――12時間前。
猛然と押し寄せる連邦軍を霧の中に孤立させて撤退する事に成功したハイドリヒ軍は―――目下、東に向けて逃走中であった。行きと同じく森の中を突き進み、一度の休憩も挟むことなく拠点に向けて先を急ぐ。撤退を成功させたにも拘らず彼らに余裕はなかった。アイスもまた落ち着いて自軍を帰参の途に着かせたかったが、それはもう出来ない。
なぜなら現在、ハイドリヒ軍は――――窮地に陥っていた。
「―――報告します!南に続いて北の街道からも新手の敵部隊が出現しました!敵はこちらの退路を塞ごうと森を迂回しながら動いているようですっ!」
新たな報告が届いた。
これで13度目になる敵の出現にアイスはようやく敵の作戦が読めてきた。
先程の連邦軍部隊は言うなれば囮だ。本命はこちらの退路を断ち、森全体を囲む包囲網を作り上げるのが敵の作戦だったのだ。北と南に向かわせていた偵察部隊からの報告により徐々に分かって来た囲みの厚さから考えて、敵はもっと多くの敵軍の出現を予想していたらしい。それこそ、10万もの敵を包囲殲滅するための作戦だったのではないだろうか。
......考える事は同じということか。とはいえ、未だ東からの報告がない事から敵の包囲網が不完全である事が分かる。完成する前に撤退を行えたことは幸運以外のなにものでもない。
アイスは伝令の兵士に指示を出す。
「防衛戦を徹底させよ!敵の足止めだけでいい!無理はさせるな!一刻も早くこの森から脱出する事だけを考えよ!」
いま優先すべきは抗う事ではなく逃げること。
このまま敵に退路を塞がれるその前に森を抜ける。
どんなに格好が悪くとも逃げ切ればこちらの勝ちだ。
その為にハイドリヒ軍は先を急いでいた。なりふり構わず一目散に逃げていた。
いっそ清々しいまでに、敵との交戦を避ける。臆病と罵られようが気にしない無様な逃げ様だったが、それが功を奏して驚くほど速い動きで軍を動かせた。行きよりも一時間も早く、森を抜けようとしていた。
その時――遠くで爆発音が轟いた。しかも一度では終わらず断続的に、続けて鬨の声が上がるのも耳に届く。それは前方から聞こえた。聞き慣れて間もない戦争の音。戦火の狼煙だ。
つまり敵は.....。
「東の偵察隊より報告!森を抜けた先に敵の大部隊アリ!交戦を開始したとの事です!」
「構わない突破しろ!ここで足を止められれば全滅は必至!全部隊を突入させる!」
予想通り目の前にも敵がいた。だがもはや止まれない。一分一秒でも時間を掛ければ敵の増援がこちらの側面に食いつく。そうなればもう逃げられない、我が軍は包囲され全滅するだろう。
北と南に割り振られた以外の一万を使って目の前の敵部隊に向けて攻撃を開始させる事にした。
やがてアイスの居る本隊も森を抜け......。
視界が開けたその先に、見慣れた光景が出迎える。
雄大な幅広の河川が視界を横切るように、遥か彼方まで続くライン川。その川を向こう岸まで繋ぐのは古めかしい石材作りの『アルキメデスの大橋』。古代の職人の手によって造られたそれは全長にして50メートル、当時から西との交易の路となった重要な建築物である。
その先にはいよいよ果てしなく広大なアスターテ平原が広がり、遠く地平線の彼方には丘陵と盆地が波間のように形づくられている。
懐かしい光景だ。しかし、感慨に耽る暇もない。
森を抜けた事でようやくアイスにも戦場の様子が分かった。
敵は西岸一帯に陣を敷いている、報告の通り敵の数は2万を超える大部隊だ。
しかも敵は現在、大橋の制圧を行っている最中だった!
それを待機させておいた東岸のハイドリヒ軍が必死になって阻止しようとしているのが見える。アイスが保険の為に予め東岸の部隊を残しておいたのだ。
だがそれも橋の半ばまで制圧されていて、激しい攻防戦が繰り広げられている。
―――マズイ。
このままアルキメデスの大橋を占領されたら、アスターテ平原に逃げ込めない。
それは計画の失敗を意味する。
それだけは何としても阻止しなければならない!
