テスト勉強に絶望したラギアが、気分で書いた小説です。
これを見れば、君も作者の好みが直ぐ分かる!
では、どうぞ!
やあ皆!元気かい!?
僕は元気だよ!え?何でそんなにハイテンションなのかって?
好きな子の部屋に居たら当たり前だろう!?
え?何でそんなところに居るのかって?
忍び込んだのさ。ベランダ伝いで部屋を行き来できるって言う特性を生かして!!
今更だけど、俺の名前は
平均平凡なルックスとステータス。両親は共働きで、お互いに単身赴任中。
実質、家には俺一人。毎日細々と、あり得ない位に巨額な仕送りで生き延びています。中学の妹は寮生活。毎年長い休みには帰ってくるけど、今日は普通の土日だ。
今の季節は春。入学式が近くにあった。その日は流石に両親が来てくれたから、物凄く感謝している。
仕送りはもうそろそろ使いきれないで溜めてある分が三百万超えそう。親曰く、
『寂しい思いをさせてるのに遊ぶ金が無いのは可哀想すぎる。そして早く彼女作れよ』
……らしい。後半は思いっ切り余計なお世話である。
さて、現状俺は不法侵入をしようとしているわけなのだけれど。
まあ何とかなるだろう。そもそも、ベランダで行き来出来るのに窓に鍵を掛けておかないのが不用心なんだ。
え?俺?何時でもオープンですよ。
因みにこの部屋、すごく良い匂いがします。世界中がこの香りだったら戦争なんて起きないで、皆幸せなのに。ああ、ずっとこの部屋に居たい。
……この部屋の持ち主は今お風呂に行っている筈。(俺調べ)
なら、ガードの固いあいつの弱みを握るには今この部屋を調べるしかない!行くぜ、いざエデンh
「さて、キミが何をしているのか聞きたいんだけど」
エデンってさ、天国じゃん?
天国=あの世なんすよね。
☆★☆
俺は今、部屋の真ん中で正座させられている。目の前には、ベッドに腰かけた少女。
完全にゴミを見る目で俺を見下すこの少女は、
蒼い瞳に、端正な顔立ち。美少女と言う言葉では足りない位のこの少女は、何を隠そう俺の幼馴染である。
腰まで届きそうな長い黒髪は艶がありつつもしっとりしていて、滑らかに真っすぐ伸びている。新雪の様にきめが細かく白い肌、出過ぎず引っ込み過ぎずのギリギリを攻めた究極のスタイル。
女性の、究極形だろうか。成績も優秀で、運動も出来る。そんな少女がベランダで行き来出来る距離に居るのは、最早奇跡だと思う。
桜とは、物心付いた時にはもう一緒に居た。桜の親と俺の親は仲が良く、良く両親同士で旅行にも行く。飲みにも行く。買い物にも行く。
生まれた病院も、幼稚園小学校中学校高校のクラスも全て同じ。好みも似ている俺達は、しかし一方通行だった。俺の。
「……つまり、ボクの弱みを握るために忍び込んだと」
「はいそうです」
「通報されるレベルだと認識しているかな?思春期の男子が……おっと、発情期の男子が年頃の女の子の部屋に不法侵入してるんだよ?捕まるよ?」
「そこ何で言い換えたんだよ!」
「間違ってないでしょ?昨日だって夜中にごそごそ……」
「見てたの?」
「み、見てる訳ないだろ!」
「ま、まさかネットでモてる男の秘訣調べてたのバレてる何てっ!」
「そんな事を調べてたのかい!?」
正座を崩し、羞恥に悶える俺を見て桜は少し後ずさる。しかし直ぐに、低くなった声が部屋に響いた。
「……モテたいの?好きな人出来たの?」
「いやまあ、はい」
桜ですけどね!
心なしか視線の冷たくなった桜が、ベッドから立ち上がる。俺の横を何も言わずに通りすぎて、ドアのところでくるりと振り返り。
「……おい、何が食べたい」
「桜」
「おっけー、桜並木から枝を取ってこようか」
「冗談ですオムライスで!!」
「お、オムライス?」
「ふわとろ卵で!」
「ええい!キミも手伝え!」
「それは新婚体験ですか?」
「一生結婚できないキミへの精々の手向けさ」
黒髪を揺らして階段を降りていく桜の後を、俺も一緒に付いて行く。部屋を去るのは名残惜しいけど、しょうがないのだ。
だって桜と一緒に料理だもの。ケチャップで『愛してる』とかは定番だよね!
