あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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五十三話

 

「ケホ……ケホ」

「大丈夫かイムカ?」

 

列車砲の一撃によって巻き上げられた土煙の中からラインハルトとイムカが現れる。二人とも軽傷のようだ。僅かに砂が入ったのか咳き込んでいる。

 

ラインハルトは忌々しげに鉄橋を見上げた。

……やってくれる。

列車砲の直撃は免れたが爆風をもろに受けてしまった。ヴァジュラがなければ死んでいただろう。

 

状況を確認する。

どうやら現在は列車砲と連携してあの魔弾とでも言うべき一撃を放つ射手はガリア軍に向けて弾雨を降らせているようだ。あれでは被害が増えるばかりで前に進めない。

 

あまり戦況が良くないと言うのは楽観的だろうか。かなり最悪の部類だろう。では退くか。

いやダメだ。それでは意味がない。

それは敗北と同義だ。

ではどうする。無論攻める。

列車砲を落とさない限りファウゼンに明日はない。

ウェルキン達の安否も気になる。

爆破チームは作戦続行できるのか?それも確認しなければならない。

短い時間で思考する。

 

「よし作戦はこうだ、まず二手に分かれる。俺はザカ達を援護しに向かう」

「了解、私は何を?」

「イムカはあの厄介な狙撃手を頼む接近して撃破してくれ」

 

言って指差すのは列車砲の上に居座る厄介な敵。

奴の攻撃を受けて理解した、あの魔弾は軌道を変える。どこにいてもあの魔弾から逃げ隠れる事は出来ない。

橋の下で爆破工作するザカ達を全滅させることなんて容易い事だろう。

だからあの狙撃手を先に倒さなければならない。

 

無理難題だがイムカならやってくれる。自信がある。

なにもイムカの力だけでそれをやれとは言わない。

イムカが装着しているヴァルキリーには幾つかギミックがある。それを使うのだ。簡潔に言う。

 

「ワイヤーを使って登る」

 

俺の言わんとしている事が伝わったのだろう。

彼女は肩をすくめる。

 

「相変わらず無茶を言う。……でも分かった」

 

やろう、そう言って手早く装備の点検を始める。本当に彼女がいてくれて良かった。心からそう思う。

この戦いが終わったらたくさん褒美を与えないとな。

まずはこの戦場を生き延びてからだが。

それでは……

 

「作戦開始!」

 

その言葉を合図に二人は別方向に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは最悪の戦場だと思う。

飛び交う銃弾と列車砲の中で生き残ろうとする俺はさながら嵐に耐える雑草だ。吹けば飛ぶような状況で、それでも俺は一歩ずつ前に前進する。

こんな最悪の戦場で何で俺は戦っているんだ。場違いだ。

それでも俺は恐怖に震える足を叩いて直す。

許せないと思ったからだ。

 

倒さなければならない悪がある事を思い知った。

 

「俺の街を焼かせやしねえぞ……!」

 

その一心で、体を奮い立たせた。その甲斐あってザカの工作班は目標地点が目に見えるところまで来ていた。

だがこれ以上は無理だ。この先に進むには蒼い弾丸を越えなければならない。先行しようとしたガリア兵が次々と魔弾に倒れた。その死体が無数に転がっている。

 

キルゾーンだ。

誰の目から見ても明らかだった。この先に進めば殺す、そんな意志が見える程だ。それでも歯を食いしばって進むしかない。建物の影から身を乗り出す。

 

「無理だザカ!進めっこねえ!」

「それでも行くんだよ!」

 

爆弾を抱えて走る。自暴自棄、自殺行為だったと後になって思う。アドレナリン全開だったんだ。仕方ないだろ?

そんな自殺志願者の特攻野郎は半分もいかない辺りで敵に狙われた。そりゃそうだ敵からしたら的が向こうから来てくれたようなもんだ。射的(ゲーム)としてはえらく簡単な標的だったろうさ。

 

鉄橋からチカリと光が瞬いた。そう思った次の瞬間には蒼い弾丸が一直線に向かってくるのが分かった。走馬灯のようにゆっくりと感じた。勿論、体は少しも動かない。思わず目を閉じる。

 

「うっ……!」

 

痛みはなかった。

ーーもう死んじまったのか俺は?