何とかハイドリヒ軍を大橋に向かわせようとするが、それを阻止するべく敵も一万の兵を分けてこちらに寄こしていた。
つまり現在の戦況は、扇状地のような開けた地形に一万の兵が布陣している我が軍―対―西岸一帯に扇状に半円を描いてそれを防ぐ敵軍一万。それと大橋を制圧しようとする一万の占領部隊―対―それに抗う東岸八千の味方というかなり拮抗した状況になっていた。
だが時間はこちらの味方をしない。それどころか時間が経てば経つほど敵が優勢になってくる。
敵は恐らく森の包囲に使っていた兵力をここに集中させる筈だ。
森の中に無数存在する街道を使って押し寄せる敵を何とか足止めしているが、それも長くは持たない。短期決戦が望まれる。
だが......。
無理だ。
この敵の厚さを短時間で突破するなんて不可能に近い。
敵の指揮官は取り逃がしたハイドリヒ軍の本隊が迫っている事に気づいていたのだろう。
万全の状態で迎え撃つ準備を終わらせていた。
目の前の方陣隊形を取る敵を突破するには凡そ半日を要するだろう。
......いや、あるはずだ。まだ何か手が!
諦めが胸中を支配する中、それでも必死に、持てる力を振り絞りながら自分が打てる策を冷静に考えていた―――アイスの元に急報が届く。絶望に落とす無慈悲な報告が。
「北の街道を偵察していた部隊からの新たな報告が届きました!やはり敵は森を大きく迂回しながら此処に向かっている模様です!」
「南の街道からも同様の報告が上がりました!続々とこの地点を目指しているようです!一時間後に到達するものと思われます!」
「.......」
アイスは諦めたように目を瞑った。
.....ここまでか。申し訳ありません殿下、僕はここまでのようです。
万策は尽きた。もはや我が軍に生き残る術は無い。
思えば西岸より軽騎兵団が消えた時から歯車は狂いだした。
それでも彼らに責を問うつもりはない。
これが僕の選んだ選択だからだ、僕が選んだ人生だ。後悔はしない。
ただ、惜しむらくは殿下と立てた計画を全う出来なかった事だけ。
僕がここで死ねばば殿下の計画が失敗に終わる。
どうか、
「お逃げ下さいラインハルト様.......!」
悲痛な叫びを張り上げ、
全てを諦めかけたその時――――橋の上で爆発が轟いた。
その音は森を抜ける際に聞いた音と一緒で。
アイスが顔を上げて視線を向ける、いったい何が起きたのかと見て見れば、橋の真ん中で煙が上がっている。そこで気づいた、よく見れば橋の上の連邦軍が後退している事に。
明らかに異常が発生していた。
何が起きている.....?
疑問に思ったアイスは懐の双眼鏡を手に掴むとそっと覗き込み。
そしてアイスは橋の上の光景を捉えた。
戦車の爆発なのか知らないが、モクモクと上がる煙の中に誰か居る。それも一人じゃない、数十人の人影が見える。ゆっくりと煙が晴れた先に居た者とは.......。
「アレは.....何だ......?」
戸惑いの声が漏れる。
それは人型と形容するものだった。
帝国兵の鎧兜と似ているが全くの異質の存在である事が分かる。
視線の先に立っていたのは全身を蒼い騎士甲冑のような防具で纏った者達。
見た事のない装備。見た事のない兵士。
所属不明の部隊である。
見た事のない装甲服で固めた彼らはハイドリヒ軍の兵士達を背後に庇い、目の前の連邦の兵士達と相対している。
息を吞んで見守っていると......。
おもむろにその機械兵とでも言うべき兵士10人が前に出る。
彼らが何気なく腰に抱えながら構えている武器を見て、連邦兵達に動揺が走るのが分かった。アイスもまた信じられない物を見る様な目で見ていた。
それは俗に対戦車用重機関銃と呼ばれる兵器で、本来であれば地面に設置して使う防衛用の物、その大きさは縦にすれば使用者の身長よりも長大で、重量は150㎏を優に超え、持って使う事なんて出来る代物ではないからだ。秒間で50発の弾丸を射出するその破壊力は凄まじく、戦車の装甲すらも薄い面であれば貫通する化け物の様な重機関銃のはず。それをまるで普通の突撃銃を小脇に構えるが如く......。
平然と歩いて来る機械兵を見て、慌てた様子で連邦の指揮官が大声を叫ぶと、数百人もの歩兵達が突撃銃を構えて撃ち出してくる。
長大な対戦車用重機関銃を両手で持つ機械兵達はそれを防ぐ事も出来ず、射撃の雨を浴びる事になる。
無防備に撃たれる様を見て、殺られたと思い苦々しい表情になったアイスがその光景を見て固まる。
何と機械兵達はまるで何事も起きていないかのように歩き続けていて、迫り来る無数の銃弾は蒼い甲冑が全て弾いているではないか!
