは俺達は敵を倒せない」

いつかこっちが倒されて負ける。レオンの戦術は負けを先延ばししているだけではないのか。

疑問に思う。だがレオンは笑った。

 

「大丈夫だ。俺達には心強い味方がいるだろ?」

 

そうだ。

これが俺の役割のはずだ。だから彼は俺を副官にした。そうですよね。内心で問いかけるが、はたして……。

 

敵は部隊を展開した直後にやって来た。

 

余裕の現れか背後に兵士を引き連れた大剣持ちの男がゆっくりと歩いて来る。

やはりあの男が指揮官か。

徹底抗戦の構えの俺達を見て狼の如き笑みを浮かべる。

 

「まだ戦う気か?先程の一戦で分からぬか彼我の実力差が」

「勝敗条件はこちら側の全滅か三つの陣地と本陣の制圧だ。まだ俺たちは負けていない」

「一か八か奇跡に頼るか。良い指揮をすると思ったが所詮は平民。貴族の我らと比べるまでもない。やはり貴族だけがガリアを救えるのだ!」

 

よほど貴族という肩書きに誇りを持っているのだろう。ランシールにも貴族の生徒はいるがここまで傲慢ではなかった。

こういう男が権力を持つと碌なことにならない。

だがその実力は本物だ。

それでもレオンの目は溢れんばかりの闘志で輝いていた。

 

「来い!ガリア貴族!ガリアの平民の力を見せてやる!」

「……フッ、いいだろう。思う存分貴族の力を見せてやろうではないか!」

「行くぞ皆!これが最後の戦闘だ!」

「おおおおお!」

 

大剣を構えるバルドレンに立ち向かうジークハルト小隊は最後の戦闘に移行する。激しい剣戟と銃撃の音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

⭐︎⭐︎

 

 

 

 

 

その状況を櫓の上から逐一見ていたジークハルトは楽しげに頷いていた。

 

「そうだ、それでいい。自分よりも強力な敵と無理に戦う必要はない」

回避して。逃げ続ければいい。

「……楽しそう、それ程までにレオンを部下に出来たことが嬉しい?」

イムカの言葉にジークは頷いた。

「ああ、嬉しいよ俺の意図を汲んだ上で回避に専念しているんだろう」

 

俺が何をしたいのか、何も言わずとも理解している。レオン・ハーデンス。彼のプロファイルを最初に見た時は半信半疑だったが認めよう。

彼の才能は本物だ。

実戦に耐えうる指揮官の才がある。

 

この分だと助けに入る必要もない。

見たところ上手く立ち回れている。

昨日の訓練が活きたな。

 

一番厄介な敵を引きつけてくれている。

 

「その間に敵本陣を急襲する」

 

その言葉と共にジークとイムカは動いた。

これよりたった二人からなる本陣急襲(ストライクアタック)を行う。ジークハルトはそう言うと櫓から降りる。

イムカは高い位置から飛び降りた。平然としている。どんな足腰をしているんだとジークハルトですら苦笑する。

 

どうやら本当に不調はないようだな。

再会してからというもの、あまりちゃんと話せなかったから心配したが問題ない様だ。

 

「この戦いを制しガリア貴族に俺達の力を見せつける」

「それによって今後の動きやすさが変わる」

「ああ、だからこそ……格の違いを奴らに教えてやろう」

 

ヴァールを構えたイムカが頷く。その瞬間、二人は走り出した。

 

 

 

 

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