あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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五十話

 

「ふぅ……準備できたかお前ら!」

「はい!」

 

演習場にジークの声が響き渡る。

整列した兵士達の声が続く。全員が良い目をしていた。兵士の顔つきだ。もうどこにも学生だった彼らはいない。ここにいるのは紛う事なき兵士達だ。

 

先の演習の甲斐があった。

あの戦いが彼らのレベルを上げたのだろう。

それら一人一人の顔を見てジークは頷いた。

 

「よしこれよりファウゼンに向かう、がその前に城に向かう」

「城にでありますか?」

 

なぜと顔に書いてある。兵士の顔が僅かに崩れる。

まだまだ甘いな。

 

「喜べお前ら姫様が直々にお言葉を賜ってくれるそうだ」

「ひ、姫様が?」

 

途端に全員の顔が喜色ばむ。彼らにとって名誉な事だからな嬉しいに違いない。ただ1人イムカだけが俺をジト目で見ている。明らかに怪しがっていた。サングラスを深く掛け直す。

 

「それでは各員乗り込めジークハルト小隊出動する!」

 

これが初めての命令だ。

意気揚々とジークハルト小隊は軍用トラックと装甲車に乗り込むとアマトリアンを後にする。

 

 

向かう先は目と鼻の先だ。ランドグリーズ城には直ぐに着いた。目的地である城の裏口に回り込む。

さて目的の人物はどこかな。辺りを探していると先に来ていたコンテナ車から人が降りてきた。

(ラインハルト)の部下の整備員だ。

 

ジークは片手を上げてさりげなく挨拶をする。

 

「よ、ご苦労。待ってきてくれたか?」

「はい閣下、仰せの通りに」

「じゃあそれを直ぐに……」

 

ゴニョゴニョと耳打ち。

驚いた様子の整備員。思わず見返すのをジークは頷いて見せる。

 

「俺の指示と言ったら大丈夫だ」

「わ、分かりました」

 

指示に従って動く。

車を回して裏口から城に入って行くのを見た俺は部隊を車から降ろし待機状態にする。

それから十分程だろうか、あるいはもっと時間が流れる。そろそろ兵士の我慢が限界を迎えそうな頃にコンテナ車が戻ってきた。

 

程なくして件の人物が現れる。フードを目深に被った状態で顔は見えない。だが近侍を従わせている。

ジークが破顔する。やけに大きな声で。

 

「コーデリア姫!わざわざお見送り頂きありがとうございます!」

 

この方がコーデリア姫!

小隊の面々が背筋をピシャリとする。何やらイムカが首を傾げている。不思議そうにフード姿の姫様を見ていた。それを知ってか知らずかジークは恭しく膝をつく。

コーデリアが一歩前に出る。

そして……やけに長い無言が流れる。

おもむろにジークが懐に手をやり小声で。

 

「姫様……大丈夫ですか?」

「………えっと、はい大丈夫ですお待たせしてすみません。それと皆様お集まり頂き感謝申し上げます」

 

フードの中から声が聞こえてきた。

確かにそれはコーデリアの声だった。

 

「これから戦地に赴く皆様に一言声をかけたいとジークに迷惑をかけてしまいました」

「迷惑などとんでもない姫様から声をかけていただくなど臣下として無類の喜び部下達も喜んでおります」

「まあ、そうなのですか?」

「勿論ですとも、そうだなお前達?」

「はい!これ以上ない士気高揚になりました!必ずやファウゼンを奪還して見せますコーデリア姫殿下!」

「頼もしい流石はジークの部隊の方々、期待していますよ、貴方方にヴァルキュリアの……いえ、ランドグリーズ家の加護がありますように」

 

その言葉に思わず感涙を見せる者もいた。これから戦地に赴く不安に揺れていた彼らにとってその言葉はなにより心を奮い立たせるものだったからだ。

この方のために戦う。それが実感となって伴う。レオンにもジンとくるものがあった。

 

「お任せください!必ずや帝国軍からガリアを取り戻して見せます!」

 

レオンを始め全員が敬礼する。

それを見たコーデリアがあたふたとし始めたのを見てジークがすかさず去り際の言葉を告げる。これ以上は危ないと判断した。

 

「それでは姫様行ってまいります吉報をお待ちください」

 

そう言って踵を返す。

これで終わりだ。あまり話せなかったと名残惜しげにする小隊の背を押して車に乗ると直ぐに車を走らせた。まるでここから早く遠ざかりたいと言わんばかりの行動の速さだ。余韻に浸る間もない。

その後ろをコンテナ車が付いてくることに不満を漏らす彼らは気付かなかった。

 

それから特に何の障りもなく順調に市内を進んだ。途中、コンテナ車の中を衛兵に見られたが何も問題なく通された。正門を抜けて30分程走っただろうか。畑が見えるなだらかなあぜ道に来たところで車が止まる。

 

「なんだ?」

 

どうしたんだ?

こんな何もない所で止まって。何かトラブルだろうか。そう思っていると車を降りたジークがコンテナ車に向かうのが見えた。

そこでようやくあの妙な車が付いてきている事に気づいた。

あの車の事は何も聞いていない。

レオンもイムカも不思議そうに見ている。イムカは何か嫌な予感を覚えていた。

 

……また何かよからぬ事を企んでいるんじゃないか?