帝国で正式に支給される鎧兜の装甲服でさえあの弾丸の暴風雨の中では3秒と持たないだろう。
無風の中に居るかのように無傷で向かって来る機械兵達を必死に止めようと連邦兵達が抗う中、それを嘲笑うかのように機械兵は対戦車用重機関銃の砲塔を前に突き出し―――指揮官が後退命令を出すよりも早く、一斉に撃ち出した!
瞬間――橋の上に居た数百人の連邦兵が逃げる暇もなく。暴虐のような無数のライフル弾によって体を撃ち抜かれていった。橋の上という限られた地形のせいで後ろに逃げようとする指揮官も等しく、無数の兵士を貫いてなお威力を減じさせないその弾丸に体を吹き飛ばされ一瞬の内に肉隗へと変えられていった。橋を占領せんとしていた数百人の連邦兵が、たった10人の機械兵によって一掃されていく。その様は何とも爽快な光景で、一つの戦争の概念が変わる瞬間でもあった。
それが五分ほど続いただろうか。やがて弾切れになる頃には橋の上は凄惨なものとなっていた。人の原型を留めている者は少なく、肉の塊としか言えない物に溢れ、ピンクの肉片と赤い血のコントラストによってアルキメデスの大橋は鮮やかに染め上げられていた。
――シンと静まりかえる戦場。いや、継続的に銃弾の音があちこちで聞こえてはいるのだが、対戦車重機関銃の轟音に耳が慣れてしまったせいで、やけに静かに聞こえるのだろう。遠く離れた此処からでもそう思うのだ。
橋を占領しようとしていた連邦兵はその比ではないだろう。どれほどの恐怖を彼らが感じているか想像するのは難しくない。それほどに衝撃的な事が起きたのだ。
そのせいか、いまだ混乱から抜け出せない連邦軍、呆然自失の様子で新たな部隊を橋に送り出す事が出来ずにいた。
先に動いたのは機械兵だった。
横並びに立つ10人の間から一人の機械兵が飛び出すのを皮切りに、後ろに控えていた大勢の機械兵達も走り出した。鈍重な全身鎧を着込んでいるとは思えないスピードは偵察猟兵に匹敵する。あっという間に鮮血の絨毯を渡り切った機械兵が敵兵に迫った。無駄だと理解していながらも突撃銃による反撃を行うが、一刀の元に切り伏せられた。新たな鮮血が舞うのを前にして機械兵は淡々と次の標的に目を向ける。恐怖による悲鳴が上がるのを無視して更に斬りかかっていった!
