「……と。そう勇ましく言った手前悪いが、ダハウよお前はしばらく帝国ガリア方面軍に属してくれ。理由は言わずとも分かるな?」
「はい。内通ですな?帝国軍の動向を余さず殿下にあるいはガリア情報部あたりに送ればよろしいでしょうか?」
「流石はダハウ話が早いな。そうだ、力で劣る我らは情報で帝国軍の動きを先んじる必要がある。目下の目標は侵攻部隊の撃破となるだろう」
それを俺とダハウでやる。
敵の攻撃の裏を突き罠にかける。さすればいかなる帝国軍といえども撃破は簡単だろう。俺とダハウが協力すれば可能だ。
つまり表と裏で共謀するのだ。我ながら悪どい策だ。
だがこの策の本質はそれだけではない。
真の目論見は別にある。
それこそが、
「ダルクス人部隊の活躍だ。この機会を最大限に利用してダルクス人を活躍させる。英雄部隊の誕生だ」
「ふむ……成程、確かにそれならば存分に我が部隊の功績を作り上げられる。であれば我が部隊を二手に分け殿下に移譲しましょう。部隊長は……ジグが良い、あれならば良き英雄となるでしょう」
「では編成はそちらに任せる。ダハウよ先に謝っておく危険な任務を任せてすまない」
そう言うとラインハルトはダハウに低頭する。
それ程に今回の任務ダハウの負担が大きい。
もし万が一でも事が発覚すれば即銃殺刑は免れない。
その危険に対する謝罪だ。当然の事だと思っていたがダハウ達は違うようだ。皆んなして目を丸くしている。
なんだ?どうした?
「……ふふ、これが殿下なのだ誰に対しても自分が思った事は貫く姿勢を崩さない。それが例えダルクス人でもヴァルキュリアでもな。……どうだ?仕え甲斐があるだろう?」
「……そうですな、確かにこれ程の大器は稀だ。私はもしかしたら幸運かもしれない、彼と出会えた事で我が運命は変わったのでしょうな」
「……?」
不思議そうに首を傾げるラインハルトを見てダハウは笑う。何とも楽しげに。
ーーどうやら私の選択は間違えていないようだ。
「改めて誓いましょうラインハルト殿下、我が運命そして我が部隊の運命を貴方に託しますぞ」
「うん?……ああ、分かった任せろ。義勇軍第七部隊よりも立派な英雄にしてみせるさ」
そう言って子供の様に笑みを浮かべるラインハルトとダハウは握手を交わした。この人ともう一度再会する、その日を楽しみにして。
「……ちなみにだがダハウよ必ず私はガリア側の部隊に編成するんだぞ?分かっているな?」
「も、勿論ですとも……ははっ」
鬼気迫るセルベリアのプレッシャー(もはや殺気)がダハウを襲うのだった。
「ふぁ……」
「あくび、眠れなかった?」
「ああいや、すまない」
ダハウ達と別れてすぐにファウゼンに戻ってきたから疲れが抜けきっていない。思わずあくびを噛み締めてしまった。いかんいかん今は大事な会議中だというのに。
そう大事な会議だ。今後の戦略に関わる重要なものだ。
すなわち新兵器開発である。
その為に各工場長を集めた。そのほとんどがダルクス人である。つくづく俺はダルクス人に縁があるらしいな。
「……さて諸君、お集まりいただき感謝する。折角ファウゼンを奪還したばかりだというのに、急遽駆り出してすまない。休みたいだろうが非常事態の状況だ理解してもらえると思う」
「勿論です。帝国軍より解放していただいたこと改めて感謝申し上げます」
この戦時下だジークの召集に否はない。
むしろ帝国に対する恨み骨髄か。非常に協力的だ。
体格の良い男達が揃って頷いた。
「早速だがコレを見てほしい」
「これは……」
ひと目見てそれが兵器の設計図である事が分かる。
だがこれは……。
それまで見た事がない運用方法の兵器だった。槍状の鉄筒に爆薬を詰める。構造自体は単純だ。対戦車兵の使うランチャーに似ている。だがすぐにそれが対歩兵に使われるものではなく攻城兵器に近いものである事を理解する。
「これは多連装ロケット砲と言う代物だ」
「ロケット砲、初めて聞く名前ですな」
「そうだろうな、まだガリアでは開発段階にすらない兵器だ、帝国や連邦でも実戦はまだだ、試験運用程度は行われているかもな」
これは最先端兵器だと言ってラインハルトが工場長達を見やる。
「君達にはコレを開発して大量生産してほしい」
