俺とクーデレ幼馴染の日常   作:ラギアz

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今回は少し早いよ!やったねたえちゃん!!
えー、今回の話はリアル妹居る人なら分かるのでは、と思います。
では、どうぞ!


俺と幼馴染とテスト勉強

 桜が俺のベッドに顔を埋めて唸っている中、葵と俺は床で向かい合っていた。お互いの前にはココアの入ったマグカップが置いてある。我が妹はその淵をゆっくりとなぞってから、口を開いた。

「すみません。ギリギリまで悩んで居たので、帰宅の連絡をするのが間に合いませんでした」

「いや、良いんだけどさ。どうしたの?」

「受験ですよ、受験。私も中学三年生です。高校進学の、公立受験を受けるために帰ってきました」

「ああ……。そっか。そう言えば出願はそろそろか」

「はい。私立の方は今現在通っている私立中の姉妹校にしました」

 そこまで言ってから、葵はマグカップを傾ける。一息吐いて、彼女は言葉を続けた。

「で、公立も受けようと思いまして。散々悩んだんですが、ここは自分の意思を尊重する事にしたんです」

「自分の?」

「はい。この事を学校で話したら全員から反対されたのですが……まあ、仕方ないでしょう」

 葵は顔を上げて、俺の目をじっと見つめた。大事な事を言う雰囲気になったからか、桜も顔を上げている。あぐらを掻いている足が痺れ掛けている中で、

 

「私、兄さんと同じ高校に志願したいと思います」

「えっ」

 

 それはそれは、少し内容が違うものの、聞き覚えのある事を妹は宣言した。

 

☆★☆

 

 中学三年生の頃だ。

 一月くらいの時には、俺はもう志願校を決めていた。偏差値は平均よりほんの少しだけ上の公立高校。今の高校を目標としていたのだ。実は実力的にはかなり余裕があり、切羽詰まった受験では無かったのは救いである。

 そして、勿論同級生に桜は居る。紺色のブレザーに、今と同じくらい長い黒髪。膝より少し上のスカートを履いていた優等生雪柳桜は、昼休みにこう言ったのだ。

「ボク、結城と同じ高校に志願するよ」

 そして俺はこう返した。

「えっ」

 桜といえば、定期テストでは満点を総なめする超優等生。美少女でもあるし、決して人あたりも悪い訳では無い。無表情なのは寧ろ加点ポイントになる当たり、美少女の特権でもあるだろう。自身の力を誇示したりはしない彼女は、先生生徒含め大人気であった。後輩からも同級生からも、一二年の時は先輩からも告白が絶えなかった。

 全部断っていたが。断られても積極的にアタックしている人も居たが。

 まあ、何と言うか。当然の流れで、桜は県内でもトップ校か、私立の県外に行くと思われていたのだ。

 俺も例外ではない。

 あー、これで桜とお別れか。嫌だけど俺じゃ無理だよなー等思っていた矢先の出来事である。

 一応桜に追いつけるように勉強はした。でも、追いつけなかった。だからこその諦めであったが、桜はさも当たり前のごとくそれを覆す。俺の志願書を覗き、志願校を同じにして。そして先生に提出した後に、三者面談が開かれた。

 桜曰く、

「『雪柳桜さんはとても優秀な生徒です。もっと環境の良い高校に行き、ご自身の学力を高め、より良い将来に向けて努力した方が良いと思うのですが……』とか言われたよ」

 因みに桜の親は娘の意思に従ったらしい。特に親子間の問題は無く、先生や桜が狙うであろうトップ校を志願してしまった人たちの猛反対も押し切り受験。もう時は遅く、同じ中学の勉強が出来る人は皆血涙を流していた。

 桜を目指して勉強していたのに、桜が何も言わずに志願校を変えたのだ。

 今思えば、彼女は一切自身の志願している高校を言わなかった。それも作戦……と言うか。考えの内だったのだろう。

 

 そして今。

 恐らく桜とほぼ同じ状況である葵は、デジャヴの様に同じ事を言った。

 兄として妹の意思を尊重したい。こいつの人生はこいつの物なんだから、高校や大学をこうしろとは言えない。が、逆に兄として……妹の人生を見守り、支える事も役目の一つとしてある兄として、しっかりと聞かなければならないことがある。

