あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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四十七話

 

「この卑怯者め!」

「第一声がそれかよ」

 

演習も無事に終わり、これから仲良くしていきましょうという矢先にコレである。

ジークは呆れた顔になる。

卑怯と罵られる筋合いはないんだがな。

 

「認められるかこんな戦い!俺は認めんぞ!」

「いや何でだよ勝ちは勝ちだろ」

「こんなもの決闘ではない正々堂々と戦え!」

 

バルドレンは俺たちの勝ちを認めようとしない。

随分と戦い方にこだわりがあるようだな。

貴族特有の公平性というやつか。

 

「……知るか」

「なにっ」

「だいたい、お前たちに随分と有利な条件だったじゃないか、こちとら学生をかき集めて戦わされたんだぞ、知ってて決闘を挑んできただろ油断していなきゃこうも簡単に負けなかったはずだ」

「……っ」

 

全然公平じゃないよな。

それにはバルドレンも何も言えない。

勝負にもならないと思っていたのは確かだ。それが油断に繋がった事もその通りだ。残るのは完敗を喫したという事実だけ。

 

「隊長!」

 

レオン達が駆け寄ってくる。

その顔には笑顔が広がっている。

日頃から威張りくさっている貴族を相手に勝てたのだ嬉しいに違いない。

 

「凄いです隊長!いったいどうやったんですか!?」

「レオンやお前達のおかげだ!お前達が粘ってくれている間に敵陣を急襲したんだ」

 

凄いだろと胸を張る。

ほとんどイムカがやってくれたけど。

俺たち二人では勝てなかった。

 

「レオンは俺の意図に気づいていたようだけどな」

「そうなのかレオン!?」

「ああ、でも正直言って成功するとは思わなかったリスクの高い賭けに出ましたね」

「俺には勝利の女神がいるからな」

「……ん?」

 

ちらりと視線を背後に向けるとヴァールの点検をしているイムカがいる。視線に気づいたイムカが不思議そうに首を傾げている。

 

「イムカ副長と隊長だけでやりきったのか」

「…凄え」

 

気づけば尊敬の眼差しで見られていた。圧倒的な劣勢を覆したのだから当然と言えば当然か。

この演習で示した。もう誰も俺たち二人を侮る者はいないだろう。

 

「ダルクス人だと……?」

 

ようやくイムカの存在に気づいたバルドレンが沈黙を破る。演習に負けたと知った時よりも強い動揺を見せた。まさかあのダルクス人が我が部隊を倒したというのか。我が妹もか。

 

「何たる失態、それだけはあってはならない事だ」

 

呻くように言う。

ガッセナール家の人間として下級民のダルクス人に負けたなどあってはならない。

 

「やり直しを要求する!何かの間違いだ!この俺が奴隷同然のダルクス人に負けるはずがない!」

「奴隷だと……?」

 

その言葉に反応したのはイムカではなくジークだった。すんと無表情になる。イムカは全く気にした様子もなくヴァールの刀身を拭いている。

それを見たレオン達があっと声を上げる。

言ってはいけない事を言ってしまった。

 

「よくも言ったな俺の大事な人に奴隷と言ったな……許せん」

「……っ」

 

何だこの男はさっきまでとは別人のようだ。

思わず喉を鳴らす程の豹変ぶりにバルドレンは息を呑む。

サングラスを取ったジークがバルドレンを睨む。

 

「いいだろうそこまで言うのならやり直しの機会をやる、ただし一対一(サシ)でやろう。武器も禁止だそれでいいな?」

「よ、よかろう望むところだ!」

 

威勢よく答えるとバルドレンは構える。

武家の子弟として格闘術の概念も叩き込まれている。

馬鹿め俺を相手に素手で挑むとは。

無謀もいいところだ。抑え込み首締めで終わらせてやる。

 

「いいぞかかって来い」

 

しかしジークは構えない。だらりと腕をおろしている。それにはバルドレンも訝しんだ。

構えないのかそれともハッタリか。

 

「馬鹿めっ」

 

ハッタリに違いない。そう思ったバルドレンが地面を走る。一瞬で間合いを詰め押さえ込もうとするもジークの姿が消える。

いや違う。消えたと思ったのは錯覚だ。

攻撃をすり抜け背後に回ったのだ。

何だ今の動きは。

 

足を動かした様には見えなかった。

まるで幽霊だ。

 

「なあ今、足を動かさず動かなかったか?」

「はあ?足を動かさずにどうやって動くんだよ」

 

