というか明日テストですが。
投稿する。これがラギアクオリティです。
放課後。授業が終わり、ホームルームも終わり。今日からやっと、体験入部期間だ。
鐘が鳴り、俺と永大は立ち上がる。今日どこに行こうかと話していると、桜も此方へ歩いてきた。
「……行こうか」
「うっし、暁はどこいくつもりー?」
「俺は取り敢えず男子テニスかな」
「じゃあ、そこ行くか」
中学時代からやっていた部活だから、一度見ておきたい。入学時に貰ったパンフレットを見つつ、俺と永大、そして桜と見知らぬ女子は歩き始めた。
……
「「誰だお前ええええええええええええ!!??」」
俺と永大の声が重なる。桜の後ろでにへーっと笑っている栗色の髪をポニーテールに纏めた少女は、やっと気づいてくれたか! と言った風に口を開く。
「私は吉相凛だよ!よしあい りん、ね!凛でいいよ!いやあ、桜ちゃんとは出席番号近いからさあ、もう、何なのこの子可愛いいいいい!!ってなって直ぐに話しかけてね、友達になった訳ですよ!今日も桜ちゃんに許可は取っていますしお寿司、一緒に回りまっしょい!」
「……急に話しかけられて吃驚したけどね。悪い人じゃない。良い人でも無い」
「酷いよ桜ちゃあーんっ!」
「きゅ、急に抱き着かないで欲しいんだけど!」
永大は俺と同じくらい、170ちょっと。桜は155くらいでかなり小さいけど、凛と言う少女は160はあるだろう。女子の中でもかなり高身長じゃなかろうか。
さて、さっきから永大がガン見しているが、この少女、かなり大きい。
……どこがとはもちろん言わないが、桜よりも大きい。身長も高いから、その特権だろうか。女子の中でも必ず可愛い部類に入るであろう凛は、ハイテンションで桜へと抱き着いていた。
その分、大きいあれが押しつぶされてぐにゃんぐにゃんと形を変えている。出るところは出ていて、決して太ってはいない。寧ろスレンダーですらある。
「……暁。凛さんと一緒に回ろうじゃないか」
「予定変更だ。バレー部行こうぜ」
「良いだろう。お前とは美味い酒が飲めそうだ」
小さい声で呟きあい、俺と永大は桜と凛に声を掛け、歩き始めた。
しかし、なんというか。
美少女二人と歩いていると、大分視線を集める。桜だけでも一緒に歩いていると滅茶苦茶に視線が突き刺さるのだ。大きい凛は、更にその視線の数を+させている。
パンフレットを頼りに、真っすぐ体育館へと俺達は向かっている。凛は『良いよー!バレーいこー!』と言ってくれたのだけれど、桜はまるでゴミを見る様な目線で俺を見てきた。
直後に凛を見上げて、自分の体を見て、世界最高レベルの回し蹴りを俺に喰らわせて、拗ねて何も言わずに俺の後ろを歩いている。
ここでどこにも行かないのが本当に可愛いのだけれど、それを言えば恐らく正拳突きが待っているだろうから無言を決め込む。
隣には、体験入部や部活をしている女子を品定めしている(本気)永大。こいつの観察眼をもっと別の事に使えたらいいと、何度思っただろうか。
その後、数分ちょっと掛かって。
俺達は、体育館へと着いた。
☆★☆
バレーボール。
ネットを挟んで、六人の人たちがボールを地面に落とさない様に、三回で相手にボールを返す競技。
シンプルだが、細かい技の隅々にその奥深さがある。動作一つを取っても、それを極めるのは非常に難しい。
『東洋の魔女』とも呼ばれた日本バレーは、回転レシーブ(?)が一番凄いのではなかろうか。
まあ、ともかく。
俺と永大の前で凛と桜がジャンプしているのは、とても目の保養になるのは言うまでも無いだろう。
桜は何でも出来る。完璧超人という奴である。
可愛いし、可愛いし、可愛い。家事もお任せ、勉強スポーツなんのその。
スタイルはとても良く、155cm程度なのに胸は膨らみ他の部位はすらっと引き締まっている。
淡雪の様に白く、絹の様にきめ細かい肌。見るものすべてを惹き付ける桜は、今、
「……死ね変態」
「ふぐああっっ!!」
「永大ーー!!」
ネットを挟んで、俺と永大の顔面に神速のスパイクを叩き込んでいた。
どうやらさっきの凛への目線がバレたのか、般若の雰囲気を纏い彼女はスパイクを打ち込んでいる。
しかも俺と永大がどれだけ走り回ろうが顔面にクリーンヒットさせてくるので、逃げ場はない。
というか相手のセッター(凛)がノリノリで良いボールを上げるので、スパイクのキレがやばい。手で叩いた時の音も体育館中に響いている。
「桜落ち着いて!?もうやめて、俺達のライフはもう零よ!?」
「五月蠅い。君たちの腐った眼球を潰すまではスパイクを打ち続けるよ」