「……成程、それで我々が呼ばれたのですな」
「ああ、そうだ。それが出来るのはガリアにおいてファウゼン以外には存在しない」
断言する。
故に俺はファウゼンの奪取を最優先とした。アマトリアンでも開発は出来るだろう。だが数は揃えられない。それが出来るのは最大工場数を誇るファウゼンのみ。その数はざっとーー
「ーー1万発、それが帝国軍に勝つ為に必要なロケット弾の数だ」
「1万発ですか……。難しいですが分かりました三ヶ月もあれば可能でしょう構造自体は単純ですので技術を応用すれば……」
ラインハルトが待ったをかける。
「ーー否、一ヶ月だ。一ヶ月で1万を用意してほしい」
「え……っ一ヶ月!?」
「そんな、ひと月でなんて不可能だ!」
単純な計算だ。一ヶ月に1万という事は10日で3333発必要という事だ。つまり1日あたり333発の計算になる。何発作れるかも分からない、まだ試作すらしていない段階で、この注文は無理なものだ。
だが、
「無理を言っている事は分かっている。だから
「……少し考えさせてください」
ラインハルトの本気度に工場長が眉間に皺を寄せる。
話し合いが行われる。
「どうする?うちの多くは生産工場だ鋼材は作れるが兵器は作れないぞ」
「そうだな……。生産工場を兵器工場に転用するしかない」
「それじゃ兵器を作るための部品が不足する!」
「だが……!!」
話し合いは小一時間続いた。
「……そうだ。帝国軍に作らされた兵器工場を組み立てに使おう。第一から第五工場で部品を製造し、兵器工場で一気に組み立てるんだ。そうすれば効率が良い一昼夜フル稼働させればノルマをこなせる」
「……そうだな帝国軍に働かされるよりましだ」
話し合いが終わった。
何とか合意の方向に進んだようだ。
「確実に納品する……とは確実には言えない。しかし可能な限り努力する。物作りの街として名を馳せたファウゼンの誇りにかけて最善を尽くすつもりだ。だからどうか約束してほしい、もう帝国軍をこの街に侵攻させないと言ってほしい。その言葉があれば少なくとも俺は死んでもあんたの注文を全うしてやる!」
「……良いだろう。約束しよう!もうこの街は絶対に安全だ!もう誰一人として理不尽な死を迎える者はいない!この俺がそれを許さない!だから安心して仕事に励むが良い!」
「……ありがとうよ軍人さん。その言葉が聞きたかった」
それまで硬い表情だった男の顔がニカリと綻ぶ。
……ずっと心配だった。また同じ事が繰り返されるんじゃないかって。だからこそ目の前の男の言葉が何よりも心の支えになる。
ジークハルト。この男は破壊された工場から多くの同胞を救ってくれた。その姿を大勢が見ている。
かくいう工場長もその1人だった。
命の恩人の言葉を信用できなくなったら終わりだ。
「……信じるさその言葉。……クオリティは度外視だって?馬鹿にすんな最高の品質で届けてやるさ!!そうだな野郎ども!」
「おうともさ!ダルクス人職人舐めんなっ」
ダルクス人魂に、否、技術者魂に火がついた。
速さ、品質、全て兼ね備えてこそ。そこに宿る誇りがある。一度は手放したが、もう一度それを取り戻す。
「この多連装ロケット砲を俺達の新たな誇りにして見せる!」
その目にはもう労働奴隷時代の暗い窪みはない。
爛々と輝く職人達の目がそこにはあった。
工業都市ファウゼンが本当の意味で蘇った瞬間だった。
「……帝国は後悔するだろう。彼らをただの労働者として扱った事を。彼らの本来の力が帝国を打ち砕く始まりの一手となる」
また一つ必要なピースが揃った。
盤上に駒が揃いつつある。
義勇軍、ガリア貴族、情報将校、内通者、新型戦車、制圧兵器。コレだけあれば普通の帝国軍相手ならば戦えるだろう。だがまだ足りない。まだまだ必要なものがある。
ガリア方面軍に勝つ為には多大な準備が必要になる。
計画は緻密であれば良い。考えられる内に考える事でミスを無くせるからだ。戦略は複数あれば良い。想定外の事が起こっても策で取り戻せるからだ。戦術はシンプルで良い。実行するのは人間なのだから複雑過ぎるとミスが増え意味を為さなくなる。
それを頭にふまえながらラインハルトは考える。
ガリア方面軍の倒し方を。
いよいよ後半戦。
次回「ダルクス英雄部隊」