俺とクーデレ幼馴染の日常   作:ラギアz

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今回は早いですよ!
どうですか!?やれば出来るんです!(殴(蹴(斬

……すみません。すみません。
これからもこのくらいを維持します……!頑張って!!行きます!!!


俺と幼馴染とお仕置き

 それは翌日の事だった。

 濃密な二日間を過ごした俺たちは、今日は手早く帰る予定である。もう後小一時間でバスに乗って、お別れの時間だ。

 ……こう言うとあれだが、嬉しいですはい。

 早く帰って、桜と一緒に俺の部屋でぐったりしていたい。ゲームもしたいし、何より静かに寝たい!!

 そう、トラブルも何も無い平和な日常を送りたいのである。

 しかしまあ、永大の宣言通り……。

 

 凛が迷子になりました。

 

 そして今、俺は担任に頼まれて桜と共に凛を探していた。どうやら彼女は先生に頼まれて林道の奥にある体育館に忘れた、先生の買い物籠を取りに行ったらしい。で、明らかに戻ってくるのが遅いらしい。誰か様子を見に行ってと言われ、近くにスタンバイしていた永大がすかさず俺と桜を呼び、直ぐに行かせた。

 そう、今現在進行形で俺と桜は林道を歩いていた。目指すは体育館……で、待機中の凛である。

 少しばかり卑怯すぎるマッチアップ。紅月、ごめん。

 

 ザマアとしか思えない俺が居ますごめんなさい。

 

 とは言え、桜と二人っきりなのは男子としても、暁結城としても嬉しい。

 初日、二日目も晴れ続けた空は今日も絶好調。雲一つない快晴の空から降り注ぐ日差しは木の葉に阻まれて木漏れ日を彩っている。木の枝と石が落ちている林道をゆっくりと歩いていも、汗が滲み出る暑さだ。勿論水筒何て物は持って来ていない。

 早くも喉が渇き始めた俺が喉を擦っていると、そっと隣から未開封のペットボトルが渡された。

「……飲みなよ」

「んあ、せんきゅ」

 涼しげな桜に言葉を返してから受け取り、中の温いお茶を口に含む。

 隣の彼女を見れば、彼女はジャージのズボンに体育着(上)を着ていた。腰には長袖のジャージを巻いていて、少し下を向きながら歩いている桜。頬を流れる汗を手の甲で拭う様を見ていると、俺の視線に気づいた桜が手を差し出してきた。

 なのでそっと握ってみた。

「……キミは、何を、しているのかなっ……!?」

「痛い痛い痛い!! 悪かったってごめんって!! 冗談冗談いっつヨーロッパジョーク!」

「アメリカンジョークだろそこは!」

 結構本気で握りつぶされかけた右手をぷらぷら振りつつ、入れ替わりにペットボトルを渡す。もう、と言いながらお茶を一口飲んだ桜は、俺にもう一度お茶を押し付けた。

「どうした?」

「持て。女の子には荷物を持たせないのがモテるコツだと思うぞ」

「わかった全力で持つよ!」

「持ちすぎもウザいけどね」

「どうしたら良いんだよ!」

 辛辣な我が幼馴染は両手を後ろで組んだ。暑そうに気だるそうに、普段は無表情な顔を少しだけ不機嫌そうにしながら。日影があるし、地面はコンクリートでは無いから暑さは緩和されている方だ。一応。

 ところで、ジャージを腰に巻いてる女の子って良いよね。

 あれだからな!!! ジャージズボン履いてるのも絶対条件だからな!!!!!

