ちょっとグロいかも。
山岳地帯を抜けた先に広がる森の手前で、
山道の出入り口を封鎖する形で配置された突撃機甲旅団と連邦軍が激しい戦闘を繰り広げていた。
現在の戦況はややこちらに分がある。敵は狭い山道に密集しているので射線が楽に当たるからだ。
攻撃を一点に集中することで敵は多大な犠牲を出し続けている。
とはいえ幾ら優勢であろうとも数の上では敵が圧倒していた。
いつ抜けられてもおかしくはないだろう。気の抜ける戦いではない。
戦いが長期化するのは目に見えていた。
そんな両軍が激しく殴り合う様子をラインハルトは後方で見ていた。
「封鎖戦は順調.....か」
「今のところは」
「分かっているな?敵の通過を許せば俺達の負けだ。絶対に敵をこの山岳から出すな」
「御心配なく。軍勢が北に通過できる山道の出入り口はここだけです。ハイドリヒ卿の情報が正しければですが.....」
「問題ない情報は正確だ。
そう言って取り出したのは地図だ。
数日前の軍議が終わった後に持ってきてもらったのがコレだ。
これのおかげで作戦を立てる事が出来た。
どこに兵を配置できるか、細部に渡って描かれている地形図を見て決めたのだ。
敵の進軍ルートを予測できたのもこれのおかげだった。
なぜそんなに詳しい情報が載っているのかというと、
元々この山はハイドリヒ家と深い縁があった。
彼の名高きハイドリヒの騎士が生まれたのがこの山だからだ。
過酷な環境ゆえに良い名馬の生産地であり、騎士の演習場として格好の場所でもある。昔から騎士の修行場として親しまれてきた。ゆえにその名は試練の山と呼ばれるのである。
「やれる事はやった。後は待つだけだ。勝つか負けるかは彼女達に掛かっている」
作戦通り進行していれば勝敗の鍵は特務試験部隊V2が握っているはずだ。
イムカのいる部隊だ。成功率はおせじにも高いとはいえない。敵将のもとに着くまでにも危険な過程を辿らなければならない。周囲の軍勢の只中から敵将を見つけるのでさえ大変なのに、そこから降伏させるのは至難の業だろう。それが出来るのは彼女達しかいない。それ以外に短時間で勝利する方法はない。全ては彼女達に掛かっていた。
「作戦通り進んでいれば今頃は敵軍の只中だろうな....」
......何をしてでも勝てイムカ。
たとえ敵を地獄に叩き落そうとも.....俺が許す。
全ての罪は俺が背負う。
だから絶対に生きて戻って来い。ずっと傍に居る。
それが、あの時交わした俺とお前の約束だ。
* * *
猛将ムーア大将の率いる本隊、
通称――第六護衛団は敵の奇襲攻撃に対してようやく混乱を収拾する事に成功していた。
左右の奇襲から始まった敵の攻撃は、最初こそ敵の異様さに押されていたが、
こちらの10分の1よりも少ない数である事を理解してからは立ち直ろうとしていた。
だがそんな時に起こった空からの奇襲でかなりの損害を被った。
悔しいが敵の思惑は成功したといっていい。あれで完全に大混乱に陥った。
白い帆に運ばれて降りてくる何十という敵からの一斉射撃で多くの兵士が倒されたのだ。
撃ち落とそうと狙撃させても敵には通用しなかった。あの分厚い鎧に阻まれて。
戦場の只中に現れた奴らは蹂躙を開始した。
思いのままの兵器で武装した敵は強く、こちらの攻撃は全く歯が立たない。
悪魔のような敵に対して混乱しない方がオカシイ。
恐怖の権化のような敵を相手にそれでも歩兵達が逃げ出さなかったのは背後の存在が大きい。
第六護衛団が信奉するムーア大将が乗る巨大戦車のおかげだ。
あれを支えに士気を失わなかった兵士は多い。
次第に落ち着きを取り戻した第六護衛団は数の利を生かして攻勢に転じた。
包囲して一斉射撃を敢行する。
単純だが現在ではあの異様な敵を撃破するまでに至っていた。
また一人の敵が複数からなる対戦車槍の一撃を躱せず背中に直撃した。
爆発の威力に耐えきれず敵の戦闘鎧は四散した。残骸となった敵に歓声が上がる。
このままいけば順調に敵を殲滅させられるだろう。
奇襲によるアドバンテージはもはや無くなった。
勝てると誰もが確信していた。
だが異変は背後で起きていたのだ。
何人かは気づいていたようだが只の歩兵でしかなかった俺は知る由もない。
始まりは異常な音から来た。
もはや第六護衛団の誰もが慣れ親しんだ音だ。超重なキャタピラが地面を掘り穿つ時に生じるゴロゴロゴロと雷雲のような独特音が聞こえてみんなが振り返る。
やはり巨大戦車が動いていた。
その威容に味方から感嘆の声が漏れる。その目には親しみが込められている。
そういえば、ふと思い出す。
噂だがあの巨大戦車は元は帝国の超重戦車を模倣して作られた物らしい。
いわばデットコピーだ。設計を模倣しているから内部の構造も似ているらしく、司令官室の内装まで一緒なんだとか。まあ誰も信じていないが。