「お前ならもっと良い高校に楽に入れると思うんだけど、どうしてあの高校を志願するんだ?」

「極論ですが――学びというのは、どこでも出来ます」

 葵は口を開いた。

「であれば、学び以外の物を考慮した方が良いんじゃないか、と私は思いました。勉学だけの人生はつまらないものです。なれば、私は何を優先したいか。……私は、家族を優先したい」

 言葉は続く。足の痺れも忘れて、俺は真剣に聞き入っていた。

「両親は殆ど帰ってきません。実家を離れ、寮で暮らすのも楽しいです。楽しいですが、そこに兄さんやお父さん、お母さんは居ません。私は今まで、殆ど家族と生活をしていない」

 静かに桜が隣に座った。葵は淡々と、だが途切れることのない思いを繋ぐ。

「兄さんには桜さんが居ます。いつも居てくれる人が居ます。……私もそんな人が欲しい。寮生活が始まって、三か月くらいでそう思いました」

 その話は、正直大人が聞けば間違いだ、という内容だろう。

 だが、葵の思いは俺がよく知っている。桜が他の高校に行くかもしれないと考えた時に、行き着く結論は毎回そこだった。俺は兄としての使命感があったし、桜もずっと隣に居てくれたから耐えれたその思い。だが、葵は寮と言う……いわば隔離された場所で生活していたのだ。

 その思いは、俺よりずっと強い筈。

 両親は直ぐにOKするだろう。俺も、妹のそんな話を聞いては何も言えない。というか、元々言うつもりも無かった。いわば儀式と、彼女の思いの確認みたいな物だ。

「そっか。まあ問題ないな! よし葵、早速俺の胸に飛び込んできても良いんだぞ!」

「えっ……うわあ……」

 すすす、と葵が遠ざかった。小さくないダメージを受けていると、桜が横から言葉を掛けた。

「油断はしないで勉強してね。ボクも結城も、そろそろ勉強を始めようかと思ってたから一緒にするかい?」

「良いんですか? 範囲的には全然前ですけど……」

「全然問題ないよ。結城には良い勉強になるだろうしね」

「えっ。と言うかなんで俺まで勉強するの?」

「期末テスト」

 部屋の掃除がしたくなった。

 文字にすればたった五文字の言葉だが、それは普段勉強しない学生にとっては死の宣告に等しい。

「きーまーつーてーすーとー」

「ごめん桜。最近耳鳴りが酷くてさ。聞こえないよ」

「分かった。今度のテストでボクが納得する点数を取れなかったら別れよう。ボクは言ったからね。聞こえてなかったらごめんね」

「葵! 桜! 何してるんだ、勉強始めるぞ!」

「一度頭地面に叩きつけてきてください兄さん」

「じゃあ、ボクは色々持ってくるよ。筆記用具とかの準備しといてね」

「わかった。リビングに居るぞー」

 ベランダから自分の家へ戻っていく桜。俺は自分の机から教科書とノートを取り出し、電子辞書……は使い方が良く分からないので紙の辞書を持っていく。葵もバッグから過去問らしき物を抜き取って、下に降りて行った。

 

 三人分の紅茶をいれて(桜が)、勉強は始まった。葵がストップウォッチを使い過去問を解いている中で、俺は桜とマンツーマンでの勉強? 授業となる。

 高校は50分の入試。故に葵は50分勉強し、丸付けし、わからなかった所を桜に聞くと言った方法を用いるらしい。桜の空き時間は全部俺との勉強に費やされる。つまりサボれない。

「で、結城。数学やれ」

「いやあ! 古典は楽しいなあ!」

 数学の問題集を目の前に叩き付けられる。家に戻って勉強道具を持ってきた桜は、何故かメガネを掛けていた。

「……どうしても?」

 懇願する。何を隠そう、俺は極振りの文系なのだから。

 正直数学と理科なんて中学校で死んでいた。英語も出来ないよ!

