あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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六話

それは時を少し前に遡る。

 

セルベリアの背を見送ったラインハルトは自らも動き出した。

 

もし仮に俺が敵の指揮官ならどうする。何を考える?

あの裏手の山だけに兵士を配置するだろうか。

答えは否。

あの光の正体がもしスコープの類であったなら、敵は村の全体を把握できただろう。

なぜわざわざ敵はそんなことをする。

時間的余裕があったということだ。そしてただ村を攻撃するだけが目的じゃない。

何らかの確たる理由が存在するはずだ。

 

ラインハルトは急いで部屋を出ると困惑した様子の村長と対面する。

 

「今さっきお嬢ちゃんが飛び出して行ったがどうしたのかの?」

「.....老公」

 

言うべきだろうか。未だ憶測に過ぎないが、俺の勘違いということもある。

ラインハルトは一瞬の逡巡の後、口を開いた。

 

「落ち着いて聞かれよ老公。たった今この村は何者かによって狙われている可能性がある」

「なんじゃと?」

「俺はそう見ている。なのでセルベリアは索敵に行かせた。もし敵勢力を発見した場合は....」

「待て待て!いきなり何の話をしておる!?」

 

驚きの声を上げる村長にラインハルトは根気強く繰り返した。

 

「敵が我らを狙っています。もしかしたら山賊の類かもしれません」

「むむむ....!」

 

まだ信じ切れていない様子だ。

だがこの後の展開によっては村長の力が必要だ。

ここで説得する必要がある。

 

「信じられないかもしれません。ですが....」

「いや、信じよう」

「え....?」

 

キョトンと目を瞬かせるラインハルト。

 

「老公いまなんと?」

「なんじゃお前さんその年で耳が遠いんかいの?信じると言ったんじゃよ」

「なぜ?」

 

自分で言っておいてなんだが信じてもらえる可能性はかなり低いと見積もっていただけに村長の言葉は意外だった。思わず尋ね返してしまうほどに、

 

「お前さんの目を見ればおのずとわかるわい......と言いたいところじゃが、それは違う」

「は?」

「お前さんは分からんがあのお嬢ちゃんは胸章を付けておったからの。ずばりお前さんらはかなりお偉い所の軍人さんなんじゃろう?」

「......確かにセルベリアはそうですが」

「なぜ分かったって?それはのう、昨夜儂の息子が軍に入っておると話したじゃろ?恥ずかしい話じゃがあやつは年に一回帰省しては自分の胸章を村のみんなに見せて自慢しておるんじゃよ。それでのもはや目にタコができるほど見せられるから儂らも詳しくなっての」

 

そう云えば借りていた部屋も息子のだと言っていたのを思い出した。

 

「それでお嬢ちゃんの階級が大佐であるという事に気づいたでの。それほどに高位の軍人さんが来たという事は何かしらの理由があると考えておった。そうでなければこんな寂れた村には来んじゃろうしな。だからお前さんが今言っている事はつまりそういう事なのじゃろう?」

「.....」

 

どうやら老公はあらかじめ俺達が賊を追ってこの地にやって来たのだと解釈したようだ。昔から俺は貴族特有の価値観に違和感を持っている。だからこそ平民の家に泊まり込む事を気にも留めない。しかしそれは彼らの価値観からしても異常な事なのだろう。

 

いえ、自分達は只単に自分の領地に帰る途中のセーフハウスに使わせてもらっただけです。などと言えるはずもない。

なるほど、軍人という身分が良い方向に事を運んだようだ。上手い具合に勘違いしてくれている村長に悪いがここはつき通してしまおう。

 

「はい、その通りです。わたし達はある任務を負ってこの村にやって来ました。重要な任務です。その成功の有無には老公の協力が必要です、頼めますか?」

「うむ。儂とて栄光ある帝国臣民じゃ、お前さんの指示に従おう」

 

そう言ってくれた村長の目にはギラギラと輝く力強い光が宿っている。

帝国の為に身を尽くせる事に燃えているようだ。

 

