あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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四十六話

 

激しい戦いをジークハルト小隊とバルドレン隊が演じる中、別ルートを進む偵察猟兵の姿があった。オドレイの部下である。

彼の役目は別働隊だ。裏に回り込んで背後から敵を叩くための挟撃作戦。オドレイの命令を受けた彼は直ぐさま突撃兵二人を率いて進んでいた。

道を慎重に進む彼は前方を警戒しながら思う。

 

……バルドレン様が出向いた以上、勝ったも同然だ。

 

それは半ば確信だった。

それ程にバルドレン・ガッセナールという男は傑出している。銃弾飛び交う最前線に嬉々として出向き彼は何人もの敵兵を倒して来た。恐らくガリア正規軍の中で最も精強なのがバルドレン率いる大隊だろう。

 

彼こそ次代のガリア公国軍を率いる将の器だ。

 

男は信奉者だった。

バルドレンやオドレイの命令があればどんな過酷な戦場にも行くだろう。ここにはそんな人間が大勢いる。

そんな彼等にとってこの演習は簡単なものになるはずだった。

 

精鋭を自負する偵察部隊はその名に恥じぬ動きで迅速に進んでいく。目標まであと少しというところで止まる。

足音に気づいた。数は二人。こちらに向かって来ている。

 

「……来るぞ」

 

合図を出しその場で迎撃姿勢に移行。突撃兵に構えさせる。音の発生源に変化は見られない。どうやらこちらに気づいてはないようだ。

甘く見られたものだ。通路から出て来たところを狙い撃ってやる。

 

標的との接敵まで3……2……1……。

青い人影が翻る。

 

「今だ一斉射撃!」

 

ババババっと盛大に鳴り響く射撃音。たちまち土煙が前方を覆い隠す。確かな手応え。確実に一人は仕留めた。

煙が晴れてそれを目視する。

 

人に見えたそれは長大な武器だった。見たことのない機構をしている。バルドレン様が使う爆裂剣にも勝るとも劣らない重厚なブレード状の武器が地面に突き刺さっていた。

 

「っ!」

 

……(デコイ)っ。

主なき武器を見て直ぐに視線を彷徨わせる。持ち主はどこだ。一瞬の膠着時間が命取りだった。

小さな影が視界の端に映る。敵はもう目の前に居た。目で確認した時には既に突撃兵が一人やられていた。

一瞬で顎に掌底を入れられている。恐ろしい事に格闘術で銃を持っている兵士を相手に倒してしまったのだ。なんという手練れか。

驚きながらも冷静に銃口を構える突撃兵の頭に銃弾が直撃する。

「グアッ!?」

 

見れば通路から顔を覗かせる狙撃兵の姿が。

金髪の男がこちらを見ている。ニヤッと笑みを浮かべていた。直ぐにこの男がジークハルトだと分かった。こいつさえ倒せば我が部隊の勝ちだ。

 

「この野郎がっ」

 

銃口を向ける。それを遮るように現れた小さな影がブレードを引き抜くとこちらに向かって走り迫る。慌てて銃弾を放つが全て避けられた。蛇の如く蛇行して一発も掠りもしない。

最後に見たのは少女の一振りの斬撃だった。

「グアッ馬鹿な……」

まさかエリート部隊の俺達がこんな一瞬でやられるなんて強すぎる。オドレイ様……。そこで視界が暗転する。

 

部隊が全滅したのを確認してジークハルトが出てくる。

 

「どうやら向こうも同じ戦略のようだぞ」

 

別働隊を予想しての事だろう。用心深いな。

感心、感心と頷く。どうやら甘く見てたのは俺の方だったようだ。向こうの指し手は恐らく俺達を過小評価していない。まぁ、過大評価もしていないだろうが。

 

そうなると局面は厳しいものになる。

こちら側が手薄という事はないだろう。

二人だけで突破するのは厳しいかも。

それをイムカに伝えると。

 

「問題ない、ハルトと二人なら負けない」

 

と言って譲らない。

彼女ならそう言うだろうと思った。

確かに彼女の突破力なら可能だろう。

だが彼女に怪我してほしくないのだ。先程の戦いも危険なものだった。一手でも間違えれば大怪我を負っていただろう。

彼女を守るヴァルキリー()もないのだ。

 

「セルベリアならともかく今のお前は生身だ無理をしてはいけない」

「……それはあの女がヴァルキュリアだから?」

「ん?あー、うん、まあな」

「もう二度とヴァルキュリアには負けない絶対に貴方を守る」

 

何かスイッチを入れてしまったようだ。

イムカの闘志がメラメラと燃えるのを感じる。

まずいな逆に喝を入れてしまった。

敵ヴァルキュリアと遭遇した事は報告で聞いている。それが原因だろう。遂に彼女は出会ってしまったのだ復讐すべき相手に。

 

しまったな思い出させてしまったか。

あえて話題を振らないようにしていたのに。

それもあってかイムカは俺の側を離れようとしない。それは別にいいんだが問題は彼女が俺の盾になろうと躍起になっている事だ。

文字通りの意味で彼女は俺の肉壁になろうとしている。

俺はそんな事を望んでいる訳ではない。

 

それを伝えたいが今は説得は無理だろう。

俺が全力でサポートするしかない。

 

「行こう。俺もお前を守る。だから全力で行ってこい」

 

その言葉にイムカの潜在能力が覚醒する。

 

 

 

 

 

⭐︎⭐︎

 

 

何が起こっている?