 そんな俺を見て、桜は長く息を吐いた。机の向かい側に座っている彼女は背もたれに体重を預け、足を組み合わせる。メガネ越しの蒼い目は鋭く俺を射抜き。

「そんなにボクと別れたいのかい?」

「よおーし見てろよ確率と三角形!!」

 吐き捨てるように問いかけられれば、俺はもうやるしか無かった。

 問題集をめくり、一問目から手を付けていく。桜も筆箱からシャーペンを取ると、手の中でくるりと回した。

「結城、公式違う」

「待って何で見えてんの!?」

 

 ☆★☆

 

「なあ、何で葵って勉強してんの?」

「……満点ではないですよ?」

「いや入試で470取れてれば十分なんだぞ? 遊ばないの?」

「兄さん、そのままだと一生桜さんに迷惑をかける事になりますよ……」

 勉強が一段落し、休憩。桜にメガネの事を聞いてみたら、どうやら伊達眼鏡らしかった。

 今、あいつは台所で夕食を作っている。時々聞こえる鼻歌は可愛らしく、それだけで体が癒されていた。数学と理科(地学)が与えてきたダメージは異常に大きく、最早計算すら出来ない。

「桜さん、何かお手伝いしましょうか?」

「ん? いや、大丈夫だよ。ありがとね」

「そうですか……。兄さん、お風呂を頂いても良いですか?」

「おー。良いぞ。バスタオルとかの位置は変わってないからなー」

「はい。では行ってきますね」

 葵がリビングを出ていき、会話は無くなった。桜の料理する音だけが聞こえる。テレビも点けてなければ、外は雨でもない。窓から見える夕日は赤く染まり、海の方面へと沈みゆく。

「結婚したらこんな感じなのかな」

 ダガアン!! どぼぼぼっ! じゅうううう!!!

「えっ何そのどこかに体を打ち付けてタバスコ入れすぎて焼く予定のないものを焼いてしまった感じの音は!」

「その通りだよバカ! 急に、急に変な事を言うな!」

 髪を後ろで束ねている桜が強く叫んでくる。水色のエプロンにポニーテールが良く似合っていて、怒られている最中にも関わらずにっこりとしてしまう。

「いやでも、ね? ほら。やっぱ女の子が料理してくれる姿って良いよなあと」

「結構前からしてるじゃないか。まだ慣れないのかい?」

「ふっ……。お前には何時もドキドキさせられてるぜ」

「はっ」

「鼻で笑われたんですけど!」

 てきぱきとタバスコ入れすぎのリカバリーをする桜。少しイジけて、テレビを点けようとリモコンに手を伸ばす。

 

「ボクも、結城には……いつも、」

 

 その時、台所から小さな声が聞こえて――

 

「兄さん、ごめんなさいっ!!」

 リビングのドアが強く開かれ、葵が駆け込んできた。

「うおっ!? 葵、どうした!?」

「あの、その……と、取りあえず来てください!」

 珍しく慌てふためいている妹は俺の手を掴み、浴室まで引っ張っていった。桜も火を止め、俺達の後をついてくる。脱衣所の着替えからは目を逸らし、浴室へと足を踏み入れた。

「……うおっ!?」

 浴室の光景に、思わず声が出る。そこでは何と、湯船がぶっ壊れていたのだ。

「な、何があったんですのん?」

「その……転んで……」

「石頭かよ」

「護身術の受け身を使って、条件反射で技が出て……色々巻き込んで、気付いたら……」

「私立中学ってこわい」

 よく見れば、シャワーのところも壊れている。修理業者に来てもらわなければならないレベルの損害を見て、俺は自身の貯金を省みる。余裕で修理してもらえるな。

「葵、気にしなくて良いぞ。……良くあるから」

「あっちゃダメでしょ」

 桜からの冷静なツッコミが入る。エプロンを外した彼女は俺の服を引っ張り、口を開いた。

「ねえ。それならさ、最近できたお風呂屋さん行かないかい?」

「前行こうって話してたやつか。……そうだな、そうするか」

「今日はシチューと付け合わせの予定だったから、温めなおせば食べれるよ。ボクも一緒に行って良いかい?」

「勿論。家族風呂にも入ろうな!」

「は? ……じゃあ、準備してくるね」

 桜はそう言い残し、階段を上がっていく。俺の部屋から帰って、玄関から来るつもりだろう。

「葵にケガはある?」

「ないですけど……」

「じゃあ良いじゃん。さ、準備しようぜ」

 俯いている葵の頭を撫でて、俺もバスタオルを取りに行く。一拍遅れて、葵が後ろに付いてきた。




桜回のメインは次回です。多分。

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