あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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八話

その日、ラインハルトと装備を新たにした第七小隊は街道を進んでいた。

旅は大きなトラブルもなく順調だった。

一行が中部地方に差し掛かった頃だ。

戦火の足音がラインハルト達を捉えた。

 

「....音がする。」

 

それは明らかに銃砲の音だった。

前方、それほど遠くはない森の向こうから。

 

「数は....恐らく五百人規模の戦い」

 

イムカが耳打ちする。

それを聞いてラインハルトは思案する。

まず間違いなくガリア正規軍と帝国軍の戦いだろう。

 

面倒だな巻き込まれないよう避けて通ろう。

そう戦車上のウェルキンに提案すると、ウェルキンは少し困った顔をした。

 

「あの森を抜けるのが一番安全なルートなんだ」

 

どうやら他の道は軒並み帝国軍の手に渡っているらしい。

遠回りするほうが危険だという事だ。

ここはガリアの主要な街道、ここが敵の手に渡れば南部と中部が寸断される。

それだけは防がなければならないとウェルキンは言った。

それから直ぐにウェルキンが提案した。

 

「ここは一度、メルフェア市まで戻ろう」

「いいのか?味方が戦っているようだぞ。大事な要所なのだろうここは?」

「君達を危険にさらす訳にはいかないからね。本部に打診して街道の攻略作戦を策案する」

「危険を排除して通るという事か。成程な.....」

 

今度はラインハルトが内心困った顔になる。

それでは時間がかかりすぎる。刻限は迫っているのだ。

しかしそれをウェルキンに言うわけにはいかず。

どうしたものかと考えていると、

 

「誰か来た」

 

イムカの言葉に全員が振り返ると、偵察に出ていたロージーとラルゴ達が戻ってきた。

その後ろに誰かいる。傷を負ったガリア兵だ。青い顔をしている。息も絶え絶えの様子だが、自分の足でしっかりと立ち、ウェルキンの前に来た。

 

「隊長殿とお見受けする。私はガリア正規軍の第三中隊所属エミル少尉です。

.....どうか!我が部隊に救援を!このままでは我が中隊は.....ぐぁっ!」

「おいおい無茶すんじゃねえよ」

「俺は大丈夫ですっだが今も俺の仲間は戦っている。助けに行かなければ。

くそ.....!作戦は成功していたのに.....!」

 

無念そうにそう呟く兵士を支えるラルゴが、道すがら聞いていたのだろう詳細を教えてくれた。

どうやら彼らの部隊は森に潜み、敵の背後を強襲する事に成功したようだ。

そして――混乱し統率の取れない敵に対して、構うものかと攻撃を続けながら、敵本陣を目視するまで接近した。勝てると誰もが確信した。

その時だった。奴らが現れたのは。

 

「奴ら.....?」

「仮面を被った奴らだ。仲間が次々と倒された。直ぐに俺の部隊は瓦解して。

俺は.....逃げた」

 

仮面の部隊。それが彼らの部隊を襲った。

戦局は一変し彼らは森に逃げる事で一命を取り留めた。

しかし森から出られたのは男一人。呆然と佇む中、

そこでラルゴ達と遭遇したというわけだ。

事情を知って第七小隊は彼に同情の様子を向ける。

どうにかしてやれないかとウェルキンを見るが、ウェルキンは首を横に振る。

装備を一新したところでこの数では無理難題だ。

全滅の危険性さえある。

ウェルキンが即是することができないのも無理はない。

しかしエミル伍長も諦めず必死に作戦の協調を乞う。

それがラインハルトの意思を決定づけた。

 

「まだ作戦は生きている!

俺の部隊が敵の背後を取った時を同じくして中隊も正面突破を図る手はずだ!」

「.....それは本当か?」

「あなたは」

「俺の事はいい、それより先の言葉が事実なら.....」

 

この戦い、まだ希望はある。

この作戦の本命が中隊による正面攻撃なら俺たちがすべきは攪乱だけでいい。

危険度はぐっと下がる。成功する確率も生存率も上がる。

つまりは俺達で彼らの代理を行う。

ニヤリとラインハルトは内心で笑った。

 

この作戦が上手くいけば時間をロスすることなく目的地に向かう事ができるからだ。

 

「俺は彼の要請に応える事に賛成する」

 

イムカを含め小隊全員が驚く。

まさか護衛対象の俺から、そんな事を言い出すとは思わなかったのだろう。

ウェルキンだけは黙って俺を見ている。

彼が有能な兵士なら理解しているはずだ。この状況を。

絶好の好機をこの男が見逃すはずがない。

クローデンの森で帝国軍を相手に勝利したウェルキンなら。

 

「....そうだね。僕もそう思う」

「ウェルキン!?」

 

どうしてと詰め寄る副官のアリシアを手で制する。

 

「分かっているよアリシア。

――僕達の任務はあくまで護送が目的だ。作戦続行が難しいと判断すれば僕はハルトさん達や皆を優先する。でもね、可能なら僕は彼らも助けたい。そして第七小隊にはそれができると信じている」

「よく言ったぜ隊長!いっちょやってみるか!」

 

ラルゴが気炎を吐く。

その他の隊員達もだ。味方の窮地にやる気を見せている。

アリシアも頷いた。

 

「よし!第七小隊はこれより戦闘行動を開始する。

各自準備に入ってくれ。第一目標は味方の救出。

情報にある仮面の部隊は未知数の敵だ。心してかかるように」

「了解!」

 

迅速に戦闘準備を開始する第七小隊を横目にラインハルトは言う。

 

「——ウェルキン俺達にも手伝わせてくれ」

「え?——それは」

「足手まといになるつもりはない。俺達は軍属の経験がある」

 

そういうとラインハルトは武器を取り出して見せた。

遠距離兵種—狙撃兵が使うスナイパーライフルだ。

妙に年季の入った武器を取り出すラインハルトを驚いた眼で見るウェルキン。

その後ろでイムカがちゃっかりヴァールの点検を始めていた。

 

この夫婦はいったい....?

ようやくウェルキンもこの二人が只者ではない事を察し始める。

だが今はそれを考えるよりもやるべきことがあった。

 

「....分かった頼めるかい?」

「任せろ」

 

ラインハルトは意気揚々と言った。

今から戦場に向かうとは思えない胆気だ。

こうして第七小隊とラインハルトの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少しづつ投稿できたらいいな。

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