観衆となっていたジークハルト小隊からも疑問の声が。

そんなはずない。

困惑の顔を貼り付けたバルドレンが間合いを詰め鋭い拳打を放つ。当たると痛いでは済まないそれをジークは躱し続ける。

何度も、何度も。

 

「凄いな全て躱してるぞ」

「ああ、だが攻撃しないのは何でだ?」

「……あのイムカさん」

「……なに?」

 

武器の点検をしているイムカにレオンが声をかける。彼女は二人の戦いを見てすらいなかった。いいんだろうかそれで。

 

「大丈夫なんでしょうか隊長は」

「問題ない」

 

即答だ。本当に問題ないと思っているのだろう。やはり見向きもしない。少し意外だな、てっきり彼女は彼を守るかと思ったのだが。

 

「止めなくて良かったんですか?」

「なんで?」

 

何でって、貴女は彼のボディガードなんですよね?

副官のレオンはそう聞かされていた。二人の本当の関係を。それ以上は知らないが。

 

「ハルトなら大丈夫、彼は負けない絶対に」

 

確信するように言う。

だがレオンは知っているバルドレンの強さをこの目で見た。隊長が警戒したのも分かる彼の実力は本物だ。

結局、俺たちは誰一人彼に傷を負わせる事はできなかった。

あと数分でも戦いが長引いていたら負けていたのは俺達だっただろう。

 

「一対多数なら止めてた、でも一対一なら止める必要はない。だって私もあの女も一対一で彼に勝った事はないから」

 

あの女とは誰のことだろう。

分からないが一対一なら誰にも負けないという彼女の、その言葉には絶対の自信がある。

 

何度も彼の戦いを見てきたのだろう。

たった一度とはいえ彼女の実力を知る俺たちからすれば俄には信じられない。どうやって彼女を相手に勝つのだろう。バルドレン以上にビジョンが見えない。

 

その一端を垣間見る。

 

ジークの目がバルドレンの一挙手一投足を捉える。

相手の動きを分析しそこからパターンを解析する。

膨大な情報を脳内で解体していく故に負荷が大きい。一対一でしか使えない技と言える。

 

「……解析完了」

 

その言葉通り相手の攻撃を数センチで避けていたのが、数ミリ単位にまで精度が上がる。相手の拳を薄皮一枚の所で躱すから見てるレオン達の方が冷や冷やする。

だが当たらない。いっそ不気味なまでに。

ここから手数が増えていく。回避と牽制を織り混ぜながら的確に急所に拳を入れる。

 

「っく!」

「どうした?呼吸が乱れてきたぞ」

「黙れ!」

 

信じられない。あの体躯を誇るバルドレンが気づけば防戦一方になっている。激昂して反撃を試みるも当たらない。くるりと回転して躱したかと思うとそのままの勢いで放たれた円月蹴りがバルドレンの側頭部に決まる。勢いよく地面に倒れた。

 

「ガ、ガハッ」

 

これで終わりだ。

その一連の動きをレオン達は唖然と見ていた。

イムカだけは頷いて。

 

「……ね?」

「こんな事って」

 

あのバルドレンが赤子同然だ。

全く隊長の相手にならない。この場合、異常なのは隊長だ。いったいどれほどの修羅場を潜り抜ければあんな芸当が可能になるんだ。あまりにも経験値が違いすぎる。

 

何者なんだ隊長は。

あまりの強さに疑問を抱いているとジークは倒れるバルドレンに向けて手を差し伸べる。

 

「これで手打ちでどうだ先程の発言も許してやる」

「……」

 

これで終わりだろうと誰もが思っていた。

だがバルドレンは諦めていなかった。手を差し伸べた隙を狙ってバルドレンは起き上がり、勢いよくジークに迫ったのだ。間合いの内だ避けられる距離じゃない。

首を掴まれる。誰もがそう思った瞬間、

ジークは差し伸べた手を素早くバルドレンの右手首に持っていき掴み。ぐるんと体勢を反対側に変え一気に巻き込む。

バルドレンの体が宙を舞った。一本背負いだ。

そのまま勢いよく地面に叩きつけられる。一瞬の事だった。

レオン達からはまるでジークが魔法を使ったように見えた事だろう。

 

「グハッ……何が起きた?」

「気絶する勢いで投げたんだが丈夫だな、まだやるか?」

「……いや、もういい俺の負けだ」

 

天を仰ぎ見るバルドレンは悔しげに言った。

これ以上は醜態を晒すだけだ。

負けを認める。ここにようやく戦いは終わった。

バルドレンが体を休めていると。

 

「兄上ご無事ですか!」

「オドレイか……。ああ、俺なら無事だ」

 

