あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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五十四話

 

対峙する二人はお互い何も発言しない。

まるで時が止まったように微動だにしない。

しかし確かに二人の間には気流が渦巻いている。殺意という名のプレッシャーがせめぎ合う。

じりじりと秒数が刻み。

 

ーードン!

 

列車砲が火を吹いた瞬間、イムカは地を蹴った。まったく同時にガンマも後方に飛び退いた。一秒前にあった空間がヴァールで切り裂かれる。それを見たガンマは冷や汗を流す。運動性能はあちらが上。正攻法では勝てない。

直ぐに彼我の実力差を悟る。

 

ーーだったら。

装甲列車の屋根に飛び乗ると走り出す。走りながら後ろに向けて撃ちまくる。狙いはつけない。余裕がないのもあるが直ぐ後ろを追いかけてくるイムカなら見ずとも当てられる。四方八方から迫り来る弾丸をイムカはヴァールの機銃掃射で撃ち落とした。

 

「……っ!」

 

慌てて地面に転がる。頭上を機銃がかすめる。

危ない。蜂の巣にされるところだ。

勢いよく列車の屋根を転がりながらも弾込めをして敵の心臓を狙い撃つ。

鮮やかな動きだ。普通の敵ならこれで死ぬ。

だがイムカはあっさりと半身で避ける。

 

外した事を理解した瞬間、ガンマは素早く後転して敵の次の動作に対処する。さっきまでいた場所をヴァールが通り過ぎる。その際ギュインギュインとヴァールの刃で火花が散る。咄嗟に間合いを取る。

 

「あぐぅっ!?」

 

着地した足に火傷を受けた痛みが走る。かわしきれなかったことを流血する足の傷口を見て悟る。深くはない。だがそれが致命的な傷である事を理解する。目の前の怪物を相手にこの手傷では逃げられない。

 

こうなったら最後の賭けだ。

すなわち最大出力の攻撃をもって一撃で葬るしかない。

覚悟を決める。

 

「ここで刺し違えてでも殺す」

 

それが私に与えられた使命だ。それ程の念を込めて装填した。イムカもそれに気づいたのか安易に近づかない。恐らく次で決着がつくだろう。タイミングを図る。

 

ーー

 

ーーーー

 

ーーーーー今だ!

 

目にも止まらぬ速さで銃口を向ける。

照準を合わせた瞬間イムカが腕を右に向けワイヤーフックが射出する。勢いよく飛び出したワイヤーが鉄骨に絡まると、引き金を引くよりも早くイムカは屋根を蹴った。

飛んだ!?

ワイヤーを巻き取る力で飛んだように空中を動き回る。狙いが付けられない。

 

だったら軌道を変える弾で立体機動を奪う。

馬鹿め安易に空中に逃げた事を後悔するが良い。

だがイムカの次の行動はガンマの予想を超えていた。ワイヤーを巧みに扱いブランコの要領で勢いをつけたかと思うとその勢いのまま装甲列車の窓をぶち破って中に侵入したのだ。

 

ガンマは困惑する。

これでは射線が通らない。だがそれは向こうも同じはず。ワイヤーは使えない。列車内の帝国兵が狙いだろうか。

そこまで考えてガンマは自らのミスに気づいた。

馬鹿か私は何で敵がこの態勢から攻撃できないと思ったんだ。

 

「しまっ……!」

 

急いでその場を飛び退こうとするがもう遅い。足の怪我のせいで出遅れる事も計算したのかっーー

装甲内部からヴァールの火砲がガンマを襲う。

足元が爆発してガンマの体は盛大に吹き飛んだ。

どしゃっと線路上に落ちた。

 

 

 

 

気づいたら視界に空がある。

……ああ、私負けたんだ。

狙撃手が空を見上げるなんて一つしかない。

体が動かない。身じろぎ一つ出来ない中、敗北を受け入れる。視界の端にイムカが現れる。

 

……何なのよあんた。

悪態を吐こうとしたが出て来たのは血へどだった。内臓がやられたわね。腰から下の感覚もない。死ぬのか私は。

それも仕方がないか任務に失敗したんだから。

それでも、もう少しだけ生きてみたかったかな。

諦めかけたその時、マスケット銃が手に触れる。まだあと1発残っている。これを撃たずには死ねない。

 