「「ひいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」」
「いやあ、桜ちゃんノリノリだねえっ!良いよ良いよ、男子気合見せろー!?」
「「気合以前の問題だよおおおおおおおおおおおお!!!」」
長く綺麗な黒髪が宙を舞う。黄色と青のボールが高く高く上げられ、体育館から逃げようとしている俺と永大の顔面に、それは打ち込まれた。
☆★☆
顔面フルボッコされ、漸く機嫌が直った桜が行きたいと言ったのはテニス部。
ひりひりする頬をさすりつつ、俺と永大はテニスコートへ向かっていた。
「ここ、軟式と硬式あんだな」
永大が呟く。パンフレットを見ると、どうやら軟式は男女別で硬式は男女一緒らしい。
硬式はやった事無いし、ここは男子ソフトテニス部だろうか。
「じゃあ、軟式行くk
「硬式じゃなきゃダメ」
「why!?」
桜に発言を制される。体操服姿の桜は俺の裾を摘まんで、見上げる形で俺を睨んでいた。
その水色の瞳に見つめられ言葉を失うと、桜は顔を伏せて。
「……い、一緒に居れる時間が減っちゃうから」
「ああああああああああああああああああああああああああああああ可愛いなあもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「ううう……!!」
思わず叫ぶ。桜が耳まで真っ赤にさせ呻き、永大と凛はほっこりしていた。
「凛さんや、あそこにイチャイチャワールドが展開しておりますぞ」
「永大さん、あそこのイチャイチャワールドには干渉したらダメよ」
「う、五月蠅い!ほら、硬式テニス行くぞ!」
俺からパンフレットを取ると、桜は早足でテニスコートへと向かい始める。
永大、凛と俺は直ぐに追いかけ、桜に追いついた。
そして。
「桜さんを掛けて僕と勝負しろ!!暁結城!!」
――――マジで、どうしてこうなった。
まて、落ち着いて整理しよう。
まず俺達はテニスコートに来て、硬式テニスに体験入部して、さあやろうかとしていたんだよな。
で、直後にいきなりイケメンの先輩から話しかけられて今に至る、と。
……マジで、どうしてこうなった。
というか借り物のラケット、初心者に先輩が勝負挑むってどうなのさ。
人の話は聞こうとしていないし。というかもう皆試合観戦ムードだし!おい先生仕事しろ。
コートに備え付けてある防球ネットの向こうにはいかにもな先輩の取り巻き女子が居るし。
それに、俺の後ろには桜の事が好きな男子達(同級生+先輩のハイブリッド)は居るし。
肝心の桜は珍しくおろおろして、その後先輩に向けて殺意の籠った視線を向けたまま永大と凛に連行されていった。あいつら後で覚えていやがれ。
………ここで、ラノベとかの主人公ならば相手の先輩をサクッと倒すのだろうが、俺は主人公ではない。
主人公補正も無い。特殊能力も無ければカッコよくも無い、どちらかと言えば先輩が主人公だ。
というか先生ノリノリですやん。試合始まりますやん。
見れば分かる。これイジメやん。
後ろから桜親衛隊の『暁ぶったおせ』コール。
先輩の後ろからは先輩親衛隊の『先輩頑張れ』コール。
半分涙目になりつつ、俺はラケットのグリップを握りしめた。
ここで俺が負けたら桜はどうなるんだろうか。というか三食作って貰ってるし家隣だしで関係は絶対切れないと思うんだけどなあ。
……それ言ったらキレられるんだろうなあ。
先生が大きい声を上げてコールする。初めての硬式テニスに緊張しつつ、俺は先輩の打ったファーストサーブを目で追いかける。
うん。速い、すっごく速い。ルックスが良くてスポーツ出来るとか、マジで爆発しろよ。
そんな事を思いながら、俺はそのサーブを高く高く上げて返す。
テニスの基本技術、ロブだ。
とても自慢にはならないが――――俺は高く上げるロブと、浅く落とすドロップが滅茶苦茶得意である。
「暁結城!……一点目は、僕の物だ!」
先輩が素早くボールの下に移動し、大きくラケットを振り被る。
所謂スマッシュ。桜親衛隊と先輩親衛隊が大きく湧き上がる中で、俺は多分物凄く速いスマッシュを躱そうとコートから逃げ出そうとして。
「……結城、負けたらこれからお弁当無しだから」
その桜の言葉を聞いて、急いでコートに戻った。
当事者という事で、審判をしている先生の傍に居る桜と凛と永大。桜の声で一層『暁ぶったおせ』コールが激しくなる。
『お弁当作って貰ってるとかふざけんなよ!』
『何だよあいつ、○貞の癖に!!』
『おい羅儀亜、それブーメラン!!』
どどどどど童○ちゃうし!?