台所に着くと、桜はどこから取り出したのかピンクのエプロンを身に着けて、長い黒髪ストレートをロングポニーテールにする。
余談だけどさ、女の子が髪を結んでるのっていいよね。
特にヘアゴムを口に咥えてる動作。最高だよね。後うなじ。
「何をじろじろ見てるんだ、ほら始めるぞ」
「あれ?お前の親は?」
「今日はどっちも居ない。……因みに、ボクは何時でも通報できる」
「なな何もしねーし!」
「出来ないんだろう」
てきぱきと桜は料理の準備を始めていく。俺は台所の隅っこでぼーっとしているだけだ。
一応料理は出来る。一人暮らしが長いから出来るけど、桜には敵わない。
黒髪ロングストレートと、ポニーテールは最強だと思うんです。うなじやらギャップやらで。
そんな事を真面目に考えていると、桜が俺を手招きする。近づくと、ボウルと卵を渡された。
「割ってくれ」
「あのさ、卵被ってみる気、ある?」
「あると思うか?」
「ですよねー」
馬鹿な話をして、俺は卵を手に取る。片手では割れない為、しっかりと両手で殻を割る。
その間に、桜はチキンライスの準備をしている。料理をしている女の子って映えるよなあ、と思いつつボウルの卵を菜箸でかき混ぜる。白身と黄身が混ざった処で下味を付けて、フライパンに卵を流し込んだ。
「勉強とかは出来ないのに、料理はある程度出来るんだね」
「伊達に一人暮らし長くないぜ」
チキンライスの準備が終わったのか、此方を覗き込んでくる桜。
今は六時で、桜はお風呂から出ている。夕ご飯はこれで足りるかなあ、と高校一年生は悩むのだ。
お腹がすいたら、コンビニに行こう。そう思いながら、俺は卵をひっくり返した。
卵って楽だ。固まるのが早いし、何よりケチャップやマヨネーズなどどんな調味料であうのだから。
数分後。
「うし、かんせーい!」
チキンライスの上にふわとろの卵を乗せて、やっとオムライスが完成した。
さて、オムライスと言えばケチャップが主流だろう。デミグラスも美味しいが、それでは出来ない事がある。
そう!ケチャップで文字を書くことだ!!
皿を二つテーブルに運んで、桜が取ってきてくれたケチャップを受け取ると、俺は早速文字を書き始めた。
出し過ぎないように、丁寧に書く。以外に難しいのがケチャップを出すときにかける圧力だ。
「……何をしているんだい、キミは」
「ちょいまち。……うし、出来た!!」
覗き込んできた桜はポニーテールとエプロンを取っており、ふわりとお風呂上がりのシャンプーの香りが漂う。必死に平静を取り繕いつつ、俺はお皿を両手で持って桜に見せた。
「じゃじゃーん!『桜大好き』オムライスだ!」
「ねえ、それは告白で良いのかな?」
「えっ?……あっ」
「馬鹿だね。本当に。この学年トップクラスのボクに告白する何て。まあ、しょうがn
「学校トップだよ!」
「そ、そこ!?というか人の話を聞いてよ!」
「くっそおおおおおお!!ケチャップマシマシだあああああああ!!俺の胃の中に初恋ごと消えて無くなれ!!」
「えっ、あっ……」
皿を机の上に置きなおし、ケチャップで赤線を二本引く。
スプーンを右手で掴んだ俺は、いただきますとも言わずにそれを食べ始めた。
後ろで何故か残念そうな顔をしている桜を見ると泣きそうになるので頑張って気にしない様にして、オムライスがやっと半分削れる。もごもごしていると、やっと桜が前の席に座った。
ケチャップを手に取ると、静かに何かを書き始める。最後の一口を大きく口に入れたところで、突然桜がお皿を持ち上げた。
「……結城」
「ん?何だ、俺を泣かせないでくれ」
小さく俺の名前を呟くと、桜はゆっくりとお皿を持ち上げる。
見せられるのは、オムライスの表面。もっと言えば、そこに書かれているケチャップの文字で――――
「……す、好きだ?」
「うう~~っっ!!!」
読み上げた瞬間に、ケチャップが飛んでくる。顔面にぶつかりけたそれを何とかキャッチした時には、もうケチャップがかき混ぜられて読めなくなっていた。
「さ、桜ー?」
「うっさい!!」
声を掛けると、俯いたまま桜は声を上げる。
長い黒髪の所為で表情は見えないけど、それでも耳は真っ赤っかだった。
がつがつと凄まじい勢いでオムライスを咀嚼する桜。俺とは一回も目を合わせずに食べ続ける桜を見ながら、俺は思った。
――――あれ、これ告白したら行けるんじゃないか?
