あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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本編に関係ありません。


幕間「優先すべき物」

天に届かんばかりに聳え立つ高層ビル、何百もの摩天楼。

地面に敷かれた交通地帯を、一瞬の狂いもなく整然と走る何千もの自動車。

そこに暮らす何万もの人々が穏やかに生きる平和な日常。

――俺の意識はその世界にあった。

 

西暦2935年9月11日は特別な日だった。

僕が設計を手掛けた航行艦が人類史初の快挙を成し遂げた日だからだ。

今日の報道ニュースはその事で一色だ。恐らく世界中が同じだろう。

凄い事なんだなと自分でも思うけど、あまり実感が湧かない。

感動はなかった。

 

だから今日の航海式の式典で主要ゲストとして呼ばれていたのに辞退した。

あれが完成した時点で契約は履行された。

.....僕は自由だ。

その事を実感したかったのかもしれない。

 

生まれた時から僕の命は僕のものではなかった。

惑星開発という名目で人工的に作られた命、テラフォーミング後の星に降り立ち生活実験を行うためのプランナーベイビーとして僕は生まれた。研究機関に買われた僕は何度も過酷な実験を繰り返した。脳に負荷を与える事で活性化を促す領域拡張訓練によって、膨大な知識量を植え付ける事に成功した後は、あらゆる知識のインプラント実験に移行する。おかげで色々な知識を有する事が出来た。

彼らが行ったのは天才を作る実験だ。

幾度もの技術革命が繰り返されたこの世界では、もはやナチュラルによって新たな革命的技術の誕生が起きる事はないとされた。既存の人間の脳では限界がある。

 

ならば限界を超えた人間の脳を作れば新たな技術革命が起きるのではないか。

もうこの星だけではまかりきれない程に増えた人類を救う為の新たなる技術の誕生を彼らは僕たちに求めたのだ。そして僕は創った――希望の船を。

生まれた星を棄てるための船をありがたがる彼らが僕には酷く滑稽に映った。

 

沿岸部の気象システムによって完全に操作された穏やかな外気を感じながら、僕は白衣のポケットから球体を取り出し。球体上の――360°三次元虚像投射機を使って空間に画面を展開する。

だだっぴろく展開された画面だが第三者が覗き込む事は出来ない。

虹彩認証システムによって登録された網膜でしか見る事ができないからだ。数十年前に確立された只の覗き込み防止システムに過ぎず。これは何世代も前の携帯電話だ。

今は埋め込み式インターフェースが主流だが僕はそれが好きではなかった。

本当に機械になってしまう感覚があったからだ。

 

僕は――いや俺は素早く投影鍵盤に指を叩き込む。

検索結果――画面上に俺の知りたい事が映し出されていく。

羅列された文字と図を眺める作業に耽る。

 

このビルの屋上に来た時はいつもこうしていた。

研究に行き詰ったり悩んだら此処に来て空を眺めていたものだ。

人口物に囲まれたこの世界では空だけが心の拠り所だった。

 

だが今だけは空に目も向けず一心不乱に何かを読み込んでいた。

この世界の俺ではありえない事だ。

 

「...やはりここは....夢か」

 

それにしてはリアルな夢だ。

意識がハッキリしている。本当は現実はここで、今までが夢だったのかもしれない。

そんな事を考えて首を振る。ありえない、俺はラインハルトだ。

その証左にあの世界で培った記憶が存在する。

あの世界で戦った記憶が偽りのはずがない。

だからこそ俺はこうしてデータリストに目を通しているんじゃないか。

 

「あの世界で生き残る為の策が夢の中にあるというのも皮肉な事だがな」

 

とある設計図に目が止まる。

そこにはどうしても俺が知り得たかった技術が書かれていた。

この機構ならば彼らは死なずに済んだ。

 

「後悔するのは終わりだ。やるべきことは一つ。――この世界の情報をまとめて、あの世界で反映できる技術を探し出す事だ。.....光学スキンは技術的に不可能だな。光学迷彩機を作る時間もない.....光学塗装か、これなら直ぐに実用可能だ.....武器は」