二人目を斬り殺す頃には後ろの機械兵達も追いつき、思い思いの蹂躙を開始していった。
そう、蹂躙だ。もう既にそれは戦闘と呼べるものではなかった。一方がただ敵を殺す。独壇場に切り替わっていたのだ。彼ら奇怪な機械兵達の武器は様々で、あるものは長大な大剣をもって数多の兵士を斬り飛ばしている。またある者は軽機関銃を手に持ち俊敏に動きながら多数の敵兵を撃ち殺していた。その横に目を向けて――驚愕する。呆れた事に先程の対戦車用重機関銃を両腰に2門、首に掛けたベルトで支えつつ、そのまま乱射、圧倒的な火力でもって肉隗を量産している者までいた。人の力では凡そ不可能な芸当は、恐らくあの鎧に仕組みがあるのだろう。
そうでなくてはあの人の身を超越した、人外の如き力の説明のしよがない。
中でも群を抜いて凄まじい挙動を見せる機械兵が居た。
その兵士は最初に先陣を切って飛び出した者で、片手の武器――物々しい砲身に片刃のブレードを埋め込んだような得物を、瞬く間に乱舞させ無数の敵を撃破している。
凄まじい技のキレと人間離れした動きが為す奇跡の様な挙動。
素早く敵との間合いを詰め、瞬きをする間に斬り払われた胴体。冗談のように人間の体が二つに別れた、続けて手首を返すだけで鮮血が宙を舞う。地面に崩れ落ちた事で二人目が倒された事に遅れて気づいた。
その動きは獣の様な荒々しさが有りながら繊細な技能によって可能となっている、どれほどの努力の果てに培われたモノなのか想像もつかない。
あっさりと敵陣の真っただ中に侵入した機械兵は囲まれているというのに気にした様子もなく。
逆にこれ幸いとばかりに銃砲を構えた。
そして―――
砲口から光が瞬いたかと思うと射線上で爆発が轟いた。まるで戦車の砲弾が発射されたような威力に玩具の人形でも吹き飛ばすかのように兵士の体が宙を舞い上がる。何度も聞いた音はこの銃砲を鳴らす音だったらしい。
遅れて肉片が地面に落ちる。今ので周囲の連邦兵が恐慌に陥るのが手に取る様に分かった。
我先にと持ち場を離れて逃げ出している。
それを止めようと指揮官が何事かを叫ぶが、次の瞬間には銃砲から放たれた無数の銃弾に襲われ物言わぬ骸となる。もちろん撃ったのは先程の機械兵だ。砲身に隠された幾つものギミックを使って戦闘を有利に進めていくその一騎当千の如き活躍の兵士は目立つ。
何百という連邦兵がコレを討とうと躍起になるが出来ない。
なぜなら兵士は一人ではないからだ。気づけば百人もの機械兵が戦闘を行っていた。そのどれもが一騎当百の如き働きを見せている。個でありながら群となって一人一人が補うように、軍の動きをしているのだから、連邦軍にとっては悪夢の様にしか思えないだろう。悪魔が地獄から軍団を生み出したような――そんな非現実的な強さに指揮官達も頭を抱えていた。なんせこちらの攻撃は全て全身鎧で弾かれ、逆に規格外の兵器の数々でこちらに襲いかかって来るのだ。評するのであれば百鬼当万と言った処だろう。彼らは万の軍勢に匹敵する。
現に視界の先で橋の制圧部隊が崩壊していくのが分かる。
最初は端の綻びからだったが、徐々に綻びは全体に伝播していった。
これほど簡単に綻びが生まれたのには理由がある。それは橋の制圧部隊は歩兵しか居なかった為だ。
戦車といった兵器を使っては石材の大橋が砲撃によって崩れる恐れもあり、またその重量によって負担をかける事に不安を抱いた指揮官が無傷での橋の制圧を望んだ事もあり、部隊には歩兵しか居なかった。だが歩兵の軽量武器では全身鎧の耐久力を突破する事が出来ない。そんな理由があり逸早く戦線は崩れた。勝てないと分かっていながら戦うほど辛いものはない。逃げ出したくなるのも仕方ない事だろう。
そして、それと同時に東岸の部隊8千が動きを見せた。
こちらと合流しようと大橋を渡り始めたのだ。
それに危機感を覚えたのは本隊と戦う1万の連邦部隊だ。未だ我が軍は敵の鉄壁を崩せない状況だが、背後から攻撃を受ければ話は別だ。制圧部隊の戦線が崩されつつある今、大橋を移動する8千の敵に攻撃を受ければ完全に崩壊するだろう。そのままこちらの背後に敵の爪が伸びれば、前後を挟撃される事になる。しかも謎の機械兵というオマケつきだ。苦戦は免れないだろう事は明白である。
