あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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四十八話

 

「本当に凄かったな昨日の戦いは!」

「今でも信じられないぜ俺達が正規軍を相手に勝っちまうなんてな!」

 

今だに興奮が冷めない。

ジークハルト小隊もといランシール生徒達が宿舎に集まっていた。話題はやはり昨日の演習一色だ。

 

「しかし俺があの時、盾になってなかったらやばかったよなー」

「どの時だよ、あの時はみんなやばかったろ」

「みんな必死になってよく戦ったよ」

 

もう駄目だと思った時は一度や二度ではない。

それでも耐えぬいて勝利を掴んだ。中でもやはり高い功績を誇るのは。

 

「レオンお前だろう、お前の指揮がなきゃとっくにやられてた」

「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ」

 

謙遜せず素直に称賛を受け取る。

レオン自身あの戦いで得た経験は得難いものであると感じている。初の実戦経験を体験できたのだ帝国軍を相手にしても同じ動きが出来れば皆の生存確率を上げる事が可能だろう。

 

「だけどやっぱ一番は隊長達だよな!」

「それが言いたかったんだろ?ったくお前が一番隊長の事を目の敵にしてたのにな」

「馬鹿っあんなの見せられたら男なら惚れるに決まってるだろ!?」

 

彼らのジーク達を見る目は一夜にして変わっていた。

それまでどこか信用ならなかったが、今では別次元に信頼を寄せている。それはあのバルドレンを簡単に倒してしまう程の強さを見せつけられた事も理由として大きい。

 

自分達が歯も立たない敵を投げ飛ばした瞬間は衝撃的だった。あんな技は見た事がなかったし。人間があんなに投げ飛ばされるなんて。今でも信じられない。兵士の卵として学ぶべき事は多い。

 

「イムカ副長もやばいぜ、聞いてみれば実質一人で敵の拠点を次々と制圧したらしいじゃないか」

 

それを聞いた時はもう絶対に刃向かわないと誓ったぜ、とレオンの友人は語る。一時は挑発行為までした自分の命知らずさにあの時の自分を射殺したい気分だ。

その方が少なくとも長生き出来るだろうとレオンは苦笑する。

 

だが何と言っても一番はやはりアレだろう。

 

「しっかし、まさか隊長がコーデリア様の側近だったなんてな」

「それな!!」

 

全員が同意する。

何でそれを最初に言ってくれないんだ!?

しかもメチャクチャ親しそうだったぞ。

この国で最も偉い人といきなり仲睦まじい様子を見せられた俺達の気にもなってくれ。

ぽかんを通り越して唖然である。

 

隊長あんた何者なんだよ。

 

強くて頼りになって姫様に信頼されてる。

おまけにイケメンだ。

 

「なんだよ!あの人くっそ無敵じゃねぇか羨ましい!」

 

羨ましい。二度言う。

しかし何者なんだろう。特別軍事顧問官ジークハルト。その素性は謎に包まれている。

一週間前に仕官したばかりの彼は既に貴族の間ではちょっとした有名人だ。先日の件もそれが関係しているらしい。

 

成程な俺たちはそれに巻き込まれたわけだ。

おいおいと思うが。

今となっては迷惑だとは思わない。

 

「隊長について行けば俺の人生なにか変わるかもしれない」

 

そんな予感がある。

ジークハルト小隊全員がそう思っていた。というわけで今では男子、女子共に人気だ。

とりわけ女子からの人気が凄まじい。

 

「イムカさんの名誉を守るために戦った隊長はカッコよかったわね!」

「はーあ、隊長って好きな人いるのかしら?」

「イムカ副長でしょう。いいなーあんな人に大事な人って言われたいな」

 

見事なまでに熱中ぶりである。

さもありなん大事な人の為に戦う人物は好かれる。

……隊長にも居るんだなそういう人が。

良かった。そういう人が隊長なら俺達も生き残れそうだ。少なくとも俺達の命を安く思う事はないはずだ。

 

噂をすればなんとやらだ、イムカ副長が入って来た。珍しく隊長の姿がない。

 

「みんないる?」

「はい、全員います!」

 