オドレイの困惑をよそに戦況は瞬く間に変わりつつあった。

 

「第一班、第三班からの無線通信途絶!何者かの襲撃によって壊滅した模様!更に向かわせた増援部隊も撃破された可能性大!このままでは我が部隊は壊滅してしまいます!」

 

矢継ぎ早に送られてくる報告を聞いてオドレイは愕然とする。

 

……いったい何が起きている。

さっきまでは我が方が圧倒的に優勢だったはずなのに。今は部下の敗走報告を聞いている。

もう敵に過剰人員は居なかったはずだ。

戦況を照らし合わせる。

やはり敵はa拠点にいる部隊で全てだ。

ではなぜこちらの被害が続出する。

 

「分からない、なぜ……?」

 

何を見落としている。

懸命に考えるが答えは出ない。まさかたった二人の敵によって次々と味方が撃破されているとはオドレイをして思わない。

そんなもの現実的ではない。

 

戦闘というのは相対的なものだ。

こちらが攻撃すれば相応のダメージをこちらも受ける。その逆も然り。一方的に攻撃を受けるというのは異常な事なのだ。

正規軍の精鋭を相手にしている時は特に。

 

だからオドレイは混乱した。

半数以上の兵が倒されてようやく。

敵は少数精鋭でこちらを圧倒しているのではないかと考え出す。

もしそうだとすれば敵は兄上以上の……。

ありえないと首を振る。

 

「兄上以上の軍人がいるわけがない!」

 

自負がある。

兄上こそがガリア正規軍で最強の軍人だという自負が。そしてその下にいる我々こそが最強なのだ。

私と兄上の部隊がこんな所で負けるはずがない。

 

「派遣部隊全滅!敵ここに来ます!」

「っ!」

 

その自負が今、粉々に砕ける光景を目撃する。

差し向けた自慢の精鋭達が全て倒されてしまい。敵がついにやって来た。果たしてその正体は驚くべき事に。

 

「ダルクス人だと……?」

 

見ている光景が信じられなかった。現れたのが少女だということも、ましてやその姿が自分が最も毛嫌いしている人種のものだったからだ。

世界にとっての腫瘍。人類史における汚点。

それがダルクス人だ。選ばれし清廉なるガリア人とは一線を画す者達である。そんな奴に私の部隊が倒されたというのか。

 

……認めない。絶対に認めてなるものか。

憎悪の表情で睨みつける。

少女はそれを見ても興味無さそうにしている。心底どうでも良さげだ。

 

「おのれ……!」

「いけません!お下がりくださいオドレイ様!」

 

激昂したオドレイが前に出るのを止める。

そばを固める僅か数人あまりの兵士達。

 

「お前達!?何をしているの!あの女を早く倒しなさい!それでも精鋭と呼ばれた猟兵ですか!」

 

顔を見合わせる。気まずい表情。

どうする勝てると思うか。

無理だろう。勝てたらここまで追い込まれていない。そうだよな。だがオドレイ様は退く気はないようだ。仕方ない玉砕するしかない。

 

「うおおおお!」

 

突撃猟兵が突貫する。せめてオドレイ様だけでも逃す。その思いで引き金を引いたが放たれる銃弾は空を切る。イムカは土嚢を盾にそれをかわす。銃弾が尽きた空の弾倉を捨てる。次の弾倉を込める。その一瞬の隙をイムカが見逃すはずがなかった。土嚢から飛び出すと一息で近づき驚愕する兵士を一刀の下に切り捨てる。勿論峰打ちだ。

 

あっけなく突撃猟兵が倒された。その光景をまざまざと見せつけられたオドレイは信じられないとばかりに手で顔を覆う。

 

「ありえない私の兵士があっさり倒されるなんて……。高潔なるガリアの兵士がダルクス人如きに……」

「戦場ではそんなものは関係ない弱いものから倒される」

「弱い?私が……?」

「この中で一番弱い。守られてばかりの存在」

「黙れダルクス人風情が……!」

 

黙っていられなかったのは護衛達だ。

敵の口を閉じさせようと向かっていくが次々とイムカに叩き伏せられていく。とうとうオドレイを守る者が一人も居なくなる。

 

「あ、悪魔……」

 