だけど、もしコピーした通りのままだったとしたら、帝国戦車を動かせる者であれば帝国兵でも簡単に巨大戦車を動かすことが出来るのではないだろうか。と友人と談笑したことがあった。
その時はそんな状況が訪れるはずがないか。と笑って馬鹿げた考えを払おうとしたものだが。
その時だ、巨大戦車の砲塔があらぬ方向を見ている事に気づいた。
進軍上仕方のない事だが巨大戦車の背後には多くの軍勢が集結している。それと巨大戦車が向かい合ったのだ。あれでは味方に射線が当たってしまうじゃないか。悪戯では済まされない危険な行為だ。
なにかオカシイ。そう思ったのは俺だけではないらしい他にも不審そうに見始めた。
遠くの方で誰かの叫び声が聞こえる。遠目で分かりずらいがどうやら将校の男が必死に何かを伝えているようだ。何を言っているのか聞き取ろうとしたところで――
――落雷が落ちた。
いや違う。そう思うほどの音の爆発が奔流となって巻き起こったのだ。光と熱が俺達を襲う。
列車砲にも使われる80㎝ドーラ砲(帝国名)が火を吹いたのだ。
音速を超えて放たれた800ⅿmの質量弾だ。発射時の音を聞いた時にはもう地面が爆発していた。
一瞬で百何十人という命が失われた瞬間を全員が呆然と見ていた。
いったい何が起きているのか理解できない。
そんな俺達の思いを無視して、
――死を生み出す行進が。そして始まる。
巨大戦車は前進を開始する。
「逃げろおおおおおお――!!」
その叫びが誰のものか理解する余裕はなかった。
あれは帝国軍を倒すための物なのになんで!?そんな思いも直ぐに消えた。
全員が一斉に逃げ始めたからだ。迫り来る巨大戦車から逃げる。それしかもう頭の中にはなかった。
逃げ遅れた者がキャタピラの餌食となる、その光景を見た瞬間どうでもよくなった。
無限軌道が一回りするごとに百人近くが潰されているのを見てしまえば、生き残るために行動するしか他にないだろう。味方であるはずの巨大戦車に味方が紅い染みに変えられている悪夢のような光景を見てしまえばもう戦いなんかどうでもよかった。
第六護衛団は先程の比ではない大混乱に叩き落とされる。
陣形は崩れ、蟻を散らした様に巨大戦車の前から逃げ出した。無常にも迫り来るキャタピラから少しでも離れようとするが、残酷なまでに間に合わない。
「うわあああああ!」
「なんで!なんでだよ!?」
「ヒギャアアアア!!」
「つぶれる?!あああぴぎゃ!」
ブチぐちゃブチぐちゃブチぐちゃブチブチ!
ブチュ!グチュ!ブチャ!グチグチ!ぷち
ぶちぶちびちぶちびちうぁびヴバギュびゅち
無数の音が――破裂する肉の音がここからでも聞こえる。人間が轢き殺される音だ。
心の底から信じられないと思う今も、
巨大戦車はその全てで奪い続ける。
戦場には1万もの軍が存在した。何よりも頼もしいと思っていた仲間達の命を。
塵屑の様な扱いで無惨にも奪っていく。
まるで虫を潰すようにブチブチと命が潰されていった。
全員が誇りに思っていた巨大戦車はもうどこにも居ない。
巨大戦車が進むたびに爆発と悲鳴が生まれる。戦車も人も何もかも圧倒的な質量で押しつぶして
蹂躙。
その光景に相応しい言葉がこれ以外にあるだろうか。
やがて巨大戦車は壁を目の前にして止まった。
10回転はしただろうか。端に行き着くまでに轢き殺した人間は千に上るだろう。地面にできた履帯の痕がその壮絶さを物語っていた。ありえないことに戦車が一枚の板になっている程だ。千五百トン以上もの質量が掛かったプレスによって、人であったものの血と肉が地面に張り付いている。
初めて見るおぞましい光景に誰もが口を閉ざす。
考える事は一つだ。ああならなくて良かった――という安堵だけだった。
復讐心なんてこれっぽちも湧かなかった。寝食を共にした仲間だというのにだ。
ゆっくりと巨大戦車が回頭している。照準はこちらを見ていた。
俺達の信じていた巨大戦車が俺達を殺そうとしている。
心の中でバキバキという音を聞いた。
それは兵士が戦う上で必要な、誇りと戦意が折れる音だ。
心が折れたのは俺だけではない。横に居る兵士も膝を落としている。その横もその横も――
信じていた存在に最悪な形で裏切られたのだ。もう第六護衛団は戦えない。
戦う為に必要な支柱を失ってしまったのだから。
それから暫くして巨大戦車が乗っ取られたこと、ムーア大将が戦死した事を知った。
――巨大戦車が二度目の前進を開始する前に第六護衛団は降伏を宣言した。
巨大戦車のイメージは
キャタピラが付いて横幅が二倍あるドーラです。(ラピュタじゃないよ)
補足。
戦車 モンスターで検索した方が早いです。
感想・お気に入り登録ありがとうございます。返信よりも次話を書いた方が喜んでもらえると思ったので書いていませんが読者さんの応援嬉しく思っています。