素直な良い返事に首を傾げるイムカ。

まあ、いいかと気を取り直して。

 

「新装備が用意された。整備班から皆んなに」

 

新装備という言葉に沸き立つ面々。直ぐに運ばれて来た。

まずは戦闘服から装備一式の更新だ。

それぞれの武器が二段階グレードアップされている。

ガリア兵でも尉官クラスに匹敵する。

これには全員が喜ぶ。手元に配布された装備を持って隣人に見せている。その様子を見ていたイムカは頷き。宿舎から出て行こうとする。

 

「これで終わりじゃない。まだある、外に」

 

その言葉に釣られて彼女の背中を追いかける。外に出た俺達はそれを見て驚いた。

 

「四輪トラックに装甲車!?これを俺達に!」

 

二台の軍用車両が鎮座していた。

ガリア軍でも貴重な車にジークハルト小隊の士気は最高潮に達した。

戦時下において物資・兵員輸送用の車両には限りがある。そうそう新設された部隊に配属されるものではない。

例え俺達がランシール学校の出とはいってもだ。

 

これもやはり隊長のお陰だろう。

 

これなら直ぐに駆けつける事が出来る。

敵地に、そして救援を求める味方の元へ赴き。

大切な者たちを守る事が可能だ。

 

これで戦車があれば文句のつけようがないんだがな、と友人が俺にだけボソリと呟く。確かにと同意する。戦車があれば更に戦術の幅が広がる。

 

「……戦車は次の任務地で必要ないとハルトが判断した、また今度」

「へぇーそうなんですかってイムカ副長!?」

友人がびっくりした声を上げる。

聞かれている事に気づかなかったようである。俺も驚いたが気になる言葉が。

「次の任務地?……もしかしてもう決まったんですか」

「うん決まった」

「……どこですか?」

ごくりと息を呑む。緊張しながらイムカの言葉を待つ。

 

「ファウゼン」

「!?」

 

ファウゼン。

ガリア北部に位置する工業地帯の密集地。兵器生産の為の鋼材のほとんどをあそこで作っていると聞く。

俺の故郷がある南部が兵糧の要なら北部は武器生産の要だ。帝国軍に勝つなら絶対に取り返す必要のある場所といえる。

つまりこれは奪還作戦。

とても重要な作戦に俺達が関われるなんて思いもしなかった。

 

これらの装備はファウゼン奪還のために用意された物。そう考えれば軽いと思っていた武器がズシリ重い。責任の重さだ。

 

「でも安心するといい私達はあくまでサポートが役目、実際に戦うのは義勇軍の役目になる」

「義勇軍?正規軍ではなくですか」

 

これほどの大事な作戦なら正規軍の役目のはずだが。

 

「正規軍は動かない。いや、動けない。中部一帯に広がる要塞線を前にして睨み合いになっている。大部隊を動かせば要塞から帝国軍が飛び出して来る。そうなれば戦線は一気に崩壊する」

「要塞線ですか?」

 

要塞線とはなんだろう。イムカ副長が教えてくれた。

要塞線とは計100kmに及ぶ塹壕を幾重にも張り巡らせた防衛陣地の事だ。第一、第二、第三と塹壕を作りその前に地雷原や竜の歯を設置する事で戦車や歩兵といったあらゆる兵器の侵入を拒む。塹壕による要塞それが要塞線だ。

 

帝国軍の得意とする戦術の一つだ。

 

その話を聞いて友人が顔を青ざめる。

そんな所を突破するなんて命がいくつ合っても足りない。

絶望する友人にイムカさんも言い過ぎたかと思ったのか。

 

「でもそれが完成するには膨大な兵と物資と時間が必要になる。1カ月か2カ月あるいはもっと時間がかかるかもしれない。その間にこちらも手を打つ」

「成程そうか。だから今、手薄な北部を狙うんですね」

「そう、しかもあのウェルキン・ギュンターが実行役、義勇軍とはいえ侮る事はない」

「そ、それって東部奪還の立役者のアノ!?」

 