「――飛翔技術工師?さっきからブツブツと何をしているんですか?」

 

疑問の声を掛けて来たのは細身の青年だった。

同様の白衣を着た彼は俺の行動を興味深げに見ていた。

彼は俺の助手だ。そして同じプランナー出身でもある。

 

「なんだ助手君か驚かせないでくれ」

「さっきまで一緒にぼんやりと空を見ていたくせに。いきなり起きたかと思ったらIFを機動して.....珍しいですね調べものは『SARS』ですか」

「そうだが.....俺は生前、君とこんな話をした事があったか?」

「何を言ってるんです?変ですね自分がまるで死んだかのように言って」

「だってここは夢の中だろう?」

「......寝ぼけてるんですか?」

 

呆れた目で俺を見て来る助手君を見ていると本当にここが夢の中か自信がなくなるな。だがここは俺が見ている夢のはずだ。どういう原理が働いているか知らないが奇妙な夢だ。

そう思っていると助手君はおもむろに言った。

 

「......でもまあここが夢だろうと現実だろうと変わらないですよ。私が見ている現実と飛翔技術工師が見ている現実が全く同位のものであるという保証はありませんからね」

「.....胡蝶の夢か」

「そうです、この世界は現実かもしれないし、只の夢幻かもしれない。あるいは同じか、全く違うモノなのかもしれない。それは誰にも分からないんですから、だったら考えるだけ無駄じゃないですか」

「.......そうだな、俺達はただ受け入れる事しかできない、この世界でもあの世界でもそれは同じだった」

 

この世界の記憶をもって生まれて来てしまった。

それに抗う術は無く。ただ受け入れ、乗り越えていくしかない。

 

「それで、なぜ貴方がSARSに興味を?専門外のはず」

「それは....いわば夢だな」

「夢?」

「俺の望む夢だ。守りたいもの。死なせたくない人がいる。その為にこの力がいる」

 

この世界の技術を流用してSARSを強化する。

.....『SARS』とはつまり。

 

――と、その時、頭上を五つの影が横切った。

凄まじい速さで街を超えていく。戦闘機かと思ったが違う。

それは五体で一つの編成を組んでいた。

街に入った事で減退しながら空を旋回している、ようやく目に映った。

 

六枚羽を背中に背負った天使のような形をしている。

全長五メートルの鉄の巨人は、その右手に超高圧縮電磁リコイルガンで武装していた。目立った所以外でも幾つもの凶悪な兵装が内臓されている事を知っている。

 

「東インド共和国製の国旗にあの機体カラーから見て現行主力機『ヴァイシャ』かな?」

「いやよく見てみろ宇宙仕様の六枚羽だ。最新鋭の光式線銃が内臓されている。

.....つまり恐らくアレこそが世界最強のSARS――ヴァジュラだ」

 

神の装飾品を冠する雷の炎。

そう呼ばれる由縁はその破壊力にある。物理的に傷つける事は不可能な金剛の鎧と、たった一機で戦艦に匹敵するバラモン級の武装。数少ないバラモン級の中でもヴァジュラはその上をいく戦略爆撃型兵器だ。本来は縦横無尽に空を舞い、上空高度からの殲滅を行う。

俺があの世界で再現できたのは骨格だけ。真のヴァジュラの十分の一も再現できていない。

 

彼我の技術格差は天と地だ。

あまりにも遠すぎる。空に浮かぶヴァジュラを見て強く思う。

――だが、いつか必ず届かせる。

でなければこの先、俺があの世界で生き残ることは出来ないだろう。

連邦、帝国、合衆国、これらの敵を相手するにはヴァジュラを真の姿に近づけるしかない。それを先の戦いで強く思い知らされた。

平和というものは信頼できる他国と握手を交わして実現するものではなく。

圧倒的な力を持った唯一国が他国を抑える事で実現する。

それが最も被害の出ない平和の作り方だ。

戦争を終わらせる兵器、それがヴァジュラだった。

 

