俺とクーデレ幼馴染の日常   作:ラギアz

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俺と幼馴染と実行委員

火曜日。

今日も今日とて学校である。帰りたい。

勉強無理っす。マジで。

 

だから、俺は学活が好きだ。

何故かって?机に突っ伏して落書きとかしててもサボれるからさ。

……まあ、何時もならみんな俺みたいなんですよ。ええ。

 

だけど。今日は。

 

「「「じゃんけんっっっ!!!!!!ぽおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいいっっ!!」」」

 

意味が分からないだろ?

俺もジャンケンしてるんだぜ。

 

 

☆★☆

 

そう、それは先生の放った言葉が原因だった。

 

「あー、今日は来週に行く入学記念合宿の実行委員と班を決めるぞー」

 

入学記念合宿。

その名の通り入学を記念して、一年生全体で合宿に行くのだ。

そこでは勿論全員の親睦を深めるためのレクリエーションが多数用意されており、数々の宿泊行事が多いのもこの学校の魅力だ。

 

さて。そこまでは良い。

 

本来、こういう物の実行委員はあまりやりたがる人はいないだろう。

理由は簡単、めんどくさいからだ。放課後の時間も潰されるし、仕事は増える。

しかし、今回は違った。

とある巨大な爆弾が落とされたのだ。

 

「先生、ボク実行委員やります」

 

澄み切った、綺麗な芯の通った声が教室に響いた。

教室の真ん中当たり。すっと伸びた手は、天井を向いている。全員の視線を集めているその少女の名前、

 

「おお、じゃあ女子実行委員は雪柳だ。宜しくな」

 

雪柳桜は、そこまで聞いて手を下した。

腰まで届く長く流麗な黒髪に、大空の様に蒼い瞳。端正な顔立ちに、低い身長ながらも整ったスタイル。決して断崖絶壁ではなく、しっかりと制服の上からでも分かる膨らみがある。

 

桜は、何を隠そうこの俺――――暁結城の幼馴染だ。

 

俺は黒髪黒目、平均平凡な男子高校一年生である。

ベランダ伝いに行き来出来る関係。それだけと言えばそれだけだ。付き合ってもいないし、一方的な片思いである。泣きそう。

物心付いた時から俺は桜が好きだったのは覚えている。

が、それがどうしたと言う事だ。永遠の片思い、叶わないのはとうに分かりきっている。

 

「さて、んじゃあ男子の実行委員を決めるぞー」

『はあああああああああああああああああああああああああいいいいっっっっ!!!!!』

 

だが。

 

ここで桜と実行委員になるのを諦める訳じゃ無いんだよ!!

 

恐らく、教室の中に居る全男子が手を挙げただろう。

その光景に女子たちがびくっと肩を跳ね上げるが、それを気にしている場合ではない。最早これは戦争。

 

「お、おお……すげえ気合い入ってんなお前ら。じゃ、じゃあジャンケンだ。行くぞ、まずは俺とだー。最初はぐー、じゃんけんパー!」

 

『くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!』

『よっしゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!』

 

勝った!勝ったぞ!!

一戦目は勝利。悲鳴と断末魔を上げる男子が崩れ落ちる中で、俺と数名は生き残る。

俺たちの担任の先生は、ジャンケンが強い事でも有名な理科の教師だ。

勝てたことは無かった。が、ここで勝てたと言うのは運命というものなのだろう。俺は渾身のガッツポーズを決めながら、二回目のジャンケンに挑む。

 

そして、何回も何回もジャンケンが続いた。断末魔と悲鳴が鳴り響き、隣の教室の先生が怒りに来たり。

 

最後の最後。残ったのはこの俺、暁結城とこのクラス1のイケメンである。

女子人気も高く、勉強スポーツ出来る。桜にも積極的に話しかけたりお昼ご飯に誘ったりしているリア充。

俺達の敵だ。

 

周りの女子から、イケメンを応援する声が上がる。俺のメンタルがゴリゴリと削れる中で、唯一の癒しを求めて俺はちらりと桜を見て。

 

「……」

 

俺の視線に気づいた桜は、淡い笑みを浮かべて、口パクで「がんばれ」と言ってくれた。

その瞬間、俺のステータスが全てカンストする。イケメンへの歓声も何もかもが消えていく中で、俺は極限の集中状態に陥っていた。

 

「じゃあ暁さん、行くよ。最初はグー、じゃんけん」

 

「「ぽい!」」

 

イケメンは、男のパー。

対して俺の出した手は――――――!!

