あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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六十九話

「なんだありゃあ?」

 

それを最初に目撃したのは突撃機甲旅団団長オッサー・フレッサー准将だった。

史上まれに見る巨大兵器同士の大型バトル。

その決着が着いた事を確認したラインハルトは直ぐさま突撃機甲旅団に突撃命令を出した。最も厄介だったあの陸上戦艦モドキを撃破する事に成功した事で、邪魔な障害は取り除かれた。平原に存在する数万そこらの連邦軍を一網打尽にする好機と判断したのだ。

 

その命令を待っていたとばかりに一気呵成に前進を開始する戦車団の背中を見送っていた、途中の事である。ふと何気なく青天を見上げた彼の視線に奇妙なモノが映った。

 

向うの空から何か来る。小さな影が近づいていきた。

最初は鳥かと思った。大量の鳥が群れをなして飛んでいるのだと。

だが時間が経つごとに違和を感じた。

................!

 

いや違うアレは鳥じゃねえっ。デカすぎる!

ぼんやりとした考えを否定する。

懐から双眼鏡を取り出してようやくその全容を捉えた。

鉄の機体が雲の上を飛んでいる。

鳥だと思っていたがその形状はどちらかというとトンボに近い。

大きな羽を広げている。間接部には四つのプロペラ。

腹の部分が異様に膨らんでいて、見るからに重々しい成りをしている。

帝国で主流の『飛行船』ではない。

見た事のない物体だ。しかも飛行している。

ピンときた、そういや前に大将が言ってたな。

 

「あれが噂に聞く『飛行機』ってやつか?実際に見るのは初めてだ」

 

 

 

 

 

***

 

 

この世界で飛行機という存在は珍しい。

 

その存在が初めて確認されたのは第一次ヨーロッパ大戦の終わりだ。

空を飛行する武装兵器という謳い文句でそれなりの話題になった。

一時は各国が注目した兵器だったが当時から飛行船が主流の時代だった事もあり、思ったより開発は進まなかった。帝国では偵察機として使われた時期もあったが、あまりに不良が多かったこと、飛行船に武装を摘んだ方が安価に済むとの代用案が採用された事でいつしかお蔵入りになったのだ。

 

連邦においてもそれは変わりなく似たような理由で消えた数ある内の一つでしかない。

結局、第一次ヨーロッパ大戦終結まで飛行機が実戦に投入されることは無かった。誰からも見向きされなくなった哀れな奇怪品。結果、ヨーロッパ世界で飛行機が積極的に研究される事はなかった。その有用性に当時の人間は誰も気付かなかったのだ。信じられないだろうか?

 

だが時に技術は枝分かれする。

どれだけ先進的な技術であったとしても大衆に理解されなければ失われるのだ。

パラシュートが良い例だ。十六世紀半ばには形にまでなった技術も多くの人間に理解されなかった事で失われ、一時はロストテクノロジーとなった。だが近代に入った事でようやく人々にその有用性が理解されるようになった。

つまりどれだけ革新的な技術であったとしても、それを理解できなければ意味が無い。理解されなければ捨てられるだけだ。

 

だが逆に途中で技術が途切れても、どこかで可能性の種子は芽吹く。

先進国である帝国と連邦が理解できなかった技術も、別の国では驚くほどの発展性を見せる。

 

そして飛行機という存在に活路を見出した国がある。

それは飛行機を世界で初めて作り出した発祥の国だ。

三十年の歳月をかけてその国は秘密裏に種子を芽吹かせた。

長い時間をかけて花開いた兵器は空に君臨する暴虐の化身に生まれ変わる。

その成果を世界に見せるため、とある戦争に送り出した。

恰好のお披露目の場、それは――第二次ヨーロッパ大戦である。

 

 

 

 

 

――流麗線を描いた飛行機の鉄の腹がゆっくりと割り開かれる。

中に詰まっていたのは黒光りする種のような物だ。それらは全て爆弾だ。数キログラムの火薬燃料が詰められている。他には何もない。それらを降下させるシステムは全て自動化されていて、搭乗員が僅かばかり居るだけだ。