友人が勢い良く食いついた。

有名人だ無理もない。義勇軍第七小隊の名声は今や広く轟いている。帝国軍を相手にも巧みな戦術を駆使して勝利を拾っている小隊だ。新聞でよく目にする。国民からも人気が高い。

レオンにとっても興味深い存在だ。

いや誰にとってもか。恐らく隊長にとっても。

 

「……そうか隊長は義勇軍の所に行ってるのですね?」

「ふぅ……うん」

 

姿を見かけないと思ったらそういう事か。

イムカさんはため息ひとつこぼして頷いた。何だか呆れているというか、やけに乗り気でない様子だ。

何かを懸念している。

 

「どうしました?」

「何でもない……。彼には困ったもの、そう思っただけ」

 

俺達は見合わせて首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

 

アマトリアン内にある義勇軍本部の一室にて、

ジークハルトとエレノア・バーロット大尉は対面していた。室内を重苦しい空気が支配している。

 

どちらも何も発言しない。異常な状況に置かれている。暫しの無言の後、切り出したのはエレノアだった。

 

「お久しぶりですと言った方がよろしいでしょうかハルトさん?」

「ジークハルトだ、初めましてと言っても間違いじゃないぞ」

 

強烈なジャブを軽く受け流す。

 

「……」

「……」

 

またお互い無言になった。

 

……あちゃあ、これ完全に気づいてるな向こうは。

ジークハルトは内心でそう推論づける。

 

意外とバレないんじゃないか?

とたかを括ったんだが参ったな。

護衛をすると訴えたイムカを大丈夫だからと追い払った事を思い出してごめんと謝る。

何でバレたんだろうサングラスしてたのにな。

ジークはこほんと咳を一つして。

 

「……茶番はやめましょう、お久しぶりですねバーロット大尉。メルフェア市ではお世話になりました」

「っ……。認めて頂き助かりました、これで余計な腹の探り合いをする必要がなくなりました、二カ月ぶりですねハルトさん」

 

約二カ月の時を経て俺とバーロット大尉は再会した。

 

あれから色々な事があった。

特筆すべきはやはりアレだろうか。

 

「猟犬には手を焼かされましたよ、アレは貴女の仕業ですね?」

「はい、その通りです」

 

あっさりと認めた。

やはりそうか。あの根回しの良さはそうじゃないかと思ったんだ。下手をすればあの時に捕まっていてもおかしくは無かっただろう。

 

「素晴らしい一手でした、アレで詰んでも不思議ではなかった普通ならば」

「生憎、貴方は普通ではなかった、いえそれどころか貴方自身が蛇だったのですね?」

「ええ、その通りです私が蛇です」

 

あっさりと肯定する。

バーロット大尉がジト目で俺を睨む。美人に睨まれると怖い。

 

「くく、いや悪い。そう睨まないでくれ俺としても必死だったんだ」

「そうは見えませんでしたが、まあ、いいでしょう。それで?私に用があるとは何でしょうか」

「おや俺が何者なのか聞かないんですか?」

「聞きません。正直どうやったのかは分かりませんが貴方は確かにここにいる。ならば既に上層部の力が働いたのは確かです。あの封書がそうでしたね」

 

ああ、あれか……とジークハルトは思う。

あの封書から全てが始まったと言っていい。

俺がここにいるのも元を正せばアレのせいだ。アレのせいで疑われてしまった。あそこまで強硬策に出るとは思わなかった。もしも最初から正直に話していたら違ったのかもしれないな。

 

「先に言っておくと俺は帝国人です」

「そうでしょうね、でなければ身分を詐称する必要がない」

 

驚いた様子はない。

成程そこまで分かっていたか。

俺についてそれ以上は知らないと。理解した。

 

「これ以上貴女に疑われたくないので答え合わせといきましょう。俺の協力者について、つまりこの国の財務卿についてです」

 

ガリア公国財務相。

それが俺の協力者だ。貴族を相手に予算を分奪れたのも彼の協力あってのこと。なぜ彼が俺に協力してくれたのかというとぶっちゃけ裏切りだ。売国奴と言ってもいい。彼は早々にガリアの負けを悟り諦めたのだ。後は簡単だ大使館経由でガリアに入国させたエリーシャに向こうから接触して来たというわけである。理由そのものはボルグ宰相と大して変わらない。保身と金だ。