「ねえ」

 ……と、そんな事を考えていると。

 桜は少し小さく低い声で、俺の方を見ないで口を開いた。

「昨日は随分とボクを放置していたけどどうしたんだい。おい。薪拾いにも行ったんだけど。おい」

「……もしかして滅茶苦茶不機嫌です?」

「不機嫌じゃないよ」

「怒ってらっしゃいます?」

「怒ってないよ」

 明らかに低く、重い声。きっとオーラが見えたら黒くなってるだろう今の桜は、長い黒髪を耳に掛けた。

「ボクが言いたいのはだね。女の子が困ってるのに助けない馬鹿野郎は埋まれって事だよ」

「俺昨日、アイリス助けたぞ。一緒に作業したし」

「初めての共同作業はボクとだからな!! 絶対だからね!!」

「いやまあそりゃあ付き合い長いし……幼稚園くらいに二人で砂山作ったしな。それが初めての共同作業だろ」

 というか埋まれってどこにですかね。何に埋まるんですかね。

 土?やっぱり土なのかな?

「マグマに埋めるぞ」

「それは落とす、もしくは沈めるだと思うんです」

 ギロリ、と透き通った瞳……しかし殺気は凄まじい。に、睨まれて身を竦ませる。コツン、と足元の小石を蹴り飛ばした彼女は、そこで立ち止まった。

 それと同時に俺も立ち止まる。両手を後ろで組んだ彼女は振り返り、余り晴れない視線のまま呟く。

「……構って欲しかったんだよ。言わせんなばか」

 ジト目のまま、上目遣いで俺を睨む桜。

 少しだけ恥ずかし気に頬を染めた彼女は、夏の日差しに、木漏れ日に身を彩られていた。鮮やかな黒髪と蒼い瞳が背景の森林に映えている。どこかの絵画か、もしくは幻想の中から出て来たような美しさ。

 何も言えずに黙った俺に近づくやいなや、桜が背後に回り込む。

 すると、背中にこつんと重さが掛かった。夏の暑さとは違う、優しい温もりのある重さ。

「ボクは独占欲が強くて、嫉妬して、あまり素直じゃないんだけどさ」

 くぐもった声で、桜は言葉を紡ぐ。額を汗が伝い、俺は何も言えずに空を見上げた。

 ただひたすらに広く、青かった。

「……それでも、ボクは結城と一緒に居るのが良いって言うよ。言ったからな。覚えててよ」

 一拍。

「……絶対にね」

 ぎゅ、と体操着が引っ張られた。桜が掴んでいるらしい。その儚い、今にも消えてしまいそうな不思議な雰囲気に心が締め付けられる。

 桜は人間だ。

 何時までも俺の隣に居るっていう確証は無い。今ここで死ぬかもしれないし、俺では無い人と結婚したりするかもしれない。

 急に感じた、幼馴染と言う脆さ。ただ一緒に居た時間が長いと言うだけの関係。

 昨日の、いや今日のだろうか。永大の言葉が不意に思い出された。

「忘れたら、おしおきするからね。怖いぞ。ボクの考えた本気のお仕置きだからな」

「……死ぬだけで済まなそうだな」

「ある意味死ぬよりも辛いぞ」

「なにそれ怖すぎない!? どんな内容ですかね!?」

 今の感傷的な思いを吹き飛ばすように、大きな声を上げる。考えたく無い事から、目を逸らす。

 桜の不穏な言葉の直後、彼女は俺の言葉に少しだけ押し黙る。どうしたのか、と振り返ろうとした瞬間に、突然腕が体に回された。背中に柔らかい体が押し付けられるが、それを意識するよりも先に桜の言葉が響いた。

 

「ボクより早く死ぬな。交通事故でも癌になってもマグマに落ちても、ボクより先に死ぬな」

「ずっとずっと、余生を長くボクが死んだ悲しみを背負って生き抜け」

「それで絶対ボクに会いに来い。天国でも地獄でも追いかけて来い」

「自殺はダメだ。最低限ボクよりも10年は長く生きろ」

「思い出話をして、ボクを楽しませられなかったらまたお仕置きだからね」

 

 途切れて、繋げて。思いを一気に吐露した彼女は更に強く俺を抱きしめる。

 幼い子供がぬいぐるみに抱き着く様に、何かにしがみ付くように。縋る様に、逃がさないように。

 不安だ、と。

 桜の思いが、ひしひしと伝わってくる。語気が強まっていったさっきの言葉も、全部全部それの現れだ。その思いはきっと、傍から見れば自分勝手な言葉かもしれなかった。無謀な言葉だったかもしれない。

