あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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感想とかありがとね、読んでるからね。



五話

驚きで声が出ない。

事態を飲み込めずにいた。

こんなことがあるのか?だとすれば運命とは怖いものだ。

まさか先程別れを告げたばかりの優男と直ぐに、軍人の姿で再会することになるとは。

想像すらしていなかった。

 

....本当に偶然なのか?

明らかに意図された結果で生まれた状況だ。

誰の思惑か。それを見極めなければ、この場で詰む。

 

「彼が今回の護衛任務に()()して来た。ウェルキン・ギュンター少尉です」

 

志願という言葉を強調してエレノアは紹介した。

ウェルキン・ギュンター。その名前は一足先に聞いている。

先のクローデンの戦いで一功を立てた部隊長の名として。

酒場でも妙に話題に上がっていた。

不思議に思い尋ねると、ギュンターという姓がとりわけ有名なのだとか。

第一次世界大戦でガリアを救った英雄の名前だからだ。

しかも件の隊長は、その英雄の息子らしいときた。噂にならないはずがない。

 

その若き英雄が、まさか彼だとはな。

いや、ウェルキンというのだったか。

正体を隠す思惑で、お互いに自己紹介しなかったのが裏目にでたな。

知っていれば彼に道案内を頼まなかった。

当然だ。この事態を避けられたかもしれない。

 

「やあ、驚かすつもりはなかったんだ。

どうしても妹を助けてくれたお礼をしたかったんだよ」

 

短い間だったが彼とは道すがら話もした。だから分かる。

この男は人を騙す技に長けていない。

恐らくウェルキンの言葉は本心からのものだ。

だからこそ質が悪い。

読めない。彼らの裏の目的が。

これが敵の罠なのかも判断がつかない。

いや、迷うな。平静を装え。

 

「驚くなという方に無理がある。

君が軍人だったのもそうだが、よく俺の目的を予想できたものだ」

「ほとんど勘かな。貴方のような人が義勇軍を利用するのは用途が限られているからね」

 

それでピタリと的中させるのは大したものだよ。

僅かな時間でここまでお膳立てするとは。

なるほど、確かに判断と行動力は見張るものがある。

クローデンの森で武勲を立てたのも偶然ではないらしい。

 

まずいな優秀過ぎる。俺の正体がバレる可能性がある。

護衛役には標準を望むはずだった。

だが、もはや断れる状況でもない。

毒を食らわば皿までという言葉もある。

飲み込むしかないだろう。

 

「王都までよろしく頼む」

「任せてよ」

 

屈託なく笑う。毒ではないな。

こちらとしては苦笑うしかない。

まあいいさ。手札は先に切っておいた。

今の時点で俺が捕まる心配はない。

想定外の想定内だ。

 

「それではギュンター少尉貴下、第七小隊に命令です。ハルトさんとその小隊の護衛を任せます」

「はっ!」

 

こうして俺はウェルキンと共に王都に向かう事になった。

本当に大丈夫だろうか。

俺は目的を達成できるのか、一抹の不安を感じながらも、しかし、

実はこの兄妹と旅をすることに、嬉しさもあったりするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

 

ラインハルト達が退室した後、

一人残ったエレノアは椅子に背中を預け息を吐いた。

.....こんな事になるなんて。

藪をつついたら蛇が出た。いいや、そんな生易しいものではなかった。

まさか、ここであんな大物の名が出てくるとは思わなかった。

 

エレノアの目に映る一枚の書状。

そこに押されている朱印はこの国の貴族のものだ。

中身も正しく偽造ではない。割札とされるもの。

私の権限で改められるものではない。

 

この紙一枚に込められた権限はそれほどに絶大だ。

その背景に居る存在を考えれば、一介の士官ではどうすることもできない。

彼らに申し訳ないことをした。

 

国境駐在官から一通の警告が来たのが昨日、

その張本人が義勇軍本部に来たという報せを受けたのが、一時間前だった。

当初はそれほど警戒していたわけではなかった。

情勢を考えれば、軍に協力を仰ぐ事は珍しい事ではないからだ。

実際に会って判断を下す、問題なければ通過させようと考えていた。

会う直前になって部下が駆け込んできたのには驚いた。

しかも当の人物の護衛を買って出たのだから尚更だ。

関係は置いといて、その訪問者と会った。

あえて部下の事は伏せて話をした。

 

予想した通り護衛の打診だった。

何度か質問を行ったがどれも納得できる。

不可解なところは感じられない。警戒は薄らいでいた。

しかし、ここでカマを掛けてみた。

部隊を招集するのに時間が掛かると。

案の定彼は渋い顔をした。時間を気にしているようだ。

その間に行われる身辺調査を嫌っての事だろうか。

確かに招集というのはブラフだ。直ぐにでも出せる部隊はいる。

 

通常であればそうしたものも、しなかったのは、やはり国境から警戒せよの報せがあったからに他ならない。この街に滞在させて調べさせようと考えていた。

だが、その考えを相手は読んでいたのだろう。

この書状を出してきた。

書面には、この書簡を持ってきた人物の身分証明を保証するといった内容が書かれていた。

ここで素直に信じられれば良かったのだが、エレノアには一つの違和感があった。

 

――これ程の効果のある手形を、なぜ国境で出さなかったのか?

最初からこれを使って入国していれば、何事も疑われずに来れたものを、なぜここで?

――いや、

あるいは入国前は持っていなかったのではないか。

国内で手形を手に入れる時間は限られているはず、恐らくこの街に居た協力者から手に入れたものだと思われる。計画的な犯行だ。何らかの目的があるに違いない。

それがガリアに不利益を与えないという保証はない。

故に、その目的を私達軍は知らなければならない。

 

なぜなら貴族はガリア国民を守る気などないのだから。

 

しかし、商会とこの手紙の主との繋がりを知る権限が私にはない。

彼とその商会はもう通すしかない以上、その道中で探るしかないだろう。

 

そしてその役目を担うのは義勇軍第七小隊....ではない。

彼らは良くも悪くも民兵だ。その命令は酷というもの。

それに彼らは何も知らない方が良い。

彼らを表に立てれば、こちらの裏の動きをハルトさんは読めないはず。

そう考えればウェルキンが志願してきたのは好都合だった。

 

エレノアは静かに覚悟を決めた。

私の判断が間違っていれば辞職では済まないだろう。

それでも良い。この国を守る為ならば、蛇の巣に手を突きだすことさえも厭わない。

 

副官に命じて秘匿回線を繋げさせる。

滅多に使われない回線であり、特殊なコードでしか繋がらず。

厳重に保護されており、何人もの通信士の仲介の果てにようやく繋がった。

その通信先の相手は、気だるげな声で反応した。

 

「あー?俺さんに何か用かい『女狐』さん」

「相変わらずですねクロウ中佐。お願いがあります、貴方の部隊を借してくれませんか?」

「俺さんの部隊の代わりなんて幾らでもいるだろ」

「いいえ必要なんです。クローデンの森で人知れず活躍したあの部隊が」

 

蛇の道は蛇に通ずるという。

大貴族を背後に控えさせる、ハルトという謎の男の正体を突き止めるには。

ガリア軍諜報部所属ラムゼイ・クロウ中佐のあの部隊しかいない。

 

 

 

 

 

 

 

「懲罰部隊422——

通称『ネームレス』を私に借してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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