 

「俺は彼の力を借りてこの国に来ました」

 

俺の帝国との関わりを除いてそれとなく話す。

バーロット大尉は厳しい顔になる。

 

「……やはり貴族は民を守らないのですね」

 

思った通りといった顔だ。

知っているのだろう貴族の醜い顔を。

間違いではない。私利私欲を肥やす者がいかに多いか。

だがそんな貴族だけではない事を俺は知った。ガッセナール家のようなガリアを思う貴族もいるのだ。

ならばまだ希望はある。

 

「だからこそ貴女とも協力関係を結びたい」

「私、いえ義勇軍とですか」

「はい、言ってしまえば地盤固めですね。無論俺ではなく姫様の為ですが」

 

俺が各派閥と協力関係を結んでいるのも姫様の為だ。

未だ盤石とはいえないコーデリア派の力を高める為にも各派閥との綿密な協力関係は必須だからな。

ジークハルトが頷くのを見てバーロット大尉は何か考える。

 

「先日の件は聞いてます貴族だけでは不十分という事でしょうか」

「ああ、やはり知っていますか。そうですね実を言うと義勇軍こそが戦争に勝つ為の鍵になると考えています」

「義勇軍がですか?」

「はい、いいえ違うな。正確には可能性がもう義勇軍にしか残されていないと言うべきか。正規軍にはもう余力が残されていない」

 

緒戦の敗北からギルランダイオ要塞の陥落までにガリア正規軍は3万人もの兵士を失っている。多くは捕虜として生きてはいるが戦時中に帰って来る可能性は低い。

 

つまり正規軍にはもう反攻する力がない。

ぶっちゃけ戦況は絶望的である。

どのくらい絶望的かというと7対3でガリアが劣勢だ。これを覆すとなると、もはや戦争ではなく奇跡に頼るしかない。

そういう状況だ。

 

「つまり我々は一蓮托生というわけです」

「だから義勇軍との関係を密にしたいと、成程理解しました。ですが理解できないのは貴方の動機だ、なぜ危険を犯してまでこんな真似をするのです?貴方はガリア人ですらないのに」

 

ガリアの為に身を粉にして働く理由が分からない。

それが理解できないと信用できないか。

 

「それは勿論、人が死なない為です」

「……」

「失礼、ですが嘘ではありません。戦争には人や物だけじゃない、夥しい傷跡が戦災として残ります。それは帝国も言うに及びません治安の悪化も免れない最悪帝国が崩壊するかもしれないと俺は考えています」

「帝国の崩壊?どうやって?」

「……内乱です。帝国にその予兆あり」

「!?」

 

信じられない様子で聞いていた俺の言葉に彼女がギョッとした。まさかといった顔である。残念ながらそのまさかだ。現在の帝国には内乱の兆しがある。少なくとも俺はそう考えている。

 

「ガリアを落とせば帝国の戦線はより広がる。より内乱のリスクは広く深く落ちていき行き着く先はヨーロッパ大陸の占拠支配。もしもそこで内乱危機が勃発したらヨーロッパ大陸は焦土と化すだろう」

 

大陸全土で内乱が始まる。御伽話のラグナロクだ。

混沌だけが支配する地獄となるだろう。

そうなればおしまいだ。誰も生き残れない。

 

「故にガリアには勝ってもらわなければならない。世界の為に帝国の為にそして俺の為に」

「……大胆な仮説ですね、貴方の言葉を鵜呑みにする訳ではありませんが私とてガリアを帝国に蹂躙されるわけにはいきません」

「つまり……?」

「……いいでしょう協力しましょう。貴方は現に貴族派を抑え切った、あの方のような口だけの士官でないと認めます」

 

まるで口だけの士官がいるような物言いだ。

だが良かった。彼女に認めてもらう事ができた。

これで義勇軍とも綿密な作戦行動を取る事が出来る。

 

「では共にファウゼン奪還作戦を始めるとしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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