「協力感謝します」

「それで儂は何をすればいいのじゃ?」

「はい、老公には.....」

 

その時、家の外から女性の悲鳴が上がった。同時に少女の泣きだす声も響き渡る。

その声に反応したラインハルトは窓に近寄った。窓際に隠れて外を覗く。

ラインハルトは思わず顔をしかめた。

 

「くそ、早すぎる....!」

 

窓から見た視界の先には山賊の格好をした男が一人の男と争っている光景が映る。

村人だろう男は家族と思われる女性と少女を背にして必死に抵抗していた。

山賊の男が持つ山刀は血に濡れており、村人の男を斬ったことが分かる。

村人の男は腕や胸の辺りから血を流しており、手の肉が歪に切り取られていた。

それでも男は必死の形相で山賊と相対している。

それは後ろに控える愛する者達を守るためだ。

 

「.....おお!なんということじゃ!マーロイ、ニサ、エムリナ....!」

 

ラインハルトの横から覗き込んだ村長の口から悲しげな声が漏れでる。村の人口は八十余り。村長が知らない人間などこの村に居ないのだ。

マーロイは息子と同じ歳だ。同じく息子の様に接してきた。美人な嫁さんと可愛い娘を得て幸せいっぱいの時を過ごしていたのだ。こんなところであんな外道に殺されていいはずがない。

 

だが、どれだけ怒りを覚えようが悔しそうに歯を噛むことしか自分にはできないのだ。

なんと不甲斐ない。

心の中で自らを罵る。

 

そして、俯き震える老人の横で男は立ち上がった。

 

「俺が行く....」

 

ラインハルトは腰に帯びる剣を抜き部屋を見渡す。木製の古びれたテーブルや椅子があり。木目調の壁から調味料棚。隅から隅まで見渡した。そして最後にある物に注目する。

それは村長が朝食に作っていた山菜のスープ。それが入った鍋とかまど。

かまどの下でメラメラと燃える炎だ。

 

「....後で弁償しますので」

「....?」

 

疑問符を浮かべる村長の前で、

ラインハルトはまず、おもむろに椅子に近づくと勢いよく椅子の足をへし折った。バキッと軽快な音が鳴り、一本の程よい長さの棒になった足を取り外して。次は調味料棚に置いてあった油壷を取る。途中テーブルに掛かってあったナプキンを取ってだ。

ナプキンを棒の先端部分に巻き付け固定、それを油壺に入れてナプキンを湿らせる。

最後にラインハルトはかまどの中の火に棒を入れて火を移す。即席の松明が出来上がった。

 

探検家のように松明を持つと扉に向かう。

 

「...老公は村人を先導して裏手の丘に逃げてください、奴らは俺が引き付ける」

「分かった....お前さんも気をつけるんじゃぞ」

 

その言葉を背にラインハルトは扉に手を掛けゆっくりと開く。

 

外に出て周囲を見渡すが他に賊の姿は見当たらない。

どうやらあの男一人だけが先走ったようだ。

 

マーロイという村人を嬲るように斬りつけている事からその性根が分かると云うものだろう。

急がなければ、すでに他の村人たちも異変に気が付き始めている。

 

ラインハルトは両手に持つ剣と松明を見下ろして、自身に問うた。

本当にこんな物でどうにか出来ると思っているのか俺は。勝算は薄いぞ。

 

だが、やらねばならない。

待っていても死しか訪れないのなら、少しでも俺はもがき続ける。あの絶望しかない戦場で俺は誓ったはずだ。

 

ラインハルトは深く深呼吸をして.....。

 

一気に地面を駆け出す。

 

風のような速さで山賊に迫った。

 

剣を山賊に向けて全力で走る。足音に気付いた山賊は野卑な笑みを浮かべてラインハルトを見た。

馬乗りになって山刀を突いていた山賊が立ち上がると迎え撃つように構える。

彼我の距離がドンドン詰まり、目前に迫った瞬間、ラインハルトは左手に持っていた松明を振りかぶり、勢いよく投げつける。

放物線を描く松明が山賊に当たる直前、山賊は山刀を閃かせ松明を打ち払う。火の粉が舞い、山賊の視界を一瞬だけ炎が隠した。

 