 

 

 

☆★☆

 

 

二つの桜並木を通り抜けて、俺は家に一人で(、、、)帰宅した。

誰もいない家に入って、自室に行って、バッグを放り投げてベッドにダイブする。

そんな俺の顔は、絶望を具現化したような顔だった。

生気のない目に、ぴくりとも動かない表情。制服も着替えず、ただただ横たわっているのみ。

 

……最後のジャンケン。

 

負けたよ!!!くっそおおイケメンの野郎マジで許さねえ!!!

 

そんなこんなで今桜は学校で実行委員会です。帰り道を一人で歩いたのは結構久しぶり。寂しかったですよ!

ふっは、主人公補正欲しいいいいいいいいいいい!!!

 

ごろんごろんとベッドの上で三十回転くらいした俺は、荒く息を吐きながら悶え続ける。

桜と二人っきりで夕方の学校に残ったりしたかった。

それでちょっとしたきっかけで手が触れ合ったりして「あっ・・・///」とかなるんだよ!

ふひゃあ萌える!!最高だよね!……それを今イケメンが味わってる可能性があるんだよ。

 

好きな人が自分よりもステータス高い人と一緒に居る時の絶望感凄まじい。本当に。

ソースは俺(現在進行中)。

 

「……あー、今日は桜も来ないよなあ。ファミレスでも行きますかね」

 

いつもは桜が作ってくれるのだけれども、今日は実行委員会で遅くなるだろうし来ないだろう。

大体そう、俺は桜に甘えすぎていたのだ。少しは自立しよう。

 

それでイケメンくらいステータスを高くするんだ!(無謀)

 

俺は制服からパーカーとジーンズに着替えると、財布の中身と携帯の充電を確認してから家を出た。

空は藍色に染まっている。太陽はもう沈み、街灯の明かりが暗い桜並木を照らしている。

その中を、俺は一人で歩いて行った。

 

 

☆★☆

 

ファミレス。ファミリーレストランの略称であり、その名の通り大人から子供まで楽しめるレストランだ。

豊富なメニュー。和洋折衷の料理を取り扱っている上に安く、それでいてある程度の美味しさ。友人同士でも家族でも気軽に行ける、今やどこにでもあるお店の系列である。

サイドメニューとドリンクバーの種類の多さも魅力だろう。何より、食べたいものが一つはあるというのがこのファミレスじゃないだろうか。

 

……とまあ、俺もその一席でメニューを開いているわけだが。

やはり王道を往くハンバーグか。それとも鉄火丼か。ラーメンも良い。ポテトフライとドリンクバーは外せない。

うし、ここはやはりミックスグリルか。量もあるし、ハンバーグ以外のおかずも食べれる。

 

 

注文完了。

俺が今座っているのは四人席である。この家から徒歩十分程度のファミレスはあまり繁盛しているとは言いにくいし、カウンター席がない。

ので、必然的に一人でも四人席に案内されるのだ。少し気まずいが。

ドリンクバーでメロンソーダをとってきて、椅子に座る。数分後、丁度来たミックスグリル。

ナイフとフォークを持って、大盛のご飯とポテトフライに思わず頬が綻ぶ。

桜の料理も美味しいのだけれど、時折こういう脂っぽいものも食べたいのだ。ということで、

 

「いただきまー

「桜さん、どうぞ」

「ん、ありがとう」

「!?」

 

いただきます、と言おうとした瞬間に後ろでイケヴォと聞きなれた声が聞こえる。

慌ててパーカーのフードを被り、ちらりと後ろを覗く。

 

流麗な長い黒髪。低めの身長なのに整っているスタイル。淡雪の様に白い肌。

顔は見えないが、間違いない。桜だ。

そして一緒にいるのはイケメンだろうか。心臓がばっくばっくと鳴り始める。メロンソーダを一口啜ると、俺はポテトフライを齧りながら耳を澄ませた。

 

「……さて、ボクはそろそろ帰って夕ご飯の準備をしたいのだけれども。どうして学校帰りに此処へ寄ったんだい?」

「実行委員の仕事を、もう少し進めておきたいなって思ってさ。迷惑だった?」

「ああ。料理といっても、二人分は作らなくてはならないからね」

 

うぐっ。ありがとう桜。

 

「はは……まあ、メールでもしておけば?」

「んー、わかった。ちょっと待ってくれ」

 

俺はそこまで聞くと、慌ててスマホをマナーモードにすべくポケットから取り出す。

が、落とした。机の上で一回はねた瞬間に、メールの着信音とバイブレーションの振動が響く。

(やばいやばいやばい!! ここに居るのバレたら夕ご飯関係で桜に殺される!!)