「夢と言えば.....ようやく僕の夢が実現しそうなんですよ」

「助手君の研究は確か....『次元跳躍に関する空間の移動』だったね」

「はい簡単に言えばワープ装置です。惑星間の平行間移動を目的とした試作機第一号が完成しました。その被検体には是非飛翔技術工師に――いや先輩にお願いしたいです!」

「君の研究もまた人類史に大きな発展を促す事だろう。その一助になれるのであれば喜んで引き受けよう。.......あれ?」

 

デジャブだ。前にも同じ話をした気がする。確かあの時もこの屋上で夢を語り合ったのだ。

この世界の記憶に引き寄せられているのか。

そもそも俺はなぜ記憶をもって生れて来た。何かしらの理由があるはずだ。

それは助手君の研究が関係している可能性が高い。

彼の実験は同位階の次元を跳躍するものだ。

もしかしたら平行世界を渡る事も不可能ではないかもしれない。

彼の実験で何かが起き魂だけが次元の壁を破ったとしてもおかしくはないだろう。

 

分からないのは思い出せないからだ。

全ての記憶を引き継いだわけではない。中には失われたものもある。

忘れてしまった事もあるだろう。

 

思い出せば俺がこの世界の記憶を持って生まれてきてしまった謎が分かるのだろうか。

解明するのも面白いかもしれない。そう思ったが結局は――もうどうでもいい事だ。

その謎を知った所で無意味だ。

俺が何者だろうと関係ない。

それでも構わないと言ってくれた人が居る。あの世界が俺の居場所だ。

 

「――だからもう戻るよ」

 

そう言うと世界は緩やかに崩壊していく。

夢から覚める時だ。

薄れゆく視界の中で最後に見たのは宇宙を目指す巨大な艦の光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

懐かしい夢を見ていた。

もう見ることは無いと思っていた世界の景色に郷愁は湧かなかった。

あの世界で生の実感を覚えた事がなかったからだ。

言うなれば無機質。道具として生かされていたから研究を達成しても何の喜びもない。

だけどここなら俺は人間として生きていられる。生を実感できる。

目を覚ましたラインハルトは体を起こして窓を見る。

まだ朝日が昇り始めたばかりなのか外は暗く夜空が薄ら白ばんでいる。

珍しく寝起きが良い。――いや良くはなかった。

 

「っ!」

 

突如激しい頭痛に見舞われたからだ。

頭を押さえるが、脳みその中に直接注射器で異物を注入されているような感覚だ。痛みは微塵も和らがない。のたうち回りそうになる苦しさを耐えること数秒間。始まりも突然だったが終わりも呆気ないものだった。一瞬で痛みは消え去り通常の感覚が戻って来る。それが何だったのかラインハルトは既に知っている。

記憶の流入だ。

あちらの世界の記憶が流れ込んでくるのを脳は自動的に防ごうとする。

その際に防衛反応として生じる痛みだ。

 

子供の頃はこれが毎日続いた。

死んだら楽になれると数えるのも馬鹿らしい程に何度も思った。

事実あの人が助けてくれなかったら自殺していただろう。

抱きしめてくれたあの温もりを俺は生涯忘れない。

あの柔らかな――

 

「.....柔らかな?」

 

気づいた。頭を押さえる手とは別の方の手が何かを掴んでいる。

ふわふわと苦痛から逃れた手を優しく包み込んでくれている。

覚えがある様なないような。不思議な手触りだ。

何だこれは?部屋が暗くて良く分からない。

ジッと見てみるが視覚情報での判断は難しい。ならば触感に頼るしかない。

何度も執拗に揉んでみる。

押せば沈み力を抜くと反発してくる確かな手ごたえに何故だが無性に癒される。

男の本能を刺激するような誘惑に満ちていた。前にもどこかでコレに触れたことがある。だが分からない。

――ありえない!1000年後の情報をインプラントされた俺の知識ですら理解できない体感情報だと!?