心の中で叫びつつ、コートに戻った瞬間に先輩がスマッシュを放った。
ドパンッ!! と強い音を鳴らし、凄まじい速さでボールは俺のコートへと突き刺さる。
親衛隊が盛り上がるなかで、俺は桜の言葉を思い出して。
「明日はハンバーグでお願いしますうううううううううううううううううう!!!」
全力で叫んで、先輩のスマッシュをストロークで返した。
ストロークとは、基本中の基本の打ち方だ。それ故に癖がついてしまえば直すのは難しいし、人によって速さも威力も全然違う。
そして、スマッシュをストロークで、それも素早く返すのは難しい。ロブでならまあまあ出来る人は多いだろうが。
ビリビリと手が振動に震える。勝ち誇った顔をしていた先輩の真横を貫いて、俺のカウンターは相手のコートを鋭く駆け抜けた。
「「「「か、かえしたあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」」」
ギャラリーがどっと盛り上がる。先輩が呆然と立ち尽くす中で、俺は小さくガッツポーズ。
先生も、震える声でカウントを宣言する。凛と永大が盛り上がるなかで、桜は一言。
「明日はハンバーグだね、分かったよ。……でも、負けたら無しだからね?」
「桜食べたいってのは?」
「こ、こんな処でそんな事を言うんじゃない!!」
『死ね暁いいいいいいいいいい!!!!』
おっと、後ろから呪詛が聞こえますね。
「くっ!中々やるようだな暁結城!しかし、今のは偶然だろう!?ここからはストレートで決めてやる!」
「う、ういっす」
再び先輩のサーブ。しかしさっきのがメンタルに響いてきたのか、それはそれは緩いファーストだった。
俺は思う。カモだ、と。
跳ねた瞬間に、俺は下回転を掛けて優しく浅く落とす。殆ど跳ねずにツーバウンドした球を前に、先輩は微塵も動けなかった。
親衛隊が騒ぎ立てる。俺はぐっとガッツポーズを決めると、桜に向けてvサインを向けた。
桜も、頷いて返してくれる。殆ど無表情な彼女だが、めんどくさい時と、照れている時。
そして、嬉しい時は表情を変えてくれる。
そこから、先輩の玉は単調になった。
俺とて、三年間遊んでいたわけでは無い。軟式と硬式は確かに違うが、そのギャップが逆に先輩を追い詰めていく。3セットマッチ。1セット目は俺がストレートで取った。
そして、2セット目。俺がサーバーだ。
「……ここまでだ、暁結城。敗北の味を教えてやる」
「敗北?私はその言葉の意味を存じ上げません」
英国初女性首相の言葉を返し、俺はボールを高く高く上げる。
腰を捻り、膝を曲げて。観客がぐっと唾をのみ込む中で、俺は溜めていた力を一気に開放する。
ドパンッッ!!!