慌ててスマホを取って、マナーモードに。ばれないように、俺はメロンソーダを一気に飲んで立ち上がる。

勿論フードは目深に被っている。へっへっへ、ばれることはないぜ。

 

帰ってきて、再びポテトをもぐもぐしながら桜達の会話に耳を傾ける。もぐもぐ。

 

「じゃあ、ここはこれで良いかな?桜さんと僕が同じ班で」

「却下かな。ボクは一人だと料理も禄に出来ない暁結城、後は……岡取と凛の四人班に入ろう」

「あっ……そ、そうだね。それがバランスいいね」

「どこが飛びぬけててもダメだしね。君とボクが一緒になった時点で不満が飛び出るだろうさ」

 

(主に俺からな!!というか桜と同じ班だやったぜもぐもぐ)

 

「他に何か話す事は……無いかな?じゃあ、明日はレクリエーションについてだね」

「そうだね。じゃあ、ボクはこの紅茶が飲み終えたら外に出るから。じゃあね」

「えっと、送っていこうか?」

「いい。大丈夫だ」

「そ、そうか……。じゃあね、桜さん」

「ん、また」

 

意外に早く終わったな、と思いつつ俺は冷め始めたミックスグリルのハンバーグを一切れ頬張る。桜はまだ後ろに居るから、さっさと食べて行かなければ。

紅茶もすぐには飲み終わらないだろうし……おお、このチキン美味い。

 

「……ふう、あ、店員さん片づけてくれませんか?………ありがとうございます」

 

え!?速くない、紅茶飲み終わるの!!

 

いや、違う。まだ俺がここに居るとバレタわけじゃない。フードも被っているし、さっきから黙々とご飯を食べていただけである。

流石の桜でも、気づきはしなかっただろう。

そう思って、俺はイケメンと桜の間に何もなかった事を安心してソーセージを口に入れて、

 

「さて、ボクは何を食べようかな。結城はミックスグリルか。……うん、ハンバーグも良いね」

「ぶっふぉ!!」

 

目の前に現れた桜に驚いて、ソーセージが喉にぐっと詰まった、

何とかコーラで流し込む。ちゃっかり俺の目の前の席に座り、制服姿のままメニューを広げている桜。どうやら親には連絡を入れたのか、スマホがテーブルの上に置かれていた。

 

「お、おまっ、何で俺だとわかった!?」

「え?ああ、寧ろ何で気づいていないと思ったんだい。かれこれ15年間の付き合いじゃないか」

「生まれた病院も一緒だし、0歳からよく遊んでたらしいしな。じゃ、無いよ!俺フードもかぶってたのに!」

「灰色のパーカーにジーンズ、如何にも君らしい格好だ。それにさっきメールを送った時の着信音。あれで確信したよ。それに君はまずメロンソーダ、コーラの流れだしね」

「お前、そこまで俺の事見てるの?」

「……い、いや?別に、見慣れてるからわかっただけだよ。別にいつも見てるとかじゃないからそこを勘違いするなよしたら明日の弁当はトマトだけにしてやる」

「そっか……決まったか?」

「うん。このグラタンにするよ。あとはドリンクバーかな」

「ここで食べていくのな」

「うん。何時もは作ってるけど、どうやらもう食べちゃっているらしいしね?どうせならボクも食べちゃおうと思ってね」

「うぐっ」

 

ニヤニヤとしながら呟く桜は呼び鈴のボタンを押して店員さんを呼び、注文を終える。

気まずさにハンバーグをもぐもぐと食べていると、カルピスソーダを取ってきた桜はストローをコップに入れて美味しそうに一口飲んだ。

 

「いや、あのさ。今日はあのイケメンと一緒に仕事してて遅くなるだろうし、そんでご飯を二人分作るのは大変だろうなと思ってファミレス来たんですよ」

「そこら辺は分かってるよ。連絡の一つでも入れるべきだったしね。何も怒ったりしてないよ?」

「それなら良かったよ……うん」

「それよりもボクはね、キミがあのイケメン君にジャンケンで負けたのが許せないよ」

「運ゲーだぞ!?」

「あの後、寄ってきてお似合いだねー!とか言ってくる女子が本当にめんどくさかったんだよ。凛だけは違ったけどね」

 

そんな事を話しているうちに、グラタンが運ばれてきた。俺の冷めたミックスグリルとは違い、まだ湯気が立ち上り熱そうなグラタンにスプーンを入れると、桜は何度かふーふーと冷ましてから、

 

「はい、あげる」

「ありがとーってはいいい!?」

「む。要らないのか」

「要るか要らないかで言ったら超欲しい。じゃなくて、桜はそれでいいの?」

「それって?」

「かかかか、間接キ………スとかです」

「そ、それを気にするほど子供じゃないし。ほら食え。ボクがふーふーして上げたんだぞ食うんだ口に入れろ咀嚼して嚥下しろさもなければ朝二度と起こさないぞ」

「いただきます!」

 