驚愕を拭えない。そんな情報がこの世には存在するのか。

驚天動地の俺を無視して手は自然と動き続ける。

 

この手は何をやってるんだ。

完全に独立した器官となった手に見切りをつけて俺は昨晩の記憶を必死に思い起こす。直ぐに思い出せない。恐らく記憶の流入による軽い記憶障害のせいだ。前にもこうなった事がある。その時は丸三日間の記憶が欠落していた。

 

確か昨日は勝利を祝う祝賀会が行われていて、ぬけ出した俺の元にセルベリアが来た。

そして語り想いを告げ合った。お互いの想いは結ばれ口づけを交わし、その直後に現れた闖入者を取り逃がした。その後は?――

長年の想いを成就させた男女がする事は一つだ。

熱くたぎった体は水を差された事で冷えるどころかより燃え上がり,本能の赴くままに俺は彼女を部屋に連れ込んだ。ベットに倒し濃厚な口づけを交わした後はお互い獣のように求め合ったのだ。

 

昨晩の情事を思い出した俺はゆっくりとソレから手を離した。

本能が抗議の声を上げるが、何とか理性で思いとどまる。

昨晩の続きをしたいのはやまやまだが、流石にこれ以上、彼女に負担を強いるわけにはいかない。

やがて朝日が顔を出し部屋の中に光が入る。

 

やはり一糸まとわぬ姿の彼女がそこに居た。

あどけない顔で寝ている。幸せそうな表情だ。

まさか横の下衆に乳房を執拗に揉まれてたとは思わんだろう。

罪悪感に苛まれる。

とうとう彼女を穢してしまった。本当に俺なんかで良かったのだろうか。想いを告げられた後でもそう思ってしまう俺はきっとダメ野郎だ。

彼女は俺を愛してくれた。ならば俺も全身全霊をもって彼女を愛そう。

それが俺に出来る唯一の責任だ。

 

.....それにしても。

ベットの惨状を見て一言、

 

「やり過ぎた」

 

別の意味で頭が痛い。

何の計画性もなく彼女の中に出してしまった。マズイ、コレは本当にまずい。もしこれで彼女が妊娠してしまったらどうする。いや、その時は祝福するつもりだが。

彼女は俺が保有する最強の戦力だ。

そしてこれからも過酷な戦いは続くだろう。彼女の力が必要になるのはまず間違いない。それなのに俺が彼女を無計画に妊娠させてしまえば、俺だけじゃない彼女自身も含めて周りが危険に陥る。

 

それだけは阻止しなければならない。

だがそれが最も難しい事を既に実感している。

彼女とセックスをした事で分かった事だが、肉体的な性の接触を知った今、彼女に手を出さない自信が全くない。というか絶対にまた俺は彼女を抱くだろう。もう既に肉欲の衝動が理性をつつき始めている。まさか生殖行為がこれほどに俺の精神に負担を掛けるとは思わなかった。

何度も抱けばそれだけ妊娠する可能性が増してしまう。

 

.....もう一度言おう。

これから先、俺を巻き込む状況はより過酷なものになっていく。

宿敵である連邦との戦争は終わりが見えず、その背後にいるであろう合衆国にも目を配らなければならない。そして敵は恐らく俺の後ろにもいる。味方であるはずの帝国もまた信用できない。

だから俺は力を溜めてコレに備えなければならない。

その最たるものが俺のもつ『未来技術』だ。

この技術を要して状況を打破していく事になるだろう。だが未来兵器の再現には時間がかかる。いまある最高の設備と俺の知識を有しても再現には年単位は必要だ。

ならば今すぐに研究開発に取り掛かるべきだろう。

それだけ早く兵器が完成する時間が短縮するのだから。

 

だが物事には優先順位がある。

何を先に作るべきか、何を後回しにするべきかだ。

これを間違えれば膨大な投資と浪費を無駄にする事になる。

時に上に立つ者は最も的確で無駄のない答えを選ばなければならないのだ。

そして今の俺に必要な物は新機構導入後のSARSでもなければ、ましてや宇宙戦艦でもない。

現時点で最も必要な未来技術、ソレは――!

 

「――避妊具(コンドーム)だ」

 

大真面目な顔でそんな事を言った帝国の皇子(上に立つ者)が居た。

セルベリアはまだ眠っている。

かくしてラインハルトの挑戦は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




壮大に始まった下らなくも真面目な話。
なお番外編。

R18版はこちらから
https://syosetu.org/novel/175324/1.html
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