意識を取り戻したオドレイらが駆け寄ってくる。

怪我はなさそうだな良かった。

倒れるバルドレンの介抱をするオドレイがジークを睨む。

 

「おのれ貴様よくも兄上を!」

「いい、オドレイ此度の戦い我らの負けだ」

 

認めざるをえない。彼らの勝ちだ。

ですが……とオドレイが何か言いたげだ。

分かっている、他の貴族はこの結果を認めないだろう。実際、観戦していた貴族の間ではすでに混乱が生じていた。何やら言い争いをしている。きっと自分達の保身を図っているのだろう。何たる無様な。

その様子に気づいたジークがポツリと呟いた。

 

「あいつら自分の代わりに戦った仲間に労いの一つもないのか?ガリア貴族も同じだな奴らと……」

 

奴ら……?誰のことだ。

分からないが彼はそいつらの事を酷く嫌っているようだ。

目には非難の色がある。変な男だ。

今しがた戦っていたのは俺達だろうに。

 

分かった事もある。この男の強さについて。絶え間ない訓練を積んできた者だけがたどり着くことの出来る肉体、そして実戦で培われた戦闘の勘。その両方を併せ持つ本物の戦士だ。

俺には分かる一人の戦士として。

痛む体を無視して立ち上がろうとする。

 

「ほれ掴め」

「……」

 

差し伸ばされた手を今度はちゃんと掴んだ。

立ち上がってジークに頭を下げる。

 

「数々の無礼申し訳ない、謝らせてもらう」

「やけに素直だな」

「負けたなら素直に勝者を称賛するのも貴族の務め、お前は俺より強かった、ただそれだけのこと」

「そうかいあとは貴族共を静かにさせれば文句なしだが」

「難しいだろうな彼らは貴族だ一人一人が別の生き物だと思ったほうがいい」

 

彼らをまとめるには父上の力が必要だ。だが父上がどう動くかは子の俺でも分からない。

最悪な事にならなければいいが。

二人して騒ぎの方を見ていると、なにやら騒ぎが沈静化する。いきなりシンと静まり返った。

 

「なんだ?何が起こっている」

「行ってみよう」

 

ジークハルト小隊とバルドレン隊を引き連れて騒ぎの原因の方に向かう。

そこに居たのはなんとコーデリア太公だった。

さっきまで騒がしかった貴族が黙ったのは彼女の力によるものか。

 

「あ、ジーク!」

「あれ姫様?また来られたんですか?」

 

ジークハルトを見つけるやお腹の辺りに抱きついてきた。

それを見ていたレオン達が呆気に取られている。ジークは不思議そうに首を傾げる。

そんなにアマトリアンが気に入ったんだろうか。

そう思っているとコーデリア姫は頬を膨らます。

 

「もう!ジーク?こんな事があるなら教えてください!貴方の活躍を見たかったのに」

「いやーなにぶん急な話でしたので伝える暇もなかったというか」

 

というか昨夜から寝てないのだ。

レオン達だけでなくバルドレン達のデータも調べていたから。アマトリアンに必要なデータがあって助かった。当然姫様に知らせる余裕もない。

 

「聞けば貴族の方々との親善試合をしていたそうですね?」

「親善試合?」

「あら違うのですか?あの方々がそう言っていたのですが」

 

そう言って指を差すと貴族の男達が肩を震わせる。

あからさまにバツの悪そうな顔をしていた。

……なるほどなぁ。こいつら決まりが悪いからって姫様に嘘を吹き込んだな。何が親善試合だよ。

内心呆れる。

 

しかし好都合かもな。

ここで奴らのプライドを折るのは簡単だ。

だが敵対するよりも味方にした方が利がある。

ジークは貴族を取り込む事にした。

そしてその筆頭は彼しかいない。

 

「いやーそうなんですよ、彼らは姫殿下を守りたい憂国の士なのです、故にこうして未だ未熟な俺のために交流の機会を図ってくれたわけですな」

「まあそうでしたのね?皆様ありがとうございますジークに代わって私からお礼の言葉を言わせてもらいますわ」

「???」

 

何が起こっているか理解できない様子だ。

バルドレンも驚いた。

なぜ本当の事を言わない。ジークハルトを引き摺り下ろす為の策だったと。それだけでジークを邪魔する者を排除できるというのに。

 

「紹介しますガッセナール家の嫡男バルドレン殿です、彼は今回の催しの実行者でした、ガリア貴族の中でも一角の人物です必ずや姫様の役に立ってくれる事でしょう」

「そうなのですか初めましてバルドレン様、貴方の父上とは会った事がありますガリアでも最も偉大な貴族の一人と信じております、私もジークと同様未熟な身ゆえ助けて頂けると嬉しいです」