……と。音が鳴り響いた。その瞬間にはもうサーブは先輩の横を貫き、後ろにある鉄製の防球ネットへと突き刺さっている。
ロブと、ドロップ。
そしてサーブ。これが俺の特技である。
さっきまで点を取るごとに騒がしかった親衛隊が、今や何も言わずに佇んでいる。俺と先輩はコートの右から左へ移動し、先生がコールをすると同時に。
再び、鋭いサービスが先輩の横を貫いた――――――。
☆★☆
夕暮れ。高校前の桜並木を俺と桜、永大と凛は歩いていた。
もう制服に着替え、桜は機嫌よさそうに俺の隣にくっついている。徐に、永大が口を開いた。
「……いやあ、それにしても凄かったな、テニス。結城、お前本当に入部しないでいいのかよ」
「もうあの先輩会うのヤダ。親衛隊にも合うのヤダ」
「し、親衛隊って……お前どんな名前付けてんだよ」
「いやー!でもでも、本当に結城カッコよかったよー!まさかストレートで完封しちゃうなんて!」
「それな!こいつ負けたらシャレになんねーなとか思ってたけど、勝ってくれて良かったぜい」
永大と凛が盛り上がる。桜並木を通り抜けて、T字路に差し掛かっても、二人はまだその話をしていた。
久々にテニス、しかも硬式をやったがあんなに上手く行くとは思っても居なかったというのが本音だ。
「んじゃあ、俺左だ。じゃあな!」
「私真っすぐ!じゃあね!また明日!」
「俺と桜こっちだ、じゃあなー!」
「またね」
手を振り合って、俺達は三つに分かれる。家が隣同士、ベランダで行き来出来る桜と俺は勿論同じ方向だ。
高校の前の道の他に、俺と桜の通学路にはもう一つ、桜並木がある。
茜色の夕焼けに、薄桃色の花弁が風に乗って舞い踊る。車も人も無い、静かな空間。
幻想的な雰囲気が、俺は好きだった。
「……岡取や凛じゃあ無いけど、結城は凄かったね。あれでも一応あのテニス部のエースらしいよ?」
「へえ、じゃあ俺はエース倒したのか。どうだ、カッコいいだろ」
「鏡を貸してあげようか?」
「要らないっす」
やけに重たく感じるリュックを背負い直し、俺は途切れた会話を気にせず再び桜並木の空を見上げる。
どこからか聞こえる鳥の声。黒い電線が張り巡らされている空の奥に、広がる大空。
風がさわさわと吹き抜ける。歩みを止めないまま、その坂を上っていく。
「………まあ、今日のキミがカッコよかったのは認めよう。不覚にも、ボクはキミがカッコよく見えてしまった。お弁当はハンバーグにするし、好物の甘い卵焼きも入れてあげよう」
「やりいっ!んでんで、桜を食べさせてくれたりは…!?」
「全く、キ、ミ、は~っ!!」
「いたいたいごめんなさい!」
ちらりと目線を送ると、桜が俺の耳を摘まんで下に引き延ばす。痛みから逃れようと、引っ張られる方向に顔が寄せられる。
目をぎゅっと瞑って堪える。しかし桜は一向に話してくれず、俺の顔が桜の顔と同じくらいになった処で、更に強く引っ張られた。
すると、耳元に吐息が触れる。背筋を何かが駆け巡り、俺が声を上げるよりも早く。
「……今日はキミも疲れてるだろう?ボクは逃げないから、安心していてくれ」
暖かい息を耳に触れさせ、長い黒髪から良い匂いをふわりと浮かばせ。
至近距離で、やけに艶めかしく小さな声で桜は呟いた。
「ッッッ!!??」
耳から手が放される。俺が驚き何も出来ないでいると、桜はそっと微笑み。
「だから、これがご褒美」
――――――そう言って、俺の頬へと桜色の唇を押し当てた。
柔らかな感触に、頬が押される。一瞬の接触。眼を瞑っていた桜は口を離して、目を開けて。
「続きは、また今度だ」
蒼い眼を細めて、唇をちろりと舌で舐めた。
くるりと振り向いて、桜は歩き始める。
桜並木に、ピンク色の吹雪が舞い踊り、その中を桜は歩いていく。
その光景に目を取られて。
脳の処理が、追いつかなくて。
そのまま俺はその場で、三十秒間くらい固まっていたのだった。