あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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四十九話

 

「……成程、既に義勇軍は作戦行動中と言う事ですか。それならば我々もこれより北に向かうことにします、後の計画は帰ってから話し合いましょう、では失礼」

「………ふぅ」

 

頭を下げて退室する彼の背中を見送ったエレノアはドッと疲れたように息を吐く。背もたれにもたれかかった。

またこれだ。彼と話した後はいつもこうだ。

彼はいつも唐突に現れてこちらの意図もお構いなしに交渉事を進めていくのだ。こちらが手出し出来ないと知っていて。

大胆かつ狡猾それが彼のやり方だ。

そして今日も彼は驚くべき計画を口にした。

 

それについて考える前に頭を休ませていると手元の黒電話が鳴る。首都内でのみ使える秘匿回線だ。恐らく彼からだろうと当たりを付けて手に取る。

 

「はいこちら義勇軍第三中隊長エレノア・バーロット大尉です」

 

向こうから聞こえた声はやはり予想した通りのダミ声が。

 

「……よお」

「よお、ではありませんクロウ中佐、ちゃんと所属と名前を言ってください規則ですよ」

「クックック相変わらず真面目だなぁお前さんは、俺さんとお前さんの仲じゃねえか秘密の共有という名のな」

 

……秘密の共有。

確かにその通りだ。中佐と私は共有している。

彼の情報を。

 

「どうだったよ?面白い男だったろ」

「あれを面白いと言える貴方の感性が分かりません。ですが事前に知っていなければきっと私は彼を信じられなかった事でしょうね」

「だと思ったぜ先に教えておいて正解だったな」

「そうですね彼が……ラインハルト・フォン・レギンレイブだと知っていなければ理解できない事ばかりでしたから」

 

なんとエレノアはラインハルトの正体を知っていた。

その上で隠したのだ。

狙いはやはり彼の本心を知る為だ。

彼はこちらに味方しているフリをしているが、その裏ではガリアを裏切るつもりではないか。そう思ったのだ。

少なくともガリア情報部はそれを前提に動いている。

 

「監視態勢は万全ですか?」

「心配しなくとも常に監視を立てている。流石に放置する訳にはいかないからな。これは姫様も知らねえ、知ってるのは情報部の極少数とお前さんだけだ」

「それで信用するのですかクロウ中佐は彼を」

「今のところはな、だが怪しい真似をすれば即座に拘束する、それが絶対条件だ、じゃなきゃ軍事顧問なんかにさせねぇ」

「分かりましたそこはクロウ中佐を全面的に信用します」

「俺さんも奴には頭を飛び越えられた前科がある、あんな事は二度とごめんだが難しいだろうな……」

 

疲れたようなため息を漏らすクロウ中佐。

彼にしては珍しい弱音に。

 

「貴方がそこまで疲弊するとはそこまでの相手ですか」

「別格だな皇子も大概だが周りにいる連中もやばいな特に皇子を護衛する影の存在だ俺たちが翻弄されるだけだった。結局全ての筋書きは奴らの思惑通りだ恐らく姫様との接触まで含めてな」

「っそれは確かに危険ですね」

「その危険物もろとも劇物を飲み込もうってんだから俺達は正気じゃねえのかもな」

「そうですね、ですが正気では戦争に勝てないのも現実です飲み込むしかないでしょう彼諸共に」

 

毒を喰らわば皿まで。

その覚悟がないのならば最初から彼を軍事顧問の役職に据えない。

 

「その通りだ俺たちに残された選択肢は少ない、何としても帝国軍に勝つ為に彼の力は有用だ。20万もの連邦軍を殲滅した彼の戦略が」

「……何とも皮肉な話ですね。本来であれば敵のはずの彼を私達は選んだのですから」

「仕方ないさ味方のはずのアイツが一番役に立ってない。それどころか俺達の足を引っ張ってるんだからな。困ったもんだぜダモン将軍には」

 

それが私達の、いや軍全体の悩みの種である。

ゲオルグ・ダモン。それがこの国の司令官だ。

この男はっきり言って無能である。この男は戦争が始まって僅か一週間の内にギルランダイオ要塞と三万もの将兵を失っている。

要塞を失ってしまったことはまだいいだろう。

問題はそこで三万の兵士を失ったことだ。只の兵士ではない彼らその多くは熟練兵だった。数年あるいは何十年と訓練と実戦を経験していた彼らは替えがきかない。あまりにも痛すぎる損失だ。

