あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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四話

交易都市メルフェアの一角に位置する防衛機能、ガリア義勇軍本部(仮)。

本来はガリア正規軍が管理する其処は現在、ガリア義勇軍が駐屯する施設となっている。

来るべき反攻作戦に向けて、着々と兵力が中央に集められているからだ。

 

聞こえはいいが、つまり軍は中部以外を放棄したとも言える。

手薄な場所は義勇軍に当たらせて、せいぜい時間を稼ぐがいい。

つまりはそういうことだ。捨て鉢にされた。

そう考えるのが自然だろう。

 

だから驚いたものだ。

ガリア義勇軍がクローデンの森を奪還したという報せを聞いたときは。

酒場ではガリア軍が有利だとは言ったものの、実際にやるとでは違う。

成功する確率は低いと考えていた。

 

その作戦を行った指揮官とは、いったいどんな奴なのだろう.....。

 

 

 

「....それでその魚には雌雄同体といって、日に何回も性別が変わるものもあるんだ!」

「ほう.....興味深いな」

「そうだろっ僕もそれを知ったときは感動したよ!生物には不可能なんてない。そう思ったんだ」

「同感だ、生物にはまだ我々の理解の及ばない未知の領域がある」

「そうそう、この前森で珍しい生き物を発見してね....」

 

道すがらラインハルトは少女の兄と話をしていた。というか意気投合していた。最初は普通に世間話程度だった。それが気づいたら専門的でマニアックな題材に切り替わっていたのだ。彼の知識は幅広く、動植物から海洋生物まで饒舌に語りつくす。感心しきりに相槌を打つラインハルト。まるで学友のようだ。

ラインハルトも妙な食いつきを見せたのがいけなかった。

どんどんと良くわからない話で盛り上がっている。

後ろで見ていたイサラとイムカは呆れた様子だ。

 

「もう兄さん....」

「ハルト.....」

 

二人は見合って苦笑した。

 

しかし....イムカの心中は穏やかではいられない。

ラインハルトは確かにこう言った。

ガリア義勇軍本部に連れて行ってくれと。

 

本気だろうか。帝国の皇子が敵国の軍に訪問しようなんて。

獣の巣に無手で足を踏み入れようとする程の蛮行だ。

いったい何の目的で.....。分からない。

 

緊張する鼓動を無理に押さえつける。

もしもの時は.....。

この時、イムカは死を覚悟した。

 

そんな事を知る由もない俺は少女の兄と爬虫類の骨数について熱い討論を行っていた。

それから十分ほど話しただろうか。

気づけば義勇軍本部の前に着いていた。

 

ラインハルトは名残惜しいが彼らとはここまでだな、と思い二人に別れを告げる。

 

「面白かったよ」

「イサラを助けてくれてありがとう。このお礼は必ずするから」

「いや、話を聞けただけで十分だ」

「.....兄さん」

「うん分かってる」

 

ギュンター兄妹を見て、ラインハルトは少しだけ懐かしさを覚えていた。

それはもう戻りはしない過去の記憶、二人で話す兄弟の姿が重なって見えた。

....憧憬か。いや違う。俺は取り戻す、その為にここに来たのだから。

 

だがこの二人とは、

きっと、もう会うことはないだろう。

この戦時下だ。簡単ではないだろうし、俺の正体を知ればどの口が言うのかと思うだろう。

だが、できればこの兄妹が無事に過ごせることを切に願う。

 

 

**

 

 

ゲート前に立つ門番に話しかける。

責任者に会いたい旨を伝える。アポイントは昨日の内に取ってある。

商会の男が手を回してくれた。

とはいえ昨日の今日だ。

門前払いされる可能性も視野に入れてある。

義勇軍とはいえ、いきなりの訪問者を入れるほどザルではない。

......と思ったのだが、

 

待たされること一時間後、

なぜかとんとん拍子で話は進み。

あっさりと敷地内に入ることを許可され、

 

そして現在、俺は義勇軍第三中隊長エレノア・バーロット大尉の前に立っていた。

望んでいたのは俺の方だがここまで上手くいきすぎている状況に逆に戸惑いを隠せない。

誰の差し金だ。裏で働いた力があるのは確実だ。

 

まさか彼女か....?