……まだ死にたくない。

なんとガンマは瀕死の状態のくせに震える腕で銃を構えて見せた。荒い息を吐きながらイムカを睨みつける。凄まじい精神力だ。()()が吹き飛んでなお足掻く姿にイムカですら瞠目する。

 

その姿にイムカは敬意を表してヴァールを構える。一刀の下に首を刎ねよう。痛みを感じさせないよう一瞬で。それがせめてもの手向だ。ラインハルトに仇なす敵はここで殺す。イムカは無造作に歩み寄った。

 

「……し、ね」

「……っ!」

 

放たれた一撃は死に体の敵とは思えない程の威力だった。セルベリアの放つ光弾にも引けを取らない。

だがイムカには当たらない。否、最初からイムカを狙った攻撃ではない。それは装甲列車の後部車両に向かい。ちょうど武器保管庫のある車列に直撃した。火薬庫が引火して爆発する。

その威力は凄まじく爆風が辺り一面を揺るがした。

たまらずイムカは地面に伏せる。それがタイムロスとなった。

 

……敵はこれを狙ったのか?

爆風に紛れて逃げるつもりか。何という生に対する執念だ。ここまで来て逃すつもりはない。

 

しかしイムカが行動するよりも早く鉄橋の爆破が始まった。がらがらと崩れる橋、崩落する装甲列車。

イムカもそれに巻き込まれる前に崩落が始まると直ぐに走り出していた。湖に向かって跳躍する。

 

 

 

 

 

 

戦いは終わった。作戦は成功した。音を立てて湖に落ちる装甲列車を見てラインハルトは確信する。グレゴール将軍もそこに居たのだろうか。詳細は分からない。だがその可能性は高いだろう。まさか帝国の将軍位の死亡を見届ける事になろうとは。いや俺もその片棒を担いだのだ。見届ける義務がある。

 

考え方は違ったろうが同じ祖国を思う士である事に違いない。

彼には彼の俺には俺のやり方がある。

ついぞ交わることはなかったが。

将軍、後の事は後の者にお任せください。

 

それよりも作戦の成功はイムカのおかげだ。そうだイムカはどこにいる?まさか崩落に巻き込まれていないだろうな。

一抹の不安を感じる。

……まさか。

 

最悪を想定するラインハルトの目にそれが映る。途端に笑みを浮かべる。

そこにはパラシュート降下するイムカの姿があった。

目の前に着地する。

 

「ただい、ま」

「流石はイムカだおかげで俺も命拾いした」

「ボロボロ……無理はしないよう言ったのに」

 

見るも無惨な姿だ。

ラインハルトのヴァジュラは装甲がべこべこにへこんでいた。その事がどれほど危険な事をしていたかを物語っている。後少し遅れていたらと思うとイムカはゾッとする。

 

「ああ、すまない作戦成功の為には必要な事だった」

「……いや悪いのは私、あの狙撃手の命を断ってやれなかった」

 

やはりトドメを刺せなかったのが心残りだ。

あの傷だ生きてるとは思えない。だが可能性はある。

その場合、死んだ方がましという事もある。あそこで殺してやる事が敵にとっても慈悲だった。

次は確実に殺す。

やはりヴァルキュリアは危険だ。

 

……ラインハルトに牙を剥く前に私が殺す。

 

「そう怖い顔をするな」

「顔に出てた?」

「いいや、鉄仮面越しだからな。でも分かるさ俺もお前と同じだからな」

 

ーー連邦に対する復讐者。

ヴァルキュリアに対する復讐者という意味で俺たちは同じだ。その仇と戦った彼女がどんな顔をしているかぐらい分かる。

ラインハルトはゆっくり問いかける。

 

「……なあイムカは帝国のヴァルキュリアを全員残らず殺したいか?」

無論セルベリアを除いて。

「……うん、まだ私の胸と耳にみんなの声が離れない」

それが消えない内はきっと止まらない。

それが彼女の現在地点だ。

「分かった……。俺はお前を否定しない、お前が満足するまで一緒に戦ってやる。でもいつかは……」

 

そこから先は口をつぐむ。

少なくとも今はまだダメだ。

だがいつかは別の道を歩ませてやりたいと思っている。

……いつかは彼女と歩き出すんだ。

とりあえず今はファウゼン奪還作戦の成功をザカ達と共に喜ぼう。

 

 

 

 

 





次回『反撃の兆し』
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