テーブルの上に身を乗り出してスプーンを差し出してくる桜。スプーンの先を口に突っ込み、グラタンを食べる。

熱いグラタンは濃厚なクリームソースがかかっていて、美味しい。ふーふーで熱さも柔らいで、食べやすかった。

 

「うん、美味い!」

「ボクの料理となら?」

「桜の料理」

「即答か。……ふふ、悪い気はしないよ」

 

そう呟いて、俯いてグラタンを口に運ぶ桜。

そういえば、さっきのって恋人同士がよくやる『あーん』だよなあと思いつつ、朝起こしてくれたりお弁当作ってくれたり三食作ってくれたりと桜との日常を思い出し。

ハンバーグを食べ終えた俺は、それとなしに呟いた。

 

「……俺たちって、あれだよな。夫婦みたい」

「っっ!?」

 

その何気ない一言に、桜がびっくう!!と体を跳ね上げた。髪の間から少し見える耳は真っ赤だ。

グラタンが熱かったのだろうか。そのまま残りのコーラを飲んでいると、桜が上目遣いのまま声を絞り出した。

 

「きゅ、急に何を言うんだいキミは。その……卑怯じゃにゃっ・・・ないかな」

「何が卑怯なんだよ……というか噛んだな。可愛い」

「っっ!!……うう、もう!今日の結城は攻めてくるな……!!」

 

がつがつとグラタンを凄まじい速度で食べ始める桜。途中でコーラをもう一回注いで来たりした俺達が家に帰ったのは、それから約一時間後だった。

 

☆★☆

 

「……そういえば、ボクとイケメン君が一緒に居て心配になるような事はあったのかい?」

「ねえよ!?別に安心してねえよ!!??」

「実は、学校で彼にファーストキスを奪われたんだ」

 

握っていたシャーペンが、真っ二つに折れました。

宿題を俺の部屋で、桜と二人でやっていた時の突然のカミングアウト。ミックスグリルが腹の中で暴れまわっているであります。

 

「ほ、本当に……?マジで?嘘だろ、イケメンてめええええええええええ!!!!」

「冗談だよ、ごめんって!」

 

折れたクルトガの恨みを晴らすべく立ち上がったところで、慌てた様子の桜に止められる。

因みに桜はもう宿題を終えている。速い。

 

「いやそのね。心配されないってのも寂しいから、ちょっとカマかけたんだけど……」

「心配してたよこんちくしょうが!心臓に悪いからやめてください!」

 

クルトガから、使えるシャーペンの芯を取り出して俺は元の場所に座る。

しかし、俺を引き留めていた桜はまだ元の場所に戻らない。どうしたのかと思い、俺がくるりと振り向くその直前に。

 

ふわり、と。

 

甘く良い匂いが鼻孔をくすぐり、俺の頬に黒く長い髪が触れる。肩にこつん、と何かが乗っけられて、背中には何か柔らかい物が押し付けられた。

 

――――――桜が、俺を覆いかぶさるようにしている。肩に乗っているのは、顔――――!?

 

耳元を、吐息がくすぐる。現状を理解して、俺が固まった時に。

桜が、すうと息を吸い込んだ。

 

「その、心配ならばボクがファーストキスを奪われる可能性を無くせば良いじゃないか。その、結城がボクの初めての人になってくれれば、何も問題はないだろう?」

 

何を言われているんだろうか。

これって端的に言えばキスしませんか?って事だよな。俺の日本語力大丈夫だよな。

鼓動が、やばい。人生で最高潮に動いている。

 

ゆっくりと、恐る恐る振り返る。すっと身を引いた桜。後ろには、顔を真っ赤にしてだぼっとした服の袖で口元を隠している桜。

その蒼い瞳は潤んでおり、頬は上気している。一段と鼓動が強くなり、椅子に座ったままの俺の膝の上に、桜は乗っかってきた。

重くはない。心地よい感触に、俺の頬も熱くなる。

 

段々。段々と。

 

桜の顔が、近づいてくる。袖を口元から離して、俺との距離が、そろそろ零になる。

 

ピンクの唇に目が吸い寄せられる。柔らかく、しっとりしていそうなそれは俺の目の前に来て。

そのまま、

 

 

――――――俺は全力で膝の上の桜を床に下して、逃走を開始した。

 

「――――えっ!?ちょ、ちょっと結城!?」

 

ごめん。桜。

 

……彼女居ない歴=年齢の俺に、キス何て早過ぎたんだああああああああああああ!!!!

 

 

心の中で絶叫しつつ、靴を履いて、春の夜の街に俺は飛び出した。

 

次の日、お弁当が俺の苦手なトマト一色になったのは違うお話である。ぐすん。


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