「は……ハハっ!」

 

……完敗だな。

これではもう手出しできない。

不必要に殿下の怒りを買う馬鹿はいないだろう。

居たら粛清されるだろう貴族の手によって。

 

少なくともガッセナール家はそれをするだろう。生き残るために。あまりにも上手い手だ。貴族社会を理解している。

 

ようやく気づいた。

恐ろしい相手を敵にしていた事に。

最悪ここにいる全員が何らかの理由で死んでいてもおかしくなかった。もしジークハルトが本気で俺達を潰そうとしたならば可能だろう。

それを姫の面前で不問にするというのだ。

分かっているのか?

安堵しきっている貴族達は自分の首に死神の鎌がかけられている事に。もしもまた手を出そうものなら報復は非情なものとなるだろう。

 

……申し訳ありません父上、この男、我らが御せる器ではありません。

 

 

 

 

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

 

 

その後、ジークハルトは土手の上にいた。

ここからなら演習場を見渡せる。まだ姫様の周囲に人だかりが出来ている。人気者だな姫様は。イムカを側につけたから問題は起きないだろう。そこで暫し待っていると。

 

「先程の戦い見事であった」

「ん……?ああ、やはり来ていたのか」

 

一人の男がやって来た。

見事な体躯をした壮年の男だ。サングラスをしている。微妙にキャラが被るその男は恐らく。

 

「ギルベルト・ガッセナールだな?」

「いかにも」

 

鷹揚に頷くギルベルト・ガッセナール。今回の騒動の張本人だ。その本人は全く悪びれもせずに俺の健闘を讃えた。

それだけを言いに来た訳ではないだろう。

 

「見事に負けてしまったな。だが分からん。99%勝てる状況を作ったはずだが何故負けたのか分からない」

「だからだろう、そこまでお膳立てされたら逆に萎える。彼も興が乗らないだろう」

 

そこを突いた。その言葉にギルベルトは成程と頷いた。そういうものか。

 

「戦争とは難しいものだな」

「だから面白いんだけどな何が起こるか分からない、逆転のチャンスは必ずあるさ」

「帝国軍を相手にしてもそう言えるかな?ガリア中部の要塞線の事は知っているか、あれが完成すれば100%勝てない。そんな敵を前にしても君は戦えるか?」

 

中部の要塞線(フォートレスライン)か。

セルベリア達のいる所だ無論知っている。

現在、正規軍はあそこを攻撃しているが状況は芳しくないと聞く。無駄に兵を失うだけだ今はまだ進軍しないほうが良い。

 

「……やるさ、やらなければならない。勝てるかどうかじゃない、やるかやらないかだ。俺はやる姫様の為に勝つつもりだ、あんたはどうなんだ?」

 

戦う気はあるのか。

臆さず言い切った。あまりにも不敵な物言いだったがギルベルトは。

 

「ガッハッハッハ!その物言い気に入った!ガリアにもまだ見込みのある若者がおったか!」

笑った。

試すつもりが試されてしまった。面白い。

「ジークハルトお前が何者なのかはどうでも良い、他の者はともかく俺はそんなものに興味はない、新型戦車すらな。あるのは一つ、ガリアを守れる者かどうかだけだ!そして君は示して見せた我が倅を倒す事で!おめでとう我らは今日より朋輩である!」

「……っ」

 

圧が強い。

いきなり握手をしてきやがった。

まだ俺はイエスと言ってないのに。

この感じ帝国の貴族を思い出させるな。

だが奴らより嫌な感じはしない。

 

邪な気持ちが一切ないからだ。

本当にガリアを思っている事が伝わってくる。

ボルグ宰相とは比べるべくもない、大貴族の名に相応しい。

これがガリア貴族かと思わせるものだった。

強かさも持ち合わせている。

 

「あんた程の貴族が姫様の末席に加わるなら否はない、俺とあんたで協力関係を結ぼう」

「うむ!よろしく頼む!」

 

固い握手を結ぶ。

これで貴族陣営との決着は着いた。

どうなることかと思ったがいい落とし所だと思う。

だがまだ足りない。

ガリア軍の力を掌握するには、まだピースが欠けている。

俺の計画を始めるには不十分だ。

 

その第一ステップである新型戦車の開発。これに成功したとしても帝国軍には勝てないだろう。

更なる兵器の開発が必要だ。

その為にもあそこの奪還は急務だな。

 

ファウゼン鉱山工業都市。

……次の狙いはあそこになる。

 

 

 





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