いやしかし、一か月余りで手を回す余裕があるとは思えない。

この封書を手に入れるだけでも手間がかかったはずだ。

考えに没頭していると、

 

「つまり話の内容というのは商隊の護衛という事でよろしいのでしょうか。えー.....」

「....ああ、失礼した。私は商会代理の者でハルトと申します。

はい、商隊というほどのものでありませんが、近況を鑑み、安全に商品を王都に運ぶ為にも、ガリア義勇軍のお力をお借りしたい」

 

ガリア公国に入った当初より単独行動は危険と判断していた。

――ガリア軍に護衛してもらう。

それは何も帝国軍から身を守る為だけではない。

ガリアに正体を補足されるのを避ける為でもある。

まさかガリア軍に護衛を頼むのが敵であるわけがない、そう思わせる事で身分の隠蔽を行うのだ。軍と共に行動することが保証にも繋がる。それだけではないが。

 

「.....連邦内で護衛は募らなかったのですか?」

「火急の用ですので傭兵を雇う時間がなかったこと、

ガリア国内の情勢を把握しているガリア軍の方が安全性が高い事を考えての判断です」

「それではガリア正規軍に頼む方が良かったのでは?」

 

質疑応答を淀みなく答えながらラインハルトは思う。

少し警戒されているな。

こちらの動きを読もうとする節が見える。

ならば隠すよりもここは正直に話すか。

 

「彼らではダメですね」

「ダメ?」

「エリート部隊でしょう?昔からそうなんですが、ソリが合わないというか、上から目線で見下してくるじゃないですか、嫌いなんですよ。そういう奴らが」

「......それだけですか?」

「?はい」

 

はて?何かおかしな事を言っただろうか。

エレノア大尉が肩を震わせている。横の士官も同様に。

 

....ああ、同胞の悪口を聞いて怒らせてしまったか。

 

「申し訳ありません、同じ国家に従事する仲間の事を嫌いなどと」

「いえ、分かりました」

 

分かったのか。

先ほどまでの鋭利な視線とは打って変わり、

探るような気配は穏やかなものになっている。

目には共感の色すらあった。時に正直に話すことが正解の場合もある。

これは上手くいったか?

 

「護衛の任は請け負いましょう。ですが申し訳ありません。

近隣から部隊を招集するのに最低でも二日はかかる予定です。

それまで滞在して頂きたいのですが」

 

ま、そう上手くいかないか。

帝国軍の攻勢を考えれば足止めはこちらの首を絞めかねない。

....仕方ない。当初の予定通りコレを使うとしよう。

 

「なるほど。しかし我々にも事情がある。....仕方ありません。

これは内密にお願いしたいのですが、今回、我が商品の送り届け先は特別でして.....」

「.....特別とは?」

「コレを」

 

そう言って取り出した蝋がされた封書を机上に置く。

朱蝋に押された家印を見て、エレノアの目つきが変わる。

当然だ。これはガリア公国でも有数の名家が作成した本物の書状だ。

 

「これは....」

「お分かりいただけましたか?」

 

それがどれほど重要な物であるか知らないはずがないだろう。

それを手にする俺の立場を理解したはずだ。

暗にラインハルトはそう告げた。

 

そうラインハルトはこの街に来る前から幾通りもの策を練っていた。

きっとこうなるだろう、と予測し。その解決策をすでに得ていたのだ。

それも俺一人では実現できない。

心強い仲間が居ればこそ。

彼女が危険を冒してまで手に入れてくれた物だ。有効的に使わせてもらう。

エレノアは緊張した面持ちで封蝋を破り、

 

「....ふう」

 

書状を読み終え、長い沈黙の後にため息を吐く。

そして貫くような視線で俺を見た。臆さず見返していると、何度か頷き。

まるで悪戯を仕掛けた子供を見る様な、しょうがないと云った感じで笑みを浮かべる。

 

「分かりました。協力します。貴方の要望に従い、

直ぐに手配しましょう。何か他に必要な要望があるなら可能な限り用意しますが」

「ありがとうございます。では一つだけ。

護衛の部隊は少数精鋭であることを望みます。....お分かりいただけますね?」

「はい、それほどに重要な積荷ということですか。

.....分かりました自慢の部隊を用意させていただきます」

 

本当は重要なのは積荷ではなく人の方なんだが。

上手く誤解してくれた。

そうなるように誘導した当の本人は悪びれた様子もなく。

ことのなりゆきがスムーズに行って満足していた。

だが、ここで一つだけ誤算が起きる。

エレノアが付け加えるように言った。

 

「ですが、その必要はないでしょう...実を言うと、もう部隊の目途は経っているのです」

「それは.....」

 

どういう意味だ。ラインハルトは怪訝に思った。

何か計算違いな事が起きようとしている。

俺は何を読み間違えた。分からない。

 

「貴方と対談する前に、一人の士官が訪ねて来たのです。

もしも彼が護衛を必要とした時はそれは自分の部隊が行います.....と。

.....入りなさい」

 

その言葉で後ろのドアが開く。

その人物を見てラインハルトは驚愕する。

入ってきたのは先ほどまで一緒に居た男だった。

イサラという女の子の兄で、

名前は.....。

 

「ウェルキン・ギュンター少尉!失礼します!」

 

それは街で噂になっていた、

クローデンの森の帝国軍を打ち破った若き英雄の名だった。

とんでもないミスを侵していた事に気付くも、もう遅い。

俺の顔はというと、それはもう引きつった笑みを浮かべている事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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