およそ百の黒い火薬の種子が整然と並んでいる。まるでその時が来るのを待っているかのようで、

無音の静寂がより内装を不気味に映した。

 

 

 

 

 

遥か高度上空で何が行われようとしているのか、

知る由もない地上のオッサーは呑気に空を見上げていた。

せいぜい偵察目的だろうと勘ぐっていたのだ。

帝国で飛行機の信頼性は薄い。そう思うのも仕方ない事である。

そして彼は歴史の目撃者となる。

 

巨大飛行機の鉄の腹から黒い種が零れ落ちた。

 

それは一つだけではない。連なる様に八つの種が降ってくる。

気付いた帝国軍が出来た事は、落ちてくるその様子をただ黙って見ている事だけだった。

帝国と連邦が見向きもしなかった技術の種子。

何回もの誕生と発展を繰り返し生まれたソレは、

まるで世界に存在を示すかのように地上へと向かい。

 

――巨大戦車の頭上に落ちた。

その瞬間――凄まじい爆発が生じる。一気に火花が上がった。

あっという間に火に包まれた巨大戦車はその被害に耐えられず今度こそ内部から爆発を巻き起こす。赤い熱量と空気が張り裂ける音を戦場に居る誰もが聞いた。

 

「こいつはまずい!全員散開しろ――!?」

 

大破した巨大戦車から離れるように指示を出すオッサーが見たものは、

....百を超える黒い種が次々と空より降り注ぐ光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「.....B....ー17爆撃機....だと?」

 

空を覆わんとするその兵器の名をラインハルトは知っていた。

情報媒体でしか見た事がないがまず間違いない。

だからこそ信じられない。あれが存在する事が許容できないでいた。

この世界にあるはずのない兵器だ。

 

なによりあれを連邦が作れるはずがない。

ここは幾つもの偶然が重なって飛行機が発展しなかったヨーロッパ世界だ。

それが世界の常識だった。

もしあれを作り出せるとしたらこの小さな世界の外からやってきた他国に他ならない。

 

「――ビンランド合衆国!......やはり手を回していたか!?」

 

もしやと思っていたが、やはりあの国が連邦の背後に潜んでいた。

B-17爆撃機がそれを証明している。

合衆国とは貿易協定を結んでいた。その内容の数ヶ条に、『両国は一切の軍事干渉を行わない』というのがある。簡単に言えば連邦に兵器を売らない、軍勢を帝国に送らない、という内容だ。

これはヨーロッパ大戦に合衆国を参戦させたくない軍上層部の思惑が絡んでいる。

だがもはや、その協定が遵守されていない事は明白だろう。

 

これで合点がいく。

連邦の劇的な技術力向上の裏には合衆国があった。

他にも色々と手を貸していたのだろう。あの陸上戦艦モドキも合衆国の差し金か。

もっと早く気づくべきだった。

気づいた時にはもう遅い。今から帝国空軍(飛行船部隊)に打診しても間に合わない。

それに飛行船では戦闘機に勝てない。

敵は空の女王だ。四発重戦略爆撃機B-17フライングフォートレス。

何人も近寄れぬ空を舞う要塞。

その身に秘めたる力は凄まじい。

 

数にして60からなる、

空の爆撃機による擲弾降下が行われた結果――巨大戦車を筆頭に一部の前線部隊は破壊された。

数十キロ先の光景は実に凄惨だ。

無防備な頭上を取られて何もできない内に爆撃で幾つもの部隊が爆発に巻き込まれていく。

前線が崩壊していく様子を俺は黙って見ていた。

制空権を取られた時点で勝敗は決まった。

 

「......我が帝国軍の負けだ」

 

 

 

 

 

 

 

ラインハルトが負けを認めた。それを聞いていた本陣が静まり返る。

負ける時はあっさりと負けるものだ。だがそのショックに頭が追いついていない。

誰もが何も言えない中、静かに近づいたのはシュタインだった。

彼は寄り添うように傍に立つと、

 