そして今夜はあいつの両親は居ない。
だから、
『今夜は寝かせないぜ』
『やだよ眠たい』
……違う。そうじゃない。普通はもっと甘々な展開になる筈なんだよ。
Tシャツ一枚に短パンの寝間着。お風呂上がりの甘い匂いに真っ赤な耳。
恐らく顔まで赤いであろう桜に向けて、俺は全力で声を掛ける事にした。
「桜!!」
「……何さ」
スプーンを持ったままお皿で口元を隠し、ジト目だけを俺に向けて来る桜。
本当可愛いな、と思いながら。ここでは止まれない男、暁結城は率直に思いをぶつける!
「大好きだ!!」
「……ふぇっ」
からんからん、と乾いた金属音を響かせて、スプーンが床に落ちる。お皿は依然口元を隠したままだが、そのジト目は今は無く慌てている様だった。
その中で、俺はじっと桜の目を見続ける。そのまま数秒が経ち、やがて。
「ぼ、ボクは……キミの事が……」
「俺の事が?」
「その、だね。えっと……」
視線を横に流し、俺と目を合わせない様にしながら桜はぼそぼそと呟く。
一言も聞き漏らすまい、と真剣になる俺。躊躇う様に、恥ずかしそうに。でも桜は息を吸い込んで、目をぎゅっと瞑って――――
「き、嫌いj
――――そこまで言って、携帯の着信音に声はかき消された。
俺の耳に入ったのはそこまでで、後は良く聞こえない。しかし、嫌いと言われたのは事実だ。
ポケットに入っていたスマホを取り出し、スライドして電話を繋げる。
掛けてきたのは友達で、俺はスマホを耳に当てて。
『おう結城!ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいか?』
「俺もある」
『えっとだな、入学記念旅行って何時だっけ?』
「来週」
『おっけ、センキュー!じゃあお前の聞きたいことって何だ?』
「三百万で借りれる賃貸教えろ下さい」
『……は?いやいや、お前桜さん大好きじゃん。何で離れるんだよ』
「私は嫌われていた。以上」
『あー、成程。うん。マジでごめん。一応調べておくわ……タイミング悪すぎたんだ俺……じゃあの』
「あばよ」
最後の方、消えかかっていた友人の声。無表情のまま俺はスマホをロックし、ポケットに突っ込んだ。
「……ねえ結城、聞こえた……?」
「うん。『き、嫌い』って聞こえた」
「ええ!?ボクそんな事言ってないよ!?」
「良いんだ……ふへへ、桜と俺が釣り合う訳が無いんだあ」
「結城!戻ってきてよ結城!!」
声を掛けて来る桜に弱弱しく手を振って、俺はリビングを出ていく。そのまま桜の部屋に行き、窓を開けて、ベランダ越しに部屋へ戻った。
ベッドにうつ伏せで倒れたまま、俺は長く息を吐く。
さよなら初恋。
おいでよぼっち。
「ちくじょああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
布団に向けて叫ぶ。熱がこもり、そこだけ熱くなった。ごろんごろんとベッドの上を転がっていると、突然ダガアアアン!! と強く窓が開け放たれた。
「話を聞けええええええええええええ!!!」
「さ、桜!?」
顔を真っ赤にさせながら、走ってきたのか息を荒くさせながら。
それでも桜は俺に向かって指を突きつけ、高らかに宣言する。
「ボクはキミの事を嫌い何て言ってない!『嫌いじゃない』と言ったんだよ!!」
「……え?」
「毎日一緒に学校行くのも楽しいし、お互いの家に遊びに行くのだって好きだ!今日だって嬉しかったんだからな!」
ベランダに足を掛けたままそう叫び終えた桜は、真っ赤な顔のままくるりと振り返る。
長い黒髪が、夜空の中でも麗しく街燈に煌めく。俺の方を一瞥した桜は、
「お休み。結城。……きょ、今日の事は忘れてくれ……」
最後にそう残して、帰って行った。
ぴしゃりと窓が閉じられる。そのままベッドに横たわりながら硬直する俺は、そのままの状態で三十分を過ごし、翌日学校だと言うのにも関わらず宿題をやり忘れるハメになった――――。