 

残念ながらその予感は的中する。

ジークハルト小隊の全員が見ている中でコンテナが開き中から現れたのは大柄な鎧だった。ざわめきが起こる。イムカが着ていた物に酷似していたからだ。

 

だがイムカはここにいる。

ではあの中にいるのは誰だ。

誰もが疑問に思っているとジークの指示で整備班が作業を始める。効率の良い一糸乱れぬ手際でボルトが外されていく。

そして兜部分が露わになった。

 

「……は?」

 

その瞬間、全員がポカンとなった。

そこから現れた顔は紛う事なくコーデリア姫のものだったからだ。理解できない状況に思考が放棄された。

そんな中でジークとコーデリアだけが笑い合う。示し合わせたように。

 

「いやーうまくいきましたね姫様」

「失敗するんじゃないかとドキドキしちゃいました良かったです」

「苦しかったでしょう、すみません、そんなむさい機械の中に入れてしまい。幾ら万全をきす為といっても度が過ぎた真似でした」

「大丈夫ですよ最初はびっくりしたけど着てみれば意外と快適でしたし動きやすい事にびっくりしてしまったぐらいですから」

「それは良かった」

 

とそこで忘我の彼方から帰ってきたジークハルト小隊の面々。レオンが代表して。

 

「隊長これはいったいどういう事ですか?」

 

説明を求める。こんな話は聞いていない。そう言うとジークは頬をぽりぽりと掻きながら。

 

「まあ言ってないからな、言ってたらお前ら反対するだろうし」

 

まったく悪気なさそうにそう言った。何か言ってやりたい気分になるがコーデリア姫の手前、辛うじて飲み込んだ。代わりに恐る恐る確認する。

 

「で、では俺たちの本当の任務は……?」

「ああ、護送任務だ姫様の」

 

あっけらかんとそう言うのだ。畑ばかりの平野に絶叫がこだました。

 

 

 

 

 

 

✴︎✴︎✴︎

 

ダルクス人強制収容所。

 

入った瞬間すえた臭いが広がる。

 

「うっ……何度来てもここの臭いはたまらんな」

 

密集した人間から出る悪臭がグレゴールの鼻を曲げた。ここは収容所だ。ガリア中から捕らえたダルクス人を集め働かせている。働かせているといっても給料は出ない。無給で働くのだ。1日に二度与えられる僅かな配給の為に。

 

だからかここにいるダルクス人はすこぶる体調が悪い。今日も目を覚まさなかった人間が何人もいる。さしずめ死臭も混じっているのだろう。そこに一人の老人が近づいて来る。腹を空かせた様子で。

 

「……何か食べ物を……水でも……お願いします」

「ええい近寄るな!ダルクスどもめが……汚らわしい」

 

平手打ちされた老人がどっと地面に倒れ込む。

汚れた動物めが。まるで餌を乞う家畜だな。

何を誤解したか知らんがそんな事の為に来たのではない。

 

「お前達の担当する地区の採掘量がノルマを超えていない、そんなに腹が減ったなら働いて帝国に報いるがいい」

「あ……あぁ」

 

こんな簡単な事も出来ぬとはダルクス人はよほど堕落した存在なのだろう。やはり帝国人に使われてこそだな。

 

「この収容所を取りまとめている奴はどこにいる?」

「……呼んだかい?」

 

若いダルクス人が前に出る。

収容所の連中の中でもがっしりとした体躯だ悪くない。体調も良さそうだ。これならきっと良く働くだろう。ザカというらしいこの男にグレゴールは問う。

 

「この収容所のD地区担当の労働者が、労働命令に逆らっているようだ。どういうことか理由を聞かせてもらおうか?」

「……彼は逆らっているわけじゃない。ここ数日、体調不良で倒れているんだ。他の収容所でもD地区で働く者たちが体調を崩したり、中には昏倒した者もいる。あそこではラグナイト精製を行っているが、有害物質の廃棄処理に欠陥があるんじゃないか?」

 

的確に問題点を指摘する。間違った点はない。確かに昨日そのような報告を聞いている。だが、

 

「フン……そんな事は関係ない。貴様らは口を閉ざし、命令に従えばいいのだ」

 

聞く耳をもたず。それがどうしたという態度だった。だがザカもそこで諦めない。

 

「……だがな考えてもみなって。彼らに無理をさせて動けなくなってしまったらそれこそお前さん達が困るんじゃないか?必要だろ沢山の物資が」

「……」

 

確かにその通りだ。

戦況を鑑みればこれからどんどん物資を中央に送る必要がある。皇帝陛下の為にこんなところで手間取る訳にはいかない。自らのプライドと陛下に対する忠誠を天秤に掛ければどちらが重要かは考えるまでもない。

 

「回復したら連絡する、それまであいつを休ませてやってくれないか?」

「……フン、いいだろう。回復次第、直ぐに現場に向かわせろ。その代わりノルマは倍にする。……それといいか、お前たちムシケラの代わりなどいくらでもいる事を忘れるな」

 

そう冷酷に告げるとグレゴールは収容所を後にした。これ以上は悪臭に耐えられない。そう言わんばかりの態度だった。

残されたダルクス人は何も言う事ができない。ただ項垂れるだけだ。ここはダルクス人収容所、彼らにとっての地獄である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回奪還作戦開始
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