倒れた兵士の上に立つ少女を見て思わず口にする。

そう形容するしかなかった。

ヴァールの切先を向けられて。

 

「降伏する。それとも戦う?」

「……っ舐めるな!」

 

例え敗北の汚名を被ろうとも辱めは受けん。腰にあったサーベルを引き抜くとイムカに向かって勢いよく斬りかかる。実剣だ当たれば只では済まない。だがイムカは何気なく腕を振るって手甲で剣を逸らしてしまった。驚く間もなく地面に組み伏せられてしまう。ぐっと息が漏れる。

遠のく意識、ここまでか。

 

……申し訳ありません兄上。

 

 

 

 

 

 

⭐︎⭐︎

 

「オドレイ……?」

 

妹の声が聞こえた気がして戦いの最中ふと振り返る。何か嫌な予感がする。拠点側で何か起きたな。

 

「バルドレン様一度お下がりになった方がよろしいかもしれません」

 

部下達も何か感じ取ったか、そう進言してくる。

思案する。そうだな先程からオドレイからの連絡が来ないのが気になる。一度戻った方が良いかもしれん。

 

「よし全員一度下がるぞ」

「させるか!」

「む!?」

 

バルドレンが一時後退命令を出そうとした。その瞬間にレオンが飛び出して来た。

 

「貴様……っどういうつもりだ?先程から逃げ回ってばかりいたくせに」

「あなたの方こそ攻撃一辺倒だったくせにどうした?風向きが変わった気がする」

 

……こいつ。

思わず舌打ちをする。気づいているな我が部隊の僅かな機微に。恐らくこの赤毛の男がここにいる部隊を指揮する隊長格か。

やはり変だ。何かおかしいこの男の指揮は。

先程から敵を倒せていないのはこの男のせいか。

いやそれよりも。

 

「あの男はどこにいる!?」

「あの男?」

「とぼけるな!逃げた訳ではあるまい!なぜ出てこない!?」

 

どこを探してもあの男は見つからない。

それがバルドレンを苛立たせた。

 

「生憎と俺も知らなくてな。こっちが聞きたいぐらいさ」

「なんだと……?」

 

言ってやったぞと笑うレオン。それに対してバルドレンは驚いてレオンを見た。微笑するレオンに嘘をついた様子はない。

だったらどうやって奴の指揮に従って動いている。いやそうではない。

 

「まさか最初から奴は指揮をしていないのか!」

「ご明察その通りだ困ったものだよ隊長には」

「だとすれば奴の目的は……っ!まずいオドレイ!」

 

奴の狙いが分かった。

直ぐに踵を返して戻ろうとする。

すかさずレオンが動く。邪魔をしようというのだろう。

 

「オオオオオオオーー!」

「っ!?」

 

吠える。レオンの動きを止める程の声量で吠えたバルドレンは勢いよく大剣を地面に叩きつけた。瞬間、地面が爆発する。字の如く爆裂剣の機構を使ったのだ。辺り一面に爆風が飛散する。

全員の気が逸れた隙を狙ってエリアからの離脱を試みる。

 

ーーだが。

 

「よお」

 

そう言って片手を上げる視線の先に立ち塞がる男。ジークハルトがそこに居た。撤退する方向から現れた。その事実はバルドレンをして驚かせた。

その意味するところはつまり。

 

「……落とされたかオドレイは」

「ああ、妹だったか残念ながらな」

 

悪くない指し手だったぞ、相手が悪かったけどな。

ジークの返答に歯噛みする。獣の唸り声のような声で。

 

「よかろう、ならばこの俺が相手してくれよう!この俺の首を取ってみろジークハルト!」

「お前を相手にするのは骨が折れそうだバルドレン・ガッセナール、お前と俺の力は互角だろう」

 

この男の力は過小評価できない。まともにやり合えば負ける可能性すらあるだろう。それ程にこの男の武力は高い。警戒すべき相手だ。

 

「面白い本当にそうか試してみるか!」

「……気づいてないのか?もう終わっているんだよ戦いは」

 

俺がここに来た時点でな。

その瞬間、空に信煙弾が打ち上がった。それと共にスピーカーからアナウンスが流れる。

 

「ーー特別演習終了。ジークハルト小隊が全ての拠点を制圧した事を確認したため、これにて演習を終了します。勝者ジークハルト小隊!」

「なっ!?」

「……お前は強い、だがその強さが仇となった。俺はお前を警戒した、本気でやる必要があると思った。正面から戦わず本陣を狙ったのもその為だ。お前の妹なら直ぐに気づいただろうな、だが今回は勝ちを譲ってもらうぞ」

 

それを聞いていたバルドレンは体を震わせ大剣を打ち捨てる。

 

「畜生!」

「……っうおおおおおおお!!」

 

バルドレン以上に信じられない様子でアナウンスを聞いていたジークハルト小隊から爆発のような勝鬨の声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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