彼らこそ反攻の要となるはずだった。それなのにダモン将軍は要塞を守ることに固執し大勢の兵士を撤退させなかった。

軍人としてありえない判断だ。

 

戦争で最も厄介な事は有能な敵を相手にしている時ではない、無能な味方を抱えている時だ。

だからこそ私達は選んだのだ。有能な敵と無能な味方をすげ替える事に。

ラインハルトを実質的な司令官にする。

それが情報部の選んだ選択。水面下で情報部とラインハルトは手を結んだ。それがジークハルトという名前と軍事顧問官の役職だった。

 

「皇子との利害は一致している。利用できるモノは全て使って俺達の祖国を守り抜く。その為なら帝国の皇子だろうが利用してやるさ」

「分かりました。私も彼と話をして気が変わりました。まだ希望があると思わせてくれるものでした。彼の才覚は本物なのでしょう」

「お前さんがそこまで言うとはファウゼン奪還作戦の話か?」

「それもありましたが違います。彼にはもう見えている」

 

エレノアの頭を痛ませたのがそれだ。

情報を整理して現実的と判断した。……これならば勝てるかもしれない、そう思った。

 

「要塞線を突破して帝国軍に急襲する方法を」

「まさか……!」

「はい上手くいけばガリア軍は勝てます」

 

 

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

 

退室したジークハルトが廊下を歩いている。

……何とか上手く切り抜けられたな。

ほっとする。

こちらの手札は全て晒した後はエレノア大尉次第だ。収穫もあった。今回の話で分かった事がある。

 

……やはり彼女と情報部には裏の繋がりがあるようだな。

 

先程の彼女の言葉で確信した。

あっさり認めるとは思わなかったがネームレスを召集したのが彼女なら情報部と関わりがあってもおかしくない。

問題ない。むしろ好都合だ。

 

俺に利用価値があると思ってくれたなら十分だ。

 

なんせこちらは利用される気満々だからな。

とにかく俺の計画が前に進むなら何でもいい。

結局ゴールは同じなんだ近いか遠いかの違いでしかない。

だからこそあまり彼らを怒らせたくはないのだが。

それは少し難しいかもしれない。

 

「……」

 

ふと辺りを見渡すと誰もいない事を確認して適当な部屋を選んで入る。部屋に入ったジークハルトは軽く視線を巡らせる。機械の類いは置かれていない。ここなら監視の目も入っていないだろう。

 

おもむろに懐から無線機を取り出すとスイッチを入れる。

 

「こちらジーク準備が整いました。そちらはどうですか姫様」

「……あ、じ、ジーク?良かった……。はい、こちらの準備も終えました、いつでも出られます」

 

ほっとした声音のコーデリア姫の声が聞こえる。

黙って俺が出て行くと思ったのだろう。

俺としてはそれが一番安心なんだが。最後に確認する。

 

「姫様本当によろしいんですね?向こうは敵地です何が起こるか分かりません、ここに残っていたほうが安全です」

「……はい、危険は承知の上での判断です。私も同行させてください、きっとそれがガリアの為になると信じています」

「……分かりましたそれが姫様の意思なら俺は従います」

「ごめんなさいジーク私のわがままで迷惑をかけてしまって」

 

申し訳なさそうにする姫様にジークはそんな事はないと言う。

迷惑ではない。むしろ交渉の成功確率を上げる意味ではこれ以上ない存在だろう。だからこそ俺も最終的に承諾したのだから。

 

「貴女の勇気に感謝します、ではこれより計画通り姫様を城より連れ出します合流地点で待っていてください」

「分かりました待っています」

 

それを最後に無線を切る。

ジークは黙って部屋の扉を見る。

ここから出ればまた監視の目が入る。情報部に気づかれずに姫様を城から出すのは困難を極めるだろう。よしんば連れ出したとしても彼女を守り抜く武力が必要になる。

これら二つの条件を同時に完了させる為には。

やはり必要だな。

無線機に再度、電源を入れる。チャネリングを合わせて。

 

「直ぐに用意して欲しい物がある。ヴァジュラ一機と整備班を……俺用の新型?いや旧式で良いアレはまだ調整中だろう。届け先は城がいい、30分後に取りに行く」

 

それだけ言うと直ぐに切る。傍聴対策だ。ここから先は時間との勝負になる。情報部よりも早く動く必要があるだろう。気づかれる前に首都を出る。

 

「……さあ姫様を攫いに行こう」

 

不穏な言葉と共にジークは扉を開けた。

 

 

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