瞬き程の死角が生まれたその隙間を縫ってラインハルトは剣を突き刺す。山賊の目が見開く。

 

「グッ!」

 

ラインハルトの手に肉を裂く感触が伝わる。山賊の脇腹に細身の剣が突き刺さっていた。じわりと血が滲む。

 

どうやら上手くいったか。ラインハルトは軽き息を吐く。しかし、

 

「馬鹿が勝ったつもりか!」

 

なんと山賊は脇腹に刺さった剣をものともせず山刀を振りかぶってきた。

 

「っく!」

 

咄嗟に剣を抜き山賊の攻撃を防ぐ。ガキンと重い一撃がラインハルトの肩に圧し掛かった。

ダメージを負っているとは思えない山賊の力に苦悶の表情になる。

 

「ダメだぜ?殺るなら心臓か頭を狙わなきゃ。確実に致命傷を与えないとな.....!」

「.....そのようだな。――フッ!」

 

ラインハルトは剣身をずらして山刀を受け流し、斬りつけた。

山賊の男は躱そうとするがラインハルトの剣速が思いのほか早く首筋をかすめ血がパッと散る。

 

的確に首を狙った一撃に、山賊の男は笑みを浮かべた。

首に触れ付着した血を楽しそうに眺める。

 

「.....やるなあ。聞いてたより全然強いじゃん、先に俺だけ来て正解だったぜ。だからよお、俺を楽しませてくれ!」

 

狂声と共に男は踏み込む。ラインハルトもまた迎え撃つ態勢となり剣を振るった。

直剣と湾曲した山刀が切り結び甲高い金属の音が反響する。

 

それは村中に響き渡り、もはや村の人々全員が異変に気づいていた。

 

驚愕の表情で遠くから眺めている。

 

何が起こっているのか理解できないと云った顔だ。

 

「なにが、なにが起きてるんだ!?」

「あの二人はいったい!??」

「あそこで倒れているのはマーロイじゃないか!?」

 

村人達の混乱が全体に伝播しようとしていたその時、

 

「静まれい!!!」

 

青天の下に雷が落ちたかと思わんばかりの一喝が村人達の耳を打った。

全員が注目する。

 

「おちつくのじゃ皆の衆。今は冷静になれ」

「アム爺.....?」

 

村の若者にアム爺と呼ばれた村長は村人全員を見渡して言った。

 

「たった今村は賊に襲われておる....落ち着け!」

 

ざわめきだす村人たちに村長はもう一度声を声を張り上げた。

 

「なにも不安がることはない、軍人さんが儂らを守ってくれておる」

 

山賊と今も戦うラインハルトを見る村人達。

村人は激しい功防を繰り広げるラインハルトを見て落ち着きを取り戻す。ラインハルトの存在は村人全員に昨夜の内に知れ渡っていた。

 

「儂らは冷静に行動すればよいのじゃ、よいかよく聞け!今すぐ儂らは裏手の丘に移動する。そこまで逃げこめば助かるのじゃ.....みな理解したな?」

 

村長の言葉に耳を傾けていた村人達はしっかりと頷く。

 

「ならば行動せよ、さあ早く!」

 

その言葉を皮切りに村人達は動きだす。

慌ただしく謙遜が響き渡るがパニックにはなっていない。それを確認した村長は数名の男達に声をかける。

 

「セム、マルセあともう何人かは儂に付いて来てくれ、マーロイの家族を助けに行く」

 

見ればまだ戦うラインハルト達の傍から離れていない。すぐそばで横たわるマーロイを必死に揺すっているからだ。

考えたくないがマーロイはもう....。

きこり仕事で鍛えたセムとマルセなら抵抗する女性を運ぶことは容易だろう。

 

「わかった」

「おう....!」

 

暗い思いを振り切るように、自分の声に賛同して集ってくれた男達と共に戦うラインハルトの元に向かうのだった。

 

 

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