「私が降伏を願い出ましょう。全てを失う前に殿下はお逃げください」

 

時間を稼いで俺を逃がそうというのだろう。

買出しに出かけてくるかのような気軽さだった。汚名を着るという事なのに全く気にした様子はない。いつもそうだ、何を言われても嫌な顔ひとつしない。たまには嫌だと言ってくれてもいいんだぞ?幼少の頃から仕えてくれて俺を陰で支えてくれた男を置いていかなければならない。

......嫌だな。負けたくない。

 

もっと俺に時間があれば、飛行機を作れていれば、変えられた。

まただ、また俺に力がないからみんなを助けられない。

もう大切なものを奪われたくないから戦おうと決めたのに。

あの時から何も変わっていないじゃないか。

 

「殿下は頑張りました。それは誰よりも私が知っています。貴方に仕える事ができたのは私の誇りです、貴方といた十年間は筆舌し難き眩い時間でした。ありがとうございます。だからこそ貴方は帝国に必要だ――だから泣かないでください私の愛しい殿下」

「泣いてなどいない......っ」

 

顔を見られたくなくて俯いた。

視界が滲んでいる。濡れているのは俺か、地面か。

いつの間にか雨が降ったんだ。

 

嫌だ逃げたくない失うのはもう嫌だ。

どれだけ願っても意味はない。これが戦争だ、奪い奪われる。分かっていた事だ。

それでも嫌なものは嫌だった。だが、

諦めたくないと感情は訴えるが、理性は現実を冷静に受け入れる。

ここからの勝利はゼロに等しい。

 

「俺はお前を.....」

「――失礼致します!殿下にご報告の儀がございます!」

「.....どうした?」

 

ゴシゴシと顔を拭いて本陣に入って来た士官を見やる。

確か通信関係に準ずる任務に務めている男だ。

ラインハルトが認め敬礼を解いた男は、

 

「先ほど本陣に通信が送られてきました。送り主は『左手の男』です」

「なに!?」

 

それは秘密の言葉だ。諜報部隊が防諜対策に使う暗号の一つ。

つまり送り主はギュンター達の秘密部隊と云う事だ。

彼らには幾つかの任務を託した。彼らには悪いがそれは全て無駄になってしまう。

通信は声だけだが士官が紙媒体に写している。

それを受け取って読んだ。

やはり暗号文で書かれている。解読方法を知るのは俺と僅かばかりだ。

三重に隠された暗号を解いて、文章を読み解いた。

理解した瞬間――

 

「馬鹿ヤロウ!死ぬ気か!?」

 

俺の戦いに支障が出るので戦艦に乗り込むだと、何を言ってやがる。そんな事を命令した覚えはないぞ。思わず我を忘れて怒声を上げた。みんなビックリしているが構うものか。

あまりにも無謀すぎる。不可能だ。

死にに行く様なもの。何でそんな馬鹿な真似を.....?

 

 

 

 

―――――――

 

........いや、考えるまでもない。俺を勝たせるためだ。

平原で俺が勝つと信じて、彼らは命を懸けた決死の作戦に挑もうとしている。

こんな俺の為に命を懸けて作戦に挑もうとしている奴らがいる。

 

 

俺は何をしている?何でもう諦めようとしている。

たかが爆撃機が現れたぐらいで何を取り乱している。

こんな事で簡単に諦めるぐらいなら七年前に死んでいれば良かったんだ。

.....でも俺は戦う事を決めた。だから生きる事を選んだ。もうあんな思いをしたくない、

 

「.....死んだ仲間に誓ったんだ。.....だから!