それにしては意識がはっきりしてやがる。

恐る恐る目を開けると。そこには、

 

「……無事か?」

 

それは無機質な機械の鎧にしては暖かな声で。

ザカを身を挺して庇うジークの姿があった。

 

「あ……ああ、おかげさまでな」

 

なんとかそれだけ搾り出す。

驚きで声がなかった。死の恐怖からではない。命を拾った喜びでもない。ただ目の前の『鋼』の壯連な姿に声が出なかったのだ。

 

ーーおいおいなんてこった。なんて美しい兵器なんだ。

初めて見るヴァジュラに息を呑む。

こんな物がこの世にあるのか。

直ぐにそれがラジエーターで動く戦車と同じ仕組みだと分かる。だがそれをどうやってこの()に落とし込んだのか理解できない。

まさしく天才の所業だ。ここが戦場である事も忘れてこれを作った人間を褒め称える。

 

「援護する走れ!」

「っ……!」

 

その声に釣られて俺たちは無我夢中で走り出した。

何も考えられなかった。必死だったから過程はほとんど覚えちゃいない。その間も彼が俺たちを守ってくれていた事だけは分かる。銃弾が弾かれる音が何度も連続する。その音を耳にしながら俺たちは走り抜け。

 

何とか茫々の体で目的地に到着した。

 

「爆発物設置!急げ!」

 

休憩する暇なんてない。急いで持ち込んだ爆弾の取り付けを行う。その間にも蒼い弾頭はビュンビュン飛んできていた。それら全てを弾いてくれているジークだったが次第に被弾の数が増えていった。

 

「ハアッ!デヤッ!……っガハッ!?」

 

背後からの一撃をもろに受けてしまう。たまらずたたらを踏む。ヴァジュラを持ってしても限界が近い事を悟る。厄介な敵だ。はあはあと息を荒げる。無数に降りかかる銃弾をその身に受けたのだ。満身創痍と言って良いだろう。

それでもまだだ。耐えろ。

 

金剛槍を振るい迫る銃弾を叩き落とす。敵も本気だ。そのどれもが致命的な軌道で俺たちを殺しにかかる。一つも取りこぼすな。

 

「ウオオオオオオ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああもう!本当に厄介な敵ね!」

 

本当ならもうとっくに敵を全滅させているはずだ。

だというのにあの敵が盾になって邪魔をするものだから、今だに一人も殺せていない。橋の下で敵が何かをしているのには気づいている。

あいつらを止めないとやばい。

分かっているのに。

 

ただ一人の敵を殺しきれない。

これは何の冗談だ?

 

「いい加減に倒れなさいよ!」

 

あの敵に何発撃ち込んだ。10ではきかない。20発以上の弾丸を撃ち込んだはずだ。それでも敵は倒れない。不気味な程の耐久性だ。ソルバレッドの弾数を確認する。そう多くはない。

 

「……こうなったら最大出力を込めるしかない」

 

軌道を変えられなくる代わりに強力無比な一撃を出す事が出来る、一つ目の鬼弾(サイクロプスショット)がある。これならば戦車だろうと一撃で粉砕して見せる。

 

……でもあまり好きじゃないのよね。

代償があった。まず確実に銃が壊れる。

愛用するマスケット銃を犠牲にするのは気が乗らない。

だがそうも言ってられない。

 

憂鬱ながらも最大オーラを弾丸に込める。これで私の意思は弾丸に乗る。装甲列車から降りて射撃ポイントを探す。

正にその時だった。

視界の端に何かが勢いよく飛び込んで来る。それは空高く舞い上がり線路に着地する。

 

「……え?」

 

信じられない。そう言わんばかりにガンマジイルは目を見開いた。

飛び込んで来た者の正体はイムカだった。彼女が橋の下からワイヤーを引っ掛けて飛び上がって来たのだ。高度数百メートルもあるこの橋の上に。

 

ーー橋の支柱を登って来た?ありえない。

驚天動地とはこの事だ。あんな重そうな鎧を身につけてこの高さを登れるはずがない。

だがそれこそがヴァルキリーの特性だった。ヴァジュラの半分まで装甲を削り軽量化を図り、どんな状況でも対応できる汎用性を目指した。

腕部に仕込んだワイヤーフックを使う事で立体的な動きが可能である。その事を知り得ないガンマジイルからすれば幽霊でも見た気分だろう。

だが事実としてイムカは目の前にいる。

 

ラインハルトを囮として遂に、イムカは彼女の前に辿り着いた。

鉄橋の上で二人は睨み合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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