あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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五十二話

 

巨大な工場が燃え盛る。

その直前まで稼働していた事を知っている俺たちは呆然とそれを見ている他なかった。中でもザカの反応は凄まじいものだった。半狂乱になって工場に向かおうとするのを仲間達が止める。

 

「何で攻撃した!?なぜだ!」

「落ち着くんだザカ」

「落ち着け?仲間が死んだんだぞ!あいつらが何をした!何であいつらが攻撃されなきゃならねえ!」

「それは……」

「焦土作戦だ、奴らは早々にこの街を捨てる気だ」

 

言い淀むウェルキンの代わりに説明する。

動揺していない俺が適任だろう。

 

説明はいま言ったように焦土作戦だ。

敵はもうファウゼンを守る気はないようだ。この街から撤退する前にあの列車砲で全て破壊するつもりだ。文字通りこの街の全てを。

この思い切りの良さ、流石は名将と名高いグレゴール将軍の差配だ。

冷徹なまでに無駄がない。

 

恐らく俺が敵の立場だったら同じ事を考えたはずだ。

だが、これを短いタイムラグでやるのは出来ない。まず避難勧告をする。グレゴール将軍はそれがない。労働者ごと葬る合理的判断。血を感じさせないアイスマン。

ラインハルトですら鼻白む程だ。

 

「ウェルキンこのままではファウゼンは火の海だ、一刻も早く列車砲を破壊しなければならない」

「そうだね、皆んな作戦通り頼む。……いけるかいザカ?」

「……ああ、すまねえ隊長。うろたえちまった、大丈夫だ1秒でも早くあの列車砲を落とさねえと!」

 

問題はなさそうだな。目に怒りを燃やすザカを見て頷く。

俺もここからは本気で行かなければならない。

ザカの言った通り1秒でも早くこの街を解放しなければならないからだ。

 

「ヴァジュラの用意を俺も出撃するぞ」

 

 

 

 

ーー10分後。

 

俺の体はヴァジュラの中にあった。

着るのは初めてではないが実戦という意味では初めてだ。正直使う予定は無かったのだがな。

着心地は悪くない。

着ぐるみの中に居る感覚だろうか。

材質は柔らかい布などではなく鋼鉄製だが。

そう考えていると全ての最終点検が終わる。

 

「オールチェック、オールグリーン、

いつでも行けます殿下」

「では行くぞ」

 

言うやいなや走り出す。

瞬く間に俺の体はウェルキン達を後方に追い抜いて前線に到達する。いきなり現れた俺に対して帝国軍は面食らっている。それはそうだ6尺もある金剛槍を手にしたヴァジュラを初めて見るのだ。悪鬼羅刹を目にした気分だろう。だがそれが間違いでない事に彼らは直ぐに気づく事になる。

 

「な、何だあれは!?」

「狼狽えるな!あんなものガリアの虚仮威しに違いない!我らは閣下の御命令通り列車砲が工場群を破壊するまで此処を死守すればよいのだ!」

 

そうはさせない。悪いがお前たちを本気で斬る。

後の作戦の為にもこの工場を破壊させる訳にはいかないんでな。

その思いで俺は地面を蹴った。直後にバゴンっと地面が爆ぜる。

地面を蹴り上げた音とは思えない程の爆発力で飛ぶように一息で彼らの眼前に迫る。

 

ーーアッと彼らの誰かが呼気を漏らした。

その瞬間、男の胴が宙を舞った。裂けた肉袋から血がバシャッと溢れ落ち地面を濡らした。ラインハルトはただ腕を振るっただけ。それだけで兵士の身の丈はあろうかという長大な槍は風切り音を放ち鞭の様にしなった。合金製の槍だ目の錯覚だろう、それでも目にも止まらぬ速さでそう錯覚したのだ。

 

つまりそれ即ち避ける事の出来ぬ必殺の槍である。

 

 

「ぎゃあああ!!?」

 

悲鳴。連鎖する悲鳴。血煙がそれを隠す。

また悲鳴。こだまする。一閃がそれを途切れさせる。

一方的な蹂躙だった。

半ば機械的に動作を繰り返す。

あっという間に敵前線は血の海になった。

 

「ひいっ!!」

「こんなの勝てるわけない、何だこいつは……!?」

 

化け物を見る目で俺に恐怖している帝国兵。

それを見て俺は退け、早く退けと心の中で繰り返す。

俺が望むのは殺戮劇ではなく敵の撤退。こんな所で無駄死にするな。そう思いながらも鬼となる。

次の獲物に照準を変える。

この場にヴァジュラを装備したラインハルトの敵は居ない。

 

「次だ……む?」

 

その時だ。ゾクリと肌が粟立つ。

……何だ?