......敵は。
「北に向かって移動している.....。敵は撤退を選んだか」
どうやら連邦軍はこの場面で戦略的撤退を選んだようだ。
前後を挟撃される前に陣形を紡錘形に変え、上流に向けて移動を始めている。
臆病なのか、慎重なのか、あるいは......。
やがて北の森に遮られて連邦軍の姿が見えなくなるのを眺めながら考えに耽っていると、前方でざわめきが起き出すのを聞いて、ふとそちらに目線を向ける。
あの機械兵がこちらに向かって来ている光景が映った。
ゴクリと息を吞み、緊張の面持ちになる。
大丈夫だ、アレは恐らく殿下の......。
だが敵ではないと分かっていながらも畏怖せずにはいられない。
部下も同じ思いなのか自然と兵士達が道を開けていく。
歩みを止めない機械兵はその道を通って、やがて目の前までやって来た。
アイスは微笑んで、
「ありがとう、おかげで助かったよ。君たちの活躍がなければ僕たちは逃げれずに全滅していた。君達はいったい......?」
何事か言おうとして声が面越しに籠る。聞き取れなかったアイスは首を傾げる。
すこし無言になる兵士はフルフェイスを取ろうとして......出来ずに止めた。
どうやら外部からは取り外す事が出来ない仕掛けになっているらしい。
忌々しそうに頭をガンガン叩いている。
やがて諦めると今度は口元に手を向けた。呼吸孔があると思われる部分にガスマスクのような形の機械が付随していて、それを何やら触っていると......。
「.......ハルト....殿下に頼まれて来た。貴方達を助けるようにって.....」
今度は声が聞き取れた。
そしてその声が女性のものであった事に驚く。
屈強な男を想像していたアイスは呆気に取られた。まさかあのような戦いぶりを見せた兵士が女だとは思わなかったのだ。
.....それを可能にするのがその鎧と云う事なのか。
彼女らの強さの秘密に考えを巡らせかけるが首を振る。
いや、それよりも。
「やはり殿下が送ってくれた部隊だったか.......。感謝しますラインハルト様.....」
絶体絶命のピンチを救ってくれたのは彼女達の主であるラインハルトの命令であった事を聞き。
姿の見えない主に感謝を捧げる。
そういえばと、ふと思い出す。ギュンターという男に渡された袋の事を。読む機会を逸してしまっていて忘れていた。
二つ目の袋を取り出して中を読んでみる。
そこには次の指示と保険に部隊を送っておく旨が書かれていた。
「.......なるほど汎用戦術迎撃兵装ヴァジュラ。それがこの兵器の名前か.....。ラインハルト様もとんでもない物を作ったものだ.....。戦争が変わりかねない」
この説明によれば、たった一人で戦車に匹敵する耐久力と機動力を持っている事になる。そこに数多の兵器を武装するだけで応用が利く。むしろ人型の戦車と思った方が良い。恐ろしい力を秘めている。これからの戦争に影響するだろう。味方である事が本当に良かったと思う。
「とりあえず防衛戦を森で行ってくれている副官達を呼び戻そう。その後は直ぐに橋を渡って平原部に移動する、恐らく敵は直ぐに戻ってくるはず」
一旦は逃げたものの敵は直ぐに部隊を編成して戻って来る。包囲に配置していた部隊を集結させて今度はもっと大軍で。その前にこちらも態勢を整えておかなければならない。逃げるつもりはなかった。
「敵を沿岸で迎え撃つ!すまないが君達にも協力してもらえないだろうか?」
その問いかけに彼女はコクリと首を振って、
「分かった。貴方の指示に従おう、それがハルト.....殿下から受けた命令でもあるから」
「そうか、ならば僕もラインハルト様の計画を実行に移すために。まずは前段階として......あの橋を落とすとしようか」
その目の向こうには建築物としても名高いアルキメデスの大橋が映っていた。