 それでも。

「……分かったよ。約束する」

 俺にはそれを、切り捨てる力も思いも強さも無い。桜が死んで、立ち直れるかも分からない。

 

「で、すまん。桜。忘れた」

 

 受け止める弱さ。受け止める事しか出来ない弱さしか無い俺には、きっとこれ以外の選択肢は見つからない。

「……は?」

「お前に何を言われたのかを全部忘れたんだってば。何も覚えてない。お仕置きは怖いけど、残念ながら受けるしか無いな……これから野菜食うよ俺……」

 待ってろトマトアボカド茄子ゴーヤ。克服してやんよ!!

 某さくら荘の引きこもりもトマト食べてたしね。あれやったら間違いなく吐くけど。

「うん。うん。……やっぱりキミ、大分バカだろ」

「何を今更」

 少しだけ笑みを含んだ桜の声音。何時も通りに戻った彼女に安堵しつつ、俺も普通を意識して返す。

「バカだなあ……本当に、もう、ばかだなあ……!」

 震え始めた声を隠すように、桜は言葉を切る。体に回されていた腕が離されて、後ろでは嗚咽が聞こえた。

「嫌だなあ。何でボクがキミの為に死んでまでお仕置きしなきゃなんないのさ」

 やがて聞こえた、一つの声。

 

「ずっと一緒に居たいな……結城より先に死にたくないよ。嫌だよ。ずっと隣に居てよ……」

 

 その呟きは、俺に答える事を許さない。桜は直後、林道を一人で駆け抜けていった。

 

☆★☆

 

 やがて凛は見つかり、先生に少し叱られるも俺に小さくウィンクをしながらバスに乗り込んだ。最後に先生同士の挨拶が終わり、出発。

 行きと同じ、桜と隣の席。彼女は窓際に座ると、俺から顔を背けたまま窓の外を眺める。

 出発してから15分程だろうか。どうやら桜は寝てしまったらしく、隣からは穏やかな寝息が聞こえて来た。バス内では会話が飛び交い、その中に時折混ぜて貰いながら時間を潰す。

 着く直前に起きた桜と共に、夕焼けの我が故郷を無言のまま歩く。因みに桜の荷物は俺が持ってます。

「たぢあまああああああああああ!!!」

 まるでタイピングミスをそのまま放置したかのような叫びに反応して、家の奥からとてとて足音が聞こえてきた。桜とは家の前で別れた為に、勿論家に入ったのは俺だけだ。

「お帰りなさいです、兄さん。ご飯にしますか? お風呂にしますか?」

「それとも……?」

「ぶっ殺しますよ」

「悪かったごめんなさい!」

 俺の妹、暁葵は私服にエプロンをつけ、短い髪を小さなポニテに纏めていた。料理途中だったのか右手にお玉を持ちつつ、冷静な鉄仮面は崩さない。寧ろ崩さないからこそぶっ殺しますよが怖い。怖すぎる。

「まあ。ご飯ですかね。今日は少し豪華ですよ、兄さん。……無事で良かったですね」

 そう言って、微笑もつけて、葵は家の奥に引っ込んでいった。

 リビングに向かうと、もうご飯の準備がされている。出してあるご飯はもう水分が飛び始めていた。

 ……どれだけ前からあいつはここで待っていたんだ。

「兄さん? どうしましたか? ……ってあ、ご飯固いですよね。すみません。変えますね」

「いや、良いよ」

 断ってから、椅子に座る。

 俺を待っていてくれたんだろう。なら、それを無下にする訳には行かない。

 加えて、久々の家だ。ここは楽しく食べる為にも、妹の気持ちを削ぐわけには行かぬ。兄としてな!!

 

 ―――――こうして、二泊三日の林間学校が終わった。

 しかし、夏休みはまだ長い。帰省に海、夏祭り。

 まだまだ、忙しくイベントが尽きない夏は、終わらない――――――。


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