センサーが反応する。それは死の気配だった。

衝撃はその直後、蒼い弾丸と共にやって来た。

 

「グゥッ!?」

 

ラインハルトの意識が後方に吹き飛ぶ。何が起きた。

答えは簡単だ。ヘッドショットを受けたのだ。

ヘルムによって保護されていなければ確実に致命傷を負っていた。かなりの衝撃を受ける。今のはどこから来た?直前まで捉えられなかった。

普通の弾丸ではない。

視界の端で捉えたあの蒼い光は。

 

「ラグナイトの光か……?」

 

……まさか。

だが確かにあれはラグナイトの発光現象だった。

ラグナイトを用いた弾丸による狙撃。恐らくそれが攻撃の正体。ラグナイトを武器に使う者の正体は一つしかいない。ヴァルキュリアだ。

 

この戦場に帝国特務部隊(ヴァルキュリア)が居る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当におじさんが言った通り現れたわね、報告にあった例の敵が」

 

鉄橋の上に陣取る列車砲、その上に一人の少女が座り、狙撃態勢をとっていた。使っているのは今時珍しいマスケット銃。ラグナイト製の弾丸を手に取る。その顔には驚きがある。

 

「今ので死なないんだ……?

次はもっとエグい角度から撃たないとダメかしら」

 

頭を取ったと思ったのだけど、思いの外、硬い。

少女は弾丸に力を込める。

特別製の弾だ無駄には出来ない。だから。

 

「次の一弾で終わらせる」

 

装填して銃口を構える。その距離、ゆうに400メートルを超える。エースですら100メートルを超えると命中率が劇的に下がる。だがこの少女はその4倍、それも外す事を微塵も考えず、無造作に引き金を引いた。

 

放たれる弾丸は一直線にラインハルトの元に向かう。その直後にラインハルトは跳躍した。類稀なセンスによる予測行動だ。回避するかに思えた。

だがーー

 

蒼い弾丸は意志を持っているかのように軌道を変えて見せた。そして回避行動を取ったラインハルトに直撃する。不可避の弾丸である。しかもその威力は凄まじく。対戦車ライフルに匹敵した。

ヴァジュラの鎧が破損する。

 

「あはは、驚いてる驚いてる。……ふふ、このガンマジイルの魔弾からは逃げられないよ」

 

狩人は的を決して外さないのだ。

それにしてもしぶといな。まだ全壊していない。今ので終わらせるつもりだったんだけど。まだ動ける様子だ。それでもさっきよりは動きが鈍い。

正真正銘次が最後だ。

 

「本当は生け取りにしたかったんだけど、私の役目はここで敵を狙い撃つ事だから」

 

魔弾の射手、ガンマジイル。彼女の役目は列車砲に近づく敵を狙い撃つ事。

それが私にできる全て。仕事は完璧に果たす。

弾丸を装填し引き金を引く。

 

マスケット銃より放たれる蒼い弾丸が断崖の空を割き、一直線によろめくラインハルトの元に向かい、被弾する直前で弾かれた。

横合いから現れた蒼い兵士によって。

 

「な!?」

 

今度はガンマが驚く番だ。

不可避の一弾を防がれた。

報告では一機だと聞いていたが、もう一機居たのだ。油断した。確認を怠った私の落ち度だ。恐らくアレが本命。

 

「なめるな!」

 

自らに喝を入れ次々と弾丸を装填しては引き金を引いた。目にも止まらぬ早業だ。まるで折り重なる流星のように弾丸が放たれる。たが彼女、イムカを止めるには至らない。ヴァールで悉く切り払う。何で徹甲弾に匹敵する私の弾丸が止められるのよ。

 

「だったらこれならどう!?」

 

立て続けに3発撃つ。今度は単調な軌道ではない、その全てが異なる軌道を描く三対眼の蛇弾(ヒュドラショット)だ。例え一撃目を防ぎ二撃目をかわしたとしても三擊目は死角になる。どんな反射神経に優れた者でもこれで沈めてきた私の必殺技だ。

その絶対の自信通り一弾目は防がれ、二弾目もかろうじて避けられたが三弾目はイムカの死角をついていた。

これで終わりだ。

 

絶対の自信は次の瞬間、ラインハルトによって打ち砕かれた。イムカの死角を消すように飛び込んだかと思うと金剛槍を振るい弾いて見せたのだ。まさか防がれるとは思っていなかったガンマは唖然とする。

 

まさかと思った。報告を聞いた時もここまでの敵だとは思わなかった。

アーちゃん達の言葉を真剣に聞いとくんだったわ。

完全に射撃ポイントがバレている。そうでなくてはこうも完璧に防がれない。敵は既に動いている。

崖下のルートを進んでいるのが見える。じきに橋の下まで来るだろう。

 

「まずったわね」

 

いや、最初の一弾で仕留められなかった時点でこうなるのは必然だったのだ。このままでは前線は突破される。私だけでは力不足だ。

止められない。あの二人を。

 

「ーーサポートが必要かね?」

 

唐突に無線機から初老の男性の声が。

これはグレゴール将軍の声だ。まさか司令官自ら声がかかるとは思わなかった。状況を報告すると、ふむ……と思案するグレゴール将軍の声。

時をかけずして列車砲の砲門が回頭する。

 

「これより支援榴弾を行う、列車砲をもって敵前線を集中砲火せよ」

 

その命令(オーダー)直後、砲撃が前線にいるラインハルト達に降り注いだ。圧巻の光景にガンマですら目を丸くする。

 

「小娘よ、その力が偽りでなくば示すがよい」

 

つまり共に敵を撃とうと言うのだろう。分かりにくいがガンマはそう判断した。すぐさま狙いをガリア兵に向ける。あの敵は列車砲に任せる。

魔弾の射手はガリア兵の狙撃に専念する。

 

列車砲と魔弾による猛攻がガリア軍に降り注ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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