どんなに絶望的な状況であろうと俺は絶対に諦めない!!」

「殿下?」

「戦うぞ俺は!最後まで戦いそして死ぬ!それが俺の信念だ!」

「.......」

「俺の為に戦ってくれている仲間の死を無駄にはできない!だから俺に力を貸してくれみんな!俺達は負けない!この戦いに勝利する!.....だから、こんな俺でも信じてくれるなら俺と共に戦ってほしい!」

「―――承知」

 

シュタインを始めとした全員が膝を落とした。

最も高貴な礼だ。主君と思う者にしかしないそれをラインハルトに行う。

全員の意思は決まっていた。唯一人(ただひとり)を主と認めた時から、この人に付いて行こうと。

絶望した主がもう一度立ち上がると言うならそれを支えるのが我らの役目だ。

ラインハルトは頷き、そして戦場を見据えた。赤く広がる炎を目に、

 

「まずは被害報告だ。先ほどの爆撃による被害を報告せよ!」

「は!――先程の一撃で超重戦車は完全大破!回復は不可能です!それから突撃機甲旅団が壊滅的打撃を受け、フレッサー准将の生死は不明!並び前線部隊は半壊!各所で増援を求める声アリ!それ以外の部隊は現時点で被害は軽微!戦闘継続は可能な状態です!」

「っ.....ならば直ぐさま予備兵力から増援を送れ!被害甚大な部隊は第一防衛線から後退する事を許可する!及び.....特務試験部隊V1を前線に投入!戦線の維持に努めさせろ!」

 

一瞬だけ躊躇したがヴァジュラス・ゲイルを使用する事を決断した。

前線が危険ないま彼らの力が必要だ。

もはや一部の最前線に秩序はない、爆撃の影響で混乱している。危険な状態だ。

今の前線部隊は膨らんだ風船だ。針の一指しで弾けかねない。

もしいま敵の攻撃を受ければひとたまりもないだろう。

そうなればもう戦争と呼べるものではなくなる。

 

「っ!」

 

........もし敵がそれを狙っていたら?

こうなる事を見越していた者が居たら、この瞬間を見過ごすはずはない。

 

そして敵はやはり前線の綻びを見逃さなかった。

既に前線では動きがあったのだ。あまりにも早すぎる敵の動きに、ラインハルトは驚きを見せた。

予想通り敵の先頭は機甲部隊が中心となっている。その布陣に、

あらかじめ爆撃を利用しようとする魂胆が明確に見えた。

 

「まさかこの戦法は.......!」

 

信じられない事だが、どうやら俺は二つ目の歴史的快挙を見届ける事になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

――数分前。

前線から少しだけ離れた位置にその部隊はあった。

 

「....どうやら第一段階は成功したようですね見事なものです」

 

空からの攻撃であっという間に戦況は変わった。

敵の前線部隊はそのほとんどが爆撃の被害を受けて使いものにならない。

 

――目論み通りである。

やはり私の考えは間違っていなかった。

当初は重工業都市の破壊を目的に運ばれて来た爆撃機を一目見た時から、これは戦車戦にも使えると目を付けた。だから准将に頼んでエディンバラ軍に要請してもらったのだ。懐疑的な上層部の思惑とは裏腹に、その答えは目の前にある。エクセレント。

後は煮るなり焼くなり、こちらの自由だ。

ここからはどう転んでも敵に勝ち目はない。

好き勝手に弄ばれて朽ちるのを待つだけの儚い存在だ。

せめてものたむけに、この私みずから介錯してやろう。

 

ふっと笑みグデーリンは背後を振り返り部下達を見据えた。

百の戦車が陣形を組んでいる。

一点に集中した小隊傘形隊形を構える第三十三装甲大隊だ。

これから始まるのは戦争ではない一つのアートだ。思い描くは戦車が織りなす芸術作品。

炎と鉄の協奏曲が鳴り響く最高の総合芸術。

 

「お前達は全員で一つの楽器だ!戦争音楽!私は奏でる『ハーメルンの角笛』を!目の前の障害を叩き壊し私はお前達を楽園に連れて行こう!」

 

その声を兵士達は陶酔した表情で聞く。指揮者に魅せられた観客の様に。

美しき英雄の声は澄み渡り、彼らの胸を打つ。

彼女の勝利の為ならば何だってできる。正に彼らは一つの意思の下、生きた楽器となる。

天才の描きだしたその作品の名は、

 

「進め!これより――『電撃戦』の最終段階に移行する!!」

 

また一つ戦争は次の次元に移った。

 

 

 

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